怪奇短編集

木村 忠司

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女子寮の談話室

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その日私は、夕方から深夜まで、大学の近くのコンビニでバイトをしていました。夕方の時間帯は、学生たちのほかにも多くの人々が帰り間際に入ってくるのでとても忙しくなります。接客と品出し、清掃の仕事を必死にこなさなければなりませんでした。

そして深夜帯になると、客足も途絶えようやく少し落ち着いた雰囲気になりました。でも私の体は疲れ切っていて、正直立っているのがやっとでした。

ようやく閉店時間になり、店内が静かになったとき、私はホッと一息つきました。疲れ果てた体に鞭打って、酔う客寮に帰ってきました。時刻は日付を跨いでいました。

私は他の寝ている寮生に、匂いやら迷惑にならないよう、寮の一番奥にある談話室へと向かいました。深夜真夜中の談話室は、ひっそりと静まり返っていました。

私はカレーライスを半分くらい食べてから一息つくように、窓の外を見て今日の疲れを癒し心を落ち着かせていました。そんな時突然、談話室の奥からなにかの物音が聞こえてきたのです。

「誰か・・・いるの?」

すこし沈黙が流れ、私はびくびくしながら、探るように音の聞こえたほうへ意識を集中しました。すると、奥の方からさらに、何か這うような音が聞こえてきました。まるで何かが床を這いつくばるように、ゆっくりと音を立てながら近づいてくるような音です。

「・・・誰?」

私は怯えながら、もう一度声をかけました。すると、今度は、何かが笑う声が聞こえてきたのです。ゆっくりとした、不気味な笑い声が・・・。

「クスクス・・・」

奥には収納スペースがありましたが、人が入れるほどの大きさがありません。その中からなのか聞こえて来る不気味な笑い声に、私は身体中が震えあがりました。一体何なのか、ただただ恐ろしくて想像できませんでした。


電気が明滅し始めて、一瞬暗くなりました。私の心臓は今にも止まりそうでした。

次の瞬間目に入った物は私の脳が理解出来ない蠢く何かでした。

白い肌に、赤い口が大きく開いた、恐ろしい姿の何かが、床を這うように近づいてきているのが見えたのです。

「きゃあっ!」

思わず悲鳴が漏れてしまいました。もうそこにとどまっている場合じゃない。一刻も早くこの場所から逃げ出さなければ、その一心でした。

それでも悟られてはいけない気がして、足音を立てないようにゆっくりと談話室の入口に向かいました。息を殺しながらも、恐怖で私の心臓は高鳴っていました。

談話室の出入り口のドアに急いで辿り着いた私は、ドアノブに手をかけました。でも回してもドアが全く開きません。そんなまさか、施錠されているなんて! だれが!?

「や、やだ! 開かない!」

私はパニックになりながら、扉を力任せに必死に引っ張りました。やっぱりどうやっても開きません。

すると、背後から聞こえて来たのは、這うような音ではなくゆっくりとした足音に変わっていました。

恐る恐る振り返ると、そこには白い肌に赤い口が大きく開いた二足歩行の恐ろしい姿の何かがでした。


「や、やめて!」

私は思わず叫びましたが、その存在は無表情のままどんよりした感じで、どんどん私に近づいてきます。しかし逃げ道がない。私は絶望的な気持ちになりました。

そして、その恐ろしい存在が、ついに私の目の前まで迫ってきたのです。はっきり見えたその赤い口が、ゆっくりと大きく開いていきます。脈動する赤い口がまさに私を呑み込もうとしている・・・。

「助けて・・・! 誰か!」

私は必死に叫びましたが、答えは返っこず、誰も気づいた気配はありません。

このまま私はその恐ろしい存在に飲み込まれてしまう、私はそんな絶望的な気持ちになりながら、おもわず目を閉じていました。

その時、突然、大きな音が響き渡りました。


「ガシャーン!」


大きな割れる音が響き渡り、私は思わず目を開けてしまいました。そこには、窓ガラスが粉々に割れ床に散らかり、わずかに外の月明かりが部屋の中に差し込んでいるのが見えたのです。

一体何が起きたのか、私はしばらく呆然と立ち尽くしていました。そして、その割れ目から、一匹の大きな黒い烏が、まるで突き破るように中に入ってきたのが目に飛び込んできました。

「あっ・・・!」

私は思わず声を上げてしまいました。烏は床に激しく落ちて、もぞもぞと動きながら横たわっているようでした。一体何が起きたというのでしょうか。

その時、扉が開いて、他の二人の寮生たちが恐る恐る中に入ってきました。

「何か起きたん!? 大丈夫?」

彼らは私を心配そうに見つめながら、次々と質問を投げかけてきます。

「あの、あの烏が・・・」

私は説明しようと口を開きましたが、その時、床に横たわっていた烏が、むくりと起き上がったのです。

私たちは呆然と見つめ合います。その烏の瞳は、まるで人間のように冷たい知性を宿しているかのようでした。そして、その烏は何事もなかったかのように、深い闇の中へと姿を消していってしまったのです。

私たちは言葉を失いながら、その不可解な光景を見守るしかありませんでした。

私は黙り、駆け付けてくれた二人も含めみな驚きで固まってました。

赤い口の何かは消えてしまい、烏は何事もなかったかのように深い闇の中へと姿を消していってしまったのです。

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