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子爵令嬢ミーシャは家族に嫌われている。

父と母は、ミーシャを無視する。
兄はいつも汚いものを見るみたいに眉をひそめてミーシャを見る。
妹は嘲笑するかミーシャを貶す言葉を言って去る。会話にはならない。

原因はミーシャのメガネだった。
5歳くらいに視力が悪いことにようやく気づいたミーシャは、メガネをかけ始めた。
度が進むたびにレンズが一枚ずつ増えていき、いまでは10枚ほど重なっている。
一枚ずつは薄いけど、10枚も重なれば厚みはそれなりにある。
分厚いメガネが重くて前傾姿勢になるために姿勢も悪い。首も肩も凝る。

そんな見栄えの悪いミーシャを学園に入れるのも恥ずかしく、途中から家庭教師もつけなかった。 
1つ上の兄の学園入学に合わせてミーシャは王都に来た。
両親は、ミーシャが16歳になればどこかに働きに出すつもりだと思う。 
つまりは子爵家から出して、厄介払いをするつもりだろう。

そんな思惑を知ってはいたけど、両親はミーシャに何かするようにも言わないしミーシャも何もしなかった。 
メイドか侍女かと思っていたけど、まだ何の話もない。もちろん、縁談もない。
16歳まであと1年とちょっと。
誰も話しかけてくれないのは寂しいけど、体に傷がつく虐待を受けているわけではない。
家にいてもいなくても何とも思われないのだったら、出かけてみようと散策に出た。

王都でも端の方に住んでいるので、あまり混雑していない。
メガネを落とさないように手で支えながら歩いていると、教会があった。
何故か心惹かれて中に入り、後ろの方に座って内部を見渡した。
 
こじんまりとしているけれど、清掃が行き渡っていて居心地がいい。空気が澄んでいる気がした。
目を閉じてしばらく静寂を感じていると、ふと人の気配がした。


「これは失礼したね。見かけないお嬢さんだったから。近づき過ぎたかな?」

「いいえ。大丈夫です。落ち着く教会ですね。」


品の良さそうな老人に話かけられて、ミーシャは嬉しかった。(会話だわ!)


「そうだろう?私はここが好きでね。よく来るんだ。」

「ふふ。わかります。私も好きになってしまいました。」

「ここの裏には孤児院もあってね。今は静かだから、外では遊んでいないようだ。」

「孤児院ですか。」

「ああ。みんなで協力し合ってね、何でも出来るように将来のために頑張ってるんだ。
 親がいなくても兄弟のように過ごして助け合っている。見てみるかい?」

「……いいのでしょうか。」

「問題ないよ。さあ行こう。」


料理を手伝う子、小さな子の世話をする子、掃除をする子、力仕事を手伝う子……
自分よりも小さな子たちが生きていくために頑張っている。
そのことに衝撃を受けた。

 
何も言われないから。と、何もしない私はもし一人で放り出されたらどうすればいいのだろう?
 






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