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しおりを挟む後ろでラフィーナが何か叫んでいる声が聞こえているが、無視して扉を閉めた。
「あの醜態をここにいる者たち以外に知られるわけにはいかない。
眠らせてから離宮に運べ。
誰にも同情させるな。王太子妃が不貞をしたんだ。自業自得だ。」
「かしこまりました。あの護衛騎士の処分はいかがいたしましょうか。」
「……前例に倣え。感情で処分を言い渡すと首をはねてしまいそうだ。」
ラフィーナは自分自身が好きだっただけなんだな。
こんなに愛しているのに……エカテリーナへの真実の愛を裏切った愛だったからこれは罰なのか。
今は答えが出ない。
離宮に幽閉された王太子妃ラフィーナは、自分の容姿を保つための道具がなくなったことでそのうち頭がおかしくなった。
正直言って、香油がなくても化粧をしなくても食べて動くだけで体形など変わりはしない。
つまり、侍女たちのマッサージがなければラフィーナの体は普通の体形に戻るだけ。
あとは自分の努力で体形を維持すればいいだけなのだが、10年もケアを受け続けたラフィーナに運動での努力などあり得ないことだったのだ。
緩い病人服ばかり着ていると細い腰に肉がつき、巨乳の胸の位置が下がって肉が横に流れ、ヒールを履かない足が広がる。
ラフィーナは離宮にある鏡を割り、自分の姿を見なくなった。
それからは食べて食べて食べて………ふと気づかない場所にあった姿見に映った人物に驚き、話を聞いてほしくて愚痴を言い始めた。
頭のどこかでそれが自分の姿だと認識していたのだろう。
徐々に壊れ始めたラフィーナは姿見の人物を友人として日常的に会話をするようになり、正気を失ったまま暮らしている。
母親である王太子妃の姿を見なくなっていたことにベンジャミンは気づいていたが、興味はなかった。
母親らしいことは何一つされたことがないし、この頃には自分の婚約者に内定しているララベルを真実の愛の相手として大切にする洗脳が始まっていた。
やがて、王太子妃が病気療養のままウラジールが国王となり、ベンジャミンは王太子となった。
王太子教育の中で、父ウラジールが母ラフィーナと結婚した経緯、そして元婚約者の父である公爵と前国王である祖父との密約により、ララベルとは真実の愛の相手として必ず結婚する必要があるのだと説明された。
しかも、祖父も子供の頃に決められた婚約者ではなく別の令嬢を選んだのだと。
それがウラジールの元婚約者エカテリーナの母、つまり公爵夫人であるのだと。
2代続けての王族の不義理に過敏になる教育係は、ベンジャミンを洗脳するように婚約者となるララベル以外に興味を持ってはいけないことを教え続けてきた。
その甲斐あって……ではなく、ベンジャミン自身が自分の立場を理解してララベルを大切にしようと思ってきたのだ。
なのに、2年で側妃?いくらなんでも真実の愛には相応しくないだろう?
父と祖父の汚名を雪ぐつもりでララベルに尽くしてきた私の努力を無駄にする気か?
ララベルとの間に子供ができるかはわからない。
しかし、側妃は今じゃない。
父上、真実の愛の相手は母じゃなかったのです。
一度あることは二度ある。そういうことです。そういうことにするのです。
そして、アンタが側妃を娶ればいい。
生まれる弟妹を王太子にしても構いませんよ。
私は呪いのように、ララベルと生涯を共にしますので。
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