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侯爵が娘のセラヴィの嫁ぎ先を格下の伯爵家に許した理由は、2人が仲が良かったことと別に金に困っているわけでもなく有力貴族との縁組を切望していたわけではないということの他に実はもう一つあった。

それは、婚約の条件にも含んだこと。

元々は侯爵家のものだった【鉱山】が理由だった。

今は伯爵家に所有権があるが、それは先代侯爵が酔った勢いで賭けに出したと聞いている。
しかも、初めは伯爵家と隣接する鉱山だったはずが、譲渡したのは領地の中ほどにある鉱山。

名前が似ていて、書類を間違えてしまったという。

伯爵家には手違いだと鉱山の変更を申し入れた。
だが先代伯爵は、しつこく侯爵家が言ってくることから宝の山だと思った。
変更を認めなかった。

だが、実は伯爵家側も自分の領地に接していない鉱山には手を出しにくい。
人員を派遣しようにも、周りの町は侯爵領民。
衣食住を周りの侯爵領民に頼ることになる。

本来であれば、鉱山で働く者たちが稼いだお金は伯爵領で落とす。
伯爵家の事業として払った賃金が使われるので町も潤うし、活気も出る。
税も伯爵家に納められるはずだった。

だが、周りは侯爵領地。衣食住は侯爵領を潤すことになる。

そのため、所有して15年ほどになるが、手つかずなのである。

実際、その鉱山はダイヤモンド鉱山であると昔から言われている。
元々伯爵家に譲渡するはずだった鉱山も悪いものではないのだが、ダイヤモンド鉱山には劣る。
隣接している鉱山で手を打っておけば、領地境に鉱山で働く人向けの町でも作れば伯爵領が潤ったはず。

愚かなことに、そこに気づかず先代伯爵は頑なに変更しなかった。


当代になってすぐに、セラヴィとトレッドの婚約話になり、この鉱山を条件につけたのだ。


『トレッド有責で婚約が解消になった場合は鉱山はセラヴィのものとする』

万が一、婚約が解消されても鉱山がセラヴィのものとなれば、侯爵家に戻ってくることと同じ。
その後に相応しい婚約者を見つけることができない可能性もあるので、独り身になっても困らない生活ができるようにしてやりたかった。
子爵・男爵家に嫁ぐと生活レベルが違いすぎるため、不幸が目に見える。
援助してやることは簡単でも、セラヴィだけが良い服を着て良い物を食べるという生活はできない。
価値観というのは育ってきた環境で大きく違っており、あまりに違いすぎると妥協点を見つけることも難しい。
下位貴族に嫁ぐ利点がなければ、独身のまま侯爵家にいる方がいいのだ。
援助を望むような、面倒な親戚を作ってしまうだけだから。


それでも、伯爵家であるトレッドに嫁いでも、今までのような生活水準はできないかもしれない。
なので、その場合でもセラヴィが困らないように婚姻中の特例として鉱山が採掘できるようにした。


『鉱山を採掘する場合、近隣の町の一部に伯爵領民を受け入れ売上税収も伯爵家とすることを認める。
 ただし、発掘された鉱石の売上30%をセラヴィ個人のものとする』

つまり、結婚してもセラヴィが不自由しないように条件を組んだ。

採掘に躊躇する鉱山を放っておくよりも、収入が増えることを選んだ伯爵は条件を受け入れてセラヴィとトレッドは婚約することになった。

来年、2人が結婚すれば、鉱山に着手することが可能になっていたのだ。
 
だが、トレッド有責の婚約破棄であるため、鉱山はセラヴィのものとなる。



侯爵が伯爵に伝えるようにとトレッドに言った『婚約を結んだ時の条件通り返してもらう。書類を揃えて持ってこい』という言葉は、鉱山を返してもらうという意味だ。 

トレッドはおそらく鉱山が婚約の条件に含まれていることは知らない。

伯爵家は宝の山を失ったのだ。
 





 
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