真野くんは間が悪い。

若葉エコ

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2 朝の教室でも間が悪い。

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 残念な結果に終わった定期テスト返却が終了して、季節は梅雨を迎えた、朝。
 これからの約一ヶ月半は、雨に怯える生活が始まる。

 雨の何がそんなに怖いのかって?
 それはもちろん、透けブラですよ。

 我が校の夏服は、白いブラウスにネクタイ、それに指定のブリーツスカート。
 指定のサマーニットもあるけれど、私にはほんの少しだけ胸元がきつい。

 そうなると上はブラウスになるのだけど、ここで問題が発生する。
 そう、背中に浮かぶブラ線。
 これって結構恥ずかしい。
 透けないようにベージュのブラをすれば良いのかもしれない。
 けれど見ようによっては、
『あれ、あいつノーブラ?』
 という事態に陥りかねない。
 そ、それに、もしもって時があるかも、しれないし。
 もちろん真野くんは紳士だから、そんなこと急にするとは思えないけど。
 というか、そもそもそういう間柄じゃない、けど。

 湿っぽくなっちゃダメ。
 ただでさえ梅雨時なんだから、こんな湿っぽい顔してたら真野くんに合わせる、いや見てもらう顔がない。

 よし、これにしよう。

 結局私は、透けても可愛く見えるであろう、パステルグリーンに刺繍ししゅうをあしらったブラを着用した。

 んー、やっぱり少しきつい。Eカップじゃもう無理かなぁ。
 やだなぁ。目立つし。
 でも、真野くんも見てくれるかもしれないし。

「いってきまーす」

 ジャムトーストを口に押し込んで身支度を整え、いつもより三十分早く家を出る。
 駅まで自転車で行き、私鉄に乗って三駅。
 高校の最寄りの駅を出ると、さすがに制服姿がちらほら見える。
 だけど、いつもよりずっと少ない。

 今日は日直当番。
 それも、真野くんとの初めての日直なのだ。
 そりゃあ気合いも入るってもんです。
 昇降口から教室までも、気合いのダッシュ。

 よし、まだ教室には誰もいない。
 今のうちに頑張って、少しでも真野くんの負担を減らさなきゃ。
 真野くんの家は遠いから、少しでも楽をしてほしい。

 えっと、まずは黒板拭き……え。
 もうピッカピカになってる。
 じゃ、じゃあ次は花瓶の水を……あれ。
 綺麗な水が入ってる。

 もしかして、まさか。

 キョロキョロしていると、教室の扉が開いた。

「あ、おはよう、久保さん」

 しまったぁあああああ!
 真野くんの方が早く来てた!

「う、うん。おはよう」

 慌てて髪を整えて、挨拶を返す。

「ごめんね、真野くん」
「ううん。ちょっと早く来過ぎちゃったから」

 はわ、はわわ。
 なんて優しいのだろう。もう真野くんに「優しさ」って看板つけて、国立科学博物館に展示したい!

「あれ、久保さん。襟のところ」
「え、えっ、えっ?」

 慌てて襟を触って確かめると、ベチョッとした感触。

「ジャムかな」

 は、恥ずかしい。
 もう、もうもう、私の馬鹿。
 ブラ気にする前に、もっとちゃんとしなさいよっ。
 あーもうお嫁に行けない。
 かくなる上は、真野くんに……へひひ。

「ティッシュで、取れる?」

 優しい笑顔でティッシュを差し出す真野くん。
 いや、きっとジャムつけて全力疾走してきた私を見て笑ってるんだ。
 でも、朝から二人きりで真野くんの笑顔を見られた。
 だから今日は良い日!

 と、とりあえずジャム拭かなきゃ。
 コンパクトの鏡でジャムのついた場所を確認する。
 うわ、ここかぁ。
 襟を引っ張りながら拭かないと綺麗にならないじゃん。

「鏡、持っててあげる」

 またまた真野くんの優しさスパーク!
 とろけそう。

「お、お願い、しゅましゅ……」

 真野くんに鏡を持ってもらい、左手で襟を引っ張って右手で拭く。
 真野くん、良い匂い。 
 香水やコロンではない、不思議な香り。
 いっそこのまま、誰も来なければ、いいな。

 ガララララ

「うわっ、真野と久保がイチャイチャしてるぞ!」

 よりによって、クラスで一番うるさい男子が教室に入ってきた。

 ──ちっ。
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