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とある廃墟ビルディングにて 〜天国と地獄編〜
第二話
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ヨウコとレイカは、廃墟ビルディングの前に立っていた。かつて駅のホームから遠くに見えていただけだった、その姿を今は間近で見上げることができる。
それは細長い建物で、縦置きのテトリス棒のように、両側にある新しい現代的なビルの狭間にすっぽりはまったように立っていた。生気を失った老朽化した外観は、まるで時代に取り残された存在のようだ。
以前はこの廃墟ビルが、各階にテナントが一つずつ入っていた雑居ビルだったことがわかる。かつてはすべてのフロアに店子が入り、絶え間なく様々な目的の人々が出入りしていたという。
しかし、およそ30年ほど前にオーナーが失踪して以来、管理が滞り始め、耐震基準の新法をクリアできなくなったことで、入居者がしだいに減っていった。そして、10年以上前には誰もいなくなり、廃墟と化したままオーナーの音信不通のまま放置されてきた。
壁には落書きや長年の風雨が残した汚れが目立ち、コンクリートの表面も剥がれ落ちている。上階を見上げると、割れたガラスの窓から闇が覗いている。
一階入り口付近を取り囲むようにステンレス製のフェンスが並び、玄関はベニヤ板で覆われている。フェンスには「立入禁止」の看板がかかっているが、一部が破損しており、入れそうな隙間ができている。
この廃墟ビルの荒廃した様子は、時代に取り残された孤独な存在のようで、まるで何かを呼び寄せるかのような不気味な雰囲気を醸し出している。
「想像以上にもボロいね」廃墟ビルの正面の外観を見上げながら、ヨウコがつぶやいた。その荒廃した様子は、まさに時代に取り残された孤独な存在のようだ。
「十年以上は放置されてるからね」レイカが付け加える。
「昭和ってことは40年は経ってるかもね。で、フェンスで入れなくしてるみたいだけど、みんなどこから入ってるのかな?」ヨウコは、壊れたフェンスの隙間に目をやりながら尋ねる。
「どうだったかな・・・ちょっと待って、もう一度動画見てみるよ」レイカはスマートフォンを取り出し、YouTubeのアプリを立ち上げた。
怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウッシー)のチャンネルに入ると、レコメンドの中に『【閲覧注意】少女の霊の声が聞こえる廃墟リベンジ探索で遂に映ってしまった驚愕の恐怖映像!!』という長いタイトルの動画が表示されていた。これが、先ほど二人が話していた、この廃墟ビルで撮影された動画のようだ。
レイカはその動画をタップし、慎重に視聴し始めた。ヨウコも気になった様子で、レイカの横に寄り添って動画を見守る。
二人は、この廃墟の謎に包まれた世界に、ますます引き込まれていく。果たして、その動画には何が映し出されているのだろうか。
「どうも!!キーです!」
「おは今晩ちわ!!ウッシーでーーーーーす!!!!!」
二人の声が動画に入り、まずは自己紹介から始まる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!またここに来ちゃったぜ!」
「うわああああ!でたぁああ!ここがあの噂の村山台の廃ビルかよ!!」
ウッシーが興奮気味に、この廃墟ビルの存在を確認する。
「ウッシー初見のふりはいいから!みんなはもうわかってると思うけど、こないだはさぁあの声で僕たちひよってしまって途中で帰っちゃったんだよねぇ。今回はさ、リベンジ凸と言うことでここの最上階を目指すぜぇ!!!」
前回の探索で、不気味な声に遭遇し途中で引き返したというキーの説明に続き、今回は最上階を目指すと意気込む。
「前の動画でマジもんのマジあな、誰かの泣いているような変な声が動画にも入ってたからね!あっと、言っておくけど本当にあの音声ガチのガチのガチでいじってりしてないからね!みんな!!」
前回の動画で捉えられた不可解な声について、キーが強調して説明する。
「そうそう!風の音とかノイズじゃなくてちゃんと女の声に聞こえただろ!なんかこのビルってさ、昔はちゃんと繁盛してたテナントビルだったらしいけど、オーナーが失踪してからいろいろあってこの十年くらいずっと放置されてるって話なんだよね」
ウッシーが、その不気味な声の正体について語り、さらに廃墟ビルの過去についても言及する。
「うんうん!でもそれだけじゃないんだ。この前の動画を見てくれた視聴者から、このビル周辺で少女が失踪事件がこの十年で何件も実際に起こってて、全部未解決だっていう投稿が来たんだ!このビルで聞こえる声はその少女たちがすすり泣く声だという話もあるんだ」
キーが、視聴者からの情報を共有する。この廃墟ビルの周辺で、不可解な少女失踪事件が起きており、その声がこの建物から聞こえるという噂があるようだ。
「おっとキー坊!その話おれ初耳だぜ!言っておいてくれよ!」
ウッシーは、その情報を初めて知ったようで驚いた様子だ。
「あれ言ってなかった?まあでもそういういわく付きの話が数多くあるみたいだ。このビルに少女の声が俺たちにも聞こえたし、ってことはマジでこのビルには何か重大な秘密があるんじゃないかと僕は思ってる!」
キーは、前回の探索で聞いた不気味な声と、視聴者からの情報を踏まえ、この廃墟ビルに何か重大な秘密が隠されているのではないかと考えている。
「うおおお!それは興味深いな!!今日それを突きとめてやるぜ!!!」
ウッシーは、その秘密に迫ることに大きな期待を寄せている。
「だろう?だから今日はこのビルを徹底的に調査するぞ!」
キーは、ビルの内部を徹底的に探査する決意を示す。
「おおキー坊!怪異シーカーの本領発揮だ!!!やってやるぜぇ!!!」
ウッシーも、二人の探索への意欲を高らかに表明する。
「よし!この破れたフェンスを捻じれば入れるぞ!持ち上げてるからウッシー入ってくれ」
キーは、ビルの入り口となるフェンスの隙間に注目し、ウッシーに先に入るよう指示する。
「サンキュウ!キー坊!!」
ウッシーは感謝の言葉を述べつつ、フェンスの隙間から中へと進んでいく。
キーが後に続き、二人は廃墟ビルの中に足を踏み入れた。
薄暗い中、ぼろぼろの壁や割れたガラス、散らかった瓦礫が目に入る。かつての賑わいを完全に失った、この建物の内部は、まるで時間が止まったかのような不気味な雰囲気に包まれている。
「うわぁまったく想像以上にボロボロだな」ウッシーが呟く。
「でも、こうやってこの中に入ってみると、何か感じるものがあるんじゃないか?」とキーは言葉を続ける。「実際に少女のような声が聞こえるかもしれないし、失踪事件の真相に迫れるかもしれない」
二人は、ゆっくりと奥へと進んでいく。廊下の奥には、階段が見えている。
「よし、階段を登るぞ!何か見つかるかもしれないぞ!」キーが意気込む。
ウッシーも同じように期待に満ちた表情で、キーに続いて階段を上っていく。
二人は意気揚々と興奮しながら、ビルの玄関から中へ入っていった。しかし、想像通りビルの内部は荒れ果てており、壁や天井には穴が開いていた。一階フロアは侵入者が持ち込んだゴミや瓦礫が散らばっている。奥の方の部屋には古い家具や機器が残されていたが、それも朽ち果てて過ぎた年月を物語っている。
「うわー、二回目だけどやっぱここめっちゃヤバいな」ウッシーが呟く。
「本当だな。有名になって荒らさすぎだな!誰かが持ち込んだゴミや瓦礫なんかも捨ててるみたいだしちょっと臭いな....。みんなはこんなところに入ったら危ないからやめとけよ!!」キーは警告の言葉を述べる。
「まぁ僕たちにとってはそれが醍醐味だろ?」ウッシーは大きく笑う。
「ハハハハハ!そう!その危険と隣り合わせのスリルがおれはたまらないのさ!!」
「それぞ凸ツノを持つ男と呼ばれるウッシーだ」
「ワイルドだろぉう!」
「古いのギャグはやめて...視聴者減るから」キーが苦笑いする。
「あっすまん....さて!!それじゃ上に向かうぜえぇえ!!!」
二人は上階に続く階段を進んでいった。階段を登りながら、時折奇妙な音や気配を感じることがあるが、それでも探索への興奮は収まらない様子だ。
「え?何か聞こえなかったか?」
「どうした??」
ウッシーが尋ねると、キーが少し緊張した様子で言う。
「いや、ちょっと二階のフロアの奥から音がしたような気がしたんだけど」
「音?どんな音?」
「わからない。カサカサって感じかな」
「カサカサ?それってネズミとかじゃないのか?」
「そうかもしれないな。まあ、気にすることはないか」
「....ん?ちょっと待って...」
「どうした?」
「やっぱなんかきこえるな...」
「おまえにも聞こえた?」
「うん、なんかカシャンみたいな音が...」
二人が耳を澄ませていると、奥から不気味な音が聞こえてきた。
「あっあれ見ろ!!」キーが叫ぶ。
二人の視線の先に、二つの光る目が見えた。それは素早く動き、何かを蹴飛ばす音とともに、窓の外へと飛び出していく。
窓際の狭間の塀の上に立ち、二人の方を向いているその正体は、まるで野生の動物のようだ。
「何だよぉお!野良猫かよ」ウッシーが呟く。
二人は、予期せぬ出来事に驚愕している。この廃墟ビルの中に、予期せぬものが潜んでいたようだ。
「おいっ脅かさないでくれよ!皆さん、二階に猫さんが住んでました」
