17 / 36
17.
しおりを挟む婚約者というラベルを剥がしてトレッドのために手伝ったことを思い返すと、セラヴィは確実にいいように扱われていたと気づいた。
ミンディーナが言った。
「生徒会の人たちやクラスメイトの中にもね、トレッドが張りぼて男だとわかっている人がいるわ。
セラヴィがいないと何もできない男なんだもの。」
顔だけ男に張りぼて男。トレッドのあだ名はいくつあるのかしら。
「トレッドをそんな男性にしたのは私ね。
昔、トレッドが悩んでいた問題を教えたのよ。それからは教えることが当たり前になって。
トレッドのお父様である伯爵様からも、助けてやってほしいって言われたし。」
「セラヴィのせいじゃないわ。考えることを放棄して頼ることを選んだのはトレッドだから。」
「そうだよ。君のせいじゃない。セラヴィ嬢、伯爵様から言われたことって他にもあるかな?」
伯爵様から言われたこと……いろいろあるわね。だけど……
「少し思い出したけど、伯爵様よりも前伯爵様であるトレッドのお祖父様に言われていたわ。
『トレッドとずっと仲良くするんだよ』『トレッドと結婚すれば君の家族は喜ぶよ』とか。
『初恋同士が婚約して結婚できることはいいことだ』とも言われたわね。
お祖父様が亡くなって、伯爵様にも同じことを言われたわ。
物心ついたころから当たり前のように。……洗脳みたいね。」
自分で言って、そうだろうと納得していた。
人を疑うということを、今までほとんどしたことがない。
小さな頃から祖父同士、父同士が仲が良かったことから、言われたことは素直に聞いていた。
トレッドと仲良くしなければならない。好きにならなければならない。助けなくてはならない。
これを当然のように思っていたから、疑問を感じたことがなかった。
「あぁ、大人の関与があったのか。彼はそんな策略家じゃなさそうだから誰だろうと思ったんだ。
彼の祖父と父親か。侯爵家との縁を望んだのかな。
せっかく結婚まであと少しというところで婚約破棄。伯爵は大激怒だろうね。」
「いい気味だわ。セラヴィ、これで良かったのよ。結婚していたら大変だったわ。
それに、本当に初恋同士なの?それも思い込みでしょ?
どうせ子供のころに『トレッドのことは好きかい?』『うん』『じゃ初恋だ』って感じじゃない?
好きか嫌いかって聞かれたら嫌な子だって思っていない限り好きって答えるのが子供だもの。」
……まさしくそんな感じだった気がする。
「トレッドも同じだったのかもしれないわ。
私は婚約者という名の幼馴染のままで、ナリアさんが本当の初恋だったのかも。
だって私たち、仲は良かったけれどキスすらしたことがなかったわ。」
ライガーとミンディーナは驚きながらも納得したようだった。
「どちらかが本当に相手に恋をしていたのなら、進展していた可能性はあったかもね。
でも、どちらもが偽物の恋だったから幼馴染の好意止まりだったってことね。」
「……まだ悲しいという気持ちがあったのは、幼馴染としての未練かしら。」
「ずっと一緒にいた弟もどきが手を離れたとでも思えばいいんじゃないか?
身近にいた者が去る寂しさを感じるのは当然だよ。でも、それも慣れだ。」
ライガーの言葉に、兄ではなく弟と変なところに引っかかった。
確かに兄と慕うような頼もしさは全くない。どちらかと言えば頼りない弟。まさしくそうかも。
滞在2日目にして、悲しみすら吹き飛ぶ思いで笑ってしまった。
208
お気に入りに追加
2,517
あなたにおすすめの小説
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。
どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?
石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。
ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。
彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。
八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
婚約破棄は先手を取ってあげますわ
浜柔
恋愛
パーティ会場に愛人を連れて来るなんて、婚約者のわたくしは婚約破棄するしかありませんわ。
※6話で完結として、その後はエクストラストーリーとなります。
更新は飛び飛びになります。
婚約者に好きな人がいると言われました
みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢のアンリエッタは、婚約者のエミールに『好きな人がいる』と告白された。 アンリエッタが婚約者エミールに抗議すると… アンリエッタの幼馴染みバラスター公爵家のイザークとの関係を疑われ、逆に責められる。 疑いをはらそうと説明しても、信じようとしない婚約者に怒りを感じ、『幼馴染みのイザークが婚約者なら良かったのに』と、口をすべらせてしまう。 そこからさらにこじれ… アンリエッタと婚約者の問題は、幼馴染みのイザークまで巻き込むさわぎとなり――――――
🌸お話につごうの良い、ゆるゆる設定です。どうかご容赦を(・´з`・)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる