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しおりを挟むタルボットはレッテン子爵領に帰る前にクルミック伯爵家の王都の家にやってきた。
「タルボット、久しぶりね。」
「ああ、うん。なかなか忙しくて。メリーアンはいつ領地に帰るんだ?」
「私?私はお兄様が行く時に一緒に行くつもりだから、もう少し先ね。今年は期間も短いわ。」
「……そうなのか。」
この時は気づかなかったけれど、タルボットは私たちに便乗して帰ろうと思っていたのではないかと後で思った。
タルボット一人のために子爵家は迎えの馬車を送らなかったのだろう。
馬車を乗り継いで帰って来いと言われ、それが面倒に感じたのではないか、と。
「なあ、メリーアンは女学院は考えていないのか?」
「女学院?考えていないわ。学園に行くつもりよ?」
王都には女学院というものもある。
女性だけが通える淑女科や侍女科、騎士科、メイド科、医薬科がある。
反対に男性だけが通える学院もあり、騎士科、執事科、警備科、医薬科がある。
つまり、専門的に学ぶ学院である。
学園はいろんなことを学ぶが、専門分野を深くは学ばない。
そのため、貴族の跡継ぎや文官などを目指す者が多い。
女学院に行くのは結婚するよりも働きたい女性がほとんどになる。
タルボットに嫁いで子爵領で暮らすことになるメリーアンに何を専門的に学べというのだろうか。
「でも、ほら淑女科とか。礼儀作法を専門的に学ぶのもいいんじゃないか?」
「……私の礼儀作法がなっていないとでも言いたいの?」
「い、いや、そういうわけじゃないけど。」
「タルボット、あなた淑女科を勘違いしているわ。確かに礼儀作法を学ぶ学科ではあるけれど、どちらかと言えば、家庭教師や教師を目指す人が学ぶところよ?女性側だけでなく男性側も学ぶの。ダンスも、どちらのパートも踊れるようになるそうよ。」
「そうなのか。知らなかった。」
伯爵令嬢が女学院に通うとなると、変わり者か没落しそうなのかのどちらかと思われる。
ほとんどが下位貴族か平民が通う学院なのだから。
いくら子爵家に嫁ぐといっても、メリーアンはまだ伯爵令嬢なのだ。
久しぶりに会ったタルボットは、そんな訳の分からない話をしただけで帰って行った。
今度会うのはいつになるのだろうか。
領地で会う約束も、学園が始まる前に会う約束もすることはなかった。
「メリーアン、タルボットは何しに来たんだ?」
「よくわからなかったわ。なぜか、女学院を勧められたの。」
兄にそう言うと、眉をひそめながら頷いた。
「何か知ってるの?」
「うーん。まだ確定ではないけれど、タルボットとの婚約はいずれ解消になると思う。」
「そうなの?どうして?」
「女学院を勧める理由、わかるか?学園に来てほしくないという意味だ。」
「……あぁ、好きな人がいる?浮気でもしているってことかしら。」
「まだそこまでではないけどね。だけどアイツのずるいところは、メリーアンをそうやって遠ざけようとしているのに婚約を解消する気はないってところかな。」
「学園にいる間だけの関係ってこと?」
「おそらくな。相手にも婚約者がいるから。」
それだけでメリーアンはタルボットを庇う気が失せてしまった。
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