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しおりを挟むロベリー公爵ジョーダンは、オードリック辺境伯領に向かっていた。
辺境までは馬車で6日かかる。
半月ほど王都を留守にすることになるが、ロベリー公爵領に行くと嘘をついて出てきた。
リアンヌを連れ帰り、母やロレッタを驚かせてやろうと思ったのだ。
アイツらを罰するのはそれからだ。どんな罰が相応しいだろうか。
リアンヌの足元に縋りついて許しを請うたとしても許すつもりはない。
殺しはしない。この1年、平民になったリアンヌが苦しんだろうから、アイツらも苦しんでもらう。
オードリック辺境伯には、世話になったリリィという女性がジョーダンの妻リアンヌと思われるので確認してほしいと手紙を出した。
妻の葬儀は済んでいるが、遺体は損傷が激しかったためにリアンヌと断定はできなかったのだとも記した。
だが、辺境伯からの返信は、もうじき結婚するロレッタを妻として大切にすることが望ましいとのことだった。
辺境伯の考えか、リリィとなったリアンヌの思いか。そのどちらもか。
もう戻る気はないという意思か、あるいは迎えに来いという願いか。
わかっている。
リアンヌに戻ってくる意思があるのであれば、もう戻っていたはずだということは。
ジョーダンは、自分がリアンヌに無理を強いてきたことで、彼女の限界が近いことは悟っていた。
彼女の困った顔、我慢している顔、泣きそうな顔、不満そうな顔、眉をひそめる顔が見たくて、ジョーダンに依存して欲しくて、辛い思いをさせ続けてきた。それがジョーダンの喜びだった。
だからこそ、リアンヌの誘拐を依頼し娼館に売ろうとした母とロレッタを纏めて罪に問うことで、リアンヌの憂いを少しでも晴らせば、また無理を強いても我慢してくれると思ったのだ。
だが失敗した。
リアンヌは自分が死んだことにされたので、そのまま逃げた。
子供がいれば逃げることはないと思っていたが、そうではなかったのだ。
リアンヌのことはわかっているつもりだったが、まだまだだったようだ。
今回は連れ戻すために、子供に会わせてやることを約束すれば大丈夫だろう。
こういう手間をかけさせて、従順になりきれないところが面倒だと思いつつも、そういうところも気に入っているのだから仕方がない。
オードリック辺境伯の屋敷についた。
リリィと名乗っているリアンヌも呼ぶように伝えておいたので、この屋敷にいるはずだ。
ここに一晩泊めてもらって、明日にはリアンヌと共に王都に戻ろう。
「オードリック領にようこそ、ロベリー公爵。」
「あぁ、お久しぶりですね、辺境伯。以前お会いした時は妻を紹介しそびれていましたかね?」
父の葬儀で会ったが、リアンヌは妊娠中で体調が悪かったから下がっている時間に言葉を交わしたのだろう。
でないと、リアンヌがジョーダンの妻だとわかったはずだろう?気づいていたなら連絡をくれたはずだ。
そういう意味を込めたが、辺境伯は意に介さなかった。
「もうすぐ結婚式なのですよね?準備に忙しいのでは?」
「いえ、別に。私は何もしていませんからね。」
「はははっ。女性に全て任せきりになると請求書が恐ろしいことになると聞きますが、公爵はその心配もないでしょうからね。」
確かに、金には困っていない。しかし、王族並の招待客は勘弁してほしい。
ロレッタとの結婚の話などどうでもいいのだ。ここに来たのはリアンヌを連れ帰るためなのだから。
ダラダラとどうでもいい雑談にイライラしてくる。
「それはともかく……リアンヌを呼んでいただけますか?」
辺境伯は意味深に笑った。
「リリィがかつての公爵の妻だとして、連れ帰ってどうするのです?」
「それを答える必要はありますか?」
「リリィはここの領民ですから。」
「それは本人を前にしてから話しましょう。」
「そうですか。」
辺境伯が指示を出すと、少しして扉がノックされてから開いた。
入ってきたのは間違いなくリアンヌだった。そして、一人の男と一緒だった。
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