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しおりを挟むマッシュ領に着いた初日から、ライガーとミンディーナによって暴かれたセラヴィの心の内。
早めの夕食を終え、ベッドの中で眠りにつく前にも考えてみた。
トレッドへの恋心は、確かにあったと思う。
だけど、それは『婚約者』だから好きになるものだという使命感もあったようだ。
言われてみれば、幼馴染の域を抜けていたかどうかも疑問。
純粋な恋心であれば、トレッドの行動を傍観できたはずがないと言われて納得。
幼馴染のラベルの上に婚約者のラベルが貼られたようなものだったような気がした。
それを剥がせば、隣人?知人?
どうしてそんな使命感で幼馴染や婚約者の枠にはまった感情を持たなければならないと思っていたかは謎だけど、トレッドを単なる元婚約者で元幼馴染の隣人・知人と思えるようになれば、学園で2人が一緒にいる姿を見ても辛くはならないのではないかと思った。
そうなった時が自分の心が癒えた時だと言えるのだと思う。
だけど、まだ悲しい。
この悲しみについては、また明日考えよう。
セラヴィは、泣くことなく眠りにつくことができた。
翌朝、侍女のシャナに起こされるまでぐっすりと眠っていたセラヴィは、清々しい朝の空気を感じて嬉しくなった。
「おはようございます。セラヴィ様。」
「おはよう。シャナ。久しぶりにぐっすり眠れたわ。気持ちの良い朝ね。」
「はい。いいところですね。朝食前に散歩に出るのもいいですね。」
シャナが楽しそうに張り切っているのは、セラヴィがよく眠れたことと、目元が赤くなったり腫れたりしていないことが嬉しいからだろう。
気づいていても指摘することなくセラヴィの世話をしてくれていたが、心配していたことはわかっていた。
……悲劇の主人公のように悲しんで、でも『そのことには触れないで』という態度を自分がしていたことを思い出して恥ずかしくなった。
失恋した女性はウジウジといつまでも悲しむものだなんて、恋愛小説の受け売りだわ。
朝食の場所に案内されるとライガーが既に来ていた。
「おはよう。よく眠れたかな?」
「おはようございます。もうぐっすりと。」
席に座るとミンディーナもやってきた。
「おはよう。セラヴィ、お兄様。
あらセラヴィ、スッキリした顔ね。よく眠れたようで良かったわ。」
「おはよう、ミンディーナ。気持ちのいい目覚めだったわ。」
「王都と違って領地って空気まで美味しく感じるわよね。お腹がペコペコだわ。」
ミンディーナが席に着くと、朝食が運ばれてきた。
領地特産の色鮮やかな野菜や小麦で作ったパンなど、昨夜の夕食とまた違う味わいを楽しんだ。
午前中は街へ遊びに、ライガーとは午後のお茶の時間を一緒に過ごすことになった。
歩きやすい靴にワンピース姿で街に行き、護衛がいる平民には見えない令嬢2人がはしゃぐ姿も温かく受け入れてくれる街だった。
というのも、ミンディーナがお転婆令嬢で子供の頃から顔が知られているせいだったが。
王都でも2人で買い物やお茶をすることもあったが、周りに貴族も多くて気が抜けない。
領地ではトレッドと街に行くことはあっても、女友達とは買い物をしたことがなかったので、セラヴィはとても楽しんだ。
そして、屋敷に戻ってライガーも含めたお茶の時間、セラヴィは思い出したトレッドへの不満を口にした。
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