上 下
44 / 50

44.

しおりを挟む
 
 
王都に戻ってきたばかりのため、子供たちを連れて領地に行くのはまた次回にしよう。
 
子連れでは人数も荷物も多くなり、時間もかかるためだ。

ひとまず、ローレンスだけ先に領地に顔を出し、祖父母と領地の様子を確認しよう。

そう思っていた矢先、届けられたのは祖父母の訃報だった。

 
「大奥様が眠ったままお亡くなりになり、大旦那様も後を追われたようです。ローレンス様宛にお手紙が届いております。」


呆然としながらオルフに手渡された手紙を開いた。


『すまなかった。オリオールを頼んだ』


ただそれだけだった。

まあ、そうだよな。
祖父にしてみれば、今更言い訳を並べ立てたところで血の繋がった孫に無関心であったことに変わりはないし、ローレンスが戻ってきたことでオリオールの血筋は途絶えない。
 
他に遺す言葉もなかったのだ。

祖母がいないことに耐えられないと生きることに未練もなかったのだろう。

この一言、遺しただけでも驚くべきことかもしれない。



葬儀は領地で執り行われる。

ローレンスはメロディーナと2人で向かうつもりだったが彼女は首を横に振った。


「どうして?子供たちも一緒に連れて行くわ。」

「でも、また馬車の旅だぞ?今度は数日だけど。」

「大丈夫よ。ケロッとしていたもの。」


確かに。子供たちよりもローレンスの方が移動の疲れが残っていた。


「オリオールは大丈夫なんだって、あなたはもちろん、子供たちも領民に姿を見せるべきだわ。」

「そうか。そうだな。」


乗っ取りの話は領民を不安にさせたことだろう。
ローレンスがオリオール侯爵になり、更に次代の子供たちもいる。
それは領民にとって安心に繋がることなのだろう。


ローレンスは家族を連れて領地へと向かった。
 

領地の屋敷は随分と久しぶりだった。
見覚えのある使用人もいれば初見の者もいたが、全員がローレンスを侮ることなく真摯な態度で迎え入れてくれた。

ひとまずすべきことは祖父母の葬儀。
これは、領地内でひっそりと執り行うことになっている。

祖父はオリオール侯爵ではあったが、それはもう25年以上も前のことだ。
母が侯爵になり、亡くなった後は父が代理として20年もその地位にいた。

つまり、もう親しくしている貴族もいないのだ。

そのため、ローレンスたちと屋敷の使用人、交流のあった領民たちで見送るだけで十分だった。

しめやかな葬儀に子供たちの声が響いて笑いを誘ったのは、まぁ、仕方ないことだろう。

会うことのできなかったひ孫の笑い声で仲良く旅立ってくれればそれでいい。 



しばらく領地の屋敷に留まり、領地の様々な者たちと面会したり今後の状況を話し合ったりした。

メロディーナと子供たちにも好意的で、経歴に不満をこぼす様子もなかった。
あるいは、事前に排除されていたのかもしれない。

新しいオリオールに不満があるのであれば、付き合いはこれまでだ、と。

事実、事前に名簿から消えている取引先は父と懇意にしていた者たちなのだろう。

 
オリオールの優秀な事務官たちは、邪魔な者は既に排除した上でローレンスと引き合わせていると感じた。

領地にいる者たちは優秀だ。

このことに関しては、祖父に感謝した。 

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

婚約破棄でお願いします

基本二度寝
恋愛
王太子の婚約者、カーリンは男爵令嬢に覚えのない悪行を並べ立てられた。 「君は、そんな人だったのか…」 王太子は男爵令嬢の言葉を鵜呑みにして… ※ギャグかもしれない

花嫁は忘れたい

基本二度寝
恋愛
術師のもとに訪れたレイアは愛する人を忘れたいと願った。 結婚を控えた身。 だから、結婚式までに愛した相手を忘れたいのだ。 政略結婚なので夫となる人に愛情はない。 結婚後に愛人を家に入れるといった男に愛情が湧こうはずがない。 絶望しか見えない結婚生活だ。 愛した男を思えば逃げ出したくなる。 だから、家のために嫁ぐレイアに希望はいらない。 愛した彼を忘れさせてほしい。 レイアはそう願った。 完結済。 番外アップ済。

これは一周目です。二周目はありません。

基本二度寝
恋愛
壇上から王太子と側近子息達、伯爵令嬢がこちらを見下した。 もう必要ないのにイベントは達成したいようだった。 そこまでストーリーに沿わなくてももう結果は出ているのに。

彼女(ヒロイン)は、バッドエンドが確定している

基本二度寝
恋愛
おそらく彼女(ヒロイン)は記憶持ちだった。 王族が認め、発表した「稀有な能力を覚醒させた」と、『選ばれた平民』。 彼女は侯爵令嬢の婚約者の第二王子と距離が近くなり、噂を立てられるほどになっていた。 しかし、侯爵令嬢はそれに構う余裕はなかった。 侯爵令嬢は、第二王子から急遽開催される夜会に呼び出しを受けた。 とうとう婚約破棄を言い渡されるのだろう。 平民の彼女は第二王子の婚約者から彼を奪いたいのだ。 それが、運命だと信じている。 …穏便に済めば、大事にならないかもしれない。 会場へ向かう馬車の中で侯爵令嬢は息を吐いた。 侯爵令嬢もまた記憶持ちだった。

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

処理中です...