10 / 14
10.
しおりを挟む学園を卒業した数日後、騎士たちがディランが起こした事件の報告とジェシーの報告に訪れた。
伯爵とクラリス、ルークも一緒に話を聞いた。
まずディランだが、農薬は原液のままであったため、肌の爛れ、口内と喉の炎症、右目失明、左目もはっきりは見えないが辛うじて自分で動ける程度ということだった。
当然、クラリスを狙った犯行であったため、罪人だ。
侯爵家もディランを廃籍し無関係としたため、平民扱いで罪は重い。だが実害は自分だけ。
しかし、失明しはっきり話せないディランは何処にも送れず扱いに困っていた。
その時、そんな奴でも歓迎のところがあった。
男娼館だ。といっても相手は男限定。そこで、男を受け入れ体を慣らしてもらう。
ディランが自分の行いを心から反省し男娼として問題を起こさなければ、需要がある限り男娼館で生活できる。そこでは、食事や洗濯は任せられるし清潔に過ごせる。
もし反省が見られなければ男の扱いを学んだ後、鉱山で働く犯罪者相手の男娼になる。
もちろん清潔さは段違いだ。一日の相手の人数も多いだろう。穴が壊れるかもしれない。そんな所だ。
ディランの未来はディラン次第ということだった。
次にジェシーだが、彼女は黙秘していた。
薬は毒薬で、量により堕胎薬にもなれば心臓を弱らせたり、即死したり。
侍女のリンに渡した量は堕胎薬であった。
リンによると、子爵と関係をもった侍女が妊娠した。だが産めない。と相談されたらしい。
知り合いだったジェシーにいい方法がないか聞いたところ、この粉を渡されたらしい。
リンは侍女に渡したが、侍女は勇気が出ずすぐに飲めなかった。
ポケットにしまったが、ハンカチと一緒に包み紙が出てしまい、子爵夫人に問い詰められた。
答えない侍女に、騎士が呼ばれて毒かと尋問され、リンからジェシーへと繋がったのである。
黙秘を続けていたジェシーに、昔仕えたであろう伯爵家の令嬢だった侯爵夫人(ディランの母)が亡くなったと何気なく伝えると、泣き出し自白を始めた。
伯爵家のお嬢様が父親に婚約を命令されたため、恋人が死んでしまった。
その嘆きは悲痛だった。ジェシーはお嬢様を不憫に思った。
自分は『お嬢様の味方だ』と伝えた。
やがて嫁いでいったお嬢様が何年も経ってお願いしてきた。
『息子のディランをクラリスと結婚させてこの伯爵家に戻りたい。
そのためにはクラリスに弟妹はいらない。
弟の嫁が妊娠すれば、堕胎させてほしい。』
そう言って大金を渡し、薬を買うようにジェシーは言われた。
指定された場所で男の名前を確認し、金と薬を交換した。
小瓶だが、いっぱい粉が入っていた。
堕胎の量、致死量、体を弱らせるに必要な日数など、細かく教えてもらった。
やがて、現伯爵の妻が妊娠した。
出番だと思い薬を飲み物に混ぜたところ、流産した。
それを3回繰り返した頃、お嬢様にこっそり呼び出された。
『一週間後、父を訪ねる。その時、父の飲み物に致死量の毒を入れて』
断ろうと思った。だけど、『味方って言ってくれたわよね?』と言われた。
既に3回、産まれるはずの赤ん坊も殺してる。
もう逃げられない。そう思い、前伯爵のお茶に致死量の3倍の毒を入れた。ひと口でも確実な死を。
『弟とクラリスはまだ先。怪しい動きをしたら教えて』
そう言われていた。
その後、クラリスとディランの婚約が結ばれ、お嬢様は本当に戻って来る気だと思った。
嬉しくもあり、不安でもあった。
そう語ったという。
ジェシーが語ったことは立証が難しい。
前伯爵は病気で死亡したとされており、堕胎も証明できない。
だが、彼女は罪の意識を感じている。
死刑には出来ないが、毒物所持と譲渡により労働の懲役刑である。
無期にするつもりだが、それでよいかと伯爵は聞かれた。
「…はい…」
震えるような声で伯爵は答えた。
124
お気に入りに追加
607
あなたにおすすめの小説
何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。
夢風 月
恋愛
カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。
顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。
我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。
そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。
「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」
そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。
「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」
「……好きだからだ」
「……はい?」
いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。
※タグをよくご確認ください※
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
君は、妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは、婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でも、ある時、マリアは、妾の子であると、知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして、次の日には、迎えの馬車がやって来た。
【完結】幼馴染のバカ王子が私を嫉妬させようとした結果
横居花琉
恋愛
公爵令嬢フィリスはトレバー王子から「婚約してやらない」と宣言された。
その発言のせいで国王から秘密裏に打診されていた婚約は実現しないものとなった。
トレバー王子の暴挙はそれで終わらず、今度は男爵令嬢と婚約しフィリスを嫉妬させようとした。
フィリスはトレバー王子の自爆により望まない婚約を回避する。
愛する義兄に憎まれています
ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。
義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。
許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。
2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。
ふわっと設定でサクっと終わります。
他サイトにも投稿。
妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません
編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。
最後に取ったのは婚約者でした。
ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる