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婚約者は僕を嫌っているようなので婚約破棄を考えたのですが…
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「こんなやばいの?」
僕は従者であるカイからもらった資料をすべて眺め終わる前に資料から目をあげて目の前にいるカイに尋ねる。カイはすぐさま返答してくる。俺に資料を渡した時と同じく呆れた顔をしながら。
「そうですよ、だから大人しく結婚してください」
僕はため息をつく。結婚するしかないのか、と思いながら。
僕の名はアルビン・エスペード。侯爵家の次男坊です。年は19歳で20歳の誕生日まであと一か月といったところです。そして、俺は誕生日と共に結婚が決まっています。もう10年以上前から婚約している相手とです。
婚約者の名前はライラ・ディアモント。俺と同家格の侯爵家のご令嬢です。年は一つ下で、美人さんです。というかマナーも完璧、頭もまわるという非の打ち所がない人物で僕にはもったいなさすぎる婚約者です。
いきなりではありますが、僕はライラ嬢との婚約を破棄しようと考えていました。過去形なのは、たった今婚約破棄を諦めたからです。
この目の前にある分厚い資料を途中まで読むことによって。
この資料は僕がカイに婚約破棄をしたいと言ったら持ってきた資料です。内容は婚約破棄をする場合はどうするのか?と婚約破棄をするとどうなるのか?というものをまとめたものです。内容は途中で読むのをやめました。だって、婚約破棄をしても、結婚する以上に俺的にはめんどくさいことが多かったからです。
そもそもなぜ僕が婚約破棄を考えたのか?まずそれは僕が結婚したくないからです。結婚なんてめんどくさいだけだしと思っております。というか僕は何かに縛られることなく、のほほんと自分のやりたいことをやりたいのです。別に次男だし、兄にはもう子どももいるし、別に無理して僕が結婚する必要はないはずなのです。
まあこのことを親に伝えて、婚約解消してもらおうと思ったらほぼ半日両親に説教されました。それに、二週間ぐらい母親からごみを見るようね眼をされました。
そもそもなぜ僕は婚約解消という手段をとらずに、婚約破棄をしようとしているのか?
それは簡単な理由です。親の了承が取れませんでした。わが国では婚約の解消に本人同士の了承だけでなく、本人の家同士の了承も必要です。まあ先程のような親の態度なので、もちろん了承は得られませんでした。というか親からはいいから黙って結婚しろと言われました。
そんなわけで婚約解消は無理でした。そこで、わが国の結婚についての制度を調べました。そしたらなんとわが国には、婚約破棄制度なるものがありました。しかも婚約破棄制度は自分自身一人で手続きできるというものでした。
僕はまさに神からの啓示だと思いましたよ。まあそんなことはありませんでしたけど。カイの資料によって私の思惑は消えてなくなりました。
まず婚約破棄制度は非常にめんどくさいしやばいものでした。手続きは煩雑だし、慰謝料という名目で相手に莫大な金をはらわなきゃいけんしで。しかも、カイが過去の事例を調べてくれたわけですが、まあ大体の人がろくな目にあってない。社交界ではいじめられるし、家は追い出されるし、まさに踏んだり蹴ったりなわけですよ。
「結婚するのか、いやだなあ」
俺は遠い目をしながら机に突っ伏しながら言う。すぐさまカイのため息が聞こえてくる。そして、カイは尋ねてくる。
「そんなに結婚したくないですか?アルビン様」
「したくないよ。めんどくさいから」
カイは「理由はそれだけですか?」と問うてくる。僕は「他にもあるよ」と言って顔をあげる。カイは「何でしょうか?」と尋ねてくる。僕は知ってるくせに、と思いながら、カイのほうを向いて言う。
「ライラ嬢が僕を嫌ってること。せめて結婚するなら僕を好んでくれる人がいいよ」
僕はそう言うと、大きなため息をついて、もう一度机に突っ伏す。
僕が結婚したくない理由は、結婚がめんどくさいだけではない。単純に相手の問題である。ライラ嬢に僕は嫌われているようなのだ。しかもずっと前から、おそらく婚約したときからずっと。
しばらく、僕の返答を聞いて何も言わないでいたカイは口を開く。
「ライラ嬢、アルビン様を嫌っているわけではないと思いますけどね」
「本気で言ってんの?」
僕は顔をあげてカイに尋ねる。カイは頷く。若干顔が苦笑気味だったのを見て、僕は不思議に思う。だが、それは気にせずライラ嬢のことを思いながら言う。
「だって、ライラ嬢、僕と会ってるときいつも不機嫌そうだし、すぐにマナーがどうとか、婚約者の扱いがなってないとか言いながら怒ってくるし」
「そうですね」
カイは苦笑しながらそう言う。なんか顔が面白がっているようだった。僕には全く面白い話じゃないのだが。そのせいで、彼女といるとき、僕は息が詰まるように感じるのであった。
「それに覚えてるだろ?」
「何をですか?」
カイはまるで知りませんが、とでも言いたげな様子で言う。僕はお前な、と思いながら先日ライラ嬢と会ったときのことを話し始める。
あの日は、ライラ嬢がうちに来てくれて、会って話すというまあ婚約者同士の定期的なお話の日だった。僕は軽い挨拶を交わした後、彼女にプレゼントを渡した。小さな髪飾りだった。先日、商人が家に来ていた際、偶然目についたもので、彼女に似合うと思ったのだ。そして、最近彼女にプレゼントを渡してないことも思いだしてそれを商人から買って、その日渡したのだった。
彼女はプレゼントを渡さない期間が長くなると、露骨に不機嫌になるのだ。曰く婚約者の責務です、と。定期的にプレゼントを渡さないと婚約者を思ってないと同義です、とか怒られるのだ。もう何回か怒られた。しかも適当なものを渡しても怒るのである。
だから今回はちょうどいいと思って渡したのだ。中身をみられるまでは問題なかった。だけど、中身を見てから彼女の様子は変わった。
彼女を顔に真っ赤にすると、こちらから視線をそらした。そのまま、彼女は何も言わないままであった。僕は何も言わないままでいた彼女を不思議に思って尋ねてみた。
『気に入りませんでしたか?似合うと思ったんですが?』
彼女は一瞬ぽかんとした表情をした後、何事かを呟いた後、その後、一言も話してくれなかった。僕には何が悪かったのか?と困惑しながらでいた。そして、そのまま何も話さずに帰っていった。彼女のメイドはこっちをにらんでいたし、あとでその話を聞いた母親と兄の奥さんからはごみを見るような目で見られた。全くわけがわからなかった。
「あれさ、後で調べたんだけど、僕プロポーズまがいのことしたらしいね。自分の瞳と同じ装飾品を渡すとプロポーズになるなんて知らなかったんだけど」
僕が話の結びにそう言うと、カイは手で顔を隠すと、体を震わせる。僕はカイをジト目で見る。しばらくして、カイは手を下におろすと、「申し訳ありません」と言う。
「つうかプロポーズで怒られるって思わなかったな。あれって僕のプロポーズ受けたくないってわけでしょきっと」
僕が遠い目をしながらいうと、カイは噴き出す。僕はカイのほうをにらむ。カイは「申し訳ありません」と半笑いで言う。
「さっきからどうしたんだよ?、カイ」
「いえ、なんでもありませんよ」
僕がカイのことを詰めようとした瞬間、カイは思い出した、とでも言いたげに言う。
「アルビン様、そういえば今日お客様が来ています」
「お客様?誰のこと?」
僕はそんな予定聞いてないけどな、と思いながら尋ねる。カイは「会ってのお楽しみです」と楽し気に言う。僕が誰かを聞こうとすると、急ぎの用事があるので、と言うと部屋を出ていく。僕が静止するよりも先に。
一人部屋に残った僕は大きなため息をつく。これからのことを思うと億劫だった。自分のことを嫌っている婚約者と結婚しなければいけないのだ。
そう思いながら、外をぼーっと眺めていると、こんこん、というノックの音が聞こえる。カイが戻ってきたのか、と思い、どうぞ、と言う。いつもより、ノックの音が小さかったのを少し疑問には思ったが、まあ他に誰か来ても、家のものだろうと思って気にしていなかった。僕はそんなことを思っていたので、入ってきた人物を見て驚く。
部屋に入ってきたのは件の婚約者であるライラ嬢だった。いつもとは雰囲気が違い、意気消沈したかのような様子であった。僕はなぜ彼女がここに?と思いながら、あたふたと慌てる。僕はとりあえず、尋ねる。
「なぜここに?ライラ嬢」
彼女は下を向いたまま、何も話さない。僕はどうすればいいんだ、この状況は?と思っていると、彼女が顔を上げる。彼女は泣いているようであった。僕はそれを見て驚く。彼女が泣いている姿など初めて見たし、突然泣いているのであってわけがわからなかったからだ。僕はおろおろとしながら尋ねる。
「どうかしましたか?」
すると彼女は一言ずつ絞り出すように逆に尋ねてくる。
「アルビン様は私との婚約破棄を考えていたのは事実ですか?」
僕は思いもよらないことを聞かれてびっくりする。僕はそこで、これは嬉し涙なのか、と思う。でもわざわざ会いに来るのおかしいよな?と思う。まあよくわからないし、とりあえず事実を伝えるために口を開く。
「考えてはいましたけど、それは」
やめにしました、と言おうした瞬間に彼女は頭を下げると、大声で突然謝ってきた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。不愉快に思わせて、傷つけてごめんなさい」
僕にはわけがわからなかった。なぜ謝っているのか、しかも声色的には泣きながら謝っているようであった。そのまま、彼女は最後にこう言う。
「至らなかった点はすぐに直すので、どうか婚約破棄しないでください」
僕はそれを聞いて、彼女が婚約を維持したいと思っていることに気づく。まあでも婚約破棄された側も、された側で大変だろうからなのかな、と思う。まあそれにしては泣きすぎだし必死すぎる、と思うので僕は尋ねる。ずっと前から思っていたことを、聞いては見たかったけど、聞くのが怖かったことを。
「ライラ嬢は僕のこと嫌っているわけじゃないんですか?」
彼女はすぐさま首を振る。
「そんなことはありません。普段の態度からはそうは思われないかもしれませんが、私はずっと前からアルビン様を慕っています。嫌いどころか大好きです」
彼女は若干恥ずかしそうに、申し訳なさそうにそう言った。僕はそれを聞いて、ぽかんと口を開けた。まあつまり、彼女は僕のことを嫌っているどころか好きだったらしい。全然わからなかったけど。僕はそのまましばらく固まっていた。
僕は固まっていた状態から元に戻ると、彼女に尋ねる。なぜ今まであのような態度だったのか、を。彼女はぽつりぽつりと話し始めた。
まず、彼女は僕との顔合わせの時から好意を抱き、この人と絶対に結婚するとまで思っていたそうだ。理由は聞いたけど、恥ずかしくなってきたので途中でやめさせました。まあそんな風に思っていたある日、僕との婚約を考え直そうか、みたいな話が彼女の家では出てきたらしい。まあ僕がだらしないから、という理由が主だったらしい。まあ悲しいけど理由はまっとうだった。
だから、彼女は僕に厳しくなった。僕との婚約を維持するために。そういえば、全然覚えていなかったけど、突然厳しくなったような記憶がある。というか最初のほうはかなり仲良くしていたようなだった記憶もある。
でまあそんなこんなで、婚約を考え直す話はなくなったので、普通に戻ってよくなったのだけど、彼女はどうすればいいのかよくわからなくなったそうだ。いきなり、距離感を元に戻すことも難しく、僕がまただらしくなったらどうしようと思ってしまって、もうどうにもならなかったらしい。だから、そのまま彼女は厳しくなり、僕に怒ることが増えてしまったらしい。
彼女は言わなかったが、きっと僕が思いを汲み取ってくれないいら立ちもあったのだろう。自分はこんなにも思っているのに、むしろ僕はいやそうにしていたこともあるのだから。そう思うとすごい申し訳ない気持ちに僕はなった。
あと髪飾りの件は、彼女は最初うれしかったらしい。僕にプロポーズされると思った、ようやく思いが伝わったと思って。まあでも結果は、僕にそんな気はなかったというものだったのだが。それで彼女は怒ったわけだ。プロポーズを受けたくないどころか、プロポーズしてほしかったそうだ。
まあ正直個人的には彼女の態度も悪かったところはあると思うが、それ以上に。
「僕って最低だな」
僕は最低だったわけだ。婚約者の思いに気づかず、あまつさ婚約者が自分を嫌っていると思って、婚約破棄すら考えていたのだから。
僕のつぶやきを聞いた彼女は首を振ると、言う。
「いえ、むしろ私のほうが。アルビン様は最低じゃありません。私が悪かったんです」
で、その後しばらく僕と彼女は自分が悪い、相手は悪くないと言い合った。そして、何が契機だったのかはわからないが、僕は笑いが止まらなくなった。彼女は突然僕が笑いだしたことに驚き、あたふたとし始める。彼女が何か渡ししましたか?と問うてきたので、僕は何もしてないよ、と言う。彼女はほっと息を吐くと安心したようであった。僕は涙がもう止まっていた彼女を見ながら尋ねる。。
「ライラ嬢、僕たちやり直せないかな?」
彼女はえっと言う顔をする。僕はすぐに自らの発言が誤解を招くものだったことに気づく。「ああ違うんだ。なんつうんだろうな。」と僕は言いながら、どういえば僕の思いが伝わるのかを考える。結局うまい言葉が出てこなかったので、伝えたいことと少し、いや大分変わるが、これでいいだろうと思いながら言う。
「僕は君との婚約を破棄しない。このまま結婚して、君とずっと一緒にいるつもり」
彼女は僕の言ったことを聞いて、本当ですか?と不安そうに嬉しそうに尋ねてくる。僕は本当だよ、と答える。すると、彼女は僕にいきなり抱き着いてくる。僕は崩れかけたバランスをなんとか保ち、倒れないようにする。彼女は僕の耳元でこう言う。
「大好きです、アルビン様」
僕もだよ、と言おうと思ったのだが、恥ずかしかったので言えなかった。だから、そのまま彼女を抱きしめることにした。
あの日以降、僕と彼女の関係は自分で言っていいのかはよくわかないが、仲睦まじい関係となった。それに、ライラ嬢の僕への態度は一気に甘くなった。僕が別人じゃないか、と思えるほどに。まあこっちのほうがいいので、全然かまわないのだが。
少し話はずれるが、ライラ嬢があの日僕の家に来ていたのはカイの仕業だった。カイはライラ嬢の思いと僕の思いを知っていたので、婚約を維持するために色々策を講じたそうだった。大体僕に渡した資料にも嘘混ぜてあるとかいう周到具合だった。というか、実はカイだけなく、うちの家全体、それどころか相手の家も僕たちの思いがすれ違っているのを知っていたそうで、あの日の一件は両方の家で行ったことらしい。
僕はそのことを知って、時折僕が家族とか使用人とかからごみのように見られるのに得心がいった。
で、僕はさすがにあの日のカイの態度がひどかったので給料を減らそうとした。すると、カイは自分のおかげでうまくいったはずです、とか何とか言ってきた。確かにな、と思い、どうしようと思っていると、僕の父がこういった。
『カイのおかげかもしれんが、遊びすぎだ。もっと前に関係修復できただろう。つまり減給だ』
そして、カイの減給が決まった。その時、カイは馬鹿な、とでも言いたげな表情をしていた。僕はざまあみろと正直思った。
まあその後も色々あった。だけど、婚約はそのまま維持され、ついに僕の誕生日の日となった。その日は、僕の誕生日を祝う中で結婚の発表をすることなっていた。なお結婚式は翌日なので、なかなか忙しいものとなっていた。
誕生日パーティーの日、パーティー会場の前で待っているとライラがやってくる。なんとなく、ライラの髪を見ると、そこには前僕がプレゼントした件の髪飾りがつけられていた。彼女は僕の目の前に来ると、「似合っていますか?」と尋ねてくる。僕が「似合っている」と返すと彼女は少し恥ずかしそうに笑う。
「ライラ、あのさ今言うのは早いと思うけど、絶対に幸せにする」
僕がそう言うと、彼女は顔を赤くして下をむくと「お願いします」と言って小さく頷く。その後、僕は彼女の手を取ると、パーティー会場へと入っていった。
結婚後も、僕とライラの関係は順風満帆だった。まあ時折、僕がだらしなすぎて、あの時のように怒られることもあったが。
僕は結婚するのが嫌だった。めんどくさいと思ってた、いや今でも正直結婚するとめんどくさいなって思うこともある。でもそれ以上にライラの、彼女の笑顔が常にみられるなら、結婚というのも悪いものどころかいいように思えた。僕は結婚してよかった、と今胸を張って言える。それに、僕はライラのことが好きだ、とも胸を張って言えるようになった。
僕は従者であるカイからもらった資料をすべて眺め終わる前に資料から目をあげて目の前にいるカイに尋ねる。カイはすぐさま返答してくる。俺に資料を渡した時と同じく呆れた顔をしながら。
「そうですよ、だから大人しく結婚してください」
僕はため息をつく。結婚するしかないのか、と思いながら。
僕の名はアルビン・エスペード。侯爵家の次男坊です。年は19歳で20歳の誕生日まであと一か月といったところです。そして、俺は誕生日と共に結婚が決まっています。もう10年以上前から婚約している相手とです。
婚約者の名前はライラ・ディアモント。俺と同家格の侯爵家のご令嬢です。年は一つ下で、美人さんです。というかマナーも完璧、頭もまわるという非の打ち所がない人物で僕にはもったいなさすぎる婚約者です。
いきなりではありますが、僕はライラ嬢との婚約を破棄しようと考えていました。過去形なのは、たった今婚約破棄を諦めたからです。
この目の前にある分厚い資料を途中まで読むことによって。
この資料は僕がカイに婚約破棄をしたいと言ったら持ってきた資料です。内容は婚約破棄をする場合はどうするのか?と婚約破棄をするとどうなるのか?というものをまとめたものです。内容は途中で読むのをやめました。だって、婚約破棄をしても、結婚する以上に俺的にはめんどくさいことが多かったからです。
そもそもなぜ僕が婚約破棄を考えたのか?まずそれは僕が結婚したくないからです。結婚なんてめんどくさいだけだしと思っております。というか僕は何かに縛られることなく、のほほんと自分のやりたいことをやりたいのです。別に次男だし、兄にはもう子どももいるし、別に無理して僕が結婚する必要はないはずなのです。
まあこのことを親に伝えて、婚約解消してもらおうと思ったらほぼ半日両親に説教されました。それに、二週間ぐらい母親からごみを見るようね眼をされました。
そもそもなぜ僕は婚約解消という手段をとらずに、婚約破棄をしようとしているのか?
