上 下
10 / 36

10.

しおりを挟む
 
 
街での噂を使用人が持ち帰ってミンディーナが聞いたのは、セラヴィがトレッドに婚約解消を伝えられた数時間後だった。

ミンディーナは、『やはり』と思った。

友人セラヴィの婚約者であったトレッドの、ここ最近の行動は目に余るものがあった。
セラヴィにも放っておいていいのかと何度か確認をしたけれど、彼女はトレッドを信じていた。

だけど、ミンディーナはトレッドという男が信じられなかった。

婚約者の目の前でだけでなく、誰が見ても他の令嬢に恋しているとあからさまにわかるような男なのだから。
ミンディーナだけでなく、令嬢たちは冷ややかな目でトレッドとナリアを見ていた。

セラヴィが言うには、学園以外ではトレッドは昔と何も変わらないらしい。
それに、卒業すれば隣国に帰るナリアには会わなくなる。
来年には自分たちは結婚するので、ナリアのことも忘れるだろうから。
そう、少し寂しそうにセラヴィは言った。
まるで、それまでの我慢だと自分に言い聞かせているのではないかと思った。

10年も婚約者でいた。それに、婚約前からも幼馴染で一緒にいた期間はとても長い。
顔以外、どこに魅力があるのかわからなかったけど、セラヴィがトレッドのことがとても好きなのがわかっていたし、ナリアが留学してくるまではとても仲睦まじい2人だった。
だが、観察しているとセラヴィがトレッドのお世話をしているようにしか見えない。
ミンディーナから見れば、セラヴィが婚約者だからトレッドという男も評価されていたのだと思う。
そんなセラヴィを、トレッドという男は捨てたのだ。
 
ミンディーナはトレッドが許せなかった。
大切な友人を傷つけたのだ。

セラヴィのことが心配になり、会いたいと手紙を書いて届けてもらった。
翌日の午後なら、と返事をもらいミンディーナはセラヴィに会いに行った。




「セラヴィ、あぁ、泣いていたのね。目が腫れてるわ。」

「ミンディーナ、来てくれてありがとう。さっきね、婚約破棄の手続きが終わったわ。」


もう終わったの?解消じゃなくて、破棄なのね。当然だわ。


「昨日の午前中、学園にいるまではいつもと変わらなかったわよね?
 トレッドとナリアが街で浮気していたという噂は聞いたわ。それが原因で婚約破棄を?」
 
「違うわ。正確には、その前にトレッドが婚約解消したいと言いに来たの。
 街でのことは、私が婚約解消を認めてからのことなの。
 だから、浮気とは言えないと思うの。」


噂でも、『婚約解消することになったから付き合ってほしい』とトレッドが言ったと聞いたわ。
だけど、ナリアとは会う約束をしていたってことでしょ?しかもあんなに目立つ場所で。
それは婚約解消を認める前のことのはずよ。


「手続きしたのはさっきなんでしょ?浮気と同じだわ。
 それに、あなたに婚約解消を告げたことを親に言わずにトレッドは街で遊んでいたってことね。
 トレッドの親は街での噂を先に聞いて、帰ってきた彼を叩いたそうよ。当然よね。」


トレッドの家の使用人から、新たな情報が入ってきたのだ。
伯爵は怒り心頭なのに、トレッドは危機感もなく暢気なことを言ったという。
侯爵の怒りが治まればセラヴィと友人として元通りになると思っているというのだ。

使用人たちは、その発言を聞いて新たな職探しのために他の貴族家の使用人たちに接触し始めているのだ。
トレッドのような危機感のない跡継ぎでは伯爵家の未来は明るくない。
紹介状を書いてもらえるうちに、次の職場を探し始めているらしい。

昨日の今日で、伯爵家は使用人にも見放されているようだ。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

同僚のよしみで麗しの薔薇騎士様の恋人役を拝命しました~奔放な国王に振り回されている隠密バディの両片思いが実るまで~

柳葉うら
恋愛
完璧主義で生真面目な侍女と、美形で軟派者を演じているけれど実はヘタレで残念なイケメンの騎士が織りなすドタバタラブコメディ。 国王に仕える<鉄仮面>の侍女こと隠密侍女のロミルダは仕事人間で、どんな任務も完璧に遂行するのがモットー。同じ主君に仕える相棒の<薔薇騎士様>こと隠密騎士のラファエルは、仕事以外では接点のないただの同僚。しかしある日、二人は国王の命令で恋人を演じなければならなくなった。 ※小説家になろう様にも掲載しております

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

時を止めるって聖女の能力にしてもチートすぎるんじゃないんでしょうか?

南 玲子
恋愛
聖女として召喚されたけれども、まさかの魔力ゼロ判定で神殿から放り出された少女。サクラがささやかな夢。田舎でゆったり子沢山・・・を叶えるために騎士団訓練場で男として働き始めた。そこにいらっしゃった騎士団隊長のユーリス様と、王国の第一王子アルフリード殿下から溺愛されることになり、いや・・・わたし今男なんだけれども・・・あれ?男の振りした女で、今は女装中で・・・?!訳のわからない事になってる!?しかも王位争いに巻き込まれて、田舎でゆっくり子沢山の夢は、どうなるの?! 突然異世界に召喚された剣道少女が、ポジティブに異世界を生き抜いていく。恋愛とアクション半々の物語です。 第一部完結しています。第二部はアルファとベータに分けて公開します。アルファはもう完成済みで、4つに分けて4月28日0時に公開します。毎週金曜日0時公開です。アルファもよろしくお願いします。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

星名柚花
恋愛
魔法が使えない伯爵令嬢セレスティアには美しい双子の妹・イノーラがいる。 国一番の魔力を持つイノーラは我儘な暴君で、セレスティアから婚約者まで奪った。 「もう無理、もう耐えられない!!」 イノーラの結婚式に無理やり参列させられたセレスティアは逃亡を決意。 「セラ」という偽名を使い、遠く離れたロドリー王国で侍女として働き始めた。 そこでセラには唯一無二のとんでもない魔法が使えることが判明する。 猫になる魔法をかけられた女性不信のユリウス。 表情筋が死んでいるユリウスの弟ノエル。 溺愛してくる魔法使いのリュオン。 彼らと共に暮らしながら、幸せに満ちたセラの新しい日々が始まる―― ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...