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第二章 ミッドランドに帰らなきゃ編

25、女王、モンスターと交渉する。

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「あなたモンスターなの?」とキャロラインが叫んだと同時に、ギャルは席を立ち、キャロラインの手首をつかむ。


 あまりに無礼な態度に「ちょっと!」と声をあげるも、それを無視するようにギャルは手首を引っ張り、キャロラインを外へと連れ出す。


 ギャルは去り際に店主にコインを投げつけた。


「ほら、こいつの分もこれで足りるだろ?」


 店主はコインを受け取ると、肩をすくめた。




 ギャルはキャロラインの手首を引っ張り、走る。走る。走る。


「ちょっと! あなた、少しは落ち着いたら?」というキャロラインの声でようやくガングロギャルは走るのをやめた。


「お前なんなんだよ!」とギャルはキャロラインに向かって叫んだ。「なんでアチキがモンスターだってわかった? 魔族の言葉を突然喋るしよー、ホントなんなんだよ! 馬鹿な同族か? いや、やっぱり匂いは人間だな……、もうなんなんだよ本当にお前!」


「わたくし? わたくしはキャロライン=ドンスターよ」


「そんなこと聞いてねぇよ!! 何でアチキがモンスターだって分かったか聞いてるんだよ!」


「何でって……そりゃあ……」と言い、キャロラインは酔った頭で少し考え込む。


 これはキャロラインにとって絶好のチャンスだった。


 このモンスターなら間違いなく自分の通訳になれる。そうすれば、ここの人々が何を言っているか知ることができる。


 もしもここがどこかさえ分かればミッドランドに帰ることが出来るかもしれない。


 そうよ。だから、絶対にこいつを仲間にしなきゃ!


 よし、と思い思いつくままに口を動かす。


「わたくしは……、え~……わたくしは魔王ザザバエゾの友人としてこの地に仲間を探しに来たの。なんというか……、そうスカウトよ! スカウト! 高貴なるザザバエゾの親衛隊を募っているの。そこであなたを見つけたわけ! ひっく……」


 しゃっくりがでた……、だが構わずキャロラインは続ける。


「ひっく……、え~……っと……なんだったっけ……。あ、そうそう。わたしが何故あなたを分かったか、というと……。え~~っと……、え~……
 そう! わたくしはずっと魔族と共に生活してきたからよ。だからわたくしはこの目で見ただけで誰か魔族か分かるのよ」


「嘘ね」とギャルは冷静に言った。


「なんで嘘って思ったのよ」とキャロラインは唇を尖らせる。しかし、同時に焦る。


 おかしい。魔物はアホばっかりのはずなのに……、どうして分かったんだろう?


「それがアチキのスキルだからさ」とギャルは言った。「アチキのスキルはその人の言っている言葉が本当か嘘か分かるスキルなんだ。だから、お前の嘘もすぐに見破った! 分かったか人間! アチキの前で嘘は通用しない! 本当のことを言え! じゃなきゃ仲間に喰わせるぞ!」


「ちょっと、ちょっとお待ちになって……、その言葉本当なの?」


「嘘かどうかあんたが確かめてみりゃあいい。アチキには全部分かるから」


 ……これは……ひょっとして……


「ほら! 吐けよ人間! 本当のことを言え!」


 これは……ひょっとして……とんでもなくツイているのかもしれない、とキャロラインは思った。


 キャロラインはすぅーっと息を吸い込み、そして真っすぐガングロギャルの目を見据えていった。



「あなたの望みを言いなさい」



「だから、言っただろ! 何でアチキがモンスターか分かったか説明することがアチキの望みだ」


「そうじゃないでしょう?」とキャロラインはやさしく言った。「もっと大きな望みよ。日頃からこうなればいいなぁ、とか思っていることがあるでしょう? それを言いなさい」


「な、なんなんだよお前!」


「いいから言うのよ……、え~……っと」


「チルリンだ。アチキの名前はチルリン」


「チルリン。望みを言うのよ。あなたは人間社会に溶け込もうとしているわ。そして普通に暮らそうとしている。そこまで無理をする理由はなに? そこには何か理由があるはずよ。あなたなりの理由がね。違う? そこにあなたの願望があるはずだわ」


「そんなの……」とチルリンがこぼす。


「いいから言ってごらんなさい。もしもわたくしを仲間に食べさせるというのなら、ここでその願望を言っても構わないでしょう? ねぇ?」


 そこまでキャロラインが言うと、チルリンはバツが悪そうにつぶやいた。


「ファッションだよ」


「え?」


「だから、アチキはセンスのいい服を着たいんだ。もっと可憐な服を着て生きる喜びを感じたいんだ。モンスター仲間のほとんどがそういうものに興味関心がないからな。服を着ない種族が大半だし……
 でもアチキは美しい服が着たいんだ。もっともっとお洒落がしたいんだ! …………これが望みさ。兄弟たちには馬鹿にされるけど、アチキはそういうのが好きなんだ。さぁどうだ! 答えたぞ! 次はアチキの質問に答えろ!」


 すると、キャロラインの色っぽい唇が動く。


「その願い、わたくしが叶えてあげるわチルリン」


 チルリンの目が大きく見開かれる。


「……マジで言ってんのかよ」


「マジよ。あなたのスキルなら分かるでしょう? 違う?」


「いや……その……」とチルリンは口籠る。


「わたくしの名はキャロライン=ドンスター。ミッドランド国の女王よ。あなたの願いはわたくしが叶えてさしあげるわ。でも、そのためにはミッドランドへ帰らなければならないの。もしも、ミッドランド城に帰ることが出来たなら、あなたの望みをわたくしが全部叶えてあげるわ。絶対にね。

 どう? わたくしを手伝わない?
 どんな服だってあなたに買ってあげるわ。高すぎて手が出せないと思っていた服だって、何もかもが思いのまま……

 どうチルリン。あなたにとって悪い取引じゃないでしょう? 少なくともわたくしをどこかのモンスターに食べさせるよりは……、ずっとあなたにとって良い話であるはずよ?」


「で、でも……」


「危険だって言いたいんでしょう? 自分のことをモンスターだと知ってる人間がいるのは……、ふふふ。
 本当に肝心なところがおバカねチルリン。
 わたくしはこの土地の言葉を喋ることができないの。わたくしが喋ることができるのは魔族の言葉とミッドランドの言葉だけ。だから、例えばわたくしが周りの住民にあなたがモンスターだと告げ口したかったとしても、通じないのよ、言葉が。どう? わたくしの言葉に偽りはあるかしら? ひっく……、ないでしょう?
 それに考えてみてよ。わたくしにとってあなたはミッドランドに帰るために必要なのだから、ここの人間にあなたを売るわけがないでしょう? ねぇ、そうでしょう?」



 考えてみればその通りかもしれない、とチルリンは思った。それに悪い話じゃない。この人間の女を、その何とかって国に連れて行けばいいだけ。それだけで願いが叶う。この女は、嘘は言ってない。そう、嘘は……


 全身の毛穴が開くような感覚がチルリンの全身を突き抜けた。


 喜びだ。これは喜びの感覚だ、とチルリンは思った。


 頭の中に色んな服やアクセサリーが思い浮かぶ。


 そのすべてを手に入れることができると思ったら、思わず小躍りしそうになった。


 うん。これは悪い話じゃない。うん。うん!


「あのな! ……絶対に約束は守れよ! アチキのほしいのは服だけじゃなくてアクセサリーや、バッグとか靴とかおしゃれ全般だからな?」


 キャロラインは思わずはにかんだ。そういう確認をするチルリンを可愛いと思ったからだ。


「オーケーこれで契約成立ね! 今日からわたくしと、あなたは仲間よ。よろしくねチルリン」


 キャロラインとチルリンは握手をした。


 こうしてキャロラインは帰還のために最も必要な“通訳”を手に入れたのだった。
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