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しおりを挟むこの国の貴族としての最高位、公爵として長年その座に身を置いていたオズワルド・ラモンが亡くなった。
64歳だった。
老公爵の家族は妻と子供が一人、そして妻のお腹にいるもう一人の子供だけだった。
妻セレーネは20歳、息子ジェラルドは1歳半。お腹の子供は7か月を過ぎた頃だった。
2年半ほど前に結婚したオズワルドとセレーネは歳の差43歳。
オズワルドは学園卒業直後のセレーネと結婚したのだ。61歳と18歳だった。
2人の結婚にはいろいろ噂がある。
セレーネは金で買われた。
老公爵が卒業前に手籠めにしていた。
セレーネが財産目当てで老公爵を誘惑した。
老公爵の傷心にセレーネがつけこんだ。
どれが本当か。どれも違うのか。本人たち以外は誰も答えは知らない。
実は3年ほど前、公爵の息子夫婦と孫夫婦、ひ孫が事故で亡くなったのだ。
オズワルドは一気に直系家族を失った。
つまり、公爵家の跡継ぎ問題が発生したのだ。
オズワルド本人に兄弟はおらず、子供も息子一人で、その息子の子供も一人だった。
いや、実際はもう一人孫はいたが、亡くなっていた。
つまり、親戚を跡継ぎに据えるにも遠縁すぎて、他人に近い。
オズワルドは考えた。ラモン公爵家を誰に継がせるかを。
そしてオズワルドは、自身が再婚して新たな妻に子供を産ませることにしたのだ。
幸いにも長年連れ添った妻は10年前に他界していたため問題はなかった。
妻が生きていれば離婚することになっていたかもしれない。愛人の子供が公爵家を継ぐというようなことにはしたくなかったから。
そして目をつけられたのがセレーネ・パルフェ伯爵令嬢だったということだ。
オズワルドの葬儀には、退位した前国王陛下や現国王陛下夫妻、各貴族家当主が参列したほどだった。
ここ何年かは国政から退いたが、何十年にも渡り国を支え平和に導いた一人であると誰もが認める人物でもあるからだった。
もちろん、故人を惜しむ気持ちで参列していた。しかし、気になるのは目に入るセレーネだという者も少なくなかった。
オズワルドが再婚したのは61歳だったのだから、遅かれ早かれセレーネを残して先に旅立つことは誰もがわかっていた。わかっていたが、実際にその日が来てしまうと、公爵家の全権をセレーネが手にするのだということに気がいってしまうのだ。
セレーネが、ではなく、息子のジェラルドが本来手にするものではあるが、ジェラルドが成人するまでは代理としてセレーネに権限があるということになるのだ。
老人と結婚して跡継ぎとなる子供を産んだ妻に、何も渡さないということはあり得ない。
セレーネはまだ20歳という若さで莫大な財産を手に入れるのだろうと誰もが思った。
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