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セラヴィは『トーマス・アンガス』についてみんなに説明した。


「『トーマス・アンガス』というのは、隣国の作家の名前です。
 ミンディーナのお兄様のライガー様がその本を隣国から取り寄せていて1巻だけ読みました。
 ライガー様は歴史に興味があって、史実と対比しながら読んでいるそうです。」


セラヴィはライガーから聞いたことを話した。

その作家は、この大陸の国の歴史に恋愛を絡めた話を何作も書いていること。
時代に沿った作り話であるとしているが、深く歴史を知らない人にとっては、書いてあることを事実あったことだと信じていること。
その本が正しい歴史と認識されることを恐れる者たちと作家で揉めているということ。
内容が今の時代に近づいて来るにつれ、各国や家に伝わっている史実と違うところが出てきて反発があり、そろそろ出版が危ぶまれるだろうということ。


「……ということは、彼らはその作家あるいは作品を支持しているということか。
 だが、それとナリアが、いや、うちの領地にある鉱山が何か関係しているということか?」


頭に浮かんだのは、歴史のどこかでダイヤモンド鉱山が出てくることだ。
だが、それがうちの領地だと断定するには、読んでいないことにはわからない。

そもそも、作り話なのだから信じるに値しないのだが。


「セラヴィには言わなかったが、実はあの鉱山には近頃何人もの不法侵入がある。
 その度に捕まえて牢に入れているのだが、誰も名乗らないんだ。
 盗掘しようとしているのは、持ち込んだものを見てもわかっているんだが。」

「……隣国の支持者かもしれませんね。
 我が国にも歴史に詳しい方がおられますよね。
 あの鉱山と歴史に関わりがあるか聞いてみてはどうでしょうか。
 それに図書館に行けば、その本もあります。手分けして読むということもできますし。」


セラヴィは言いながら、あの分厚い本は今16巻まで出ているということを思い出して伝えた。
しかもあの堅苦しい文体。苦行に思えた。


「そうだな。それも一つの手だが……
 どうだろう。ライガー殿にわかりやすく説明してもらうのは無理だろうか。」


確かに。歴史と作品のどちらにも精通している人がこの国にどれだけいるだろう。
探す手間を考えると、初めからライガーに教えを乞う方が早い。


「ミンディーナに聞いてみます。お優しい方ですので、頼めば来てくださると思いますが。」
 
「ではマッシュ侯爵宛にも手紙を書くからミンディーナ嬢から渡してもらおうか。
 いきなり領地にいる令息をお借りしたいと届ければ意味不明だろうからな。」

「そうですね。ミンディーナを通して話せば話は早いと思います。」




翌日、セラヴィはミンディーナに大筋を話し、ライガーの助けをお願いした。


「あら。わざわざ父宛にもお願いを?大丈夫よ。
 父もお兄様が久しぶりに王都に来てくれることは嬉しいだろうから。
 すぐに来るように手紙を出しておくわね。」

「ありがとう。助かるわ。」


ライガーが来てくれるまで、少しでも歴史について勉強しよう。

そう思っていた時、領地から思いもよらない報告が来た。
 


なんと、トレッドと父親の伯爵が侯爵領にある鉱山の盗掘に来て捕まったというのだ。

現伯爵と跡継ぎの息子を揃って拘束したことにより、現在、王都に移送中だということだった。

爵位のある者を領主であっても勝手に処理するわけにはいかないからだ。

これは国王陛下にまで伝わってしまう罪になり、伯爵家は爵位を失うことはほぼ間違いなかった。

 

 


 
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