婚約者は…やはり愚かであった

6.

　
　
実は、この婚約解消の土台は８年前からうっすらとできかけていた。


６歳からジョシュアの婚約者として定期的に会っていたアリーシャは、彼の素直さを危ないと思っていた。
10歳になっても変わらず、幼稚とも言える言動に不安を覚えたアリーシャは、ロイスに相談した。
ロイスは『注意して見てみる』『侍従たちにも聞いてみる』と言ってくれた。
アリーシャの言う通り、ロイスも不安を感じて公爵にも相談してくれたらしい。
公爵は、『まだ子供だ。今から厳しく育てればいい』と言ったそうだ。

しかし、12歳になっても素直すぎて悪意もわからない。言われたことを疑わない。
これで公爵位が継げるのか？
13歳になったアリーシャにロイスから、婚約解消してはどうかと言われたが、次のジョシュアの婚約者によっては貴族のバランスが危うくなる可能性を父から既に聞いていた。婚約者のいない高位令嬢は派閥が違うそうだ。
その事をロイスに伝えると、もしもの時は自分がアリーシャと結婚するからこのままジョシュアの婚約者でいてくれと言われた。
ロイスは独身のままあと５年過ごす気だろうか？
アリーシャの結婚まで心配してくれるロイスの優しさが嬉しかった。　

公爵の、息子ジョシュアを見る目は変わらず、ロイスの忠告も無視。
『仕事をし始めれば、ジョシュアも変わるだろう』
…仕事を教えても、興味がわかないみたいだ。

ジョシュアも中身が成長しない。しかし、公爵令息だ。寄ってくる人は多い。
アリーシャはジョシュアの言動を見守るため、側にいた。
そして、口うるさく繰り返し言った。特に『令嬢と二人にならない』と。
やがて周りも気づいた。アリーシャはジョシュアを守っているんだと。

ロイスは焦れていたが、アリーシャは世話に慣れ、このまま結婚するしかないと思っていた。
では、仕事をどうするか。それはロイスと交渉するしかない。
おそらく、ジョシュアが公爵位を継ぐ時にロイスが継ぐことになるだろうと考えていた。


しかし、結婚式の日取りも決まり、卒業まであと半年という時にキーラに誘惑されたジョシュアをようやく見限る決心をした。一度決意をすればスッキリした。

５年前に言われたことを間に受けたとバカにされても構わないという思いでロイスに婚約をお願いしたが、了承してもらえた。
12歳年上なんて気にしない。弟のような子供のようなジョシュアを長年相手してきたアリーシャはロイスに安心感があった。

そして病弱な現公爵よりも愚かなジョシュアよりもロイスが公爵に相応しいと思っていた。