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しおりを挟むトレッドがセラヴィと再婚約をすることを思いついたのは、伯爵である父親に『セラヴィの情にすがれ』と言われたからだった。
長期休暇に入った初日、父は侯爵家を訪れてトレッドとセラヴィの婚約破棄の手続きを済ませて帰ってきた。
父の顔色は真っ青で、トレッドの顔を見て今度は真っ赤になった。
「お前のせいでっ!ダイヤモンド鉱山は失うし多額の慰謝料を払うはめになったじゃないかっ!」
「うちにも鉱山はあるじゃないですか。慰謝料も払えない額ではないでしょう?」
「馬鹿かっ!貯えを失うほどの慰謝料だ。それに侯爵家との縁が切れた今、この先どうなるか。」
父はどうしてこんなに悲観的なんだろう。
侯爵とは友人なんだし、婚約者じゃなくなってもセラヴィとは幼馴染なんだ。
そんな心配する必要はないと思うけどな。
トレッドは楽観的だった。
思いつきで行動することが多いトレッドでも婚約を解消することは悩んだ。
だけど、この先一生のことを考えると可愛いナリアを見て暮らしたかったのだ。
その後、2週間ほどはナリアとデートをしてトレッドは楽しい毎日を過ごしていた。
状況が変わり始めたのは、それからだった。
父はこの2週間、トレッドに何も言うことなく忙しそうにしていてほとんど顔を合わせる機会がなかったのだが、珍しく朝食が一緒になった。
肌艶の良かった父の顔はカサカサになっており、疲れ果てているのが目に見えてわかった。
「婚約破棄の影響があちこちで出ている。
受け入れてくれる量が減ったり次回の契約は更新しないと言われたり。
思っていた通りになり始めた。
わかるか?侯爵家との縁が切れて我が伯爵家は落ちぶれ始めている。
お前は毎日何をしている?セラヴィ嬢に再度謝り、友人としてでも付き合いを再開しろっ!
彼女は優しいから時間が経てば友人になってくれるとお前も言っていただろう?
侯爵家との仲は悪くなっていないと示さなければ、うちには後がないんだ。
一日も早く何とかしろっ!」
父の剣幕に、トレッドは逃げるようにして食事を終えた。
そしてナリアとのデートで、その話をした。
「まだセラヴィに会いに行くのは早いと思うんだ。あまり早く行くとよりを戻すと勘違いされそうだ。」
「ふ~ん。まぁ、そうね。ところでトレッド様、婚約はいつにします?
あ、その前に伯爵家が所有しているダイヤモンド鉱山を見てみたいっていう人がいるんです。
連れて来てもいいですか?」
「ダイヤモンド鉱山?うちの領地にダイヤモンド鉱山はないよ。」
「伯爵家の領地じゃなくて、お隣のセラヴィさんの侯爵家の領地にある鉱山です。」
「ん……?あぁ、そう言えば、父上がダイヤモンド鉱山を失ったとか言ってたな。それかな?」
「ええっ!失ったってどういうことですか?あれがないと何のために……
いえ、私、ダイヤモンド鉱山が欲しいんです。取り戻してくれませんか?」
「取り戻す?どうやって?」
「んー……伯爵家の鉱山と交換してもらうとか。じゃないと私、トレッド様と婚約できないわ。」
「え……そんな。わかった。ダイヤモンド鉱山が必要なんだね。何とかする。」
「きゃっ!トレッド様、素敵!」
ナリアと婚約するために必要なものは用意しなければならない。
屋敷に帰って、トレッドは父にダイヤモンド鉱山のことを確認した。
「父上、所有していたダイヤモンド鉱山を侯爵家に取られたのですか?」
「……ああ。婚約がダメになったからな。アレはセラヴィ嬢のものになった。」
「え?侯爵家じゃなくてセラヴィのものなのですか?」
「ああ。書類はそうなっていたぞ。くそっ!来年には採掘の準備を始めるはずだったのに。」
そうか。セラヴィのものなのか。だったら何とかなるかもしれない。
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