ウッシーが呼びかけると、その野生の猫は塀の上から二人を見つめている。
「まだ外からこっち見てるよ」
キーが指摘する。
「お邪魔します!猫ちゃんこっちこそ驚かしてごめんね」
ウッシーが謝る。
「それじゃ気を取り直して次行いくかぁ!!」
二人は、猫の存在に安堵しつつ、さらに奥へと探索を進めていく。
そのとき、突然上層階から女の子の悲鳴が聞こえてきた。その声は生々しい恐怖に満ちており、二人の背筋を冷やすほどだった。
「ちょっな、な、なんだ今の!?」ウッシーが慌てて尋ねる。
「ああハッキリ聞こえたよ。女の子の悲鳴だと思う。幽霊とかの声じゃないな・・・」キーが身構える。
「悲鳴ってより絶叫だったな」
「これって事件が起きた時の悲鳴じゃないか?」
「っちょシャレになんないって」
二人は恐怖に怯えながら、必死に階段を上っていく。
三階、四階、五階と進むと、奥の部屋から明かりが漏れ出ている。
二人は呼吸を殺しながら、その部屋の前まで近づいていく。そして奥を覗くと、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
部屋の中央の床に、ひとりの少女が横たわっていたのだ。
二人は固唾を呑んで、その光景を見つめる。この廃墟ビルの中で、一体何が起きているのか。
彼女は何処かの高校の制服を着ており、綺麗な茶髪のロングヘアーが乱れていた。彼女は美しい整った顔立ちの持ち主だったが、その表情は終わりなき苦しみと恐怖に歪んでいた。特別拘束されているわけではないのに、しびれているのか、彼女はビクビクと断続的に全身を小刻みに動かしながら、その口からは絶え間なく小さな悲鳴を漏らしていた。
二人は目の前の光景に呆然とした。この少女は生きているようにしか見えない。
「な、なんだこれ・・・?」ウッシーが呟く。
「なんで女の子が・・・?」キーも言葉を失った。
そのとき、部屋の隅の暗がりから老人の声が聞こえてきた。
「おやおやこまったね。侵入者か?もしくは私のビルに用かな?」
二人は驚いて老人の方を見た。
暗がりから姿を表したのは、白髪と白ひげを生やし、デコが禿げ上がった老人だった。老人はスーツを着ており、右手に杖を持っていた。老人の顔は一見朗らかで優しげだったが、眉間の皺は三本深々を溝を刻んでおり、それを挟む両目は怪しい光を放ち、どことなく狂気じみていた。
「あなた方は誰だね?」老人が尋ねる。
「お、おれたちは・・・うーんと・・・」ウッシーがまごつく。
「僕たちは個人でやってる動画配信者です。勝手に入ってすみません!!廃墟探訪企画で撮影をしていたんです」キーが素直に説明する。
「ユーチューバーなのかい?それは面白い。VTuberとかLiverとかいわれるアイドルが下では流行っているらしいねぇ」
老人の発言に、キーとウッシーは驚きの表情を浮かべる。
「Vtuberとかご存じなんですか?」
「ああ、娘が推しのだれだれがいいとか、だれだれの声が素敵だとか、いろいろ私にも話をしてくれるものだからねぇ」
「それじゃYouTubeもご覧になっているんでか?」
「いや見はしないが、とにかく君たちのような若者が私のビルにカメラを持って入って来て勝手に詮索されるのはごめんこうむりたいねぇ。ときたま偶発的にゲートが開いた時に、こうしてここを見つけて君たちみたいな人間が入り込んでしまうこともあるしねぇ。このビルは・・・私だけの秘密の楽園なのだから」
「楽園?」ウッシーが尋ねた。
「ああそうだ。天国と言い換えてもいいよ」
「あなたがこのビルのオーナーってことですか?」
「そうだよ。このビルは私のビルさ」
「え?・・・でもここのオーナーさんはかなり昔に行方不明になったという話で、現にいま廃墟になってますよね?」
「いや、見ての通りこうして私はここで幸せに暮らしているよ。廃墟でも私ひとりきりでもないさ。私は皆で一緒に思い出をたくさん作って、いまも楽しく生きていますよ」
「思い出・・・?もしかしてそれは平成?または昭和の時代の話ですか?」
「ああ、確かに平成や昭和の終わりの頃も、このビルにたくさんの人々が出入りしていたねぇ。バブルのころは華やかだったねぇ。私の家族や友人や仕事仲間もたくさん来てくれてねぇ。たしかにその時代もみんな幸せだったよ」
「でも、今は誰もいませんよ・・・」ウッシーが不安げにそう呟いた。
「そうだね。みんな死んじゃったんだよ。事故や病気や自殺でね。悲しい出来事もたくさんあったねぇ。でもね、私だけが思い出と共に生き残っちゃったんだよねぇ。ここでこうしてね今も。でも床で寝そべる娘みたいに皆が居てくれるから私は十分に幸せなんだよ」
老人は杖で横になっている少女を指しながら、そう語った。
「この子はいったい誰なんです?」ウッシーが更に問いかける。
「私の娘さ。娘は他にもたくさんいるんだがねぇ。特にこの娘は、私の言うことを聞かなくて困ってるんだよ」
老人の言葉に、二人はさらに驚愕する。
「娘?でも、あの子は・・・」キーが言葉を濁す。
「ああ、あの子は私の大切な娘なんだよ。でも最近、ずっと寝そべっていて、私の言うことを聞いてくれないんだ。困ったものだよ」
老人は淋しそうに語る。しかし、その表情には何か狂気のようなものも感じられる。
「もしかして、あの子は・・・」ウッシーが恐る恐る続ける。
「ん?どうかしたのかい?」老人が首をかしげる。
二人は、この老人が一体どのような人物なのか、そして彼の娘と呼ぶ少女の正体について、さらに深い疑問を抱いていく。
キーとウッシーは老人の言葉が信じられないという様子で、言葉が出てこなかった。
老人は続けて朗らかに言った。
「信じられないか?それならこれを見てごらん」
老人は杖を振ってベッドの上の女の子を指差した。
「あの子は私の娘なんだよ。この娘はある日私のビルに遊びにやってきた。でもねぇ私がせかっく出迎えたのに彼女は私のビルを嫌ってか、交際している男と勝手に逃げようとしたんだよ」
「逃げようとした?」キーが呟く。
「そのとおり。私はねぇ私をおいて逃げるなんざぁ、許せなかったんだよ。私は彼女を捕まえてここでつれてきて、彼女が落ち着くまで床で横になってもらっているんだ」
「捕まえた?」ウッシーが重ねて尋ねる。
「そうさ、家族だからねぇ。私は娘にお仕置きを与えて肉体と魂をこの場所に保管したんだ。かわりに彼女は永遠に若さを手に入れたのさ。永遠の17歳の乙女・・・昔から女性たちが希求する願望だよ。それを叶えてあげたのさ」
老人は静かにそういった。
二人は恐怖で口ごもる。老人はさらに言った。
「お前さんたちも私のビルに入った罪で、罰を受けなければならないな。わかっているよねぇ?」
老人の言葉に、二人は身震いする。この廃墟ビルの中で、一体何が起きているのか。
老人の狂気じみた言動に、キーとウッシーは恐怖に怯えていく。
「えっ!?ちょ、ちょっとそれはやめてください!入ったことは謝ります!」
「俺もすみません」
ウッシーとキーは必死に老人に謝罪した。
「フフフ・・・フハーハッハッハ!!冗談だよ。冗談に決まってるじゃないか!君たちは家族じゃないからねぇ。ただお引き取り願うだけだ。ただし、私やこの娘のプライバシーはちゃんと守ってくれるよね?モザイクをかけるなりしてくれないと困るよ。そうじゃなければあとでどんな罰を受けることになるかわかっているかね?」
老人は笑いながら言うが、その目には狂気が宿っていた。二人は恐怖に怯えていく。
「わ、わかりました。出ていきます」
「もう勝手に入らないんで、すみませんでした。動画もちゃんと処理しますんで」
「わかったらいいさ、もうこういう身勝手な行為はやめたほうがいいかもね。何か恐ろしいことに巻き込まれてしまうともかぎらないのだからねぇ?フフフフフ・・・」
それで動画は切れ、そこに編集された白いテロップ文字が映し出された。
「このあと僕達は逃げる様にビルを出て、その後二度とそのビルへ行っていません。他の動画投稿者や情報提供者から話によると、その後はここへ探索に入った時に5階へ入ったときには、他のフロアと同様で荒れ果て誰も居なかったてそうです。しかしこのビルには謎のオーナーさんが、今もたまにいらっしゃるのかもしれません。それが本当なのか、信じるか信じないかはあなた方次第です!!」
「・・・・・・・・・」
「レイカ、ちょっと長いっての。いつまで見てんの?」
「うん...ちょ、ちょっとね。見入っちゃった。なんかねここオーナーさんていまも本当にここの五階にいるかもしれない・・・・」
「え?何言ってんの?どう見ても誰も居ない廃墟じゃん」
「そ、そうなんだけどね」
レイカは、その廃墟ビルの五階に何かが潜んでいるのではないかと不安に感じていた。
「なんで、そんなこと思うの?ただの廃墟じゃん。誰も居ないって言ってるでしょ?」
「でも、さっきの動画見てない?あの老人、まだ五階にいるかもって言ってたじゃん。しかも、あの子を自分の娘だって・・・」
「それは、あの人の勝手な妄想でしょ。あんな人の言うことを真に受けるわけないでしょ」
「そ、そうかな...でも、気になるんだよね。もし本当にあの人がいたら、どうしよう・・・」
それでもレイカはビルの五階のことが気になって仕方がない様子だ。
「まあ、そんな心配しなくても大丈夫だって。あんな廃墟に誰も住んでるわけないよ。あの動画見た後は、ちょっと頭がおかしくなっちゃったんじゃない?」
「そ、そうかもしれない・・・でも、やっぱり気になるんだよね。もし本当に何か・・・」
「ダメダメ、そこまで考えすすぎだって、ただのホラーなエンタメだよ」
友人が必死に引き戻すが、レイカの心は五階のことから離れそうにない。
果たしてこの先、廃墟ビルの五階には一体何が待っているのか。レイカの不安は徐々に募っていくのだった。
つづく
それは細長い建物で、縦置きのテトリス棒のように、両側にある新しい現代的なビルの狭間にすっぽりはまったように立っていた。生気を失った老朽化した外観は、まるで時代に取り残された存在のようだ。
以前はこの廃墟ビルが、各階にテナントが一つずつ入っていた雑居ビルだったことがわかる。かつてはすべてのフロアに店子が入り、絶え間なく様々な目的の人々が出入りしていたという。
しかし、およそ30年ほど前にオーナーが失踪して以来、管理が滞り始め、耐震基準の新法をクリアできなくなったことで、入居者がしだいに減っていった。そして、10年以上前には誰もいなくなり、廃墟と化したままオーナーの音信不通のまま放置されてきた。
壁には落書きや長年の風雨が残した汚れが目立ち、コンクリートの表面も剥がれ落ちている。上階を見上げると、割れたガラスの窓から闇が覗いている。
一階入り口付近を取り囲むようにステンレス製のフェンスが並び、玄関はベニヤ板で覆われている。フェンスには「立入禁止」の看板がかかっているが、一部が破損しており、入れそうな隙間ができている。
この廃墟ビルの荒廃した様子は、時代に取り残された孤独な存在のようで、まるで何かを呼び寄せるかのような不気味な雰囲気を醸し出している。
「想像以上にもボロいね」廃墟ビルの正面の外観を見上げながら、ヨウコがつぶやいた。その荒廃した様子は、まさに時代に取り残された孤独な存在のようだ。
「十年以上は放置されてるからね」レイカが付け加える。
「昭和ってことは40年は経ってるかもね。で、フェンスで入れなくしてるみたいだけど、みんなどこから入ってるのかな?」ヨウコは、壊れたフェンスの隙間に目をやりながら尋ねる。
「どうだったかな・・・ちょっと待って、もう一度動画見てみるよ」レイカはスマートフォンを取り出し、YouTubeのアプリを立ち上げた。
怪異SEEKER-Keye(キー)&UCCy(ウッシー)のチャンネルに入ると、レコメンドの中に『【閲覧注意】少女の霊の声が聞こえる廃墟リベンジ探索で遂に映ってしまった驚愕の恐怖映像!!』という長いタイトルの動画が表示されていた。これが、先ほど二人が話していた、この廃墟ビルで撮影された動画のようだ。
レイカはその動画をタップし、慎重に視聴し始めた。ヨウコも気になった様子で、レイカの横に寄り添って動画を見守る。
二人は、この廃墟の謎に包まれた世界に、ますます引き込まれていく。果たして、その動画には何が映し出されているのだろうか。
「どうも!!キーです!」
「おは今晩ちわ!!ウッシーでーーーーーす!!!!!」
二人の声が動画に入り、まずは自己紹介から始まる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!またここに来ちゃったぜ!」
「うわああああ!でたぁああ!ここがあの噂の村山台の廃ビルかよ!!」
ウッシーが興奮気味に、この廃墟ビルの存在を確認する。
「ウッシー初見のふりはいいから!みんなはもうわかってると思うけど、こないだはさぁあの声で僕たちひよってしまって途中で帰っちゃったんだよねぇ。今回はさ、リベンジ凸と言うことでここの最上階を目指すぜぇ!!!」
前回の探索で、不気味な声に遭遇し途中で引き返したというキーの説明に続き、今回は最上階を目指すと意気込む。
「前の動画でマジもんのマジあな、誰かの泣いているような変な声が動画にも入ってたからね!あっと、言っておくけど本当にあの音声ガチのガチのガチでいじってりしてないからね!みんな!!」
前回の動画で捉えられた不可解な声について、キーが強調して説明する。
「そうそう!風の音とかノイズじゃなくてちゃんと女の声に聞こえただろ!なんかこのビルってさ、昔はちゃんと繁盛してたテナントビルだったらしいけど、オーナーが失踪してからいろいろあってこの十年くらいずっと放置されてるって話なんだよね」
ウッシーが、その不気味な声の正体について語り、さらに廃墟ビルの過去についても言及する。
「うんうん!でもそれだけじゃないんだ。この前の動画を見てくれた視聴者から、このビル周辺で少女が失踪事件がこの十年で何件も実際に起こってて、全部未解決だっていう投稿が来たんだ!このビルで聞こえる声はその少女たちがすすり泣く声だという話もあるんだ」
キーが、視聴者からの情報を共有する。この廃墟ビルの周辺で、不可解な少女失踪事件が起きており、その声がこの建物から聞こえるという噂があるようだ。
「おっとキー坊!その話おれ初耳だぜ!言っておいてくれよ!」
