上 下
3 / 18

3.

しおりを挟む
 
 
タルボットはレッテン子爵領に帰る前にクルミック伯爵家の王都の家にやってきた。 


「タルボット、久しぶりね。」

「ああ、うん。なかなか忙しくて。メリーアンはいつ領地に帰るんだ?」

「私?私はお兄様が行く時に一緒に行くつもりだから、もう少し先ね。今年は期間も短いわ。」

「……そうなのか。」


この時は気づかなかったけれど、タルボットは私たちに便乗して帰ろうと思っていたのではないかと後で思った。
タルボット一人のために子爵家は迎えの馬車を送らなかったのだろう。
馬車を乗り継いで帰って来いと言われ、それが面倒に感じたのではないか、と。
 

「なあ、メリーアンは女学院は考えていないのか?」

「女学院?考えていないわ。学園に行くつもりよ?」


王都には女学院というものもある。
女性だけが通える淑女科や侍女科、騎士科、メイド科、医薬科がある。
反対に男性だけが通える学院もあり、騎士科、執事科、警備科、医薬科がある。
つまり、専門的に学ぶ学院である。

学園はいろんなことを学ぶが、専門分野を深くは学ばない。
そのため、貴族の跡継ぎや文官などを目指す者が多い。

女学院に行くのは結婚するよりも働きたい女性がほとんどになる。

タルボットに嫁いで子爵領で暮らすことになるメリーアンに何を専門的に学べというのだろうか。


「でも、ほら淑女科とか。礼儀作法を専門的に学ぶのもいいんじゃないか?」

「……私の礼儀作法がなっていないとでも言いたいの?」

「い、いや、そういうわけじゃないけど。」

「タルボット、あなた淑女科を勘違いしているわ。確かに礼儀作法を学ぶ学科ではあるけれど、どちらかと言えば、家庭教師や教師を目指す人が学ぶところよ?女性側だけでなく男性側も学ぶの。ダンスも、どちらのパートも踊れるようになるそうよ。」
 
「そうなのか。知らなかった。」


伯爵令嬢が女学院に通うとなると、変わり者か没落しそうなのかのどちらかと思われる。
ほとんどが下位貴族か平民が通う学院なのだから。

いくら子爵家に嫁ぐといっても、メリーアンはまだ伯爵令嬢なのだ。


久しぶりに会ったタルボットは、そんな訳の分からない話をしただけで帰って行った。

今度会うのはいつになるのだろうか。
領地で会う約束も、学園が始まる前に会う約束もすることはなかった。


「メリーアン、タルボットは何しに来たんだ?」

「よくわからなかったわ。なぜか、女学院を勧められたの。」


兄にそう言うと、眉をひそめながら頷いた。
 

「何か知ってるの?」

「うーん。まだ確定ではないけれど、タルボットとの婚約はいずれ解消になると思う。」

「そうなの?どうして?」

「女学院を勧める理由、わかるか?学園に来てほしくないという意味だ。」

「……あぁ、好きな人がいる?浮気でもしているってことかしら。」

「まだそこまでではないけどね。だけどアイツのずるいところは、メリーアンをそうやって遠ざけようとしているのに婚約を解消する気はないってところかな。」

「学園にいる間だけの関係ってこと?」

「おそらくな。相手にも婚約者がいるから。」


それだけでメリーアンはタルボットを庇う気が失せてしまった。

 

  


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そういうとこだぞ

あとさん♪
恋愛
「そういえば、なぜオフィーリアが出迎えない? オフィーリアはどうした?」  ウィリアムが宮廷で宰相たちと激論を交わし、心身ともに疲れ果ててシャーウッド公爵家に帰ったとき。  いつもなら出迎えるはずの妻がいない。 「公爵閣下。奥さまはご不在です。ここ一週間ほど」 「――は?」  ウィリアムは元老院議員だ。彼が王宮で忙しく働いている間、公爵家を守るのは公爵夫人たるオフィーリアの役目である。主人のウィリアムに断りもなく出かけるとはいかがなものか。それも、息子を連れてなど……。 これは、どこにでもいる普通の貴族夫婦のお話。 彼らの選んだ未来。 ※設定はゆるんゆるん。 ※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください。 ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

大恋愛の後始末

mios
恋愛
シェイラの婚約者マートンの姉、ジュリエットは、恋多き女として有名だった。そして、恥知らずだった。悲願の末に射止めた大公子息ライアンとの婚姻式の当日に庭師と駆け落ちするぐらいには。 彼女は恋愛至上主義で、自由をこよなく愛していた。由緒正しき大公家にはそぐわないことは百も承知だったのに、周りはそのことを理解できていなかった。 マートンとシェイラの婚約は解消となった。大公家に莫大な慰謝料を支払わなければならず、爵位を返上しても支払えるかという程だったからだ。

婚約破棄から~2年後~からのおめでとう

夏千冬
恋愛
 第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。  それも王命により屋敷に軟禁状態。肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!  改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットをして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することを目標にする。

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~

柚木ゆず
恋愛
 今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。  お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?  ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。

ふまさ
恋愛
 小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。  ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。 「あれ? きみ、誰?」  第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

婚約者の不倫相手は妹で?

岡暁舟
恋愛
 公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

処理中です...