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5 間が悪いのは誰。
しおりを挟む月曜日。今日は朝から雨だ。
雨が嫌いだったはずの私は、雨が降る街をぼんやりと眺めている。ちなみに今は授業中だ。
昨夜、真野くんと過ごした喫茶店。
幸せだったなぁ。
あれからバスで帰宅した私は、お風呂の中である事に気がついた。
ピザと、パンケーキ。
あれって、私のための注文だったのだろうか。
私のお腹が鳴ったのを聞いて、それには触れずに、さも自分が食べるかのように多めに注文した。
最初から、シェアするつもりで。
そう考えるのは、自惚れだろうか。
だけど何度考えても、その結論に行き当たる。
そうでなくては、クリームが苦手な真野くんが、わざわざクリームたっぷりのパンケーキを頼む理由が無い。
この私の推測が確かならば。
真野くんはとんでもない紳士だ。
むしろ気遣いの鬼レベルだ。
鬼なんて失礼だね。
気遣いの上位精霊にしよう。
そこで私の中に、別の疑問が生じる。
真野くんは、間が悪い。
話を振られれば受け応えがちぐはぐだったり、その集団の場の空気やノリに馴染めなかったり。
それがクラスの共通認識だ。
実際私もそう思っていたし、そんな真野くんが可愛いとも思っている。
けれど、本当に間が悪いのだろうか。
今日はその観点から、じっくりと真野くんを見てみよう。
昼休み。
クラスメイトがそれぞれ机を寄せ合って、お弁当を広げる。私も友達の広瀬と向かい合っている。
真野くんは……一人だった。
一人でパンを食べながら、本を読んでいる。
そういえば、真野くんが誰か特定の相手と仲が良いところを見たことは無いかも。
ちょっとだけ浮いた存在、なのかな。
まあ、そんなことでは真野くんの魅力はビクともしないけどね。
「ねえ、さっきから真野くんの方ばっかり見てない?」
ずずいと顔を寄せる広瀬に指摘されて、我に返る。
ていうか広瀬、大きいな。柔らかそうなお肉が二つ、制服に包まれて机の上に乗っかってる。
決してうらやましい訳じゃない。私だって、そこそこあるし。こないだCにランクアップしたし。
広瀬の大きな胸と自身を比較しつつ、ぶんぶんと首を振る。
「そ、そんなことないって」
「いや、あるでしょ」
否定を否定された。哀しい。
でも、仕方ないか。事実だし。あとやっぱ、少しだけうらやましい。
「久保ってさ、真野くんが好きなん?」
「な、な、なーにいってんのかな広瀬は」
「隠さなくてもいいって」
顔面温度が上昇する。
火照る、ほてる。ホテルって、なんかえっちぃ響き。
「で、どうなのよ久保」
「ま、まあ、すき、かな」
「やっぱりねー」
なんと、気づかれていた、だと。
さすがは我が級友。侮れない。
「でさ、真野くんのどこが好きなの?」
「全部話すと明日までかかるけど、いい?」
「へー、そんなに好きなんだぁ」
好きというか、なんというか。
見ているだけで幸せな気持ちになるし、話が出来たら飛び上がりたくなる。
昨夜なんて、家に帰っても脳内は真野くん一色だったし。
お母さんに「ニヤニヤしてる」って言われたし。
「ところでさ、真野くんって間が悪いとか空気読めないって言われてるじゃん」
「まあ、そうだね」
「でも、あたしにはそうは思えないんだよね」
お?
同志出現かな?
「な、なんでそう思うの?」
私は、同意せずに泳がせることにした。
さあ泳げ。私の手のひらの中でバタフライで泳ぐのだ広瀬よ!
「いや、だって。見てりゃ分かるって。周りの男子がガキなだけじゃん。どう見ても」
お、広瀬選手いい先制攻撃だ。全面的に同意しか出来ない攻撃だー。
もっといったれ。
いったれいったれ!
「真野くんって、大人しいから目立たないけど、結構女子には人気あったりするんだよ」
「え」
「だってさ。物静かだし、大人っぽいし。頭も良いし」
なにぃ!?
広瀬キサマ敵だったのか!
謀ったな!
「ひ、広瀬も、好きなの?」
「まっさかぁ。親友の想い人を取るようなマネはしないから、安心して」
「ひ、広瀬ぇ~」
「おーおー、よしよし」
広瀬に両手を伸ばすと、優しく握り返してくれる。
それにしても、真野くんの良さを分かっている女子が私以外にもいるとは。
理解者がいるのは嬉しいけど、なんか悔しい。
五時限目以降も、真野くんを見続けた。
いつもやってることだけど、いつもは気持ちは違う。
あの日あの時、私は知らない真野くんを見た。
だから、もっと知りたい。
もっともっと、私の知らない真野くんを見てみたい。
いつもの妄想なんかじゃ、足りないんだ。
彼を、知りたい。
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