クレタとカエルと騎士

富井

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理玖と太

高校生活

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三人の高校生活は大波乱の予想とは裏腹に穏やかに始まった。


ヒロトが言った通り同じ学校に通っていても、ばったり出会うことも廊下ですれ違うこともなく、

ただたまにグラウンドで走っている太を、理玖やヒロトが見るだけくらいにとどまった。


太は1年の間だけ寮に入る事になっていたのと、理玖はまだ祖父の家に住んでいたから、登下校でも会うこともなかった。

ごくたまに電車に乗り遅れなかったヒロトに会うこともあったが、それは1ヶ月に1度あるかないかというくらいまれなことだった。


理玖は学年で成績は常にトップ3に入っていて、朝も早くから勉強漬けの日々で、クラスでも友人と呼べる者はいない。

常に一人だった。

ヒロトも常に一人だった。

ヒロトの場合は好き好んで一人でいるわけで、理玖と太以外の人とは距離を一定以上近づけないよう当たり障りのない間隔を保っていた。

そんなヒロトが急に何を思ったのか、理玖や太・・・イヤ、とくに太とは、今まで以上に関わろうとしているように見えた。

そんなヒロトの姿を見るのが理玖はたまらなく嫌だった。

「ヒロト・・・」
いつもは六時限目が終わる頃に校門をくぐるくらい早く帰っていたのが、最近は毎日、太の練習を見学して、終わるのを見届けてから帰る。


練習が終わる前には理玖はもう帰るから毎日ヒロトのそんな姿を見ながら帰ることになる。


それが、なぜか胸が締め付けられるほど苦しかった。

夏休みも返上して、理玖は勉強に太は練習に明け暮れ、何の関係もないヒロトがほぼ毎日、
一人学校にふらっと現れては太の練習を見学していた。

「ヒロト・・・」

「あ、理玖。久しぶり。元気。」

「うん。・・・どうしたんだ、サッカー部にでも入るつもりか?」

「僕が、まさか。どうして。」

「最近、毎日サッカーを見に来ているからさ。

どうしたのかなと思って。」

「どうもしていないよ。ただ、暇だから、家にいてもやることなくて。理玖だって忙しいでしょ。誰も相手にしてくれないからさ。」

「まあな。けど、ヒロトは小学校のときからずっと夏休みは家にいたじゃないか。学校のプールにも来ずに。中学も。放課後だって終業のベルより早く家に帰っていたし。」

「うん、そのころはゲームがしたかったから・・・でも飽きちゃったんだ。外で遊びたくなっちゃって。でも、誰もいなくって・・・」

「じゃあ、今度の日曜日、買い物にでも行かないか?俺も休みなんだ。久しぶりに。」

「ごめん。今度の日曜日は、太の試合を見に行く約束をしちゃったんだ。」

「そうか。じゃあ。」

理玖はイラッとした顔をヒロトに見せないように、すぐにさっと振り向いてその場を去ろうとした。

それがどんな顔かヒロトは知っていた。

そして行ってしまう理玖を呼び止めるように、

「じゃあさ、試合、理玖も一緒に見に行こうよ。その後、買い物に行こう。
僕も欲しいものあるんだけど、一人で買い物に行くのがいやでずっと手に入れてないものあるの。
一緒に行ってくれると嬉しいな。」

「太の試合か・・・暑いんだろうな・・・」

「たぶんね。外だし。イヤ?」

「わかった。日影でならな。」

「日影があるといいね。日曜日、おじいさんのお店に迎えに行くよ。九時はどう?」

「ああ、いいよ。」

理玖はヒロトの顔を見て、今度は笑顔で返事をした。

ヒロトはいつも見せる満点の笑顔で返事を返して二人は別れた。

太はその一部始終をグラウンドから見ていた。

とても寂しげな顔で。
太には話せる仲間はいっぱいいた。

それこそ、同じクラス、同じ部活、ひょっとしたら同じ学年のみんなと仲がいいというくらい話し相手はいた。


けど、太が心の底から悩みのすべてを打ち明けられるのは、ヒロトだけだった。

中学の頃からスター選手で注目度も期待も大きく、重責を担って弱音を吐くことができず、辛く苦しい心の内も、ヒロトにだけは話せた。


だから、その二人の姿を見た時、理玖にヒロトを取られたような気持ちになり、とても悲しかった。

自分は寮生活で、登下校も一緒にはならない。

ヒロトが練習を見に来てくれているのを見るだけでどれほど心の支えになっていることか。


ほんのたまに練習の最後までヒロトが見ていてくれて、ほんの一言、二言、言葉を交わすことができれば、それは最高の慰めになった。

でも、今日は太の練習が終わるまで待ってはいなかった。
理玖が帰ったすぐ後にヒロトは姿を消した。
太はとても疲れていたけれど、その晩は悲しくて眠れなかった。



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