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夢のはじまり
第22話 エリスの冒険
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一人暗い路地裏を掛けて行った先で、泣いている真っ白な子猫に出会った。
だけどそこに立ち塞がっていたのは私と同い年ぐらいの男の子が三人。どうやら捨てられた子猫を虐めているようだった。
私がたどり着いた事に気づいた一人の男の子がこちらを見て訪ねてきた。
「なんだお前、どっか行けよ!」
思わず怖くなり後ずさってしまったけれど、男の子たちの奥に見える怯えた子猫は寂しそうな目で私を見つめていた。
その姿を見て次の瞬間こう叫んでいた。
「子猫をいじめないで!」
私の大声に一瞬たじろいだ男の子たちだったけど、すぐに立ち直り私に迫ってきた。
私は意を決意し、男の子の間を駆け抜け子猫の元へとたどり着く。
すぐに子猫を抱きかかえ奥に逃げたけどその先は行き止まりだった。
「おまえ、女が調子乗ってんじゃねぇぞ!」
恐らくこの子が三人の中でリーダー格なんだろう。他の二人はただ後ろからヤジを飛ばしているだけ、何とか躱して逃げないと。
エリスがピンチの時、私は今だ立ち直れずにいた。
「エレン、エリスに嫌われたよぉぉぉ」
「お嬢様、泣いてないで早くエリス様を助けにいかないと」
そうだエリスを助けに行かないと、でも……。
「エリスにまた嫌いって言われたらもう生きていけないよぉぉ」
追いかけて行ってまた嫌いとか言われたらもう立ち直れないよぉ。怖いよぉ。
「もう、いいんですか! このままじゃ悪い男に引っかかっちゃいますよ!『お姉さまこの人が旦那様です』なんて言われたらどうするんですか!」
「はっ! ダメよ、エリスはお嫁に行かせないわ。エリスに悪い虫がつかないよう追い払わなくちゃ、エレン急ぐわよ!」
そう言って路地裏を掛けて行った。
徐々に迫ってくる男の子たち、結局壁際まで追いやられてしまって逃げる手段がなくなってしまった。
私の胸元で心配そうに泣いている子猫をギュッと抱きかかえ、思い切ってリーダー格の男の子に向かって体当たりをする。
「きゃっ」
でもサッと避けられてしまい、逆に腕を掴まれてしまった。
「やめて、離して!」
必死に抵抗するも片方の腕には子猫、もう片方の腕を男の子にガッチリ掴まれてしまい抜け出せそうにない。
「暴れんじゃね。おい、おまえらこいつを抑えろ」
「「お、おう」」
男の子一人でも逃げられないのに三人がかりで捕まったらもう絶体絶命だ。私は無我夢中で暴れ掴まれている男の子の腕に噛み付いた。
「イテッ、何すんだてめぇ」
一瞬だけ緩んだ隙に腕を振りほどき脱出に成功した。でも運悪く足元に転がっている棒に躓《つまず》き転んでしまった。
「イタッ」
すぐに立ち上がろうとしたけど足を挫いてしまったようで上手く立てそうにない。
「おまえ、覚悟は出来てるんだろうな」
そう言って近づいてくる男の子たち。すると私の腕から子猫が飛び出し男の子の前に立ちふさがった。
「ダメにげて!」
「みゃぁー!」
「なんだ、チビのくせに俺らに刃向かうっていうのか!」
リーダー格の子が私が躓いた棒を手に持ち子猫にせまろうとしたとき。
「みゃぁー!」
子猫の鳴き声に合わせるかのように急に空から小さな氷の塊が幾つも降ってきた。
「うわぁ、なんだこれ!」
「みゃぁー!」
「こいつ化け猫だ、逃げろー」
そう言ったかと思うと、男の子たちは私の横をすり抜けて一目散に逃げて行った。
「子猫ちゃん、ありがとう助けてくれて……ごめんなさいお姉さま、嫌いだなんて言って」
物陰で隠れてと思われるお姉さまに私は誤った。
さっき空から氷の塊が降ってきたのはお姉さまの契約精霊スイの魔法。この子が魔法なんて使えるわけがない。きっと近くで私を見守ってくれてるはずだ。
さっきはつい勢いで嫌いだなんて言ったけれどそれは本心じゃない。お父様とお母様が亡くなった時も悲しかったけど、お姉さまがいてくれたから寂しくはなかった。
「エリス、えりすぅぅ~~」どすん。
「きゃっ!」
ど、何処から現れるんですがお姉様!
隠れていたであろうお姉さまがいきなり空から降ってきた。まさか建物の上に隠れているとは思ってなかったから流石に驚いた。
一瞬で感動が冷めちゃったよ!
私の驚きをものともせずわんわんと泣き続けるお姉さま。
その後お姉さまは屋根の上からエレンの泣き声が届くまで、私の胸元で泣き続けた。あれ? なんか逆じゃね?
後から聞いた話では、どうやら私の『大っ嫌い』はお姉さまにとって最大の地雷だったらしく、エレンから今後絶対その言葉は使っちゃダメと念押しされたのだった。
「それより主人、この子どうすんだ?」
「どうすんだ?」
「どうって言われても。」
エリスの胸で一通り泣きわめき、忘れていたエレンをた助けた後スイたちが子猫の事を聞いてきた。
スイたちが言ってる事は分かるけど……私だって関わっちゃったからこのまま捨てておくのは気が引けるのよ? でもうちは飲食店だから動物は厳禁なのよね。二階の居住スペースにはエレン達の部屋もあるし。ん~どうしよう。
私が迷っているとエリスが心配そうにギュッて子猫を抱いて「お姉さまこの子を捨てちゃうの?」って顔で見てくるんだもの、捨ててきなさい! なんてとても言えそうにない。
「こいつ、此の儘にしておくと俺らみたいに捕まって売られちまうぞ?」
「売られちまうぞ」
「えっ? 売られるってどういう事?」
言い方は悪いが子猫ぐらい王都を探せばいくらでもいそうだけど?
「ママ、この子私達と同じ精霊だよ」
へ? 精霊? この子猫が?
リリーに言われまじまじと見るけれど、どこからどう見ても白い毛並みの子猫にしか見えない。
「ただの子猫じゃないの?」
「リリーの言う通り俺らの仲間だ。正確には精霊獣だけどな」
「だけどな」
「精霊獣?」
聞きなれない名前に思わずエンに尋ねなおした。
「俺らみたいに人型は精霊って呼ばれていて、この猫みたいに四本脚のは精霊獣って言うんだ」
「言うんだ」
へー、知らなかった。でも精霊の仲間なら余計にこのままって訳にはいかないよね。
「ついでに言うならこいつは精霊獣の中でも最高位で、聖獣って呼ばれている分類だ」
「せ、聖獣!? それホントなの!?」
精霊獣って名前は聞いたことがなかったが、聖獣という名前ならば話は別だ、寧ろ超有名といっても過言ではない。聖獣というのは神様に仕えていると言われている神話の獣。
よく勇者様の物語とかで出てくる架空の生き物で知られているのではないだろうか? この世界に魔王なんて呼ばれる生き物はいないけど、神様の使いだとかでよく教会などで祭られている。
「ああ、見た目はこんなに小さいけど、このサイズですげー魔力を感じるぜ」
「感じるぜ」
「それってもし契約したとしてもものすごい魔法量がいるんじゃないの?」
精霊と契約できるには個々が持っている魔法量によって決まる。以前エンが言ってたけど、私の場合100人分ぐらいの精霊契約できる魔法量があるらしい。自覚は無いけど。
聖獣は神様に仕えてるって言うぐらいだから、精霊100人分とかの魔法量がいるんじゃないかと思ったのだ。
「そうだなぁ、ざっと1000人分ぐらいの魔法量がいるんじゃないか?」
「いるんじゃないか?」
「1000人分!? それじゃ私達にはどうすることも出来ないじゃない。せいぜいどこかの森に帰すとかしか」
私の魔法量の10倍と来たか、さすが神話にすら出てくる聖獣様だ。まいったねこりゃ。
「でもこのままじゃこいつ、すぐに魔力切れで死んじまうぜ? 一時的でも契約して魔力を補充してやらねぇと」
「してやらねぇと」
そうか精霊は本来自然界にある魔力を糧とする。エン達みたいに契約精霊になると契約者、すなわち私から常に魔力を供給することが出来るけど、もしこの子猫が聖獣クラスなら王都にある自然界の魔力では恐らく足りないのだろう。何と言っても緑が少ないから。
「じゃどうすればいいの? 私が一時的にでも契約して魔力を補充するってことはできる?」
「無理だな、誰かが契約した後なら主人が直接魔力を送ることは出来るけど、主人《あるじ》が直接契約した場合魔法量が一気食われ、しばらくは全く動けなくなるぜ。ついでに俺らの契約も自動的に切れちまうしな」
「切れちまうしな」
精霊契約には安全装置のようなものが存在する。精霊の契約により自身が持つ魔法量のキャパをオーバーした場合、自動的に契約が解除される仕組みになっている。まぁ、後で再契約すればいいんだけどね。
「他に方法はないの?」
「あるぜ、妹に契約させればいいんだ」
「いいんだ」
「エリスに?」
意外な提案にエリスを見てみるとキョトンとした顔でこちらを見ている。うん分かるよその気持ち。
「出来るの?」
「ああ、魔法量だけなら主人10倍はあるぜ」
「あるぜ」
「へ? 私の10倍?」
なんてことだ、私以上のチートがこんな近くにいたよ!
「大丈夫なんでしょうね? エリスに何かあったら許さないわよ。」
「問題ないはずだ」
「はずだ」
ん~、正直危険な目には合わせたくないんだけど、でもこの子猫をそのままにしておく訳にもいかなし……見捨てたらまたエリスに嫌われるよね。ココ重要!
「エリス、話は聞いてたと思うけどこの子猫を助けるにはあなたの力がいるの。でもそれはかなり危険なことよ、それでも助けたいのならお姉ちゃんは手を貸すわ。どうする?」
「助ける」
何の迷いもなく答えた妹の姿に、姉として誇らしくもあり同時に少し寂しくもあった。
「分かったわ。子猫ちゃんあなたがとても偉い子だってのは分かった、だから一時的な契約でもいいから私達にあなたを救う機会を頂戴」
「みゃぁー」
エリスに抱かれている子猫の頭を撫でながら私は答えた。意外とこの子可愛いわね。
「じゃエリス契約の儀式をするわ。私の言葉の後に一緒に続けて」
エリスが力強く頷く姿を見て私は契約の言葉を紡ぐ。
「精霊の王の下、我と汝の契約を望む者なり」
「精霊の王の下、我と……
……契約を望む者、我が名はエリス、
契約を求む者、汝の名は……白銀!」
黄金に輝く魔法陣がエリスと白銀を囲み込む。
光が収束した後には笑顔のエリスと、可愛くしっぽを振る白銀の姿があった。
「よろしくねシロ」
「みゃぁーん」
こんな笑顔を見たらもう捨ててきなさいなんて言えないわね。
「エリス、怪我をしてるんでしょ? 立てる?」
さっき転んだ時に足でも捻ったんでしょ。見た感じ擦り傷は大した事はなさそうだけど捻挫はお医者さんに見てもらわないとね。
「みゃぁーん」
エリスが足首を確かめていると白銀が可愛く鳴いた。すると白く輝く光がエリスのを包み込み擦り傷がみるみると治っていく。
「これって治癒の魔法?」
「聖獣だって言ったろ属性は光だ。この程度の治癒の魔法なんてお手もんさ」
「おてのもんさ」
白銀の治癒魔法はエリスの捻挫すら直していた。
治癒の魔法か……うちの店じゃあまり役にたたないね。まぁエリスも嬉しそうだし別にいいか。
「あ、あのエリス様。そ、その少しでいいのでその子、抱かせてもらってもいいですか!」
エレンを何言って……って、あなた隠れネコ派だったのね! 両手が我慢できないと言うほどににぎにぎしてるわよ。
その後、私達が止めるまでエレンはエリスから預かった白銀ことシロを抱き続け、ひたすらニヤニヤしているのでした。
「みゃぁー」あらこの肉球意外といいわね。
だけどそこに立ち塞がっていたのは私と同い年ぐらいの男の子が三人。どうやら捨てられた子猫を虐めているようだった。
私がたどり着いた事に気づいた一人の男の子がこちらを見て訪ねてきた。
「なんだお前、どっか行けよ!」
思わず怖くなり後ずさってしまったけれど、男の子たちの奥に見える怯えた子猫は寂しそうな目で私を見つめていた。
その姿を見て次の瞬間こう叫んでいた。
「子猫をいじめないで!」
私の大声に一瞬たじろいだ男の子たちだったけど、すぐに立ち直り私に迫ってきた。
私は意を決意し、男の子の間を駆け抜け子猫の元へとたどり着く。
すぐに子猫を抱きかかえ奥に逃げたけどその先は行き止まりだった。
「おまえ、女が調子乗ってんじゃねぇぞ!」
恐らくこの子が三人の中でリーダー格なんだろう。他の二人はただ後ろからヤジを飛ばしているだけ、何とか躱して逃げないと。
エリスがピンチの時、私は今だ立ち直れずにいた。
「エレン、エリスに嫌われたよぉぉぉ」
「お嬢様、泣いてないで早くエリス様を助けにいかないと」
そうだエリスを助けに行かないと、でも……。
「エリスにまた嫌いって言われたらもう生きていけないよぉぉ」
追いかけて行ってまた嫌いとか言われたらもう立ち直れないよぉ。怖いよぉ。
「もう、いいんですか! このままじゃ悪い男に引っかかっちゃいますよ!『お姉さまこの人が旦那様です』なんて言われたらどうするんですか!」
「はっ! ダメよ、エリスはお嫁に行かせないわ。エリスに悪い虫がつかないよう追い払わなくちゃ、エレン急ぐわよ!」
そう言って路地裏を掛けて行った。
徐々に迫ってくる男の子たち、結局壁際まで追いやられてしまって逃げる手段がなくなってしまった。
私の胸元で心配そうに泣いている子猫をギュッと抱きかかえ、思い切ってリーダー格の男の子に向かって体当たりをする。
「きゃっ」
でもサッと避けられてしまい、逆に腕を掴まれてしまった。
「やめて、離して!」
必死に抵抗するも片方の腕には子猫、もう片方の腕を男の子にガッチリ掴まれてしまい抜け出せそうにない。
「暴れんじゃね。おい、おまえらこいつを抑えろ」
「「お、おう」」
男の子一人でも逃げられないのに三人がかりで捕まったらもう絶体絶命だ。私は無我夢中で暴れ掴まれている男の子の腕に噛み付いた。
「イテッ、何すんだてめぇ」
一瞬だけ緩んだ隙に腕を振りほどき脱出に成功した。でも運悪く足元に転がっている棒に躓《つまず》き転んでしまった。
「イタッ」
すぐに立ち上がろうとしたけど足を挫いてしまったようで上手く立てそうにない。
「おまえ、覚悟は出来てるんだろうな」
そう言って近づいてくる男の子たち。すると私の腕から子猫が飛び出し男の子の前に立ちふさがった。
「ダメにげて!」
「みゃぁー!」
「なんだ、チビのくせに俺らに刃向かうっていうのか!」
リーダー格の子が私が躓いた棒を手に持ち子猫にせまろうとしたとき。
「みゃぁー!」
子猫の鳴き声に合わせるかのように急に空から小さな氷の塊が幾つも降ってきた。
「うわぁ、なんだこれ!」
「みゃぁー!」
「こいつ化け猫だ、逃げろー」
そう言ったかと思うと、男の子たちは私の横をすり抜けて一目散に逃げて行った。
「子猫ちゃん、ありがとう助けてくれて……ごめんなさいお姉さま、嫌いだなんて言って」
物陰で隠れてと思われるお姉さまに私は誤った。
さっき空から氷の塊が降ってきたのはお姉さまの契約精霊スイの魔法。この子が魔法なんて使えるわけがない。きっと近くで私を見守ってくれてるはずだ。
さっきはつい勢いで嫌いだなんて言ったけれどそれは本心じゃない。お父様とお母様が亡くなった時も悲しかったけど、お姉さまがいてくれたから寂しくはなかった。
「エリス、えりすぅぅ~~」どすん。
「きゃっ!」
ど、何処から現れるんですがお姉様!
隠れていたであろうお姉さまがいきなり空から降ってきた。まさか建物の上に隠れているとは思ってなかったから流石に驚いた。
一瞬で感動が冷めちゃったよ!
私の驚きをものともせずわんわんと泣き続けるお姉さま。
その後お姉さまは屋根の上からエレンの泣き声が届くまで、私の胸元で泣き続けた。あれ? なんか逆じゃね?
後から聞いた話では、どうやら私の『大っ嫌い』はお姉さまにとって最大の地雷だったらしく、エレンから今後絶対その言葉は使っちゃダメと念押しされたのだった。
「それより主人、この子どうすんだ?」
「どうすんだ?」
「どうって言われても。」
エリスの胸で一通り泣きわめき、忘れていたエレンをた助けた後スイたちが子猫の事を聞いてきた。
スイたちが言ってる事は分かるけど……私だって関わっちゃったからこのまま捨てておくのは気が引けるのよ? でもうちは飲食店だから動物は厳禁なのよね。二階の居住スペースにはエレン達の部屋もあるし。ん~どうしよう。
私が迷っているとエリスが心配そうにギュッて子猫を抱いて「お姉さまこの子を捨てちゃうの?」って顔で見てくるんだもの、捨ててきなさい! なんてとても言えそうにない。
「こいつ、此の儘にしておくと俺らみたいに捕まって売られちまうぞ?」
「売られちまうぞ」
「えっ? 売られるってどういう事?」
言い方は悪いが子猫ぐらい王都を探せばいくらでもいそうだけど?
「ママ、この子私達と同じ精霊だよ」
へ? 精霊? この子猫が?
リリーに言われまじまじと見るけれど、どこからどう見ても白い毛並みの子猫にしか見えない。
「ただの子猫じゃないの?」
「リリーの言う通り俺らの仲間だ。正確には精霊獣だけどな」
「だけどな」
「精霊獣?」
聞きなれない名前に思わずエンに尋ねなおした。
「俺らみたいに人型は精霊って呼ばれていて、この猫みたいに四本脚のは精霊獣って言うんだ」
「言うんだ」
へー、知らなかった。でも精霊の仲間なら余計にこのままって訳にはいかないよね。
「ついでに言うならこいつは精霊獣の中でも最高位で、聖獣って呼ばれている分類だ」
「せ、聖獣!? それホントなの!?」
精霊獣って名前は聞いたことがなかったが、聖獣という名前ならば話は別だ、寧ろ超有名といっても過言ではない。聖獣というのは神様に仕えていると言われている神話の獣。
よく勇者様の物語とかで出てくる架空の生き物で知られているのではないだろうか? この世界に魔王なんて呼ばれる生き物はいないけど、神様の使いだとかでよく教会などで祭られている。
「ああ、見た目はこんなに小さいけど、このサイズですげー魔力を感じるぜ」
「感じるぜ」
「それってもし契約したとしてもものすごい魔法量がいるんじゃないの?」
精霊と契約できるには個々が持っている魔法量によって決まる。以前エンが言ってたけど、私の場合100人分ぐらいの精霊契約できる魔法量があるらしい。自覚は無いけど。
聖獣は神様に仕えてるって言うぐらいだから、精霊100人分とかの魔法量がいるんじゃないかと思ったのだ。
「そうだなぁ、ざっと1000人分ぐらいの魔法量がいるんじゃないか?」
「いるんじゃないか?」
「1000人分!? それじゃ私達にはどうすることも出来ないじゃない。せいぜいどこかの森に帰すとかしか」
私の魔法量の10倍と来たか、さすが神話にすら出てくる聖獣様だ。まいったねこりゃ。
「でもこのままじゃこいつ、すぐに魔力切れで死んじまうぜ? 一時的でも契約して魔力を補充してやらねぇと」
「してやらねぇと」
そうか精霊は本来自然界にある魔力を糧とする。エン達みたいに契約精霊になると契約者、すなわち私から常に魔力を供給することが出来るけど、もしこの子猫が聖獣クラスなら王都にある自然界の魔力では恐らく足りないのだろう。何と言っても緑が少ないから。
「じゃどうすればいいの? 私が一時的にでも契約して魔力を補充するってことはできる?」
「無理だな、誰かが契約した後なら主人が直接魔力を送ることは出来るけど、主人《あるじ》が直接契約した場合魔法量が一気食われ、しばらくは全く動けなくなるぜ。ついでに俺らの契約も自動的に切れちまうしな」
「切れちまうしな」
精霊契約には安全装置のようなものが存在する。精霊の契約により自身が持つ魔法量のキャパをオーバーした場合、自動的に契約が解除される仕組みになっている。まぁ、後で再契約すればいいんだけどね。
「他に方法はないの?」
「あるぜ、妹に契約させればいいんだ」
「いいんだ」
「エリスに?」
意外な提案にエリスを見てみるとキョトンとした顔でこちらを見ている。うん分かるよその気持ち。
「出来るの?」
「ああ、魔法量だけなら主人10倍はあるぜ」
「あるぜ」
「へ? 私の10倍?」
なんてことだ、私以上のチートがこんな近くにいたよ!
「大丈夫なんでしょうね? エリスに何かあったら許さないわよ。」
「問題ないはずだ」
「はずだ」
ん~、正直危険な目には合わせたくないんだけど、でもこの子猫をそのままにしておく訳にもいかなし……見捨てたらまたエリスに嫌われるよね。ココ重要!
「エリス、話は聞いてたと思うけどこの子猫を助けるにはあなたの力がいるの。でもそれはかなり危険なことよ、それでも助けたいのならお姉ちゃんは手を貸すわ。どうする?」
「助ける」
何の迷いもなく答えた妹の姿に、姉として誇らしくもあり同時に少し寂しくもあった。
「分かったわ。子猫ちゃんあなたがとても偉い子だってのは分かった、だから一時的な契約でもいいから私達にあなたを救う機会を頂戴」
「みゃぁー」
エリスに抱かれている子猫の頭を撫でながら私は答えた。意外とこの子可愛いわね。
「じゃエリス契約の儀式をするわ。私の言葉の後に一緒に続けて」
エリスが力強く頷く姿を見て私は契約の言葉を紡ぐ。
「精霊の王の下、我と汝の契約を望む者なり」
「精霊の王の下、我と……
……契約を望む者、我が名はエリス、
契約を求む者、汝の名は……白銀!」
黄金に輝く魔法陣がエリスと白銀を囲み込む。
光が収束した後には笑顔のエリスと、可愛くしっぽを振る白銀の姿があった。
「よろしくねシロ」
「みゃぁーん」
こんな笑顔を見たらもう捨ててきなさいなんて言えないわね。
「エリス、怪我をしてるんでしょ? 立てる?」
さっき転んだ時に足でも捻ったんでしょ。見た感じ擦り傷は大した事はなさそうだけど捻挫はお医者さんに見てもらわないとね。
「みゃぁーん」
エリスが足首を確かめていると白銀が可愛く鳴いた。すると白く輝く光がエリスのを包み込み擦り傷がみるみると治っていく。
「これって治癒の魔法?」
「聖獣だって言ったろ属性は光だ。この程度の治癒の魔法なんてお手もんさ」
「おてのもんさ」
白銀の治癒魔法はエリスの捻挫すら直していた。
治癒の魔法か……うちの店じゃあまり役にたたないね。まぁエリスも嬉しそうだし別にいいか。
「あ、あのエリス様。そ、その少しでいいのでその子、抱かせてもらってもいいですか!」
エレンを何言って……って、あなた隠れネコ派だったのね! 両手が我慢できないと言うほどににぎにぎしてるわよ。
その後、私達が止めるまでエレンはエリスから預かった白銀ことシロを抱き続け、ひたすらニヤニヤしているのでした。
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