それは簡単な理由です。親の了承が取れませんでした。わが国では婚約の解消に本人同士の了承だけでなく、本人の家同士の了承も必要です。まあ先程のような親の態度なので、もちろん了承は得られませんでした。というか親からはいいから黙って結婚しろと言われました。
そんなわけで婚約解消は無理でした。そこで、わが国の結婚についての制度を調べました。そしたらなんとわが国には、婚約破棄制度なるものがありました。しかも婚約破棄制度は自分自身一人で手続きできるというものでした。
僕はまさに神からの啓示だと思いましたよ。まあそんなことはありませんでしたけど。カイの資料によって私の思惑は消えてなくなりました。
まず婚約破棄制度は非常にめんどくさいしやばいものでした。手続きは煩雑だし、慰謝料という名目で相手に莫大な金をはらわなきゃいけんしで。しかも、カイが過去の事例を調べてくれたわけですが、まあ大体の人がろくな目にあってない。社交界ではいじめられるし、家は追い出されるし、まさに踏んだり蹴ったりなわけですよ。
「結婚するのか、いやだなあ」
俺は遠い目をしながら机に突っ伏しながら言う。すぐさまカイのため息が聞こえてくる。そして、カイは尋ねてくる。
「そんなに結婚したくないですか?アルビン様」
「したくないよ。めんどくさいから」
カイは「理由はそれだけですか?」と問うてくる。僕は「他にもあるよ」と言って顔をあげる。カイは「何でしょうか?」と尋ねてくる。僕は知ってるくせに、と思いながら、カイのほうを向いて言う。
「ライラ嬢が僕を嫌ってること。せめて結婚するなら僕を好んでくれる人がいいよ」
僕はそう言うと、大きなため息をついて、もう一度机に突っ伏す。
僕が結婚したくない理由は、結婚がめんどくさいだけではない。単純に相手の問題である。ライラ嬢に僕は嫌われているようなのだ。しかもずっと前から、おそらく婚約したときからずっと。
しばらく、僕の返答を聞いて何も言わないでいたカイは口を開く。
「ライラ嬢、アルビン様を嫌っているわけではないと思いますけどね」
「本気で言ってんの?」
僕は顔をあげてカイに尋ねる。カイは頷く。若干顔が苦笑気味だったのを見て、僕は不思議に思う。だが、それは気にせずライラ嬢のことを思いながら言う。
「だって、ライラ嬢、僕と会ってるときいつも不機嫌そうだし、すぐにマナーがどうとか、婚約者の扱いがなってないとか言いながら怒ってくるし」
「そうですね」
カイは苦笑しながらそう言う。なんか顔が面白がっているようだった。僕には全く面白い話じゃないのだが。そのせいで、彼女といるとき、僕は息が詰まるように感じるのであった。
「それに覚えてるだろ?」
「何をですか?」
カイはまるで知りませんが、とでも言いたげな様子で言う。僕はお前な、と思いながら先日ライラ嬢と会ったときのことを話し始める。
あの日は、ライラ嬢がうちに来てくれて、会って話すというまあ婚約者同士の定期的なお話の日だった。僕は軽い挨拶を交わした後、彼女にプレゼントを渡した。小さな髪飾りだった。先日、商人が家に来ていた際、偶然目についたもので、彼女に似合うと思ったのだ。そして、最近彼女にプレゼントを渡してないことも思いだしてそれを商人から買って、その日渡したのだった。
彼女はプレゼントを渡さない期間が長くなると、露骨に不機嫌になるのだ。曰く婚約者の責務です、と。定期的にプレゼントを渡さないと婚約者を思ってないと同義です、とか怒られるのだ。もう何回か怒られた。しかも適当なものを渡しても怒るのである。
だから今回はちょうどいいと思って渡したのだ。中身をみられるまでは問題なかった。だけど、中身を見てから彼女の様子は変わった。
彼女を顔に真っ赤にすると、こちらから視線をそらした。そのまま、彼女は何も言わないままであった。僕は何も言わないままでいた彼女を不思議に思って尋ねてみた。
『気に入りませんでしたか?似合うと思ったんですが?』
彼女は一瞬ぽかんとした表情をした後、何事かを呟いた後、その後、一言も話してくれなかった。僕には何が悪かったのか?と困惑しながらでいた。そして、そのまま何も話さずに帰っていった。彼女のメイドはこっちをにらんでいたし、あとでその話を聞いた母親と兄の奥さんからはごみを見るような目で見られた。全くわけがわからなかった。
「あれさ、後で調べたんだけど、僕プロポーズまがいのことしたらしいね。自分の瞳と同じ装飾品を渡すとプロポーズになるなんて知らなかったんだけど」
僕が話の結びにそう言うと、カイは手で顔を隠すと、体を震わせる。僕はカイをジト目で見る。しばらくして、カイは手を下におろすと、「申し訳ありません」と言う。
「つうかプロポーズで怒られるって思わなかったな。あれって僕のプロポーズ受けたくないってわけでしょきっと」
