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しおりを挟むセラヴィはトレッドを信じていた。
本当に?
トレッドの性格を知っていたのに?
「私はトレッドが婚約者だから戻ってくるのは当たり前だと思っていたわ。
卒業すれば、彼女は国に帰るだろうから会わなくなる。
会わなければ、いずれ忘れる。
自分の好みの女性と話す楽しみくらい、大した問題じゃないと思って何も言わなかったの。
だけど、私はトレッドが彼女に一目惚れをした瞬間を見ていたの。
それなのに、危機感を抱いていなかった。いろいろと矛盾してる?」
「そうだね。セラヴィ嬢が彼に注意をしなかったのは、婚約者なのだから戻ってくるのは当たり前。
そこにお互いの感情は関係ないとそう思っているからだろうね。
彼を信じていたというより、婚約者という縛りを信じていた。かな。
一目惚れしたのが分かれば、大方の婚約者は危機感を抱く。
自分の方に向かせようとする努力、相手と親しくならない手回し、そして婚約の意図。
婚約は家同士の約束でもある。それを思い出させることによって踏みとどまらせる。
それを何一つすることなく、他の女性と親しくなるのを見ているのは苦痛なはずだよ?」
ライガーの言葉に、愕然とする。
危機感や苦痛を感じていなかった自分は、本当にトレッドが好きだったのだろうか。
信じていたのは、『婚約者』という縛り?
確かに、婚約すると余程でない限りは解消することはない。
トレッドとはずっと仲良く過ごしてきたから嫌われることはないと思っていたし、何があっても戻ってくると思っていた。
その根拠は『婚約者』だから?
私がトレッドに愛されているから、ではない。
私がトレッドを愛しているから、ではない。
「トレッドがね、『彼女と結ばれない自分の思いが可哀想』って言ったの。
その時にね、一番可哀想なのはそんな男と10年も婚約していた私じゃないかって思ったの。」
ミンディーナとライガーは唖然としていた。
そうよね。私、自分で自分が可哀想だって思っていたんだわ。しっかり自分を憐れんでいたのね。
そのことに気づかないで、ここまで連れて来てもらって申し訳ないわ。
「トレッド、バカじゃない?自分の思いが可哀想?
そんなことを馬鹿正直にセラヴィに言うなんて。
セラヴィ、あなたは間違ってないわ。
あんな男を好きだと思っていた自分を憐れむのは当然のことよ!」
え?そっち?ライガー様も頷いているわ。
「えっと、私はトレッドに失恋したからじゃなくて、自分が憐れだから悲しんでもいいの?」
「うん。セラヴィ嬢は自分を労わってあげたらいいんじゃないかな。
自分を癒してあげられたら、前を向けると思うよ。
もう『婚約者であるトレッド』を好きになる縛りはない。彼はただの知人に成り下がった。
思い出しながら悪口でも言ったらスッキリするんじゃないかな?」
「あっ、それいいな。
私、セラヴィには言えなかったけどトレッドの気に喰わないところいっぱいあったの。」
そう言えば、トレッドを顔だけ男だとミンディーナは時々言ってたわね。
顔だけって顔以外はダメってことよね。
セラヴィは思わず笑ってしまった。
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