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実家の男爵家の秘密は、本当は貴重な薬草を育てられることではない。

もちろん、薬草も育てられるが、花でも野菜でも育つのに水が必要なものは何でも育てられる。

つまり、秘密はジョウロ。しかも令嬢が片手で持てるような可愛らしいもの。



男爵家に代々口頭で伝えられている秘密。

病に苦しんでいる子供のために危険を承知である薬草を探しに行った男爵家の祖先。
運よく二株を見つけ、持ち帰ったが一株は既に枯れそうになっていた。
薬師に渡す前に何とかならないかと焦っていた夜、うたた寝した時に夢を見た。

夢の中では、誰かが話しかけていた。

『まぁ~!あなた、とても疲れてるのね。
 息子さんが病気?この薬草が必要なのね。あら、育ちにくいの?
 じゃあ、私が手伝ってあげる。
 私の魔力をあげるわ。受け取ったら空魔石に入れてみて。
 ちゃんと願いを込めるのよ?
 育ちますようにって。そうすれば何でも育つわ。
 あ、魔石は水やりする道具につけるといいと思うわ。
 あなたはいい父親ね。そういう人を応援したくなるの。じゃあね。』

目が覚めると、自分の魔力とは違う魔力を感じた。
夢を覚えていた男爵は、空魔石に受け取った魔力を入れてみることにした。

空魔石とは、魔力がまだ込められていない状態の魔石。
火・水・土・風・治癒などの魔力を込めることができる。
受け取った魔力が何なのかはわからなかったけど、夢の通りなら息子だけでなく沢山の人が助かるかもしれない。

そう思い、願いを込めながら魔力を込めていった。

(育てるのが難しいものでも何でも元気に育ちますように。)

男爵は、つい、その後のことも考えてしまった。

(この魔石のことが知られたら奪われてしまうかも。
 例えば自分の血筋しか使用できないとかだったらいいのになぁ。
 それだと他の人が持ち去っても意味がなくなるし。
 良からぬことを考える親族がいたら困るので直系限定で。
 行方不明になると困るから持ち上げられないとか。破壊もできなくて。
 水やりする道具ならジョウロがいいかな。
 でも何度も水を汲むのも大変だなぁ。常に水が入ってると嬉しいのに。)

そんなことを考えながら魔力を移し終えると、見たことがない色の魔石になった。

目立つ魔石が狙われることを苦慮し、試しにジョウロの内側の見えにくいところにつけた。

すると、ジョウロを持ち上げた途端、水が入っていた。…重さは感じなかった。

持ち帰った薬草、植木鉢、花壇の花、野菜の畑。いろんなところに水を撒いた。

水は汲まなくても出てきた……え?この願いも叶えてくれてたんだ。



元気になった薬草を薬師に薬にしてもらい、息子は元気になった。

あのジョウロで水を撒いたところは、他に比べて元気で育ちが非常に早かった。
しかし、所詮はジョウロ。撒ける範囲も狭い。
でも、それでよかった。目立って疑われるような状況をつくりたくなかったから。

『他の人の助けになれば』と少しずつ薬師に薬草を届けた。

すると、やはり栽培に気づかれ、株分けを望まれた。
育つのか育たないのか。無理だろうとは思ったが、株分けをした。結果、他では全滅した。

秘密を話すことはしない。調査で人が来た時はジョウロは隠した。

国から望まれ、少しずつ納めることになった。


忍び込んだ者、使用人、使用人が招き入れた者、いろんな危機も経験したが誰も秘密を探り当てられた者はいなかった。 

やがて、身内しかいない場所でだけ、使うことに決めた。 
可愛らしいジョウロを持って、水切れすることなく畑を歩き回る姿は疑惑を深めるから。
 
ちなみに、血縁以外がジョウロに触れると、石のように重くて持ち運びは出来なかった。
この願いも叶えてくれていた。


こうして、代が変わる毎に国の調査が行われたりもしたが、ジョウロの魔石は身内だけの秘密。


おそらく、女神様の気まぐれの祝福を授かったのだと男爵家は代々感謝している。 

 

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