僕が遠い目をしながらいうと、カイは噴き出す。僕はカイのほうをにらむ。カイは「申し訳ありません」と半笑いで言う。
「さっきからどうしたんだよ?、カイ」
「いえ、なんでもありませんよ」
僕がカイのことを詰めようとした瞬間、カイは思い出した、とでも言いたげに言う。
「アルビン様、そういえば今日お客様が来ています」
「お客様?誰のこと?」
僕はそんな予定聞いてないけどな、と思いながら尋ねる。カイは「会ってのお楽しみです」と楽し気に言う。僕が誰かを聞こうとすると、急ぎの用事があるので、と言うと部屋を出ていく。僕が静止するよりも先に。
一人部屋に残った僕は大きなため息をつく。これからのことを思うと億劫だった。自分のことを嫌っている婚約者と結婚しなければいけないのだ。
そう思いながら、外をぼーっと眺めていると、こんこん、というノックの音が聞こえる。カイが戻ってきたのか、と思い、どうぞ、と言う。いつもより、ノックの音が小さかったのを少し疑問には思ったが、まあ他に誰か来ても、家のものだろうと思って気にしていなかった。僕はそんなことを思っていたので、入ってきた人物を見て驚く。
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「考えてはいましたけど、それは」
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「ごめんなさい、ごめんなさい。不愉快に思わせて、傷つけてごめんなさい」
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僕はそれを聞いて、彼女が婚約を維持したいと思っていることに気づく。まあでも婚約破棄された側も、された側で大変だろうからなのかな、と思う。まあそれにしては泣きすぎだし必死すぎる、と思うので僕は尋ねる。ずっと前から思っていたことを、聞いては見たかったけど、聞くのが怖かったことを。
「ライラ嬢は僕のこと嫌っているわけじゃないんですか?」
彼女はすぐさま首を振る。
「そんなことはありません。普段の態度からはそうは思われないかもしれませんが、私はずっと前からアルビン様を慕っています。嫌いどころか大好きです」
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まず、彼女は僕との顔合わせの時から好意を抱き、この人と絶対に結婚するとまで思っていたそうだ。理由は聞いたけど、恥ずかしくなってきたので途中でやめさせました。まあそんな風に思っていたある日、僕との婚約を考え直そうか、みたいな話が彼女の家では出てきたらしい。まあ僕がだらしないから、という理由が主だったらしい。まあ悲しいけど理由はまっとうだった。
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彼女は言わなかったが、きっと僕が思いを汲み取ってくれないいら立ちもあったのだろう。自分はこんなにも思っているのに、むしろ僕はいやそうにしていたこともあるのだから。そう思うとすごい申し訳ない気持ちに僕はなった。
あと髪飾りの件は、彼女は最初うれしかったらしい。僕にプロポーズされると思った、ようやく思いが伝わったと思って。まあでも結果は、僕にそんな気はなかったというものだったのだが。それで彼女は怒ったわけだ。プロポーズを受けたくないどころか、プロポーズしてほしかったそうだ。
まあ正直個人的には彼女の態度も悪かったところはあると思うが、それ以上に。
「僕って最低だな」
僕は最低だったわけだ。婚約者の思いに気づかず、あまつさ婚約者が自分を嫌っていると思って、婚約破棄すら考えていたのだから。
僕のつぶやきを聞いた彼女は首を振ると、言う。
「いえ、むしろ私のほうが。アルビン様は最低じゃありません。私が悪かったんです」
で、その後しばらく僕と彼女は自分が悪い、相手は悪くないと言い合った。そして、何が契機だったのかはわからないが、僕は笑いが止まらなくなった。彼女は突然僕が笑いだしたことに驚き、あたふたとし始める。彼女が何か渡ししましたか?と問うてきたので、僕は何もしてないよ、と言う。彼女はほっと息を吐くと安心したようであった。僕は涙がもう止まっていた彼女を見ながら尋ねる。。
「ライラ嬢、僕たちやり直せないかな?」
彼女はえっと言う顔をする。僕はすぐに自らの発言が誤解を招くものだったことに気づく。「ああ違うんだ。なんつうんだろうな。」と僕は言いながら、どういえば僕の思いが伝わるのかを考える。結局うまい言葉が出てこなかったので、伝えたいことと少し、いや大分変わるが、これでいいだろうと思いながら言う。
「僕は君との婚約を破棄しない。このまま結婚して、君とずっと一緒にいるつもり」
彼女は僕の言ったことを聞いて、本当ですか?と不安そうに嬉しそうに尋ねてくる。僕は本当だよ、と答える。すると、彼女は僕にいきなり抱き着いてくる。僕は崩れかけたバランスをなんとか保ち、倒れないようにする。彼女は僕の耳元でこう言う。
「大好きです、アルビン様」
僕もだよ、と言おうと思ったのだが、恥ずかしかったので言えなかった。だから、そのまま彼女を抱きしめることにした。
あの日以降、僕と彼女の関係は自分で言っていいのかはよくわかないが、仲睦まじい関係となった。それに、ライラ嬢の僕への態度は一気に甘くなった。僕が別人じゃないか、と思えるほどに。まあこっちのほうがいいので、全然かまわないのだが。
少し話はずれるが、ライラ嬢があの日僕の家に来ていたのはカイの仕業だった。カイはライラ嬢の思いと僕の思いを知っていたので、婚約を維持するために色々策を講じたそうだった。大体僕に渡した資料にも嘘混ぜてあるとかいう周到具合だった。というか、実はカイだけなく、うちの家全体、それどころか相手の家も僕たちの思いがすれ違っているのを知っていたそうで、あの日の一件は両方の家で行ったことらしい。
僕はそのことを知って、時折僕が家族とか使用人とかからごみのように見られるのに得心がいった。
で、僕はさすがにあの日のカイの態度がひどかったので給料を減らそうとした。すると、カイは自分のおかげでうまくいったはずです、とか何とか言ってきた。確かにな、と思い、どうしようと思っていると、僕の父がこういった。
『カイのおかげかもしれんが、遊びすぎだ。もっと前に関係修復できただろう。つまり減給だ』
そして、カイの減給が決まった。その時、カイは馬鹿な、とでも言いたげな表情をしていた。僕はざまあみろと正直思った。
まあその後も色々あった。だけど、婚約はそのまま維持され、ついに僕の誕生日の日となった。その日は、僕の誕生日を祝う中で結婚の発表をすることなっていた。なお結婚式は翌日なので、なかなか忙しいものとなっていた。
誕生日パーティーの日、パーティー会場の前で待っているとライラがやってくる。なんとなく、ライラの髪を見ると、そこには前僕がプレゼントした件の髪飾りがつけられていた。彼女は僕の目の前に来ると、「似合っていますか?」と尋ねてくる。僕が「似合っている」と返すと彼女は少し恥ずかしそうに笑う。
「ライラ、あのさ今言うのは早いと思うけど、絶対に幸せにする」
僕がそう言うと、彼女は顔を赤くして下をむくと「お願いします」と言って小さく頷く。その後、僕は彼女の手を取ると、パーティー会場へと入っていった。
結婚後も、僕とライラの関係は順風満帆だった。まあ時折、僕がだらしなすぎて、あの時のように怒られることもあったが。
僕は結婚するのが嫌だった。めんどくさいと思ってた、いや今でも正直結婚するとめんどくさいなって思うこともある。でもそれ以上にライラの、彼女の笑顔が常にみられるなら、結婚というのも悪いものどころかいいように思えた。僕は結婚してよかった、と今胸を張って言える。それに、僕はライラのことが好きだ、とも胸を張って言えるようになった。
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学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
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王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました
鳴哉
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短いので、サクッと読んでもらえると思います。
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はじめまして。凄く面白いお話しでした。
侯爵家次男坊のアルビンくん。少しだらしないお坊ちゃん?
一方、しっかり者のライラさん。
ハラハラ、ドキドキ、ニャニヤで読んでいて楽しかったです。
アルビンくんの「絶対に幸せにする」言われてみたいですね。
ライラさん。お幸せに♡♡
この続きが読みたくなるお話しでした。
ありがとうございました。
はじめまして。感想ありがとうございました。
後日談を少し書いてみようかな、とは思っているんですが。うまいネタが思いつかず保留中です。
二人がデレデレし合ってるところしか、頭に思い浮かばず。
こちらこそありがとうございました。