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第4話 わだかまりと後悔と
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「ミレーナの様子はどう?」
砦奪還に無事勝利し、外で戦っていた騎士達を迎え入れた。
私とカリナは労いを込めてミレーナに寄り添っていったのだが、どこか機嫌が悪かったのか大声で拒絶されその場から立ち去られてしまった。
「申し訳ございません、今は誰とも話したくないと言われ、私も近づく事を拒否されているんです。」
長年近くで寄り添っていたカリナにもこの対応となると、たった一年程度の付き合いの私では彼女にどう対応していいのかが分からない。
「全く情けないわね、血を分けた姉妹だというのに、あの子が今まで自分の立場に苦しんでいた事に気付いてあげられなかったのだから。」
「それは仕方がない事ではないですか、あの日以来ずっとローズ様、いえリリーナ様はミレーナ様の為に各地を飛び回り、散りじりになった騎士達と情報を集めるために頑張ってこられたのですから。むしろずっと近くにいた私の方が……」
カリナはそう私に言うと急に落ち込んでしまった。
私よりミレーナの近くにずっといたカリナの方が辛い気分なんだう、こんな時だというのにほんの少しだけ羨ましとさえ思ってしまった。
「ありがとうカリナ、あの子の事を心配してくれて……これからもあの子の支えになってあげてね。私はいずれこの地を去らなければ行けないのだから。」
****************
「なんですかそれ、そんなの疲れているに決まっているじゃないですか! 私にとっては今回が初陣なんです。疲れない方がおかしいでしょ!」
「……ごめんなさい。そうよね、私も気がつかなくて悪かったわ。カリナ、ミレーナを少し休ませてあげて。」
ローズさんがそう言って隣にいるカリナに話しかける、その行動がますます私を苛つかせてしまった。
「そんなに気を使わなくて大丈夫です。」
「でも今の貴方は心配だわ、これからこの解放軍を指揮していかなければならないから、もしもの事があってはいけないのよ。」
「何よそれ、『解放軍を指揮していかなければならない?』それじゃ私の心配をしているのじゃなくてこの軍の事を心配しているだけじゃない。もう放っておいてよ! 私がいなくなればローズさんがこの軍を指揮すればいいじゃない、私なんかより強くて、指揮官能力も高いんだから皆んなも喜んで付いていくわよ!」
「落ち着きなさいミレーナ、誰もそんな事言ってないじゃない。」
「放っておいてって言ってるでしょ! 私はローズさんの妹でも何でもないんだから!」
あぁ、何て事を言っちゃったんだろう、あんな事を言うつもりなんて全くなかったっていうのに。
私は一人砦に建てられた建物の4階テラスから壮大に広がる景色を眺めている。
ローズさんはただ私の事を心配してくれたってだけなのに、ついカリナと仲良くしている事に嫉妬してしまい、思ってもいない事を口走ってしまった。
私が本当の意味で友達といえる存在はこの世界でたった二人、カリナと叔父であったグレアムの娘セレスティナだけだ。
だけどセレスティナはグレアムが反逆して以来どうなったのかすら分かっていない。最悪の場合彼女と彼女の兄であるジェラルドとは戦場で対峙する事になるだろう、そうなれば友達はカリナだけとなってしまう。
それなのにカリナをローズさんに取られてしまうと考えてしまうなんて、全く自分の中にこんな黒いものが存在しているとは、驚きと後悔で自分が情けなくさえ思えてしまう。
「こちらにおいででしたか。」
「……貴方は?」
私が一人思いに更けっていると一人の女性が私の元に訪ねてきた。
「初めてお会いいたします、私は準の妹で雫申します。この度の戦いの最中ローズ殿に助けていただきました。今後は兄と共に貴殿の元でお力添えしたく、こうしてお願いに来たわけでございます。」
「準さんの?」
そういえば結局何一つ報告を受けていなかった事に初めて気がついた。危険な任務中に人助けまでしているんだから、全くローズさんの凄さを改めて思い知らされてしまう。
さっきはついローズさんがこの軍を指揮すればいいと言ってしまったが、それは強ち間違っていないのではないかと思っている。
「……ねぇ、一つ聞いてもいいかな? 貴方はローズさんの事どう思っている?」
「どう……ですか? そうですね、この度の戦いで感じただけなのですが、あの方はとても強い方だと思っています。」
「強い? ……そうね、確かに強いわね、槍術も魔法も私なんかと比べ物にならないぐらいに。」
「そうではございません。確かに戦う強さも兼ね備えておられますが、あの方は心が強いのです。誰かのために必死に成し遂げようとする心の強さ、周りの者を支え励ます強さ、そして他人を気遣う強さ……ですがあの方はそれを行うために自らを犠牲にされておられます。まるでこの戦いが終われば自分がどうなっても構わないように……。」
「……えっ?」
雫の言葉を聞いていると確かに思い当たる節が多くあった。ローズさんは常に私や騎士達の事をずっと支え気遣ってくれていた。両親を亡くし一人部屋で泣いていた時なんて何も言わずに私をずっと抱きしめてくれていた、まるで昔からの姉妹のように。
私はどこか彼女の温かみに甘えてしまっていたのかもしれない、そしてそれはこの戦いが終わった後もずっと続くものだと考えていたのだ。
時々思ってしまうのだ、戦いが終わったあと戦火まみれた領地を復興するのに、私の隣には常にローズさんがいてくれる、そんな光景を。
それなのにこの戦いが終わればローズさんがいなくなる? いや、もしかするとこの戦争で自らを犠牲にしてしまうかもしれない。
いままで全く考えた事がなかった言葉に私は大きな衝撃を受けてしまった。
よくよく考えればローズさんがいてくれる方が可笑しいのだ、彼女はただ両親に恩があり、ただ口約束で私の事を頼まれただけだ。それなのに何でずっと側にいてくれると思っていたのだろう……。
「ローズ殿は言っておられましたよ、ミレーナ様の力になってほしい、よろしく頼むと。」
「ローズさんが私の事を?」
「ええ、それはもう真剣な目で。」
「……そう……ですか。ねぇ、もう一つだけ聞いてもいいかな。この解放軍、私じゃなくてローズさんが指揮すればいいとは思わない? 別に自分の立場を放棄するとか言っている訳じゃないのよ、ただ一日でも早く領地を奪還するためにはその方がいいんじゃないかってね。その為なら別にお飾りの存在だって私は受けれられると思うのよ。」
「……その言葉をローズ殿が聞かれればさぞ悲しまれる事でしょう、最悪の場合今すぐ我らの前から姿を消されるのではないでしょうか?」
「……えっ、何で?」
「貴方はローズ殿の何を見てこられたのですか? あの方の行動は全て貴方様の事を思っての事、それを頭から否定され、尚且つ自分の存在のせいで道を踏み外そうとされておられるのです。私だったら今すぐに別れを告げ、単身敵の中に飛び込んで撃ちはてる道を選ぶでしょう。」
私の為? 確かにずっと私の事を見守っていてくれたけどそれは領地を取り戻す為であって、私個人に対してわけじゃ……いや、違う。私の為だ、ローズさんは何時も私の事を思っていてくれた、掛け替えのない妹のように……それなのに私は……。
「ごめん、今のなし。全部忘れて、私ちょっと急用ができたからいくね。」
バタバタ急ぎ部屋の外にむかう。
「あっ、もしよかったらこれからも色々相談に乗ってもらえないかな? 時々今のように弱音を吐いちゃう事もあるだろうけど。」
「……私でよければいつでも相談にのりますよ。」
雫が一瞬驚いたような顔になり、その後笑いながら笑顔で答えてくれたので、私もとびっきりの笑顔で返しお礼を言ってからローズさんの元へと急いだ。
****************
「はぁ。」
ミレーナの事が頭からずっと離れず先ほどから仕事が手につかない。
「ローズさん、物資の確認作業終了しました。これが一覧表です。」
「はぁ。ミレーナに嫌われたかなぁ。」
思いの外妹に拒絶された事が私の中が大きく響いてしまっていた、いっその事正体をバラしてあの子の支えになれればどれだけ楽になれるのだろうと考えてしまう。
「ローズさん? 物資の確認作業終了しましたよ。」
「はぁ。」
