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王都に向かう馬車の中は母が増えたことで賑やかだった。

「ルーク様のお母様は、令嬢たちの憧れの方だったのよ。
 私がデビューした頃には既にご結婚されておられたけれど、まだ噂があったわ。
 『綺麗で凛々しい』アンジェラ様。あの方がおっしゃることには誰もが従う。
 令嬢たちの諍いを宥めているうちに、みんなが『お姉様』と陰で呼んだ存在になったらしいわ。」

「『お姉様』…」

わからなくはない。一度、ルークの侯爵家で会ったアンジェラは凛々しい印象だった。 
 
「ああっ!」

急にルークが叫び、頭を抱えた。

「どうしたの?」

「…嫌なことに思い当たってしまった…
 俺がクラリスを好きになったのは、母の影響がなくもない…」

「…ああ!」

「…なるほどね。」

父と母はわかったみたいだが、クラリスにはわからない。

首を傾けていると、ルークが誤解はしないでほしいが、と説明を始めた。

「母はクラリスも会ったからわかると思うけど、さっぱりした真っすぐな性格だ。
 子供のころ、いたずらをして侍女を困らせた俺たちの頭に拳骨を落とすこともあった。
 誤魔化しや曖昧さを嫌う人だ。
 一番身近にいたのが母、同年代では王太子の婚約者ミーチェ嬢だ。
 ミーチェ嬢も子供の頃からしっかりした令嬢だった。
 だから、事前知識にはあったんだけど、学園の令嬢たちのか弱さが苦手だったんだ。
 貪欲に向かってきたかと思えば、腕にしがみつくように助けを求める姿が嘘くさくて。
 例えば、クラリスがディランに襲われた件。あの場合、8割の令嬢がまともに話せない。
 泣きわめく、気絶する、寝込んで証言するのは時間が経ってから。演技も含めてね。
 だから、怖かっただろうに気丈に振る舞い証言をしたクラリスが嬉しくもあり寂しくもあった。
 クラリスが自分にだけ甘えてくれる存在になれたらいいなって思ったんだ。
 そこがちょっと矛盾してるけど、これが惚れるってことなんだって思う。」

母が笑いながら言った。

「まぁ。ルーク様もアンジェラ様に似ているのね。
 真っすぐ気持ちを伝えるって簡単なようで難しいものよ。
 クラリスは幸せね。」

「義母上を見てきたからクラリスも自分を持ったしっかりした女性なんですね。」

「確かに身近な女性が基準になることは考えられるわね。私も泣きわめくタイプじゃないわ。」

そう言って母とルークが笑い合っている。いつの間にか義母上と呼んでるし…

「あっ!誤解してないよな?泣くなって意味じゃないぞ?頼ってくれるのは嬉しい。」

「ええ。言いたいことは何となくわかるわ。大丈夫よ。」
 
そう言って、ルークを見て微笑むと同じように微笑みがかえってきた。それが嬉しい。
前に座っている両親も微笑んでいた。




旅を終え、王都に戻ってきた。
ルークのご両親と跡継ぎのお兄様の都合と合わせて、改めて顔合わせする日程を決めることになった。

これまた直ぐに話が進み、1週間後に昼食会で顔合わせをした。
両家、歓迎ムードでいろんな話が進む。

結婚してから住む場所もこのままここに決めた。父は母とほとんど領地で過ごし、社交シーズンに少しだけ顔を出す程度にするらしい。クラリスが跡継ぎと認識されているから何かあればクラリスを介せば問題ない。
内装を少し変え、ルークの部屋と夫婦の部屋を整えるくらいである。
王宮から遠すぎず近すぎず、ルークにとっては望ましい距離であるらしい。

ウエディングドレスはディランとの結婚に向けて仮縫いは済んでいた。
どうでもよかったのでシンプルにしようと思っていたが、相手がルークなので気が変わった。
レースやリボン等の装飾は要望に応じて用意すると言われていたので、母と訪れる話をするとアンジェラ様も行きたいと言い出した。娘がいないので息子の嫁たちのドレス選びを見るのが楽しいらしい。


そうして過ごすうちに、クラリスとルークの結婚式の日になった。


 
 
 
 
 
 
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