怪奇短編集

木村 忠司

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一緒に来て

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 深夜、ある男性が山奥の某廃墟ホテルに向かっていました。彼は心霊系YouTuberであり、この日は久しぶりの本格的な廃墟探索の遠征でした。

 彼は今回もライブ配信しながら、数々噂される廃墟ホテルに隠された秘密や心霊現象を探ろうとしていました。


 彼は廃墟の中を歩き回りながらカメラに向かってコメントしたり、視聴者からの質問に答えたりしていました。

 すると不意に彼の耳元で、女性の声が聞こえました。

「こっちへ来て‥‥」

 彼は焦ったように振り向きました。真っ暗な廊下にライトを向けても誰もいません。

「何か聞こえたぞ‥‥聞こえたよね?みんなきこえた?」とカメラに語り掛けながら、声がした方へと進みました。

 すると、20メートル離れたあたりに美しい女性が立っていました。

 彼女は赤と黒のドレスを着ていて綺麗なストレートの黒髪をなびかせています。

「一緒に来て」彼女は男性に微笑みながらそう言いました。

 彼は臓が凍りそうになりながらも時に興奮していました。

 あまりにハッキリと姿が見えたので、先にいたファンじゃね?と思いながら、動画配信者としてこれはチャンスだ!と考えて、彼女について行きました。

 しかし赤い洋服の女性は決して近づくことを許さず、彼を廃墟の奥深くへとどんどん誘導していきました。
魅了されたかのようにカメラに夢中になって、石ころか何かに躓いて転んでしまいました。
「いってぇ!」

 足元を確認してから、前方を見直すと女性の姿が消えてしまっていました。

「ちょっと待ってくれよ!」男性は消えた女性に向かって叫びましたが返事はありませんでした。

次にカメラに向かって、
「みんなあの女性見えたでしょ?」とLiveを見ている視聴者に向かって語り掛けました。

 男性は立ち上がろうとしますが、足首に強烈な痛みを感じて顔を歪ませました。

「くそっ!」

 そしてカメラに向かって語り掛けました。
「誰か助けてくれ!ここは〇〇ロッジだ!場所わかる人!警察や救急車呼んでくれ!」

 男性は半ばパニックになり視聴者に助けを求めたのでした。しかし返事も励ましも帰ってきませんでした。

 なぜなら転倒したショックのせいなのか、インターネット接続がぷっつり切れてしまっていたからです。カメラが壊れたのか電波の不調の性なのか再接続することはできませんでした。


****


その後数時間後の夜明けごろ‥‥


一台のパトカーが山の中を走行しています。

「あれ?この辺じゃなかった?」
「地図ではそうだけど…」

ライブ配信を視聴していた人の中で、何か異変が起きたと思った人が警察へ110番通報をしてくれていたのです。

二人の警察官は山道を走っているパトカーを止めるとクルマから降りて、周囲を見回しました。すると林の中にひっそりと佇む廃墟ホテルが見えました。

「あそこだな?」 

「ああ、思ったよりデカいな。よし行こう」

二人は懐中電灯を持って廃墟に向かいました。

 建物に入り探しはじめてすぐ、一階の廊下の穴の空いた廊下のすぐ横で男性のビデオカメラを発見しました。

最後の録画が残っていて、転落して後にもカメラが回り続けていて、映像は下からアングルで斜め上に向けられて撮影されていました。

「これが例のYouTuberのカメラか?」 

「そうみたいだな。なにか録画してるぞ」

二人はカメラの画面を覗き込みました。しばらく見ていると何かが画面に入り込んできました。

それがどうやらだれかの足であると気づくと、見下ろすような恰好でだれかが立っている姿が映っているのだとわかりました。

 その映像の中で、人の顔だと思われる目元に焦点をあわせようとしましたが、暗くよくその表情までわかりませんでしたが、女性であることはわかりました。

  そして音声が小さな声で録音されていました。それは‥‥

「一緒に行こうね」

そして微笑のような細い笑い声が流れて様なきがして、そのあと姿は画面から消えていきました。

映像を見た二人の警官は顔色を変えて互いの顔を見合わせました。

「これは…」 
「嘘だろ…」

一人が警官がそばに開いた穴に、寒中電灯を差し入れて階下を確認すると、地下一階のユカに横たわってびくりとも動かない男性の姿をがありました。

二人は急いで地下へ降りて男性を確認しましたが、体は冷たくなっていました。

「死因は転落死だろうな」

「そうだろうな…でも録画のこの女性は…」

二人は不安そうにもう一度廃墟の中を見回します。

しかし女性の姿はどこにもありませんでした。





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