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リリィの骨折が治り、リハビリを終え、完治したと認められるまでに5か月を要した。

それもこれも周りが過保護だったせいと、リリィの体力及び筋力の無さが全快を遅らせたためである。

ようやくこれで、辺境伯家の客室から使用人室に移って、内職ではなく新米使用人として働かせてもらおうとリリィは気合を入れていた。

だが、エイダン様からは却下された。


「どうしてですか?家事全般は働きながら覚えればいいというお話でしたよね?確かに、何もできないことで一緒に働く方々にご迷惑をおかけすることになるのはわかっていますけど……」

「いや、違う。そういうことじゃないんだ。
リュードと会ってから、リリィは何度かアイツに声をかけられただろう?他の騎士や兵士にも。」
 

リュード様は辺境伯の分家の一つである男爵家の次男。
エイダン様に追い払われても声をかけてくるので、カーラさんに言われた通りに恋人がいると伝えた。

けれど、恋人が屋敷を出入りしていないと知って、それならば屋敷に滞在中は自分にもチャンスが欲しいとめげずにくどいてくるのだ。

人気の少ない階段で上り下りのリハビリをしている時も、リュード様だけでなく何人もの男性が手伝ってくれようとしたり応援してくれたりして戸惑ってしまった。


「アイツらは、リリィが屋敷に来た時期にこの辺境に住み始めた若い男を探している。片っ端から声をかけてリリィの恋人かどうかを確認している。」

「え……どうして?」

「貴族令嬢だったリリィが平民の男と駆け落ちしてこの辺境を目指していたが、途中で何か事情があって骨折。その骨折に俺が関係しているとかしていないとか、あるいはたまたま通りかかったことで顔見知りのリリィを辺境伯領で保護するために屋敷に滞在させている。
その間に恋人はリリィと暮らすための家をどこかに借りているはずだ。ということらしい。」 

 
架空の恋人を探している?そんなバカな。思わず唖然としてしまった。


「しかも、恋人がリリィに相応しい男でなかった場合、別れさせるつもりだとか。まぁ、これはリリィがそばにいないことで浮気でもしていたらということなんだろうが。それでもリリィが決めるべきことなのにな。
とまぁ、架空の話が大きくなっていることもあって、リリィに興味深々な男が増えている。」 


つまり、働き始めたら恋人がいないこともバレるし、見知らぬ人からも声をかけられるってこと?


「しばらくすれば落ち着くとは思うが、仕事を教わる新人が男にチヤホヤされて仕事の邪魔をするとリリィの印象は悪くなってしまうだろう?その、女性の嫉妬は恐ろしいと耳にするし。」


それは、そうかもしれない。しかも、リュード様みたいな貴族が相手となれば、あまり邪険にすることもできないかもしれない。今の自分は平民だから。

そしていつまでも相手を決めないリリィに他の使用人の女性たちもいい気はしないはず。
和を乱すのであれば邪魔だと無視されてクビになるかもしれない。


「ここで雇っていただいてもクビになってしまうのであれば、街で仕事を探した方がいいってことですか?」

「それはもっとダメだ。今のリリィではすぐに連れ去られてしまうかもしれない。」

「連れ去られるって、治安はそれほど悪くないのですよね?」

「そうだが、全くないというわけではない。それに、愛人として囲われてしまえばどこにいるかわからなくなるし、娼館に入れられても借金の形と言われれば証明に時間もかかる。リリィに懸想したその辺の平民に連れ込まれる可能性もないわけじゃない。一人では外に出せないんだ。」
 
「そんな……じゃあ、どうすれば。」

「……街に俺の屋敷がある。そこで使用人として雇おうと思う。」


エイダン様のお屋敷で?



 
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