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「行ってらっしゃーい。」


半年前に結婚した夫シードが仕事に行くのを見送ると、この後はご近所の人たちと少しおしゃべりをするのがいつもの流れ。
噂話や愚痴とか、雑談するのがこんなに楽しいなんて。
シードに一目惚れされてグイグイ来られているうちに結婚した身寄りのない私には描いたことのない幸せだった。


アイシャが振り向くと、遮るように女性が目の前に立った。


「あなたが彼の奥さんね。彼、あなたと離婚したいみたいなの。だから別れて。」

「え?あなた誰ですか?」

「私はネイラ。シードとは4か月前から付き合ってるの。それに、ふふ。出来たみたい。」


ネイラと名乗った彼女は、自分の下腹に手をあててそう告げた。

私には、子供はまだ先がいいと言っていたのに? 
 
というか、浮気してるってこと?


「信じられないわ。夫にそんな素振りはないもの。」

「週に2日、彼は私を抱いているわよ?少し帰りが遅い日があるでしょ?
 残業って言ってるのかしら?それとも夜勤?
 間違いなく、私と一緒にいるわ。今日の夜も来るはず。
 7時くらいに来てみて。声が聞こえるように窓を少し開けておくわ。
 あ、乗り込んで来ないでね。修羅場は近所迷惑だから。」


そう言って、ネイラは家の地図を手渡して去っていった。


「なにあの女。」


お隣に住むレッティが話を聞いていたらしく、不快感を露わに顔を出した。
向かいに住むカインもだ。


「シードが浮気を?あんなにアイシャが好きだとわかりやすい男が?」


アイシャとレッティ、カインの3人で地図を見ながら首を傾げる。


「でも、確かに遅い日はあるの。今日も遅くなるって。」

「そう言われればうちの夫も決まって遅い日があるわよ?」

「妻もあるなぁ。」

「あの人、勘違いしているとは思えないほど自信があったわ。……私、行ってみる。」

「付き合うわ。一緒に行きましょう。」

「僕は…子供がいるから。力になりたいけど、すまない。」

「いえ、いいのよ。レッティ、一緒に行ってくれる?」

「ええ。確かめましょう。」


地図の場所は馬車で片道1時間はかかる町だった。
だけど、確かめないわけにはいかない。
あまりにも彼女が自信に満ちていて、シードを信じ切れなかったから。



借りた荷馬車でレッティと共に向かった。

何かの間違いであってほしい。そう願っていた。

だけど、地図の家に着いて、コッソリ様子を伺ってみた。


「ねぇ、シード。奥さんとの離婚話は進んでる?」

「ごめん、ネイラ。まだ結婚して半年だからなかなか別れてくれないんだ。
 あの調子だとネイラとのことを話しても、浮気は許すって言われそうで。」

「あなたの結婚前に出会ってたら良かったのに。…ねぇ、キスして。」


……声が聞こえなくなって、微かなピチャピチャという音が聞こえる。


「あぁ、今日もネイラを抱きたい。」

「もちろんよ。もう奥さんは抱かないで?離婚するんだから。」

「もう、最近は全然抱いてないよ。君だけを抱きたい。」


情事が始まった声を振り切るように、その場を離れた。

 
「信じられない……本当にシードだった。何あの男。詐欺師なの?
 最近抱いてない?嘘よ。昨日も抱いたじゃない。
 離婚話なんて、聞いたこともないわ。」

「アイシャ……私も驚いた。あんなシード、いつものシードっぽくない。」

「相手の女性によって使い分けてるのかしら。喜んで離婚するわ。
 もうシードに触れられたくないっ!」


レッティと一緒に荷馬車を預けたところまで歩いていると、見覚えのある男が少し先に見えた。


「レッティ、あれ……」

「ロイド?……は?隣の女は誰よっ!」


男はレッティの夫であるロイドだった。



 



 
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