今まで両親を恨んだ事がないと言えば嘘になるが、それでも頻繁に私に会いに他の領地まで足を運んでくれていた。それに時々ミレーナを連れて来てくれた事もあり、私はいつも遠目から彼女の姿を見る事も出来ていたのだ。
「ローズさーん? 大丈夫ですか?」
「えっ!? あっごめん、ちょっとボーっとしちゃっていたわ。」
気づけば私を心配して多くの騎士達が様子を見に集まってくれていた。
「もしかしてさっきの出来事の事を心配されているんですか?」
保管庫で物資の一覧表を持ってきてくれた騎士が私に話しかけてきた。
そう言えば結構大勢の前で怒鳴られちゃったから、こちらの方もいろいろフォローしておかなければならないわね。
騎士達の前で私に指揮を取れなんて言うもんだから、しっかりした対応をしておかなければ部隊がバラバラになりかねないもの。
「ごめんねさっきは驚かせちゃって。私ったら彼女の気持ちも分かってあげられず、無関心な事をいっちゃったから怒らせてしまったのよ。それにミレーナが何か変な事言っていたけど本心ではないのよ、彼女は皆んなの事を本当に大事にしているんだから。」
「分かっていますよ、俺らも伊達にこの一年間一緒にいたわけではないんですから。ミレーナ様の事もローズさんの事も信頼しているんですから。」
集まってくれた騎士達が笑いながら『今更何言っているんですか』という風に言い寄ってきてくれる。あの子は本当に良い仲間に巡り会えたと思う。
そう思うと同時に、これから亡くなっていくであろう仲間達に、あの子の心が最後まで耐えられるのだろうかと心配になってくる。綺麗事や理想だけでは戦争はやっていけないのだから。
「ローズさん!」
私が物資の一覧を確認していると、バタバタと大慌てでミレーナが駆けつけてきた。
「どうしたの? そんなに慌てて。」
私の所に駆けつけてくれた事は嬉しいが、さっきの出来事が頭に浮かび一瞬躊躇してしまう。
だけどそんな私の心をお構いなく、ミレーナは私の両肩を力強く掴み顔を近づけてくる。
「何処にもいきませんよね、何処にも行かないでくださいますよね!」
「えっ!? 何んの事? ちょ、ちょっとそんなにキツく揺らさないでぇ。」
ゴンッ
ミレーナが自分の顔を私の顔に近づけて大きく揺さぶってくるもんだから、勢い余っておデコとおデコがぶつかり合い目から火花が飛び散ってしまった。
「「いったぁー」」
「もう、何するのよ。……プッ、何その顔。」
「ローズさんだって。」
「「ふ、ふふふふ。」」
お互いオデコを赤くして、全く同じポーズ痛がっている姿に思わず笑いがこみ上げてきた。
それを作業しながら見ていた騎士達にも笑いが伝染したのか、倉庫中から笑いが湧き上がった。
「それで何? なんで私が居なくならなきゃいけないのよ。」
一通り笑いが収まった所で改めて先ほどのセリフに問いかける。
「えっと、それはですね……」
罰が悪そうに額を掻きながらミレーナが一通りの事を話してくれた。
「何よそんな事で慌ててやって来たってこと? 心配しなくても今はまだ何処へも行くつもりはないわよ。」
「本当ですね! 約束ですからね、絶対私の側から居なくならないでくださいね。」
「分かったから、約束するからもう揺らさないで。」
何がそんなに嬉しいの再び嬉しそうに私を揺さぶってくる。周りの騎士達はそんな私たちを温かく見守ってくれていた。
私はいずれここから居なくなる。そして最後まで彼女は私との関係に気づく事はないだろう、その日が訪れるまで私は彼女の姉として命をかけて守りきると決めたのだ。
両親はこんな私を許してくれるだろうか、掟を破って妹の側にいる事を責められるのではないだろうか。この子がこれから歩み道は決して楽な道とは言い切れない、むしろ茨の道と言っても過言ではない。
できる事なら私が代わってやりたいが、今となってはそれすらも難しい。
私にできる事はただこの子を影から支えてあげる事だけ、それまではこんな姉妹ごっこもいいのではないかと思ってしまう。願わくはこの先私が居なくなったとしても大切な妹にだけは幸があらん事をただ、ただ願うばかりだ。
「大変です! 帝国軍がこちらに向かってきております、騎馬隊を中心にその数およそ三千、間も無くこの砦の北側に姿を表す模様です!」
一人の騎士がもたらした情報にその場にいた騎士たちは固唾を呑むのだった。
砦奪還に無事勝利し、外で戦っていた騎士達を迎え入れた。
私とカリナは労いを込めてミレーナに寄り添っていったのだが、どこか機嫌が悪かったのか大声で拒絶されその場から立ち去られてしまった。
「申し訳ございません、今は誰とも話したくないと言われ、私も近づく事を拒否されているんです。」
長年近くで寄り添っていたカリナにもこの対応となると、たった一年程度の付き合いの私では彼女にどう対応していいのかが分からない。
「全く情けないわね、血を分けた姉妹だというのに、あの子が今まで自分の立場に苦しんでいた事に気付いてあげられなかったのだから。」
「それは仕方がない事ではないですか、あの日以来ずっとローズ様、いえリリーナ様はミレーナ様の為に各地を飛び回り、散りじりになった騎士達と情報を集めるために頑張ってこられたのですから。むしろずっと近くにいた私の方が……」
カリナはそう私に言うと急に落ち込んでしまった。
私よりミレーナの近くにずっといたカリナの方が辛い気分なんだう、こんな時だというのにほんの少しだけ羨ましとさえ思ってしまった。
「ありがとうカリナ、あの子の事を心配してくれて……これからもあの子の支えになってあげてね。私はいずれこの地を去らなければ行けないのだから。」
****************
「なんですかそれ、そんなの疲れているに決まっているじゃないですか! 私にとっては今回が初陣なんです。疲れない方がおかしいでしょ!」
「……ごめんなさい。そうよね、私も気がつかなくて悪かったわ。カリナ、ミレーナを少し休ませてあげて。」
ローズさんがそう言って隣にいるカリナに話しかける、その行動がますます私を苛つかせてしまった。
「そんなに気を使わなくて大丈夫です。」
「でも今の貴方は心配だわ、これからこの解放軍を指揮していかなければならないから、もしもの事があってはいけないのよ。」
「何よそれ、『解放軍を指揮していかなければならない?』それじゃ私の心配をしているのじゃなくてこの軍の事を心配しているだけじゃない。もう放っておいてよ! 私がいなくなればローズさんがこの軍を指揮すればいいじゃない、私なんかより強くて、指揮官能力も高いんだから皆んなも喜んで付いていくわよ!」
「落ち着きなさいミレーナ、誰もそんな事言ってないじゃない。」
「放っておいてって言ってるでしょ! 私はローズさんの妹でも何でもないんだから!」
あぁ、何て事を言っちゃったんだろう、あんな事を言うつもりなんて全くなかったっていうのに。
私は一人砦に建てられた建物の4階テラスから壮大に広がる景色を眺めている。
ローズさんはただ私の事を心配してくれたってだけなのに、ついカリナと仲良くしている事に嫉妬してしまい、思ってもいない事を口走ってしまった。
私が本当の意味で友達といえる存在はこの世界でたった二人、カリナと叔父であったグレアムの娘セレスティナだけだ。
だけどセレスティナはグレアムが反逆して以来どうなったのかすら分かっていない。最悪の場合彼女と彼女の兄であるジェラルドとは戦場で対峙する事になるだろう、そうなれば友達はカリナだけとなってしまう。
それなのにカリナをローズさんに取られてしまうと考えてしまうなんて、全く自分の中にこんな黒いものが存在しているとは、驚きと後悔で自分が情けなくさえ思えてしまう。
「こちらにおいででしたか。」
「……貴方は?」
私が一人思いに更けっていると一人の女性が私の元に訪ねてきた。
「初めてお会いいたします、私は準の妹で雫申します。この度の戦いの最中ローズ殿に助けていただきました。今後は兄と共に貴殿の元でお力添えしたく、こうしてお願いに来たわけでございます。」
「準さんの?」
そういえば結局何一つ報告を受けていなかった事に初めて気がついた。危険な任務中に人助けまでしているんだから、全くローズさんの凄さを改めて思い知らされてしまう。
さっきはついローズさんがこの軍を指揮すればいいと言ってしまったが、それは強ち間違っていないのではないかと思っている。
「……ねぇ、一つ聞いてもいいかな? 貴方はローズさんの事どう思っている?」
「どう……ですか? そうですね、この度の戦いで感じただけなのですが、あの方はとても強い方だと思っています。」
「強い? ……そうね、確かに強いわね、槍術も魔法も私なんかと比べ物にならないぐらいに。」
「そうではございません。確かに戦う強さも兼ね備えておられますが、あの方は心が強いのです。誰かのために必死に成し遂げようとする心の強さ、周りの者を支え励ます強さ、そして他人を気遣う強さ……ですがあの方はそれを行うために自らを犠牲にされておられます。まるでこの戦いが終われば自分がどうなっても構わないように……。」
「……えっ?」
雫の言葉を聞いていると確かに思い当たる節が多くあった。ローズさんは常に私や騎士達の事をずっと支え気遣ってくれていた。両親を亡くし一人部屋で泣いていた時なんて何も言わずに私をずっと抱きしめてくれていた、まるで昔からの姉妹のように。
私はどこか彼女の温かみに甘えてしまっていたのかもしれない、そしてそれはこの戦いが終わった後もずっと続くものだと考えていたのだ。
時々思ってしまうのだ、戦いが終わったあと戦火まみれた領地を復興するのに、私の隣には常にローズさんがいてくれる、そんな光景を。
それなのにこの戦いが終わればローズさんがいなくなる? いや、もしかするとこの戦争で自らを犠牲にしてしまうかもしれない。
いままで全く考えた事がなかった言葉に私は大きな衝撃を受けてしまった。
よくよく考えればローズさんがいてくれる方が可笑しいのだ、彼女はただ両親に恩があり、ただ口約束で私の事を頼まれただけだ。それなのに何でずっと側にいてくれると思っていたのだろう……。
「ローズ殿は言っておられましたよ、ミレーナ様の力になってほしい、よろしく頼むと。」
「ローズさんが私の事を?」
「ええ、それはもう真剣な目で。」
「……そう……ですか。ねぇ、もう一つだけ聞いてもいいかな。この解放軍、私じゃなくてローズさんが指揮すればいいとは思わない? 別に自分の立場を放棄するとか言っている訳じゃないのよ、ただ一日でも早く領地を奪還するためにはその方がいいんじゃないかってね。その為なら別にお飾りの存在だって私は受けれられると思うのよ。」
「……その言葉をローズ殿が聞かれればさぞ悲しまれる事でしょう、最悪の場合今すぐ我らの前から姿を消されるのではないでしょうか?」
「……えっ、何で?」
「貴方はローズ殿の何を見てこられたのですか? あの方の行動は全て貴方様の事を思っての事、それを頭から否定され、尚且つ自分の存在のせいで道を踏み外そうとされておられるのです。私だったら今すぐに別れを告げ、単身敵の中に飛び込んで撃ちはてる道を選ぶでしょう。」
私の為? 確かにずっと私の事を見守っていてくれたけどそれは領地を取り戻す為であって、私個人に対してわけじゃ……いや、違う。私の為だ、ローズさんは何時も私の事を思っていてくれた、掛け替えのない妹のように……それなのに私は……。
「ごめん、今のなし。全部忘れて、私ちょっと急用ができたからいくね。」
バタバタ急ぎ部屋の外にむかう。
「あっ、もしよかったらこれからも色々相談に乗ってもらえないかな? 時々今のように弱音を吐いちゃう事もあるだろうけど。」
「……私でよければいつでも相談にのりますよ。」
雫が一瞬驚いたような顔になり、その後笑いながら笑顔で答えてくれたので、私もとびっきりの笑顔で返しお礼を言ってからローズさんの元へと急いだ。
****************
「はぁ。」
ミレーナの事が頭からずっと離れず先ほどから仕事が手につかない。
「ローズさん、物資の確認作業終了しました。これが一覧表です。」
「はぁ。ミレーナに嫌われたかなぁ。」
思いの外妹に拒絶された事が私の中が大きく響いてしまっていた、いっその事正体をバラしてあの子の支えになれればどれだけ楽になれるのだろうと考えてしまう。
「ローズさん? 物資の確認作業終了しましたよ。」
「はぁ。」
今まで両親を恨んだ事がないと言えば嘘になるが、それでも頻繁に私に会いに他の領地まで足を運んでくれていた。それに時々ミレーナを連れて来てくれた事もあり、私はいつも遠目から彼女の姿を見る事も出来ていたのだ。
「ローズさーん? 大丈夫ですか?」
「えっ!? あっごめん、ちょっとボーっとしちゃっていたわ。」
気づけば私を心配して多くの騎士達が様子を見に集まってくれていた。
「もしかしてさっきの出来事の事を心配されているんですか?」
保管庫で物資の一覧表を持ってきてくれた騎士が私に話しかけてきた。
そう言えば結構大勢の前で怒鳴られちゃったから、こちらの方もいろいろフォローしておかなければならないわね。
騎士達の前で私に指揮を取れなんて言うもんだから、しっかりした対応をしておかなければ部隊がバラバラになりかねないもの。
「ごめんねさっきは驚かせちゃって。私ったら彼女の気持ちも分かってあげられず、無関心な事をいっちゃったから怒らせてしまったのよ。それにミレーナが何か変な事言っていたけど本心ではないのよ、彼女は皆んなの事を本当に大事にしているんだから。」
「分かっていますよ、俺らも伊達にこの一年間一緒にいたわけではないんですから。ミレーナ様の事もローズさんの事も信頼しているんですから。」
集まってくれた騎士達が笑いながら『今更何言っているんですか』という風に言い寄ってきてくれる。あの子は本当に良い仲間に巡り会えたと思う。
そう思うと同時に、これから亡くなっていくであろう仲間達に、あの子の心が最後まで耐えられるのだろうかと心配になってくる。綺麗事や理想だけでは戦争はやっていけないのだから。
「ローズさん!」
私が物資の一覧を確認していると、バタバタと大慌てでミレーナが駆けつけてきた。
「どうしたの? そんなに慌てて。」
私の所に駆けつけてくれた事は嬉しいが、さっきの出来事が頭に浮かび一瞬躊躇してしまう。
だけどそんな私の心をお構いなく、ミレーナは私の両肩を力強く掴み顔を近づけてくる。
「何処にもいきませんよね、何処にも行かないでくださいますよね!」
「えっ!? 何んの事? ちょ、ちょっとそんなにキツく揺らさないでぇ。」
ゴンッ
ミレーナが自分の顔を私の顔に近づけて大きく揺さぶってくるもんだから、勢い余っておデコとおデコがぶつかり合い目から火花が飛び散ってしまった。
「「いったぁー」」
「もう、何するのよ。……プッ、何その顔。」
「ローズさんだって。」
「「ふ、ふふふふ。」」
お互いオデコを赤くして、全く同じポーズ痛がっている姿に思わず笑いがこみ上げてきた。
それを作業しながら見ていた騎士達にも笑いが伝染したのか、倉庫中から笑いが湧き上がった。
「それで何? なんで私が居なくならなきゃいけないのよ。」
一通り笑いが収まった所で改めて先ほどのセリフに問いかける。
「えっと、それはですね……」
罰が悪そうに額を掻きながらミレーナが一通りの事を話してくれた。
「何よそんな事で慌ててやって来たってこと? 心配しなくても今はまだ何処へも行くつもりはないわよ。」
「本当ですね! 約束ですからね、絶対私の側から居なくならないでくださいね。」
「分かったから、約束するからもう揺らさないで。」
何がそんなに嬉しいの再び嬉しそうに私を揺さぶってくる。周りの騎士達はそんな私たちを温かく見守ってくれていた。
私はいずれここから居なくなる。そして最後まで彼女は私との関係に気づく事はないだろう、その日が訪れるまで私は彼女の姉として命をかけて守りきると決めたのだ。
両親はこんな私を許してくれるだろうか、掟を破って妹の側にいる事を責められるのではないだろうか。この子がこれから歩み道は決して楽な道とは言い切れない、むしろ茨の道と言っても過言ではない。
できる事なら私が代わってやりたいが、今となってはそれすらも難しい。
私にできる事はただこの子を影から支えてあげる事だけ、それまではこんな姉妹ごっこもいいのではないかと思ってしまう。願わくはこの先私が居なくなったとしても大切な妹にだけは幸があらん事をただ、ただ願うばかりだ。
「大変です! 帝国軍がこちらに向かってきております、騎馬隊を中心にその数およそ三千、間も無くこの砦の北側に姿を表す模様です!」
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