16 / 23
16
しおりを挟む
オーティの補足ポイントまであと少しの距離に近づくいた加崎はここまでの行程に何か爆然とした不安を感じとる。なぜなら、ワニ型の穢れ以外に遭遇しておらず、他の部隊からもこれといった情報は送られてこない。
まるで、オーティにこの場所まで来るようにと誘導されているように感じていた。罠を張って、待ち構えているのではないか、と。その不安が顔に出ていたのだろう。加崎は有川に声を掛けられる。
「どうしたよ、加崎」
「オーティはどういう腹積もりなのか、と思いまして」
有川にもその疑問はあった。だが、有川はふざけた調子で言う。
「まあ出たとこ勝負しかねえだろ、元々俺ら強行偵察部隊だし」
そうですね、と加崎はつぶやく。加崎は何事もなければいい、と思う。その瞬間に、南方のほうで赤色の信号弾が上がる。それは救援信号だった。それを確認したここにいる全員が緊張感を高める。有川は御澤に尋ねる。
「どうする?御澤」
御澤は救援信号のほうを見ながら答える。
「オーティの補足ポイントまで近い。となると、オーティに襲撃されている可能性が高い。であれば行くべきだろう」
加崎と有川は頷く。御澤と同意見だった。御澤はすぐに指示を出す。
「救援信号のほうに向かう。また、他の部隊と連絡を取れるか試せ」
全員が頷き、行動を開始する。少しして、御澤の部下の一人が大声で言う。
「他の部隊との通信できません。通信回線自体に問題はありませんが」
「となると、他の部隊すべてが通信をとれない状態にあるってことか」
加崎はそうつぶやく。つまり、それはかなり苦戦していて、本当に余裕がないか、それとも。そこで、加崎は頭の中に浮かんだ最悪の考えを、首を振るって払う。今は信じるしかない、と思いながら。
彼らはしばらくして、救援信号が上がったポイントと思われる場所に到着する。そこには激しい戦闘の跡が見られた。そして、ここには誰もいなかった。
「おい、誰かいねえのか」
有川は大声でそう叫ぶ。だが、誰からの反応もない。御澤は小さくつぶやく。
「全員やられたな」
有川はそのつぶやきを聞きながら、そうだろうな、と思っていた。そもそも加崎以外の全員が漠然とそう思っていた。
なぜなら、彼らはこの場で戦っていたはずの部隊のことを少なからず知っていた。顔も名前もどんなやつらだったのかをある程度知っていた。だが、今その記憶がすべて思い出せなかった。彼らのことに関する記憶に関してもやが、かかっているかのように感じられていた。有川は御澤に言う。
「ヤス、いや守谷中佐の部隊が残っているはずだ、そちらとの合流を目指そう」
そうだな、と御澤が言った瞬間、有川の端末にその守谷からの通信が入る。有川は端末をスピーカーモードに切り替えながらその通信に応答する。
『ゲン、聞こえるか?』
守谷の声は若干かすれた弱々しいものだった。
「ヤス、どうした?」
『しくったぜ、オーティの野郎に俺以外の全員がやられちまった』
それを聞いていた全員に驚愕が走る、守谷の言っていることが真実ならば、現在展開できている部隊はここの部隊だけになることになる。
「今どこにいる?」
有川は尋ねる。守谷を助けるべきという思考の下に。
『オーティはたぶんそっちに向かってる。気を付けろ』
「聞いてんのか、今どこにいる?」
有川は声を荒げる。加崎も我慢しきれずに声を荒げて、守谷に問う。
「守谷さん、今どこにいるんですか?」
『ありゃ、加崎君も来てんのか?来なくていいものをよ』
そう言いながら、へへへ、という守谷の笑い声が聞こえる。それに守谷の声はどんどん弱くなっているようだった。
「ヤス、いいから答えろ。今どこにいる?」
『ゲン、加崎君。オーティに勝って生き残れよ』
守谷は問いかけに無視して、そう言う。有川はふざけんじゃねえぞ、と守谷に怒る。加崎は半分泣きながら言う。加崎はもうわかっていた。守谷に助かる気がない、ということを。
それでも、加崎は言う。
「守谷さんも一緒に」
「そうだ、ヤス、お前も生き残るんだ」
二人の悲痛な叫びだった。だが、端末から聞こえてきた守谷の言葉はシンプルなものだった。
『じゃあな』
それは別れの単語。そのたった一つの単語で守谷の運命が把握できるものだった。そして。通信は切れる。
二人は呆然とする。御澤たちはただ黙り込む。何も言えることがなかった。少しして、有川が大声で言う。
「ヤスを探すぞ、ヤスの部隊が展開しているはずのポイントにだ」
全員は黙り込む。それに、移動する様子もなかった。
「お前ら、何してる。どうした?」
御澤が淡々とした調子で有川に告げる。
「オーティの迎撃が最優先だ」
「御澤、味方の窮地でお前は、そうまでして穢れの排除を優先するのか」
有川は声を荒げて御澤に突っかかる。だが、御澤も即座に反論する。
「特佐、あなたもわかっているだろ、今私たちがすべきことを」
有川はそれを聞いて、黙り、加崎のほうに視線を向ける。加崎はそれを見て、最初驚く。なぜなら、こんな有川は見たことがなかったからだ。いつもふざけた調子でも自信があった有川が助けを求めるような視線をしていたから。
その有川の視線に加崎は黙って首を振る。そう、通信が切れて少ししてから、加崎は守谷に関する記憶がどんどん消え始めていた。そもそも、今誰のことで、こんなにもつらい気持ちになっているかわからなかった。おそらく、通信が切れた瞬間、もしくはそのあとに、守谷は穢れに食われたのだと考えられた。
だからこそ、気づいてしまう、守谷が生きていないという事実に。きっと有川も気づいていた。有川はしばらく黙り込むと少しして、上を向いて叫び出す。
「くそが、くそが。ふざけんじゃねえぞ」
有川のその悔しみと怒りが混じった声は響く。この静まり返ったこの場所で…
まるで、オーティにこの場所まで来るようにと誘導されているように感じていた。罠を張って、待ち構えているのではないか、と。その不安が顔に出ていたのだろう。加崎は有川に声を掛けられる。
「どうしたよ、加崎」
「オーティはどういう腹積もりなのか、と思いまして」
有川にもその疑問はあった。だが、有川はふざけた調子で言う。
「まあ出たとこ勝負しかねえだろ、元々俺ら強行偵察部隊だし」
そうですね、と加崎はつぶやく。加崎は何事もなければいい、と思う。その瞬間に、南方のほうで赤色の信号弾が上がる。それは救援信号だった。それを確認したここにいる全員が緊張感を高める。有川は御澤に尋ねる。
「どうする?御澤」
御澤は救援信号のほうを見ながら答える。
「オーティの補足ポイントまで近い。となると、オーティに襲撃されている可能性が高い。であれば行くべきだろう」
加崎と有川は頷く。御澤と同意見だった。御澤はすぐに指示を出す。
「救援信号のほうに向かう。また、他の部隊と連絡を取れるか試せ」
全員が頷き、行動を開始する。少しして、御澤の部下の一人が大声で言う。
「他の部隊との通信できません。通信回線自体に問題はありませんが」
「となると、他の部隊すべてが通信をとれない状態にあるってことか」
加崎はそうつぶやく。つまり、それはかなり苦戦していて、本当に余裕がないか、それとも。そこで、加崎は頭の中に浮かんだ最悪の考えを、首を振るって払う。今は信じるしかない、と思いながら。
彼らはしばらくして、救援信号が上がったポイントと思われる場所に到着する。そこには激しい戦闘の跡が見られた。そして、ここには誰もいなかった。
「おい、誰かいねえのか」
有川は大声でそう叫ぶ。だが、誰からの反応もない。御澤は小さくつぶやく。
「全員やられたな」
有川はそのつぶやきを聞きながら、そうだろうな、と思っていた。そもそも加崎以外の全員が漠然とそう思っていた。
なぜなら、彼らはこの場で戦っていたはずの部隊のことを少なからず知っていた。顔も名前もどんなやつらだったのかをある程度知っていた。だが、今その記憶がすべて思い出せなかった。彼らのことに関する記憶に関してもやが、かかっているかのように感じられていた。有川は御澤に言う。
「ヤス、いや守谷中佐の部隊が残っているはずだ、そちらとの合流を目指そう」
そうだな、と御澤が言った瞬間、有川の端末にその守谷からの通信が入る。有川は端末をスピーカーモードに切り替えながらその通信に応答する。
『ゲン、聞こえるか?』
守谷の声は若干かすれた弱々しいものだった。
「ヤス、どうした?」
『しくったぜ、オーティの野郎に俺以外の全員がやられちまった』
それを聞いていた全員に驚愕が走る、守谷の言っていることが真実ならば、現在展開できている部隊はここの部隊だけになることになる。
「今どこにいる?」
有川は尋ねる。守谷を助けるべきという思考の下に。
『オーティはたぶんそっちに向かってる。気を付けろ』
「聞いてんのか、今どこにいる?」
有川は声を荒げる。加崎も我慢しきれずに声を荒げて、守谷に問う。
「守谷さん、今どこにいるんですか?」
『ありゃ、加崎君も来てんのか?来なくていいものをよ』
そう言いながら、へへへ、という守谷の笑い声が聞こえる。それに守谷の声はどんどん弱くなっているようだった。
「ヤス、いいから答えろ。今どこにいる?」
『ゲン、加崎君。オーティに勝って生き残れよ』
守谷は問いかけに無視して、そう言う。有川はふざけんじゃねえぞ、と守谷に怒る。加崎は半分泣きながら言う。加崎はもうわかっていた。守谷に助かる気がない、ということを。
それでも、加崎は言う。
「守谷さんも一緒に」
「そうだ、ヤス、お前も生き残るんだ」
二人の悲痛な叫びだった。だが、端末から聞こえてきた守谷の言葉はシンプルなものだった。
『じゃあな』
それは別れの単語。そのたった一つの単語で守谷の運命が把握できるものだった。そして。通信は切れる。
二人は呆然とする。御澤たちはただ黙り込む。何も言えることがなかった。少しして、有川が大声で言う。
「ヤスを探すぞ、ヤスの部隊が展開しているはずのポイントにだ」
全員は黙り込む。それに、移動する様子もなかった。
「お前ら、何してる。どうした?」
御澤が淡々とした調子で有川に告げる。
「オーティの迎撃が最優先だ」
「御澤、味方の窮地でお前は、そうまでして穢れの排除を優先するのか」
有川は声を荒げて御澤に突っかかる。だが、御澤も即座に反論する。
「特佐、あなたもわかっているだろ、今私たちがすべきことを」
有川はそれを聞いて、黙り、加崎のほうに視線を向ける。加崎はそれを見て、最初驚く。なぜなら、こんな有川は見たことがなかったからだ。いつもふざけた調子でも自信があった有川が助けを求めるような視線をしていたから。
その有川の視線に加崎は黙って首を振る。そう、通信が切れて少ししてから、加崎は守谷に関する記憶がどんどん消え始めていた。そもそも、今誰のことで、こんなにもつらい気持ちになっているかわからなかった。おそらく、通信が切れた瞬間、もしくはそのあとに、守谷は穢れに食われたのだと考えられた。
だからこそ、気づいてしまう、守谷が生きていないという事実に。きっと有川も気づいていた。有川はしばらく黙り込むと少しして、上を向いて叫び出す。
「くそが、くそが。ふざけんじゃねえぞ」
有川のその悔しみと怒りが混じった声は響く。この静まり返ったこの場所で…
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた
羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件
借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!
霞月の里
そゆ
ファンタジー
山奥の小さな村で穏やかな日々を過ごしていた明継と緋咲。そんな2人の前に現れたのは漆黒の衣装に身を包んだ金瞳の男だった。
2人を連れ去った男は、彼らの体に秘められた異能力の存在を告げ、その解放を求めた。
自分たちがなぜ特殊な能力をもち、どのように生まれてきたのか。運命に翻弄された2人がたどり着いた出生の秘密とは?
戦国時代を基礎にしていますが、時代背景と文明基準ゆるゆるの和風ファンタジーです。
化け物との戦いや、明継の体に宿る力を主軸にした物語になっています。
※中盤からヒロインが強くなっていきます。男主人公がメインヒロイン?
毎週月曜日、18時台に更新します
この作品は他サイトにも掲載しています
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる