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前章 悪役令状の妹

第16話 これって一般常識なの?

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「お姉ちゃんくるしぃー」
 リーゼ様にお会いした翌日、最近はなんだかんだと忙しかったために妹成分が不足していた私。学園から帰るなり妹のリアを抱きしめながら顔をすりすり。
 これが見ず知らずの女の子なら即座に通報されるところだろうが、血の繋がった妹ならばそんな恐れもなく、思いのまま気の向くまま、じっくりと可愛い妹を堪能しても、誰が文句を言えるだろうか。

「ん~~、リアは今日も可愛いわねー」すりすり
「もう、リネア様。リリア様が可愛らしいのはわかりますが、せめてお着替えをなさってからにしてください」
 妹の可愛さを堪能していると、注意してくるのはメイドのノヴィア。
 そういえば部屋に入るなり飛びついちゃったから、学園の制服から着替えていなかったわね。
 この世界にプレッサー何んて便利なものはないから、シワが付いたら確かに大変。一応アイロン自体はあるのだけれど、中に炭火を入れて使用するものだから、手間がかかる上に温度調整に失敗したりすると、簡単に焦げたりもしてしまう。
 別に私がアイロン掛けをするわけでもないのだが、ノヴィアの仕事をこれ以上増やすのも申し訳ないだろう

「仕方ないわね」
 ここは素直に従い、ノヴィアに手伝ってもらいながら湯浴みを済ませて、お気に入りの部屋着へと着替える。
 まぁ、部屋着といってもこのまま外へと出かけても何の問題もないワンピース。
 前世のような気楽にパジャマ姿で屋敷内をウロウロ出来るわけもないので、少し落ち着いた色合いの、シンプルでリーズナブルな服を好んで愛用している。
 ちなみに叔母や義姉が着ている服とは、価格も見た目も雲泥の差だとだけ伝えておく。

「そういえばノヴィア、精霊の話って何か知っていたりする?」
 一通りの準備を終え、ふと気になった事をノヴィアに尋ねる。

「精霊ですか? 私は余り詳しくはないですね。マリアンヌさんかハーベストさんならご存知かもしれませんが」
 ん~、ノヴィアまでもがこの反応。どうやら私の思考がおかしくなった訳ではないのだろう。

 昨夜、ノヴィアに叱られながらも徹夜で読み続けていた例の本だが、そこに書かれていたのが精霊という名の生き物の存在。
 この本によると、世界には精霊と呼ばれる生物? が存在するらしく、精霊と『精霊契約』なるものを結ぶ事で、私でも魔法のような不思議な現象を起こせるようになれるのだという。
 正直この本を読んでいても半信半疑だったのだが、今日学園でヴィスタに冗談半分にこの話をすると、「えっ、リネアちゃん知らないの?」と、逆に『一般常識でしょ』と問い返されてしまい軽く混乱に見舞われた。

 だってそうでしょ? 精霊といえばゲームや物語に出てくるような存在で、実際に『見たことがある』と言った日には、周りから痛い子を見るような視線を浴びる事は必至。
 それなのに『何で知らないの?』的な感じで返された日には、私がおかしいの? と自問自答してしまうのも仕方がない事だろう。
 とりあえずは適当に誤魔化しつつ色々尋ねてはみたものの、ヴィスタから得られた知識はこの本に書かれているようなものだけだった。

 すると精霊が存在しているのは、この世界では普通って事なの?
 前世でも絶滅寸前といわれている希少生物は多くいたので、精霊もその一種だと考えればある程度は納得も出来ると言うもの。
 もっともこの世界でも非常に希少な存在らしいので、一生のうちに一度出会えれば奇跡のレベル。
 更に精霊と契約する事が出来れば、国が動くんじゃないかという次元の話らしい。

「ねぇノヴィア、この国にも精霊がいるのかしら?」
「さぁ、私の知る限りでは聞いた事はありませんね。東のレガリア王国や、西のトワイライト連合国家なら運が良ければ見かけるときもあると聞きますが、このメルヴェール王国では難しいんじゃないでしょうか」
「ん~、やっぱりそうなのね」
 精霊は人間の負の感情を激しく嫌うらしい。
 これが人の近寄らない未開拓地や、緑が生い茂っている森や山ならまだ多少の期待は持てたかもしないが、人が暮らす街では負の感情を無くすことはできず、またこのメルヴェール王国では長年貴族達による不正や横暴に苦しめ続けられたせいで、国民の負の感情が国中に広がってしまっているのだという。
 もしかして精霊と契約出来れば、独り立ちした時に心強いかとも考えたが、ノヴィアの反応とヴィスタの話からも、どうやら望みは薄いようだ。

 コンコン
「ん? 誰かしら」
 ノヴィアと会話中、誰かが部屋の扉をノックする。
 私はノヴィアにお願いして部屋の扉を開けてもらうと、そこに立っていたのはメイド長のマリアンヌ。そしてその手には一枚の手紙が握られていた。

「ご休憩中のところ申し訳ございません。リネア様宛のお手紙が急ぎ届きましたので」
「私に手紙? 珍しいわね」
 自慢じゃないが、私宛の手紙が来た事なんて軽く片手で足りる程度。しかもその全てがヴィスタから送られて来ていたということは、この手紙も恐らく彼女からだろう。だけどつい先ほどまで学園で一緒だったわけだし、明日も登校すれば自然と出会う事もできる。
 それに私が帰宅した後にもかかわらず手紙をよこしてきたという事は、やはり何かがあったと考えるべきなのだろう。

 私はマリアンヌから手紙を受け取り、まずは誰宛からなのかを確認するため封筒の裏側を確かめる。
 本来ならここに開封防止の蝋印が押されているのだが、受け取った封筒には封のために貼られた赤い蝋のみ。表側にも誰宛とも書かれていないし、送り主の名前すら書かれていない。

「ありがとうマリアンヌ。この手紙を持ってきてくださった人って……」
「ご安心ください。遣いの方も裏門より参られましたので、旦那様方には知られておりません。ただリネア様に急ぎお目を通してくださいとの事でしたので」
「そうなのね」
 通常手紙の受け渡しは、そのお屋敷の入り口に立つ門番に渡すのが通例。その後に執事やメイド長元へと行き、宛名の本人に渡されるかそのまま突き返されるかが判断される。
 当然屋敷の裏門からやってくるような手紙など、速攻受け取り拒否をしそうなものなのだけれど、そこは私宛という事と、余程信頼のできる方が持ってきてくださったのだろう。

 私は手紙の受け渡しに携わってくれた人達に感謝しつつ、早速手紙を開封して中身を確かめる。

「お嬢様、手紙にはいったい何が?」
 私が手紙を読み終えたタイミングを見計らってノヴィアが尋ねてくる。彼女も今の状況を心配してくれているのだろう。
 見ればマリアンヌも部屋から退出せずに近くでこちらの様子を見守っている。

「手紙の送り主はヴィスタからね」
「ヴィスタ様とおっしゃると学園でのリネア様のご友人の方ですよね? それなのになぜこのタイミングで?」
 やはりノヴィアも、私が帰宅したこのタイミング送られてきた事が気になったのだろう。
 封筒の表裏ににあえて何も書かなかったのは、私の事情を察しての事。
 そして手紙にはこう書かれていた。
『ケヴィン様に気をつけて』と
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