19 / 47
聖女達は悲しみを乗り越えて
第19話 お姉ちゃんの威厳
しおりを挟む
「それじゃお姉ちゃんはクッキーの生地を作って、私とユフィお姉ちゃんはスコーンの方をつくるから」
ソルティアルに戻ってから2日目、今日は朝からお屋敷の厨房を借りてのお菓子作り。
本当は領内の観光って考えていたんだけれど、もともとソルティアルには観光が出来るスポットもなければ私自身それほど詳しい訳でもなく、更にユフィを連れ出す=騎士団の護衛となってしまう為、結局お屋敷の庭園を借りてお茶会を行う事なった。
それが何故自らおかし作りをしているかといえば、話を聞いたリィナが『それじゃ私がクッキーを焼くね』と言ってくれ、更にその話を聞いたユフィが『私もお手伝いしていいですか』と言い出したので、姉の座の危険を感じた私が『リィナにお姉ちゃんって呼ばれたくば、私より美味しいお菓子を作ってみなさい!』と言ってしまったので、現在こんな感じになってしまったと言うわけだ。
「お姉ちゃん、ちゃんと測ってから材料を入れてよね。前みたいに薄力粉を一袋とか絶対にしちゃダメだよ」
私がボウルに材料を投入しようとしていた矢先、リィナが何故か冷たく私に叱ってくる。
「わ、分かってるわよ。これでもご近所さんから料理の天才、爆裂ティナちゃんって恐れられてたんだからね」
まさに袋ごと投入しようとしていたところを止められ、寸前で思いとどまる。
私の二つ名を聞いいたリィナが何故か冷たい視線を送ってくるが、こんなところで怯えていては爆裂ティナちゃんの名が廃ってしまう。ここはひとつ姉の威厳を保つ為に私はやれば出来る子ってところを見せつけなければならない。
決してユフィ対抗しているわけではない、ないったらない。
「ティナってお菓子まで作れるんですね、私てっきり不器用さんだと思っていました」
ブフッ、ユフィそれ直球すぎ! 本人に悪気はないんだろうけど、流石にちょっと失礼じゃないかな。
「わ、私だってお菓子の一つや二つぐらいは出来るんだからね」
年上の威厳を見せる為、胸を張って威張ってみるが「おねえちゃんお願いだから私のいないところでは絶対キッチンに立たないでよね」と、リィナに冷たくあしらわれ、落ち込んでしまう私。
うぅ、しくしく。お母さんリィナが冷たいです。
気を取り直してクッキーの生地作り。
今回は少し多めに作るので薄力粉600g、バター300g、お塩20g投入!
「ってお姉ちゃんそれ塩!」
「へ?」
ザザザーーッ
「ちょっと、もう何してるのよ」
何故かリィナが私を非難してくる。
「何かいけなかった? ちゃんと測って入れたよ」
私は学習する子、リィナに言われたのでちゃんとグラムを測ってから入れたので何も間違っていないはず。これで叱られるのはちょっと腑に落ちないわね。
「そうじゃなくて、今お塩を入れたよね」
「えっ、ダメなの?」
「ダメに決まってるよー」
「だって、塩って砂糖の親戚みたいなもんでしょ? お母さんだってそう言ってたもの」
以前お母さんはこんな事を言っていた、料理は考えるんじゃない感じるんだ! って。
「お母さんの言う事を信じちゃダメだよ、お父さんからも何時も叱られてたでしょ」
「で、でもね。お母さんて凄い人なのよ。そんな人が言った事を信じるなと言われても……」
「もういい、お姉ちゃんは石窯の方を見ていて。絶対食材を触っちゃダメだからね」
うぅ、しくしく。お父さんリィナが冷たいです。
仕方なく石窯の様子を見る事になった私。
こんな事じゃユフィにも示しがつかないわ。あの子ったらリィナと楽しそうにおしゃべりしながら生地を捏ねているのよ、このままじゃ姉の座も奪われちゃうじゃない。
よし、石窯の温度を一気に上げて姉の威厳を見せつけてあげるわ。
確か空気を送り込むとよく燃えるのよね。心の中で精霊さんにお願いして……
「ふぅーーー!」
ゴボーーーーッ!!
「きゃーーー」
「お、お姉ちゃん何してるのよ!!」
「ケホケホ、ちょっと火力を上げようと思って精霊さんにお願いを……」
「お母さんと同じ事しないでよー! もう、お姉ちゃんは何もしなくていいから、部屋の外で待っていて!」
しゅん。
「ライム、リィナが冷たいよぉ」
「えっと、自業自得のような気がしちゃいます」
しくしく
「ん? 何やってんだこんな所で」
厨房の外で一人いじけていたら、たまたま通りがかったクラウス様に声をかけられた。
「リィナに追い出されちゃったよぉー」
「ふ、ふはははは、そりゃリィナも怒るだろう。普通塩と砂糖は間違えねぇわな」
話を聞き終えたクラウス様は慰めるどころか目の前で大笑いされてしまい、更に落ち込んでしまう可哀想な私。
ぐすん、だってお母さんが塩は砂糖の親戚だって言ったんだもん。
「まぁ丁度いいや、少し時間いいか? 昨日話していた事ちょっと聞きたいんだ」
「あ、はい。私もちょっと話したい事があったので」
昨日は到着したばかりって事もあり、夜はすぐに寝ちゃったのよね。それにエステラ様の件もあるので一度クラウス様に相談しようと思っていたんだ。
「そんじゃまずは礼から言わなきゃな」
場所をクラウス様の書斎に変え、最初に出てきた言葉がこれだった。
「お礼ですか? 聖女候補生の事は私が望んだ事ですので、今更お礼なんて」
叔母の件は話していないが、家を取り戻すために金貨100枚が必要な事は伝えているので、今更お礼など言ってもらうような覚えは何もない。
「いや、そっちじゃなくて王女殿下を助けた謝礼をこっちに回してくれたんだろ?」
あっ、そう言えばそんな事もあったわね。もう一ヶ月前の事だったからすっかり忘れていたわ。
「あれのお陰で水田工事に着手出来たんだ、感謝するぜ」
「いえいえ、どうせ私一人じゃ使えませんし、国民の税金をそんな理由で貰うわけにはいきませんので」
どうやらあのお金はソルティアル領のお役に立てたようだ。
「しっかし友達つくっていいようにしてくれとは言ったが、まさか王女殿下と友達になっちまうとはな」
「あはは、自分でも不思議な気分です」
そう言えばユフィと友達になったのって、お母さんが王妃様の親友って分かる前だったわよ。遅かれ早かれユフィとは友達になっていたのかもしれないが、今更ながら大それた事をしたもんだ。
「それで、話は変わるがエステラから話を聞いたんだろ?」
一通りの報告が終わり一息ついた所で昨日出来事に話が変わった。
「はい」
「で、何で断った? こう言っちゃ何だが悪い話じゃないと思うんだが」
「すみません、身に余るご好意だとは思っておりますが……」
「何も養子になれって言うつもりはねぇんだ、子爵の爵位は姉貴の息子に継がせればいいだけだからな。自分で言うのもなんだが、悪い条件じゃねぇだろ? 別に暮らしていく途中で嫌になれば出ていけばいい、それでもダメなのか?」
そこまで言って下さるのは正直嬉しい、だからこそお二人にご迷惑をお掛けしてしまうと思うと、どうしても良い返事をする事が出来ないのだ。
「まぁ、無理強いをするつもりなんて別に無いんだ。ただ、納得出来る理由を聞かねぇとエステラがな。昨日から随分落ち込んでしまって元気がねぇんだよ」
やっぱりそうか、私が一番気にしていた事。
昨日あれからエステラ様の様子がおかしかった。私たちの前では明るく振舞っておられたけれど、何処か少しよそよそしかったんだ。
「これは俺だけ考えだが、嬢ちゃんの出生に関わってるんじゃねぇのか?」
ピクッ
「これでも一応貴族の端くれだ、嫌でもいろんな貴族たちとの付き合いもやらなきゃ行けねぇからな。だから分かるんだよ、嬢ちゃん達が普通の平民じゃねぇって事もな。どうやら妹の方は何も知らないようだが、あんたは聞いてるんじゃねぇのか? 亡くなった両親から」
成り行きとはいえ、ここまで関わらせてしまったんだ。エスニア様の事もあるのでこのまま黙っておくと言う事ももう出きないだろう。
「分かりました、ただ誰にも口外しないって約束してもらえますか?」
「あぁ、分かってる」
私は意を決して語り出す、お母さん達の話を。
「私達姉妹にはフランシュヴェルグ家の血が流れています」
「ったぁ、よりにもよって侯爵家かよ。しかも父方が二大公爵家の一角とはまたえらい大物が出てきたもんだ」
話を聞き終えたクラウス様が片手で額を押さえながら苦悶している。流石に豪快なクラウス様で手に余ってしまうのだろう。
「しかしこれで納得ができたぜ、そりゃ迂闊に返事が出来ないわな」
「すみません、ここに来た時には侯爵家の血が流れているって事しか知らなかったもので」
私だって王妃様と聖女様に会うまで、お母さんの事もお父さんの事も何も知らなかったんだ。
「それじゃフランシュヴェルグ家の方が嬢ちゃん達を引き取ってくれるのか?」
「えっ? どちらにも頼るつもりはありませんよ?」
クラウス様には両親の出身と家出をした事、それとお母さんが聖女候補生だった事で、王妃様と聖女様にバレてしまったところまで説明した。
それが何故フランシュヴェルグ家が私を引き取る事につながるのだろう。
「おいおい、まさか両家に嬢ちゃん達の事伝えてないんじゃねぇよな?」
「? 伝えてませんけど?」
「マジかよ、フランシュヴェルグ家って言えば王家の血筋じゃねぇか、しかも行方不明のご令嬢って言えば次期当主の方だろ? 今のご当主は行方不明の娘に後を継がす為に今でも現役を貫いてるって話だぜ」
「は?」
今なんて? 自分でも飛びっきり間抜けな声が出てしまった気がするが、この際軽く見逃して欲しい。
ちょっとまって、私そんな話聞いた事がないんですが!
「王妃様に身バレしてんだろ? 何も聞いてないのか?」
「えっと、内緒にして欲しいと言っただけですが……」
「バカか、そんな事出来るわけねぇだろう」
うぅ、バカっていわれたぁ。だって内緒にしてくれるって言ったもん。ぐすん
でもクラウス様の話が本当なら、やっぱりお祖父さんはお母さんの事を怒っていないって事? それじゃ叔母さんが言ってた話って一体……
「ったく、あの王妃の事だからそのうち偶然を装ってバッタリ、なんて事になるんじぇねぇか」
あ、ありえそうで妙に怖いんですが。
「ど、どうしたらいいんですか!?」
「潔く侯爵家に戻って爵位を継ぐんだな」
ひ、ひどい。クラウス様に助けを求めたらバッサリ切り捨てられました。
うぅ、王妃様、約束守ってくださってますよね?
ソルティアルに戻ってから2日目、今日は朝からお屋敷の厨房を借りてのお菓子作り。
本当は領内の観光って考えていたんだけれど、もともとソルティアルには観光が出来るスポットもなければ私自身それほど詳しい訳でもなく、更にユフィを連れ出す=騎士団の護衛となってしまう為、結局お屋敷の庭園を借りてお茶会を行う事なった。
それが何故自らおかし作りをしているかといえば、話を聞いたリィナが『それじゃ私がクッキーを焼くね』と言ってくれ、更にその話を聞いたユフィが『私もお手伝いしていいですか』と言い出したので、姉の座の危険を感じた私が『リィナにお姉ちゃんって呼ばれたくば、私より美味しいお菓子を作ってみなさい!』と言ってしまったので、現在こんな感じになってしまったと言うわけだ。
「お姉ちゃん、ちゃんと測ってから材料を入れてよね。前みたいに薄力粉を一袋とか絶対にしちゃダメだよ」
私がボウルに材料を投入しようとしていた矢先、リィナが何故か冷たく私に叱ってくる。
「わ、分かってるわよ。これでもご近所さんから料理の天才、爆裂ティナちゃんって恐れられてたんだからね」
まさに袋ごと投入しようとしていたところを止められ、寸前で思いとどまる。
私の二つ名を聞いいたリィナが何故か冷たい視線を送ってくるが、こんなところで怯えていては爆裂ティナちゃんの名が廃ってしまう。ここはひとつ姉の威厳を保つ為に私はやれば出来る子ってところを見せつけなければならない。
決してユフィ対抗しているわけではない、ないったらない。
「ティナってお菓子まで作れるんですね、私てっきり不器用さんだと思っていました」
ブフッ、ユフィそれ直球すぎ! 本人に悪気はないんだろうけど、流石にちょっと失礼じゃないかな。
「わ、私だってお菓子の一つや二つぐらいは出来るんだからね」
年上の威厳を見せる為、胸を張って威張ってみるが「おねえちゃんお願いだから私のいないところでは絶対キッチンに立たないでよね」と、リィナに冷たくあしらわれ、落ち込んでしまう私。
うぅ、しくしく。お母さんリィナが冷たいです。
気を取り直してクッキーの生地作り。
今回は少し多めに作るので薄力粉600g、バター300g、お塩20g投入!
「ってお姉ちゃんそれ塩!」
「へ?」
ザザザーーッ
「ちょっと、もう何してるのよ」
何故かリィナが私を非難してくる。
「何かいけなかった? ちゃんと測って入れたよ」
私は学習する子、リィナに言われたのでちゃんとグラムを測ってから入れたので何も間違っていないはず。これで叱られるのはちょっと腑に落ちないわね。
「そうじゃなくて、今お塩を入れたよね」
「えっ、ダメなの?」
「ダメに決まってるよー」
「だって、塩って砂糖の親戚みたいなもんでしょ? お母さんだってそう言ってたもの」
以前お母さんはこんな事を言っていた、料理は考えるんじゃない感じるんだ! って。
「お母さんの言う事を信じちゃダメだよ、お父さんからも何時も叱られてたでしょ」
「で、でもね。お母さんて凄い人なのよ。そんな人が言った事を信じるなと言われても……」
「もういい、お姉ちゃんは石窯の方を見ていて。絶対食材を触っちゃダメだからね」
うぅ、しくしく。お父さんリィナが冷たいです。
仕方なく石窯の様子を見る事になった私。
こんな事じゃユフィにも示しがつかないわ。あの子ったらリィナと楽しそうにおしゃべりしながら生地を捏ねているのよ、このままじゃ姉の座も奪われちゃうじゃない。
よし、石窯の温度を一気に上げて姉の威厳を見せつけてあげるわ。
確か空気を送り込むとよく燃えるのよね。心の中で精霊さんにお願いして……
「ふぅーーー!」
ゴボーーーーッ!!
「きゃーーー」
「お、お姉ちゃん何してるのよ!!」
「ケホケホ、ちょっと火力を上げようと思って精霊さんにお願いを……」
「お母さんと同じ事しないでよー! もう、お姉ちゃんは何もしなくていいから、部屋の外で待っていて!」
しゅん。
「ライム、リィナが冷たいよぉ」
「えっと、自業自得のような気がしちゃいます」
しくしく
「ん? 何やってんだこんな所で」
厨房の外で一人いじけていたら、たまたま通りがかったクラウス様に声をかけられた。
「リィナに追い出されちゃったよぉー」
「ふ、ふはははは、そりゃリィナも怒るだろう。普通塩と砂糖は間違えねぇわな」
話を聞き終えたクラウス様は慰めるどころか目の前で大笑いされてしまい、更に落ち込んでしまう可哀想な私。
ぐすん、だってお母さんが塩は砂糖の親戚だって言ったんだもん。
「まぁ丁度いいや、少し時間いいか? 昨日話していた事ちょっと聞きたいんだ」
「あ、はい。私もちょっと話したい事があったので」
昨日は到着したばかりって事もあり、夜はすぐに寝ちゃったのよね。それにエステラ様の件もあるので一度クラウス様に相談しようと思っていたんだ。
「そんじゃまずは礼から言わなきゃな」
場所をクラウス様の書斎に変え、最初に出てきた言葉がこれだった。
「お礼ですか? 聖女候補生の事は私が望んだ事ですので、今更お礼なんて」
叔母の件は話していないが、家を取り戻すために金貨100枚が必要な事は伝えているので、今更お礼など言ってもらうような覚えは何もない。
「いや、そっちじゃなくて王女殿下を助けた謝礼をこっちに回してくれたんだろ?」
あっ、そう言えばそんな事もあったわね。もう一ヶ月前の事だったからすっかり忘れていたわ。
「あれのお陰で水田工事に着手出来たんだ、感謝するぜ」
「いえいえ、どうせ私一人じゃ使えませんし、国民の税金をそんな理由で貰うわけにはいきませんので」
どうやらあのお金はソルティアル領のお役に立てたようだ。
「しっかし友達つくっていいようにしてくれとは言ったが、まさか王女殿下と友達になっちまうとはな」
「あはは、自分でも不思議な気分です」
そう言えばユフィと友達になったのって、お母さんが王妃様の親友って分かる前だったわよ。遅かれ早かれユフィとは友達になっていたのかもしれないが、今更ながら大それた事をしたもんだ。
「それで、話は変わるがエステラから話を聞いたんだろ?」
一通りの報告が終わり一息ついた所で昨日出来事に話が変わった。
「はい」
「で、何で断った? こう言っちゃ何だが悪い話じゃないと思うんだが」
「すみません、身に余るご好意だとは思っておりますが……」
「何も養子になれって言うつもりはねぇんだ、子爵の爵位は姉貴の息子に継がせればいいだけだからな。自分で言うのもなんだが、悪い条件じゃねぇだろ? 別に暮らしていく途中で嫌になれば出ていけばいい、それでもダメなのか?」
そこまで言って下さるのは正直嬉しい、だからこそお二人にご迷惑をお掛けしてしまうと思うと、どうしても良い返事をする事が出来ないのだ。
「まぁ、無理強いをするつもりなんて別に無いんだ。ただ、納得出来る理由を聞かねぇとエステラがな。昨日から随分落ち込んでしまって元気がねぇんだよ」
やっぱりそうか、私が一番気にしていた事。
昨日あれからエステラ様の様子がおかしかった。私たちの前では明るく振舞っておられたけれど、何処か少しよそよそしかったんだ。
「これは俺だけ考えだが、嬢ちゃんの出生に関わってるんじゃねぇのか?」
ピクッ
「これでも一応貴族の端くれだ、嫌でもいろんな貴族たちとの付き合いもやらなきゃ行けねぇからな。だから分かるんだよ、嬢ちゃん達が普通の平民じゃねぇって事もな。どうやら妹の方は何も知らないようだが、あんたは聞いてるんじゃねぇのか? 亡くなった両親から」
成り行きとはいえ、ここまで関わらせてしまったんだ。エスニア様の事もあるのでこのまま黙っておくと言う事ももう出きないだろう。
「分かりました、ただ誰にも口外しないって約束してもらえますか?」
「あぁ、分かってる」
私は意を決して語り出す、お母さん達の話を。
「私達姉妹にはフランシュヴェルグ家の血が流れています」
「ったぁ、よりにもよって侯爵家かよ。しかも父方が二大公爵家の一角とはまたえらい大物が出てきたもんだ」
話を聞き終えたクラウス様が片手で額を押さえながら苦悶している。流石に豪快なクラウス様で手に余ってしまうのだろう。
「しかしこれで納得ができたぜ、そりゃ迂闊に返事が出来ないわな」
「すみません、ここに来た時には侯爵家の血が流れているって事しか知らなかったもので」
私だって王妃様と聖女様に会うまで、お母さんの事もお父さんの事も何も知らなかったんだ。
「それじゃフランシュヴェルグ家の方が嬢ちゃん達を引き取ってくれるのか?」
「えっ? どちらにも頼るつもりはありませんよ?」
クラウス様には両親の出身と家出をした事、それとお母さんが聖女候補生だった事で、王妃様と聖女様にバレてしまったところまで説明した。
それが何故フランシュヴェルグ家が私を引き取る事につながるのだろう。
「おいおい、まさか両家に嬢ちゃん達の事伝えてないんじゃねぇよな?」
「? 伝えてませんけど?」
「マジかよ、フランシュヴェルグ家って言えば王家の血筋じゃねぇか、しかも行方不明のご令嬢って言えば次期当主の方だろ? 今のご当主は行方不明の娘に後を継がす為に今でも現役を貫いてるって話だぜ」
「は?」
今なんて? 自分でも飛びっきり間抜けな声が出てしまった気がするが、この際軽く見逃して欲しい。
ちょっとまって、私そんな話聞いた事がないんですが!
「王妃様に身バレしてんだろ? 何も聞いてないのか?」
「えっと、内緒にして欲しいと言っただけですが……」
「バカか、そんな事出来るわけねぇだろう」
うぅ、バカっていわれたぁ。だって内緒にしてくれるって言ったもん。ぐすん
でもクラウス様の話が本当なら、やっぱりお祖父さんはお母さんの事を怒っていないって事? それじゃ叔母さんが言ってた話って一体……
「ったく、あの王妃の事だからそのうち偶然を装ってバッタリ、なんて事になるんじぇねぇか」
あ、ありえそうで妙に怖いんですが。
「ど、どうしたらいいんですか!?」
「潔く侯爵家に戻って爵位を継ぐんだな」
ひ、ひどい。クラウス様に助けを求めたらバッサリ切り捨てられました。
うぅ、王妃様、約束守ってくださってますよね?
0
お気に入りに追加
965
あなたにおすすめの小説
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
騎士志望のご令息は暗躍がお得意
月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。
剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作?
だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。
典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。
従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~
銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。
少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。
ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。
陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。
その結果――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる