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しおりを挟むクソジジイに、私の恋人であるジャイルズ・イーストンの名前を告げると驚いていた。
「イーストン?侯爵令息なのか。お前と共に市井に下るつもりだったのなら問題児か?」
問題児?あれは問題児とも言える?
「どうでしょう?協調性・社交性はあまりないですね。ジャイルズは私がそばにいれば、あとは家族だけでいいそうです。他の人とわざわざ関わりを持ちたくないといった感じですね。平民として暮らすに十分なお金はあるので、あとはほどほどに働いて私と穏やかに暮らすことを望んでいました。」
「ほどほどに……穏やかに?そんな奴が公爵家でお前を支えてくれるか?」
「頭はいいので実務は任せられますよ。社交は、私のパートナーを他の男に任せるくらいならジャイルズがなるでしょう。もちろん、オズワルド様があの世に旅立たれた後の話ですよ?」
生きている間は、クソジジイの妻ですからね。パートナーはあなたです。
「……あぁ、何となくどんな男なのかがわかった。お前と公爵家に害をなす男でなければ問題ない。
すぐにでも連れて来い。ほどほどで穏やかな暮らしとは無縁になるがお前がいれば文句は言わんのだろう?」
おそらく、クソジジイの当初の計画では、自分と私との間に子供が出来なくても自分の後釜として公爵家の仕事と私の再婚相手となるに相応しい男を自分が見繕うつもりだったのだろう。
それが、私が実の孫だとわかったことで計画を変えようとしているのは有難い。
自分が政略結婚で妻を好きになれず、愛したマローネには逃げられた。
だから、私には私が望む相手を許してくれるのだ。
祖母マローネにしたことは許せることではないが、頑固ジジイでないことは助かる。
ジャイルズ以外の男と子作りしろと命令された場合は、『孫と結婚した老公爵』と触れ込むつもりだったのだから。
醜聞になろうと孫候補が増えようとどうでもいい。
公爵家が手に入らなくてもどうでもいい。
そうなれば予定通り平民になって暮らしただけだ。
醜聞まみれの歴史ある公爵家を笑いながら。
でも、そうはならないようだ。
ひょっとすると、クソジジイは私が公爵家にも財産にも興味がないことがわかっているのかもしれない。
意に添わなければ捨てるだろう、と。
察しがいいのかもしれない。
だからこそ長年、国の仕事にも貢献し、認められてきた公爵なのだ。
私みたいな小娘の考えることなど、手に取るようにわかるのかもしれないとセレーネは思った。
ジャイルズと一緒にいられて、ジャイルズの子供を産んで育てられるのであれば、セレーネはどこで暮らしてもいいのだ。
万が一、クソジジイの血筋と知られたら面倒なことになると思い、子供は産まないつもりだった。
だが、クソジジイの直系はいなくなってしまったし、セレーネが孫だと告げた今は、公爵家を継ぐ継がないに関わらずジャイルズの子供を産みたい。
父親と異母姉は、私と家族であることをやめた。だから、もういらない。
これからの私の家族はジャイルズと産まれてくる子供、そして不本意ながらクソジジイ。
それだけでいい。
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