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終 章 ヴィクトリア編

第84話 サクラの想い出夏休み(2)

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「二人部屋でごめんね」
 やや強引すぎる手法で連れてこられたエンジウム公爵家所有の大きな別荘。部屋を案内してくださったのがルテア様本人と言うだけで心臓が破裂しそうだというのに、行き着いた先は家族が泊まれるようにとベットが二つ配置された大きなお部屋。
 まってまって、もしかすると私が暮らす家の総面積よりも広いんじゃないの? まさかここに私とボタンの二人だけで使えとか言わないよね?

「サ、サクラちゃん……」ぼそっ
 私と全く同じ考えに至ったのか、隣でボタンが震えながら耳元でなにやら囁いてくる。
 うまく口が回らないのか、内容までしっかりとは聞き取れなかったが、恐らく私たち庶民がこんな豪華な部屋は使えない、とでも言ってくれという意味であろう。
 今回ボタンは完全なる私の被害者。いや、まぁ、私も被害者といえば被害者なのだが、あの茶会で私がボタンの名前を出さなければまず間違いなくこの場にはいないだろう。
 その事に関しては多少なりとは責任を感じているし、このだだっ広い部屋で二泊すると言うのも心臓に悪すぎる。
 さすがに物置とまでは行かないまでも、メイドさん達が使う部屋ぐらいは用意されているだろう。
 ここは別荘という事だから、定期的に清掃へ訪れる事はあっても常時住まわれている方も居ないはずだし、何よりこの三日間は私たちだけだと聞いている。
 ならばここは丁重にお断りをし、私たちはメイドさん達が使用される部屋をお借りすればいい。
 もしお客様だからとか、せっかくの旅行だからとか言われれば、お姉ちゃんと同じ部屋がいいとでも言えば納得してもらえるだろう。お姉ちゃんもきっとメイド部屋を使わせてもらっているに違いないはずだから。

「あ、あのルテア様」
「ん? 何か足りないものとかあった?」
「あ、いえ、足りないものとかではなくてですね。この部屋を私たち……いえ、皆様のお部屋は別にあるのですよね?」
 うっかり私たち二人で使うのかと聞きかけ、慌てて対象を別に変えて尋ねてみる。この聞き方なら角も立たないし、自然な流れでお姉ちゃんと同じ部屋へと持っていけるだろう。

「うん、そうだよ。もしかしてアリスちゃんと同じ部屋がよかった?」
「い、いえ、滅相もないです。皆様方と同じ部屋なんてとても恐れ多くて」
「そう? そんなに気にしなくてもいいんだけどなぁ。でもまぁ、アリスちゃんはミリィちゃんと一緒じゃなきゃ寝られないからどの道ダメなんだけどね」
 思わず二人が一緒のベットで寝ているシーンを思い浮かべ、自然と身震いをしてしまう。
 それほど詳しくあのお二人の仲を知っている訳ではないが、一緒に育ってきたと言うのなら同じベットで寝ていると言うのも不思議ではない。ご本人は未だに一庶民だとか仰っているが、周りの雰囲気からすると明らかに特別扱いされている事は明白。
 もしかするとお姉ちゃんもその辺りのことは知っているのかもしれないが、流石にプロのメイドとなった今、例え家族であったとしても教えてくれる事はまずないだろう。

「え、えっとですね。この様な立派なお部屋を使わせて頂けるのは大変光栄なのですが、久々にお姉ちゃん……ココリナお姉様と一緒なので、出来れば同じ部屋がいいかなぁ、なんて思いまして……」
 ルテア様を不快にさせない様、丁寧に言葉を選びながらさりげなく話を誘導する。
 隣のボタンも自分だけ取り残されないように必死にアピール。

「ん~、確かにココリナちゃんはずっとお城勤めだもんね。こんな時ぐらい一緒の部屋がいいよね。うんわかったよ。それじゃココリナちゃんもこの部屋を使ってもらうね」
 ブフッ
 待って待って、それ違うから! それ私が求めていた答えじゃないから!!

「でもこの部屋のベットが2つしかないんだよね。アリスちゃん達みたいに一緒のベットって訳にもいかないから、ボタンちゃんは代わりにココリナちゃんの部屋へいく? カトレアさんって言う私のお世話をしてくれてるメイドさんと同じ部屋になるんだけれど、優しくてとってもいい人だから安心して」
 この時点で私はこのだだっ広い部屋を使う事が決定したが、ボタンは一人回避出来ると分かり、必死にルテア様の案に賛同する様何度も顔を上下する。
 普段なら見ず知らずの人と同じ部屋、というのは多少気が引けるが、同室するのがメイドの先輩というのならそこまで心配する事もないだろう。
 それに私たちスチュワートの生徒で、ココリナお姉ちゃんとカトレア先輩の名前は超有名。共にお城と公爵家からの指名が入ったのは、名門と言われるスチュワートでも初と言われれば、その凄さが多少なりとは分かってもらえるだろう。
 まぁドッキリネタとして、スチュワートからいきなり公爵夫人になった人がいると言う噂もあるが、此方は明らかにデマな部類だから誰も信じてはいない。

「それじゃ悪いんだけれど、ボタンちゃんはカトレアさんと同じ部屋でもいい? 話は私から通しておくから」
「は、はい! ぜぴお願いいたしすまつ!」
 自分だけメイド部屋に駆け込めると分かり、カミカミではあるがボタンが一人ルテア様の案に賛同する。
 ボタンからすれば何の予備知識もないままここに連れて来られたから、私よりよほど恐怖に感じているのだろう。
 まぁ、私は学園社交界とお城のお茶会で多少免疫はできているし、何より諸々の事情を知っているお姉ちゃんの存在はかなり大きい。ここは全てお姉ちゃんに責任を押し付け、なんとか三日間やり過ごそう。

 その後、ボタンは案内されるままにカトレアさんがおられる部屋へ向かい、代わりにお姉ちゃんがこの部屋へとやってきた。
 うん、ごめん私が甘かった。

 再びサロンで再会したボタンが涙目だった事は言うまでもあるまい。
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