ウッシーは、その情報を初めて知ったようで驚いた様子だ。
「あれ言ってなかった?まあでもそういういわく付きの話が数多くあるみたいだ。このビルに少女の声が俺たちにも聞こえたし、ってことはマジでこのビルには何か重大な秘密があるんじゃないかと僕は思ってる!」
キーは、前回の探索で聞いた不気味な声と、視聴者からの情報を踏まえ、この廃墟ビルに何か重大な秘密が隠されているのではないかと考えている。
「うおおお!それは興味深いな!!今日それを突きとめてやるぜ!!!」
ウッシーは、その秘密に迫ることに大きな期待を寄せている。
「だろう?だから今日はこのビルを徹底的に調査するぞ!」
キーは、ビルの内部を徹底的に探査する決意を示す。
「おおキー坊!怪異シーカーの本領発揮だ!!!やってやるぜぇ!!!」
ウッシーも、二人の探索への意欲を高らかに表明する。
「よし!この破れたフェンスを捻じれば入れるぞ!持ち上げてるからウッシー入ってくれ」
キーは、ビルの入り口となるフェンスの隙間に注目し、ウッシーに先に入るよう指示する。
「サンキュウ!キー坊!!」
ウッシーは感謝の言葉を述べつつ、フェンスの隙間から中へと進んでいく。
キーが後に続き、二人は廃墟ビルの中に足を踏み入れた。
薄暗い中、ぼろぼろの壁や割れたガラス、散らかった瓦礫が目に入る。かつての賑わいを完全に失った、この建物の内部は、まるで時間が止まったかのような不気味な雰囲気に包まれている。
「うわぁまったく想像以上にボロボロだな」ウッシーが呟く。
「でも、こうやってこの中に入ってみると、何か感じるものがあるんじゃないか?」とキーは言葉を続ける。「実際に少女のような声が聞こえるかもしれないし、失踪事件の真相に迫れるかもしれない」
二人は、ゆっくりと奥へと進んでいく。廊下の奥には、階段が見えている。
「よし、階段を登るぞ!何か見つかるかもしれないぞ!」キーが意気込む。
ウッシーも同じように期待に満ちた表情で、キーに続いて階段を上っていく。
二人は意気揚々と興奮しながら、ビルの玄関から中へ入っていった。しかし、想像通りビルの内部は荒れ果てており、壁や天井には穴が開いていた。一階フロアは侵入者が持ち込んだゴミや瓦礫が散らばっている。奥の方の部屋には古い家具や機器が残されていたが、それも朽ち果てて過ぎた年月を物語っている。
「うわー、二回目だけどやっぱここめっちゃヤバいな」ウッシーが呟く。
「本当だな。有名になって荒らさすぎだな!誰かが持ち込んだゴミや瓦礫なんかも捨ててるみたいだしちょっと臭いな....。みんなはこんなところに入ったら危ないからやめとけよ!!」キーは警告の言葉を述べる。
「まぁ僕たちにとってはそれが醍醐味だろ?」ウッシーは大きく笑う。
「ハハハハハ!そう!その危険と隣り合わせのスリルがおれはたまらないのさ!!」
「それぞ凸ツノを持つ男と呼ばれるウッシーだ」
「ワイルドだろぉう!」
「古いのギャグはやめて...視聴者減るから」キーが苦笑いする。
「あっすまん....さて!!それじゃ上に向かうぜえぇえ!!!」
二人は上階に続く階段を進んでいった。階段を登りながら、時折奇妙な音や気配を感じることがあるが、それでも探索への興奮は収まらない様子だ。
「え?何か聞こえなかったか?」
「どうした??」
ウッシーが尋ねると、キーが少し緊張した様子で言う。
「いや、ちょっと二階のフロアの奥から音がしたような気がしたんだけど」
「音?どんな音?」
「わからない。カサカサって感じかな」
「カサカサ?それってネズミとかじゃないのか?」
「そうかもしれないな。まあ、気にすることはないか」
「....ん?ちょっと待って...」
「どうした?」
「やっぱなんかきこえるな...」
「おまえにも聞こえた?」
「うん、なんかカシャンみたいな音が...」
二人が耳を澄ませていると、奥から不気味な音が聞こえてきた。
「あっあれ見ろ!!」キーが叫ぶ。
二人の視線の先に、二つの光る目が見えた。それは素早く動き、何かを蹴飛ばす音とともに、窓の外へと飛び出していく。
窓際の狭間の塀の上に立ち、二人の方を向いているその正体は、まるで野生の動物のようだ。
「何だよぉお!野良猫かよ」ウッシーが呟く。
二人は、予期せぬ出来事に驚愕している。この廃墟ビルの中に、予期せぬものが潜んでいたようだ。
「おいっ脅かさないでくれよ!皆さん、二階に猫さんが住んでました」
ウッシーが呼びかけると、その野生の猫は塀の上から二人を見つめている。
「まだ外からこっち見てるよ」
キーが指摘する。
「お邪魔します!猫ちゃんこっちこそ驚かしてごめんね」
ウッシーが謝る。
「それじゃ気を取り直して次行いくかぁ!!」
二人は、猫の存在に安堵しつつ、さらに奥へと探索を進めていく。
そのとき、突然上層階から女の子の悲鳴が聞こえてきた。その声は生々しい恐怖に満ちており、二人の背筋を冷やすほどだった。
「ちょっな、な、なんだ今の!?」ウッシーが慌てて尋ねる。
「ああハッキリ聞こえたよ。女の子の悲鳴だと思う。幽霊とかの声じゃないな・・・」キーが身構える。
「悲鳴ってより絶叫だったな」
「これって事件が起きた時の悲鳴じゃないか?」
「っちょシャレになんないって」
二人は恐怖に怯えながら、必死に階段を上っていく。
三階、四階、五階と進むと、奥の部屋から明かりが漏れ出ている。
二人は呼吸を殺しながら、その部屋の前まで近づいていく。そして奥を覗くと、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
部屋の中央の床に、ひとりの少女が横たわっていたのだ。
二人は固唾を呑んで、その光景を見つめる。この廃墟ビルの中で、一体何が起きているのか。
彼女は何処かの高校の制服を着ており、綺麗な茶髪のロングヘアーが乱れていた。彼女は美しい整った顔立ちの持ち主だったが、その表情は終わりなき苦しみと恐怖に歪んでいた。特別拘束されているわけではないのに、しびれているのか、彼女はビクビクと断続的に全身を小刻みに動かしながら、その口からは絶え間なく小さな悲鳴を漏らしていた。
二人は目の前の光景に呆然とした。この少女は生きているようにしか見えない。
「な、なんだこれ・・・?」ウッシーが呟く。
「なんで女の子が・・・?」キーも言葉を失った。
そのとき、部屋の隅の暗がりから老人の声が聞こえてきた。
「おやおやこまったね。侵入者か?もしくは私のビルに用かな?」
二人は驚いて老人の方を見た。
暗がりから姿を表したのは、白髪と白ひげを生やし、デコが禿げ上がった老人だった。老人はスーツを着ており、右手に杖を持っていた。老人の顔は一見朗らかで優しげだったが、眉間の皺は三本深々を溝を刻んでおり、それを挟む両目は怪しい光を放ち、どことなく狂気じみていた。
「あなた方は誰だね?」老人が尋ねる。
「お、おれたちは・・・うーんと・・・」ウッシーがまごつく。
「僕たちは個人でやってる動画配信者です。勝手に入ってすみません!!廃墟探訪企画で撮影をしていたんです」キーが素直に説明する。
「ユーチューバーなのかい?それは面白い。VTuberとかLiverとかいわれるアイドルが下では流行っているらしいねぇ」
老人の発言に、キーとウッシーは驚きの表情を浮かべる。
「Vtuberとかご存じなんですか?」
「ああ、娘が推しのだれだれがいいとか、だれだれの声が素敵だとか、いろいろ私にも話をしてくれるものだからねぇ」
「それじゃYouTubeもご覧になっているんでか?」
「いや見はしないが、とにかく君たちのような若者が私のビルにカメラを持って入って来て勝手に詮索されるのはごめんこうむりたいねぇ。ときたま偶発的にゲートが開いた時に、こうしてここを見つけて君たちみたいな人間が入り込んでしまうこともあるしねぇ。このビルは・・・私だけの秘密の楽園なのだから」
「楽園?」ウッシーが尋ねた。
「ああそうだ。天国と言い換えてもいいよ」
「あなたがこのビルのオーナーってことですか?」
「そうだよ。このビルは私のビルさ」
「え?・・・でもここのオーナーさんはかなり昔に行方不明になったという話で、現にいま廃墟になってますよね?」
「いや、見ての通りこうして私はここで幸せに暮らしているよ。廃墟でも私ひとりきりでもないさ。私は皆で一緒に思い出をたくさん作って、いまも楽しく生きていますよ」
「思い出・・・?もしかしてそれは平成?または昭和の時代の話ですか?」
「ああ、確かに平成や昭和の終わりの頃も、このビルにたくさんの人々が出入りしていたねぇ。バブルのころは華やかだったねぇ。私の家族や友人や仕事仲間もたくさん来てくれてねぇ。たしかにその時代もみんな幸せだったよ」
「でも、今は誰もいませんよ・・・」ウッシーが不安げにそう呟いた。
「そうだね。みんな死んじゃったんだよ。事故や病気や自殺でね。悲しい出来事もたくさんあったねぇ。でもね、私だけが思い出と共に生き残っちゃったんだよねぇ。ここでこうしてね今も。でも床で寝そべる娘みたいに皆が居てくれるから私は十分に幸せなんだよ」
老人は杖で横になっている少女を指しながら、そう語った。
「この子はいったい誰なんです?」ウッシーが更に問いかける。
「私の娘さ。娘は他にもたくさんいるんだがねぇ。特にこの娘は、私の言うことを聞かなくて困ってるんだよ」
老人の言葉に、二人はさらに驚愕する。
「娘?でも、あの子は・・・」キーが言葉を濁す。
「ああ、あの子は私の大切な娘なんだよ。でも最近、ずっと寝そべっていて、私の言うことを聞いてくれないんだ。困ったものだよ」
老人は淋しそうに語る。しかし、その表情には何か狂気のようなものも感じられる。
「もしかして、あの子は・・・」ウッシーが恐る恐る続ける。
「ん?どうかしたのかい?」老人が首をかしげる。
二人は、この老人が一体どのような人物なのか、そして彼の娘と呼ぶ少女の正体について、さらに深い疑問を抱いていく。
キーとウッシーは老人の言葉が信じられないという様子で、言葉が出てこなかった。
老人は続けて朗らかに言った。
「信じられないか?それならこれを見てごらん」
老人は杖を振ってベッドの上の女の子を指差した。
「あの子は私の娘なんだよ。この娘はある日私のビルに遊びにやってきた。でもねぇ私がせかっく出迎えたのに彼女は私のビルを嫌ってか、交際している男と勝手に逃げようとしたんだよ」
「逃げようとした?」キーが呟く。
「そのとおり。私はねぇ私をおいて逃げるなんざぁ、許せなかったんだよ。私は彼女を捕まえてここでつれてきて、彼女が落ち着くまで床で横になってもらっているんだ」
「捕まえた?」ウッシーが重ねて尋ねる。
「そうさ、家族だからねぇ。私は娘にお仕置きを与えて肉体と魂をこの場所に保管したんだ。かわりに彼女は永遠に若さを手に入れたのさ。永遠の17歳の乙女・・・昔から女性たちが希求する願望だよ。それを叶えてあげたのさ」
老人は静かにそういった。
二人は恐怖で口ごもる。老人はさらに言った。
「お前さんたちも私のビルに入った罪で、罰を受けなければならないな。わかっているよねぇ?」
老人の言葉に、二人は身震いする。この廃墟ビルの中で、一体何が起きているのか。
老人の狂気じみた言動に、キーとウッシーは恐怖に怯えていく。
「えっ!?ちょ、ちょっとそれはやめてください!入ったことは謝ります!」
「俺もすみません」
ウッシーとキーは必死に老人に謝罪した。
「フフフ・・・フハーハッハッハ!!冗談だよ。冗談に決まってるじゃないか!君たちは家族じゃないからねぇ。ただお引き取り願うだけだ。ただし、私やこの娘のプライバシーはちゃんと守ってくれるよね?モザイクをかけるなりしてくれないと困るよ。そうじゃなければあとでどんな罰を受けることになるかわかっているかね?」
老人は笑いながら言うが、その目には狂気が宿っていた。二人は恐怖に怯えていく。
「わ、わかりました。出ていきます」
「もう勝手に入らないんで、すみませんでした。動画もちゃんと処理しますんで」
「わかったらいいさ、もうこういう身勝手な行為はやめたほうがいいかもね。何か恐ろしいことに巻き込まれてしまうともかぎらないのだからねぇ?フフフフフ・・・」
それで動画は切れ、そこに編集された白いテロップ文字が映し出された。
「このあと僕達は逃げる様にビルを出て、その後二度とそのビルへ行っていません。他の動画投稿者や情報提供者から話によると、その後はここへ探索に入った時に5階へ入ったときには、他のフロアと同様で荒れ果て誰も居なかったてそうです。しかしこのビルには謎のオーナーさんが、今もたまにいらっしゃるのかもしれません。それが本当なのか、信じるか信じないかはあなた方次第です!!」
「・・・・・・・・・」
「レイカ、ちょっと長いっての。いつまで見てんの?」
「うん...ちょ、ちょっとね。見入っちゃった。なんかねここオーナーさんていまも本当にここの五階にいるかもしれない・・・・」
「え?何言ってんの?どう見ても誰も居ない廃墟じゃん」
「そ、そうなんだけどね」
レイカは、その廃墟ビルの五階に何かが潜んでいるのではないかと不安に感じていた。
「なんで、そんなこと思うの?ただの廃墟じゃん。誰も居ないって言ってるでしょ?」
「でも、さっきの動画見てない?あの老人、まだ五階にいるかもって言ってたじゃん。しかも、あの子を自分の娘だって・・・」
「それは、あの人の勝手な妄想でしょ。あんな人の言うことを真に受けるわけないでしょ」
「そ、そうかな...でも、気になるんだよね。もし本当にあの人がいたら、どうしよう・・・」
それでもレイカはビルの五階のことが気になって仕方がない様子だ。
「まあ、そんな心配しなくても大丈夫だって。あんな廃墟に誰も住んでるわけないよ。あの動画見た後は、ちょっと頭がおかしくなっちゃったんじゃない?」
「そ、そうかもしれない・・・でも、やっぱり気になるんだよね。もし本当に何か・・・」
「ダメダメ、そこまで考えすすぎだって、ただのホラーなエンタメだよ」
友人が必死に引き戻すが、レイカの心は五階のことから離れそうにない。
果たしてこの先、廃墟ビルの五階には一体何が待っているのか。レイカの不安は徐々に募っていくのだった。
つづく
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