12 / 19
12.
しおりを挟む王城からの帰り道、グリーフ公爵ユーグンドは国王陛下から聞いたオリアナの15年間を再度思い出して、ようやく受け入れることができた。
自分はなぜ、あんなにもオリアナを信じていたのだろうか。
15年前も、他にも男がいたことを聞いていたのに。
それでも自分が恋人だと思っていた。
彼女に何度か話しかけられ、キスをされた時に婚約者と婚約解消しなければならないと思った。
私が結婚するのはキスをしたオリアナなんだと。責任を取らなければと。
何度親に説得されても、オリアナ以外は考えられなかった。
いやいや商人の妻になったオリアナは私の助けを待っているのだと。
何を根拠に?
自分が滑稽に思える。あまりにも愚かだ。
オリアナの顔すら、もうはっきりと思い出せないのに。
15年経った姿を想像したことすらなかったのに。
すれ違ったとしても気づかなかったかもしれない。
あぁ。ようやく頭にかかった靄がなくなった気分だ。
オリアナには会わないと国王陛下にも告げた。
もう探さない。
そういえば、何年か前に王命で結婚させられなかったか?
妻の名前は?どこの家名だったか?
自由に過ごせといった覚えはある。
屋敷で会った記憶がないな。
顔を合わせるつもりもないと言ったかもしれない。
悪いことをした。
屋敷に帰ったら、詫びなければならない。
養子を取ると言った気もするな。
選定をしなければ。
……それとも妻が産んでくれるだろうか。
聞いてみよう。
いつの間にか私も33歳になっていたんだな。
妻は何歳なんだろう。
若かった気がする。
まずは名前を確認してからだな。
本人に聞くのはさすがにマズい。執事にでも聞くか。
普段は何をしているのだろうか。
何年も放ったらかしにしておいて、アレコレ聞くのは嫌だろうか。
どんな性格なのか、侍女たちに確認してからの方がいいかもしれない。
そんなことを考えているうちに、屋敷に着いた。
「おかえりなさいませ。」
執事の挨拶に答えるように、妻のことを聞いてみた。
「ああ。そう言えば、今日、妻は何をしている?」
「妻……奥様はいらっしゃいません。
旦那様にお渡しする手紙がございます。後ほど、執務室の方へお持ちいたします。」
「ん?わかった。」
なんだ?妻からの手紙か?初めてだな。何か必要なものでもあるのかもしれない。
そう思いながら、執務室へと向かった。
「お手紙は2通、ございます。
まずはこちらから。これは5年前に国王陛下から届きました。
続いてこちら。これは2年前に国王陛下から届きました。
どちらも、旦那様が奥様のことを聞いた時に渡すように言われておりました。」
「5年前と2年前?随分と前ではないか。」
「御読みいただくとお分かりになるかと思います。」
執事の言葉に、まずは読んでみようと封を開けた。
最初の手紙は、妻ルクレツィアを公妾にするという通達。
次の手紙は、妻ルクレツィアとの離婚が成立したという通達。
公妾?離婚?どういうことだ?
「王命による結婚をした場合、3年間は離婚ができないのです。
ルクレツィア様は伯爵家の跡継ぎでもありました。
旦那様との結婚で子供を2人以上産んで、伯爵家を継がせる予定でした。
ですが、旦那様は養子を取ると言われた。
ルクレツィア様が自分の子を産むためには、公妾になるのが最短の方法でした。
陛下の提案を受け入れ、ルクレツィア様は陛下の子を2人産まれました。
そして、旦那様と離婚できる3年が経過した時点で離婚の手続きがなされました。
その後、王宮を去られ、お子様たちと共に伯爵家に戻られました。」
「……つまり、もう結婚していない?」
「はい。旦那様は独身でございます。」
…………………………もう今日は何も考えたくない。
272
お気に入りに追加
3,375
あなたにおすすめの小説
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
【完結】私の婚約者は妹のおさがりです
葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」
サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。
ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。
そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……?
妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。
「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」
リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。
小説家になろう様でも別名義にて連載しています。
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
彼が愛した王女はもういない
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。
どちらも叶わない恋をした――はずだった。
※関連作がありますが、これのみで読めます。
※全11話です。
どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。
しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。
だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。
○○sideあり
全20話
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。
藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。
但し、条件付きで。
「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」
彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。
だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全7話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる