79 / 119
終 章 ヴィクトリア編
第79話 サクラの苦難な一日(前編)
しおりを挟む
学園社交界当日、私は先生に連れられ初めてヴィクトリア学園の校舎へと足を踏み入れる。
「初めまして、サクラと申します。この度はご指名頂きありがとうございます」
予め考えていた挨拶を、アリス様の顔を見ないままで頭を下げる。
今目の前にいる人は正真正銘のお姫様、私とは身分も違えば立場も違う。もし私がここで失礼な行為でも起こそうものなら、お城勤めで頑張っているお姉ちゃんにも迷惑が掛かってしまう。
だけど考えれば考えるほど体がカチコチになり、頭を下げたポーズのまま思うように動けない。
どうしよう、どうすればいい? こんな時お姉ちゃんならどうするの?
「えいっ」ぷにっ
「にゃぁー!」
頭を下げたまま固まっていると、頬っぺをひとさし指で突かれてしまう。
思わず子猫が驚いた時のような声が出てしまったが、ここは私の心情を察してもらいたい。
「初めましてサクラちゃん。私がアリスだよ」
目の前にいる女性、アリス様の第一印象はなんていうか、絵本の中から飛び出してきたお姫様そのものだった。
見たこともないような綺麗な銀髪に、人を惹きつけそうな可愛らしい笑顔。意地悪な人だったらどうしよう、と思っていた私の考えなど綺麗さっぱり吹っ飛んでしまった。
こんな人が私と同じ世界にいるなんて、これは夢か何かなんだろうか。
「もう何やってるのよアリス、サクラが混乱しちゃってるじゃない」
声が聞こえる方を見ると、そこにも物語から飛び出して来たかと思えるほどの綺麗な女性。アリス様を可愛いと表現するなら、こちらの女性はキレイという言葉が相応しいだろう。
「ごめんごめん、だって昔のココリナちゃん見たいになっちゃってたから、ついね」
「まぁ、確かに懐かしくはあったわね」
えっ、ココリナちゃん見たいな?
突然出てきたお姉ちゃんの名前に混乱するも、次の瞬間カーテンの奥から現れたメイドさんを見て私の混乱は最高潮に達する。
「もう、ミリアリア様もアリスちゃんも。妹の前で私の消し去りたい過去を暴露しないでくださいよぉ」
この声、この顔、この香り。そこに居たのは間違えようのない、私が今一番会いたいと思っていた人物。
「おおおおお、お姉ちゃん!? ななな、何でここにいるの? って言うか、今ミリアリア様って言った!?」
「ん? どうしたのサクラ?」
待って待って、何でお姉ちゃんがこんなところにいるの? って言うか、この方がミリアリア様!?
お姉ちゃんみたいに貴族マニアでなくとも、この国の王女様の名前ぐらい私だって知っている。いまのが聞き間違いでなければこの人がミリアリア王女様という事だろう。
「ほら、やっぱりサクラが混乱しちゃったじゃないですか。だからミリアリア様の登場はもっと後にしてもらえませんかって言ったんですよぉ」
何やら検討違いの事を言葉にするお姉ちゃんに、思わず頭の中でツッコミを入れるも、それ以上にこの現状に理解が追いつけずパニック状態。第一お姉ちゃんの就職先ってお城だったよね?
普通お城勤めなら王女様の世話役もありえるんじゃない? なんて考える人もいるだろうが、それは余程世間を甘く見ている人なんだろう。
お城といえば国の中核。大勢の人が勤め、大勢の騎士様たちが日々訓練している。そういった人達を影から支えたり、周りのお世話をするのがお城勤めのメイドさんと言うわけだ。決して王女様とひょっこり学園に現れていい筈がない。
「いや、多分混乱させちゃってるのはココリナの方じゃない?」
「そんな事ありませんよぉー、私がサクラを混乱させちゃう訳がないじゃないですか。ね?」
いやいやいや、『そんな訳がないじゃない』的に首を傾げても、私が今混乱しているのはお姉ちゃんがここにいる事なんですが!
「おお、お姉ちゃん!」
「ん? どうしたのサクラ?」
「い、色々聞きたいことはあるんだけど、ここここ、こちらの方は、ミミミ、ミリアリア王女さまぁ?」
「んん? そうだけど? あぁ、大丈夫よサクラ、ミリアリア様もアリスちゃんも優しいから」
待って待って、何が大丈夫なのかとか、お二人が優しいからとかはこの際問題ではなく、何でお姉ちゃんが親しげにミリアリア様と話をしているの?
私の知識が間違えなければ王女様は勿論、ご指名してくださったアリス様でさえ、私たち庶民が気安く話しかけるなどまずあり得ない。それなのに今もお姉ちゃんは着付けの準備を進めながら、合間で二人と楽しそうに会話までしてしまっている。普通、メイドと主従関係ってこんなものじゃないよね? って言うか、ちゃんとこの状況を説明してよ!
「取りあえず、私の準備はいいから先に妹に説明してあげたら? どうせココリナの事だからお城で働いてるとしか言ってないんでしょ?」
正しくその通り。ミリアリア様が私の様子を見かねたのか、支度の準備に専念しているお姉ちゃんに言葉を投げかける。
「説明ですか? サクラ、お母さんから聞いてるでしょ? 私がミリアリア様にお仕えしてるって」
「ききき、聞いてないよぉーーーー!!」
思わずここがヴィクトリア学園の支度部屋だという事を忘れ、大声でお姉ちゃんに抗議してしまう。
お母さんからはお城に就職が決まって、家にも余り帰ってくるのは難しいとしか聞いていない。そもそも普通王女様の世話役に選ばれるには、数々の経験と実績があり、身元のしっかりしている上に、貴族からの紹介でもない限りまずあり得ないと授業で習った記憶がある。それなのに……
「って、ちょっとまって!……お姉ちゃんがスカウトされたのってお城じゃなくて王家!?」
「そうだけど? あれ、もしかしてお母さんから何も聞いてない? 別に口止めされている訳じゃないんだけどなぁ」
「ココリナのお母さんも私たちに気を使ってくれたんでしょ。王族に仕えているなんて近所で噂になれば、大騒ぎになるんじゃないかって」
確かにミリアリア様のおっしゃっている事は当然の事だろう。お城に仕えているってだけでも大騒ぎだったのに、実は王女様のメイドになってましたなんて知れたら、お姉ちゃんの仕事にも支障が出てしまう。
だからお母さんもお父さんも、お姉ちゃんが王女様に仕えているって事を隠していたんだ。
「ごめんねサクラ。今日は時間がないから説明できないけど、明日お母さんがお城に来るから、その時にサクラにも説明してもらうよう伝えておくね」
ブフッ
ちょっとまって、お母さんが明日お城に行く? それ何の冗談?
「お、お姉ちゃん。お母さんがなんでお城にいくのよ」
「ん? 何でって王妃様とのお茶会でしょ?」
ブフーーーーッ
コラコラコラ、私の知らないところで何がどうおかしな方向へと動いているのよ!
確かに2年ほどまえから黒塗りの豪華な馬車が家に来たかと思うと、着飾ったお母さんが一人出かけていく事はあった。
もちろん不思議な光景に尋ねた事もあったけど、その時は授業参観で出会ったママ会に呼ばれているという話だったし、同じ馬車にはお姉ちゃんの友達でもあったカトレアさんのお母さんも乗っていた。
だから大人のママ会ってこんなものなのかなぁ、って深くは考えなかったっていうのに…………
あれ? ママ会って事はママ友って事だよね?
「ねぇお姉ちゃん。お母さんがお城のお茶会に呼ばれているっていう事は、お姉ちゃんの学生時代のママ友って事だよね? それがどうして王妃様と繋がるの?」
王妃様と言えばミリアリア様のお母様。もちろんヴィクトリアとスチュワートは同じ敷地内にあるとは言え、校舎と校舎の間には木々が立ち並ぶ林で仕切られている。そこで知らない母親同士がバッタリ偶然にであえたとしても、いきなりママ友になれるとも考えられない。それじゃどうやってお母さんは王妃様に? そもそもお姉ちゃんと王女様にどういった接点があるの?
考えれば考えるほど疑問が浮かび上がる。そんな時、若干部外者気味になっていたアリス様が、何故か申し訳なさそうに私に話しかけてきた。
「あぁー、多分それ私のせいかも」
「そ、それは一体どういう意味でしょうか?」
恐る恐るアリス様に対して尋ねてみるも、返ってきた答えは益々私を窮地に追い込んでいく。
「お義母様がココリナちゃんのお母さんと出会ったのって、確か私の授業参観の時なの。それ以来お義母様がママ会と称して暇つぶしにお茶会を開くようになっちゃって……」
「まぁ、それは仕方がないんじゃないの? 母様もアリスの事をずっと心配していたし、聖女の仕事を姉様に譲ってからは毎日暇をもて遊ばしてるから、丁度いい話相手ができて良かったんじゃない?」
「……」
あ、あれ? アリス様のお母様がなんで授業参観で私のお母さんと出会うの? そもそも今の話でどうやって王妃様と繋がる?
「あぁ、言い忘れてたけど、アリスちゃんのお義母様は王妃様だよ。
アリスちゃんは去年までスチュワートに通っていて、私とは元同級生だったの」
私の疑問に素早く注釈をいれてくれるお姉ちゃん。
「あぁ、だからお姉ちゃんはアリス様の事を知っていて、お母さんも王妃様と知り合ったんだね」
あはは、なぁーんだぁ。アリス様とお姉ちゃんって元は同じ学園の同級生…………
「って、えぇーーーーー!?」
本日二度目、支度部屋に響き渡る私の声。
幸いこの部屋にいるのは私たちだけで、他の生徒もヘルプに来ているメイドさんの姿も見当たらない。もしかすると王女様に対する特別対応なのかもしれないが、今はこの状況に感謝したい。
「ちょっと、お姉ちゃんとアリス様が元同級生ってどう言う意味!? それにアリス様のお母様がどうして王妃様なのぉ!?」
たまらず疑問に思ってしまった事を言葉にする。
もしかして聞いてはならない事かもしれないが、ここまで来たらもう止められない。
「サ、サクラ。ちょっと落ち着いて」
「落ち着いてなんかいられないよ。お姉ちゃん一体スチュワートで何してたのよ! もしかして私たち家族に内緒で危ない仕事とかしてないよね!? 王女様を影から守る女性騎士なら許すけど、ご近所さんに知られるといけない遊びとかしてないよね!」
ぜはぁー、ぜはぁー。
興奮して、感情が一気に言葉となって飛び出してくる。
少々物語で憧れている女性騎士様の話がポロリと出たが、ここは私の乙女心を察して見逃して欲しい。
「お、落ち着いてサクラ。アリスちゃんにも言ったけど、お姉ちゃんは危ない遊びも仕事もしていないし、女性騎士はちゃんと他にいるから」
「いるんだ、女性騎士! じゃなくて、ちゃんと説明してよ!」
ここまで来ればツッコんだら負けの気がして、さらっと女性騎士のところは流し、その先を催促するようにお姉ちゃんに体当たりで迫る。
「え、えっとね。アリスちゃんはハルジオンって名乗っているけど、育ての親は国王様と王妃様なの。ちょっとその辺りは複雑だから説明できないんだけれど、お二人から凄く大切にされているのよ」
こ、国王様と王妃様に育てられてるぅ!?
貴族社会の事なんて私にはこれっぽっちもわからないけれど、こんな事って本当に実在する? いやいや、ふつう常識から考えてあり得ないでしょ。
でもお姉ちゃんはこの現実を受け入れて、アリス様もミリアリア様も特に隠し立てする様子も見当たらない。もしかして私の考えが古いだけ?
「まぁ、そんなわけだから今日一日よろしくね。サクラちゃん」
私の葛藤を知らずにとびっきりの笑顔を向けるアリス様。
こうして私の苦難な一日が幕を開けてしまったのだった。
「初めまして、サクラと申します。この度はご指名頂きありがとうございます」
予め考えていた挨拶を、アリス様の顔を見ないままで頭を下げる。
今目の前にいる人は正真正銘のお姫様、私とは身分も違えば立場も違う。もし私がここで失礼な行為でも起こそうものなら、お城勤めで頑張っているお姉ちゃんにも迷惑が掛かってしまう。
だけど考えれば考えるほど体がカチコチになり、頭を下げたポーズのまま思うように動けない。
どうしよう、どうすればいい? こんな時お姉ちゃんならどうするの?
「えいっ」ぷにっ
「にゃぁー!」
頭を下げたまま固まっていると、頬っぺをひとさし指で突かれてしまう。
思わず子猫が驚いた時のような声が出てしまったが、ここは私の心情を察してもらいたい。
「初めましてサクラちゃん。私がアリスだよ」
目の前にいる女性、アリス様の第一印象はなんていうか、絵本の中から飛び出してきたお姫様そのものだった。
見たこともないような綺麗な銀髪に、人を惹きつけそうな可愛らしい笑顔。意地悪な人だったらどうしよう、と思っていた私の考えなど綺麗さっぱり吹っ飛んでしまった。
こんな人が私と同じ世界にいるなんて、これは夢か何かなんだろうか。
「もう何やってるのよアリス、サクラが混乱しちゃってるじゃない」
声が聞こえる方を見ると、そこにも物語から飛び出して来たかと思えるほどの綺麗な女性。アリス様を可愛いと表現するなら、こちらの女性はキレイという言葉が相応しいだろう。
「ごめんごめん、だって昔のココリナちゃん見たいになっちゃってたから、ついね」
「まぁ、確かに懐かしくはあったわね」
えっ、ココリナちゃん見たいな?
突然出てきたお姉ちゃんの名前に混乱するも、次の瞬間カーテンの奥から現れたメイドさんを見て私の混乱は最高潮に達する。
「もう、ミリアリア様もアリスちゃんも。妹の前で私の消し去りたい過去を暴露しないでくださいよぉ」
この声、この顔、この香り。そこに居たのは間違えようのない、私が今一番会いたいと思っていた人物。
「おおおおお、お姉ちゃん!? ななな、何でここにいるの? って言うか、今ミリアリア様って言った!?」
「ん? どうしたのサクラ?」
待って待って、何でお姉ちゃんがこんなところにいるの? って言うか、この方がミリアリア様!?
お姉ちゃんみたいに貴族マニアでなくとも、この国の王女様の名前ぐらい私だって知っている。いまのが聞き間違いでなければこの人がミリアリア王女様という事だろう。
「ほら、やっぱりサクラが混乱しちゃったじゃないですか。だからミリアリア様の登場はもっと後にしてもらえませんかって言ったんですよぉ」
何やら検討違いの事を言葉にするお姉ちゃんに、思わず頭の中でツッコミを入れるも、それ以上にこの現状に理解が追いつけずパニック状態。第一お姉ちゃんの就職先ってお城だったよね?
普通お城勤めなら王女様の世話役もありえるんじゃない? なんて考える人もいるだろうが、それは余程世間を甘く見ている人なんだろう。
お城といえば国の中核。大勢の人が勤め、大勢の騎士様たちが日々訓練している。そういった人達を影から支えたり、周りのお世話をするのがお城勤めのメイドさんと言うわけだ。決して王女様とひょっこり学園に現れていい筈がない。
「いや、多分混乱させちゃってるのはココリナの方じゃない?」
「そんな事ありませんよぉー、私がサクラを混乱させちゃう訳がないじゃないですか。ね?」
いやいやいや、『そんな訳がないじゃない』的に首を傾げても、私が今混乱しているのはお姉ちゃんがここにいる事なんですが!
「おお、お姉ちゃん!」
「ん? どうしたのサクラ?」
「い、色々聞きたいことはあるんだけど、ここここ、こちらの方は、ミミミ、ミリアリア王女さまぁ?」
「んん? そうだけど? あぁ、大丈夫よサクラ、ミリアリア様もアリスちゃんも優しいから」
待って待って、何が大丈夫なのかとか、お二人が優しいからとかはこの際問題ではなく、何でお姉ちゃんが親しげにミリアリア様と話をしているの?
私の知識が間違えなければ王女様は勿論、ご指名してくださったアリス様でさえ、私たち庶民が気安く話しかけるなどまずあり得ない。それなのに今もお姉ちゃんは着付けの準備を進めながら、合間で二人と楽しそうに会話までしてしまっている。普通、メイドと主従関係ってこんなものじゃないよね? って言うか、ちゃんとこの状況を説明してよ!
「取りあえず、私の準備はいいから先に妹に説明してあげたら? どうせココリナの事だからお城で働いてるとしか言ってないんでしょ?」
正しくその通り。ミリアリア様が私の様子を見かねたのか、支度の準備に専念しているお姉ちゃんに言葉を投げかける。
「説明ですか? サクラ、お母さんから聞いてるでしょ? 私がミリアリア様にお仕えしてるって」
「ききき、聞いてないよぉーーーー!!」
思わずここがヴィクトリア学園の支度部屋だという事を忘れ、大声でお姉ちゃんに抗議してしまう。
お母さんからはお城に就職が決まって、家にも余り帰ってくるのは難しいとしか聞いていない。そもそも普通王女様の世話役に選ばれるには、数々の経験と実績があり、身元のしっかりしている上に、貴族からの紹介でもない限りまずあり得ないと授業で習った記憶がある。それなのに……
「って、ちょっとまって!……お姉ちゃんがスカウトされたのってお城じゃなくて王家!?」
「そうだけど? あれ、もしかしてお母さんから何も聞いてない? 別に口止めされている訳じゃないんだけどなぁ」
「ココリナのお母さんも私たちに気を使ってくれたんでしょ。王族に仕えているなんて近所で噂になれば、大騒ぎになるんじゃないかって」
確かにミリアリア様のおっしゃっている事は当然の事だろう。お城に仕えているってだけでも大騒ぎだったのに、実は王女様のメイドになってましたなんて知れたら、お姉ちゃんの仕事にも支障が出てしまう。
だからお母さんもお父さんも、お姉ちゃんが王女様に仕えているって事を隠していたんだ。
「ごめんねサクラ。今日は時間がないから説明できないけど、明日お母さんがお城に来るから、その時にサクラにも説明してもらうよう伝えておくね」
ブフッ
ちょっとまって、お母さんが明日お城に行く? それ何の冗談?
「お、お姉ちゃん。お母さんがなんでお城にいくのよ」
「ん? 何でって王妃様とのお茶会でしょ?」
ブフーーーーッ
コラコラコラ、私の知らないところで何がどうおかしな方向へと動いているのよ!
確かに2年ほどまえから黒塗りの豪華な馬車が家に来たかと思うと、着飾ったお母さんが一人出かけていく事はあった。
もちろん不思議な光景に尋ねた事もあったけど、その時は授業参観で出会ったママ会に呼ばれているという話だったし、同じ馬車にはお姉ちゃんの友達でもあったカトレアさんのお母さんも乗っていた。
だから大人のママ会ってこんなものなのかなぁ、って深くは考えなかったっていうのに…………
あれ? ママ会って事はママ友って事だよね?
「ねぇお姉ちゃん。お母さんがお城のお茶会に呼ばれているっていう事は、お姉ちゃんの学生時代のママ友って事だよね? それがどうして王妃様と繋がるの?」
王妃様と言えばミリアリア様のお母様。もちろんヴィクトリアとスチュワートは同じ敷地内にあるとは言え、校舎と校舎の間には木々が立ち並ぶ林で仕切られている。そこで知らない母親同士がバッタリ偶然にであえたとしても、いきなりママ友になれるとも考えられない。それじゃどうやってお母さんは王妃様に? そもそもお姉ちゃんと王女様にどういった接点があるの?
考えれば考えるほど疑問が浮かび上がる。そんな時、若干部外者気味になっていたアリス様が、何故か申し訳なさそうに私に話しかけてきた。
「あぁー、多分それ私のせいかも」
「そ、それは一体どういう意味でしょうか?」
恐る恐るアリス様に対して尋ねてみるも、返ってきた答えは益々私を窮地に追い込んでいく。
「お義母様がココリナちゃんのお母さんと出会ったのって、確か私の授業参観の時なの。それ以来お義母様がママ会と称して暇つぶしにお茶会を開くようになっちゃって……」
「まぁ、それは仕方がないんじゃないの? 母様もアリスの事をずっと心配していたし、聖女の仕事を姉様に譲ってからは毎日暇をもて遊ばしてるから、丁度いい話相手ができて良かったんじゃない?」
「……」
あ、あれ? アリス様のお母様がなんで授業参観で私のお母さんと出会うの? そもそも今の話でどうやって王妃様と繋がる?
「あぁ、言い忘れてたけど、アリスちゃんのお義母様は王妃様だよ。
アリスちゃんは去年までスチュワートに通っていて、私とは元同級生だったの」
私の疑問に素早く注釈をいれてくれるお姉ちゃん。
「あぁ、だからお姉ちゃんはアリス様の事を知っていて、お母さんも王妃様と知り合ったんだね」
あはは、なぁーんだぁ。アリス様とお姉ちゃんって元は同じ学園の同級生…………
「って、えぇーーーーー!?」
本日二度目、支度部屋に響き渡る私の声。
幸いこの部屋にいるのは私たちだけで、他の生徒もヘルプに来ているメイドさんの姿も見当たらない。もしかすると王女様に対する特別対応なのかもしれないが、今はこの状況に感謝したい。
「ちょっと、お姉ちゃんとアリス様が元同級生ってどう言う意味!? それにアリス様のお母様がどうして王妃様なのぉ!?」
たまらず疑問に思ってしまった事を言葉にする。
もしかして聞いてはならない事かもしれないが、ここまで来たらもう止められない。
「サ、サクラ。ちょっと落ち着いて」
「落ち着いてなんかいられないよ。お姉ちゃん一体スチュワートで何してたのよ! もしかして私たち家族に内緒で危ない仕事とかしてないよね!? 王女様を影から守る女性騎士なら許すけど、ご近所さんに知られるといけない遊びとかしてないよね!」
ぜはぁー、ぜはぁー。
興奮して、感情が一気に言葉となって飛び出してくる。
少々物語で憧れている女性騎士様の話がポロリと出たが、ここは私の乙女心を察して見逃して欲しい。
「お、落ち着いてサクラ。アリスちゃんにも言ったけど、お姉ちゃんは危ない遊びも仕事もしていないし、女性騎士はちゃんと他にいるから」
「いるんだ、女性騎士! じゃなくて、ちゃんと説明してよ!」
ここまで来ればツッコんだら負けの気がして、さらっと女性騎士のところは流し、その先を催促するようにお姉ちゃんに体当たりで迫る。
「え、えっとね。アリスちゃんはハルジオンって名乗っているけど、育ての親は国王様と王妃様なの。ちょっとその辺りは複雑だから説明できないんだけれど、お二人から凄く大切にされているのよ」
こ、国王様と王妃様に育てられてるぅ!?
貴族社会の事なんて私にはこれっぽっちもわからないけれど、こんな事って本当に実在する? いやいや、ふつう常識から考えてあり得ないでしょ。
でもお姉ちゃんはこの現実を受け入れて、アリス様もミリアリア様も特に隠し立てする様子も見当たらない。もしかして私の考えが古いだけ?
「まぁ、そんなわけだから今日一日よろしくね。サクラちゃん」
私の葛藤を知らずにとびっきりの笑顔を向けるアリス様。
こうして私の苦難な一日が幕を開けてしまったのだった。
1
お気に入りに追加
841
あなたにおすすめの小説
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
転生しても侍 〜この父に任せておけ、そう呟いたカシロウは〜
ハマハマ
ファンタジー
ファンタジー×お侍×父と子の物語。
戦国時代を生きた侍、山尾甲士郎《ヤマオ・カシロウ》は生まれ変わった。
そして転生先において、不思議な力に目覚めた幼い我が子。
「この父に任せておけ」
そう呟いたカシロウは、父の責務を果たすべくその愛刀と、さらに自らにも目覚めた不思議な力とともに二度目の生を斬り開いてゆく。
※表紙絵はみやこのじょう様に頂きました!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~
松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。
なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。
生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。
しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。
二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。
婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。
【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!
隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。
※三章からバトル多めです。
通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~
フルーツパフェ
ファンタジー
エレスト神聖国の聖女、ミカディラが没した。
前聖女の転生者としてセシル=エレスティーノがその任を引き継ぐも、政治家達の陰謀により、偽聖女の濡れ衣を着せられて生前でありながら聖女の座を剥奪されてしまう。
死罪を免れたセシルは辺境の村で便利屋を開業することに。
先代より受け継がれた魔力と叡智を使って、治療から未来予知、技術指導まで何でこなす第二の人生が始まった。
弱い立場の人々を救いながらも、彼女は言う。
――基本は何でもしますが、国家存亡の危機だけはお断りします。それは後任(本物の聖女)に任せますから
黒猫と異世界転移を楽しもう!
かめきち
ファンタジー
青年(転移前はおっさん)と黒猫の異世界転移物です。通勤中に黒猫を助けようとして異世界転移に巻き込まれたおっさんと、転移した黒猫の話です。冒険者になりのんびり異世界を楽しんでいければいいと思ってます。チートもありますが、どのような話になるかは進んでみないと分からないような状況ですが、よろしくお願いいたします。
更新は3日に1回程度は行なっていきたいと思います。
(諸事情により一時期更新が止まっておりました、出来るだけ続けていきたいと思っておりますので、よろしくおねがいいたします。)
小説を書く事が全くの初めてなので誤字脱字、読みにくい点、矛盾等があると思いますので、暖かくご指導いただければありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる