上 下
2 / 44

2.

しおりを挟む
 
 
孤児院を出て教会の方に戻りながら、聞いてみた。


「おじいさんは、どうして私に孤児たちを見せようと思ったのですか?」

「それはね、お嬢さんから覇気を感じないからだよ。
 子供というのは見ているだけでも元気をもらえる。
 おそらく君は、貴族令嬢だろう?手が綺麗だ。働いている手じゃない。
 だけど、侍女が一緒ではなくて一人だ。保護者からあまり関心を向けられていないのではないか?」
 
「……そうですね。家族とは会話がありません。嫌われていますから。
 こんなに喋ったのは久しぶりです。」

「暴力を振るわれたことは?」

「それはないです。……そんな気も起こらない存在ですかね。
 勉強も礼儀作法も途中で終わりました。
 学園に行く必要はないと言われました。
 その後は話しかけられたことはありません。」

「それは……そのメガネのせいか?」

「そうです。恥ずかしい、みすぼらしいと言われてきました。
 目が悪くなるたびに、両親は私を諦めました。」

「君を諦めたのはご両親だけでなく、君自身もじゃないのかい?」

「……はい。先ほど気づきました。
 指示がないから、と何もしていない自分に。
 勉強を教えてくれる人がいなくても、自分で方法を探せばよかったのですね。
 使用人の中にも会話をしてくれる人を探せばよかったのですね。
 こうして話しかけられるのを待つだけでは外に出ても会話があるはずもないです。
 どんどん分厚くなるレンズに、自分も目を背けていました。」

「誰とも会話がないと、覚えることも気づくことも難しくなるんだろう。
 私は毎日のようにここに来る。神父も子供たちもいるよ。
 話したり覚えたり教えてもらったり。お嬢さんが望めば答えてくれる者は必ずいる。
 自分にできることを探していくといい。」

「あと一年と少しの間に見つかるでしょうか……」

「それは何の期限なんだい?」

「16歳になるまでの……多分、その後はどこかに出されます。」

「縁談か?婚約者は?」

「いません。働きに出されるのだと思うのですが……」

「うん?よくわからないな。
 侍女やメイドの仕事を学んでいるわけでもないんだろう?
 そのつもりなら既に働かされていてもおかしくはない。
 メイドなら16歳まで待つ必要もなく働けるし。
 侍女としてなら貴族としての礼儀作法は必須だ。
 失礼だが、肌や髪を特別に手入れされている風でもないし。
 16歳とは結婚できる歳だが、ご両親は君に何の教育せずに嫁がせるつもりなのか?」
 

お互いに首を傾げて考えたが、やはりわからなかった。


「まだ時間はある。やりたいことが見つかれば、自分から家を出れるかもしれないし。
 どうしても困ったことがあれば、その時はここに逃げて来るといい。
 考えたくもないが、娼館に売られるとか借金のカタに誰かに売られるとか。
 不穏に思ったら、早めに動くんだよ。連れて行かれては手遅れだからね。」


娼館という言葉にピンとこなかったミーシャは『しょうかん?』と首を傾げてしまった。
おじいさんは苦笑して、娼館で働く女性を娼婦といい、男性に体を差し出してお金を稼ぐ仕事だと教えてくれた。
貴族令嬢にとっては辛い仕事で、心身共に壊れやすいらしい。
具体的にはわからなかったが、娼婦という言葉は聞いたことがある。
あまり好まれない職業だということは当たっていたらしい。
『逃げる』選択があることもわかった。


「ありがとうございます。ここがあると思ったら前向きに頑張れる気がします。」


ミーシャは久しぶりに笑みをこぼし、おじいさんとまた会う約束をして帰った。

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃
恋愛
スターリッジ王国の貴族学園に通うリアナにはクリフというスポーツ万能の婚約者がいた。 リアナはクリフのことが好きで彼のために料理を作ったり勉強を教えたりと様々な親切をするが、クリフは当然の顔をしているだけで、まともに感謝もしない。 しかも彼はエルマという他の女子と仲良くしている。 もやもやが募るもののリアナはその気持ちをどうしていいか分からなかった。 そんな時、クリフが放課後もエルマとこっそり二人で会っていたことが分かる。 それを知ったリアナはこれまでクリフが自分にしていたように塩対応しようと決意した。 少しの間クリフはリアナと楽しく過ごそうとするが、やがて試験や宿題など様々な問題が起こる。 そこでようやくクリフは自分がいかにリアナに助けられていたかを実感するが、その時にはすでに遅かった。 ※4/15日分の更新は抜けていた8話目「浮気」の更新にします。話の流れに差し障りが出てしまい申し訳ありません。

幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。

完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。

あなたへの愛は冷めましたので、ご安心ください!

風見ゆうみ
恋愛
婚約者が婚活パーティーに出席しているという話を聞いた伯爵家の次女であるわたし、リリアーナが婚約者である子爵令息のローリーに真意を問いただすと、全く悪気のない返答が。 次は行かないでとお願いすると承諾してくれたはいいものの、婚活パーティーに行かないだけで、女性しかいないお茶会に乱入していた。 怒ったわたしに彼が言い放った言葉はこうだった。 「誤解だよ、子猫ちゃん」 「誰が子猫ちゃんよ!」 彼の事が好きだったから、何とか浮気癖をなおしてもらおうと努力したわたしだったけれど、幼馴染の伯爵令息、ジェインのアドバイスで目を覚ます。 彼を好きだった事は嘘じゃない! だけど、自分の幸せが大事よ! そう思って、彼に婚約解消を申し出たけど納得してくれないのはどうして? でも、もう決めたの。 浮気男なんて御免だわ。絶対に婚約解消、それが無理なら婚約破棄してみせるわ! ※タイトルを少し変更しました。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などはその他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。 ※話があわないと思われる方はそっと閉じてくださいませ。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。

❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。 それは、婚約破棄&女の戦い?

処理中です...