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ところが、マレック侯爵に報告を終えたわずか2日後の夜遅く、マレック侯爵の遣いの者が来て、大至急侯爵家まで来るようにと呼び出された。


「どういうことだ?何があった?アイリーンの体調が悪いのか?」

「申し訳ございません。私は遣いの者ですので詳しいことまではわかりかねます。」


進む馬車が遅く感じる。馬で駆ければよかったと後悔したが、遠くはないためにやがて着いた。

屋敷の入口には義兄上が待っていた。


「義兄上、アイリーンに何があったのですか?」

「……今から連れていく。覚悟しろよ。」


覚悟……まさかアイリーンは良くなっていなかったのか?だから会えなかった?
もしそうならば、だからこそ会いたかった。
ずっと側にいて看病したかった。

アイリーンの部屋ではなく、違う部屋の前に連れて来られたが、入れてもらえない。

中からはうめき声のようなものが聞こえ、驚いて無理やり中に入ろうとした時、アイリーンの怒鳴り声が聞こえた。


「ジョルジュのばかぁーーーーー。」


…………へ?ば、ばかぁ?


「ふぎゃぁふぎゃぁふぎゃぁふぎゃぁ……」


…………へ?猫?


「男の子ですよー。おめでとうございます。」


…………へ?男の子?ま、まさか…………アイリーンが今、産んだ?ぼ、僕の子?

言葉にならず、扉を指差したまま義兄上の方を向くと、マレック侯爵夫妻もいた。


「おめでとう、跡継ぎだな。お前も父親だ。」

「アイリーンは妊娠してた?」

「そういうことだ。ま、それについては後でゆっくり話そう。
 それにしてもお前が来た途端に産まれるなんてな。
 オロオロされると鬱陶しいからギリギリまで知らせなかったんだけど、驚きだよ。」


アイリーンと子供に会えるようになるまで、僕は扉の前で待ち続けた。

 
 
やがて、会える許可が出て、僕はアイリーンの元へと駆け寄った。


「あぁ、アイリーン、アイリーン、会いたかった。」


抱きしめようとしたが、アイリーンの両手は何かを持っていた。
何か……じゃない。僕たちの子供だ。
近くに腰かけてアイリーンの額に口づけをし、赤ん坊にも同じようにした。


「アイリーン、知らなくてゴメン。気づかなくてゴメン。産んでくれてありがとう。」

「男の子よ。髪の色はあなたと同じね。瞳の色はどうかしらね?」

「誰に似ててもキレイだよ。……小さいなぁ。アイリーンのお腹にいたんだよな。」

「……知らせなくてごめんね。いろいろと不安定だったのよ。」

「いや、僕が悪いから。義父上から報告は聞いたと思うけど、まだ怒ってる?」

「……どうかしら。この子を産む時に散々あなたの悪口を言っていたの。
 この子が出ると同時になんかスッキリした感じがするわ。」

「最後の『ばか』というのだけはしっかり聞こえた。」

「ふふ。じゃあ、怒りもその言葉で最後にするわ。
 これからこの子の名前を決めて、新しい生活が始まるんだもの。」

「名前……そうだね。何か候補はある?」

「うちの両親と兄夫婦、あなたの両親とでいくつか考えているわ。もちろん私もね。」

「そうか。じゃあ、その中から……え?あなたの両親って僕の両親のこと?」

「そうよ。」

「……は?両親はアイリーンの妊娠を知っていた?」

「ええ、もちろん。嫁が長い間実家に帰っているんですもの。
 ちゃんとした説明が必要でしょう?」

「知らなかった。僕だけ仲間外れ?」

「ごめんね。最初はちょっとした罰のつもりだったんだけどね。
 不安定な時期が長くてあなたが毎日悲壮な顔をしてやってきたら体調が悪化しそうで、ね。」


そう言われてしまうと、確かに自分でも想像できた。……非常に鬱陶しい自分を。


「あなたは自分の仕事と調査に忙しかったでしょ?
 解決して落ち着いたら話そうと思ってたんだけど、予定よりも早く出てきちゃったから。」

「アイリーンと子供が無事なら罰を受けたことなんて気にしないよ。」


その後、アイリーンの手から子供を手渡され、恐る恐る抱いてみた。

小さくて軽いけど、守っていく重い命。父親としてしっかりしなければいけないと思った。

 



 
 

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