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そして夜通しミンチは捏ねられ、朝には濃厚トマトジュースのスープが入った小籠包が小さな蒸篭に入ってミッチェとフィッシュの前に出された。
フィッシュはポケットから徐に鏡を取り出し自分の前に置くと、それを見ながらぱくりと食いつき、あんぐりと口を開くと、「そうじゃ・・・これこれ・・・」とヘラヘラ笑いながら食べた。
ミッチェはそんなフィッシュの様を眺めていたら少し吐き気がして、
「俺は昨日の野菜サンドでいいよ。これはフィッシュに進呈するよ。」
と蒸篭をフィッシュのテーブルに置いた。
「野菜サンドは干からびてカピカピになってるぞ。」
「でもそれでいいよ。あと、コーヒーのお代わりを頼むよ。生クリームはなしにしてくれ。」
そう言ってカップをアニューの前に出した。
「そういえば、昨日、彼は結局来なかったね。」
不用意なミッチェの言葉で、コーヒーには、大量の生クリームが投入された。
アニューは決して入れ間違えたわけではなく、ワザと入れた。
「チッ」
ミッチェの舌打ちでさらに生クリームが増量された。
「心配するな。今日も必ず来る。」
アニューは細い指先で煙草ケースから1本煙草を取り出し、窓の外を見ながら静かに微笑み、咥えた煙草に火をつけた。
「又何か買ったの?」
ミッチェもアニューのたばこケースに手を伸ばしたが、アニューはそっと煙草ケースを引き出しに仕舞った。
ミッチェはもう一度「チッ」と舌打ちをした。
アニューは煙草をゆっくり吸ってミッチェに向かって煙を吐き
「俺に会いたいから来るんだよ。」
と言った。
「ミッチェは俺が負けたところを見たいの?」
「そんな風には思ってないよ。アニューは男前だもの、必ず落ちるよ。」
アニューは引出しから煙草ケースをミッチェの前にすっと出した。
ミッチェはそこから素早く1本取り出し、煙草ケースをフィッシュに投げた。
フィッシュもそれを受け取り、1本取り出して加えると内ポケットからマッチを取り出し火をつけた。
「アニューの勝負は早いから好きじゃ。今回も1週間ってところかの・・・」
「5日・・・いや、3日で終わらせたいな。」
「アニューは強引だからな。」
「おいしいものは早めに食べる主義なんだ。バナナだって、ちょっと青いくらいが好きなんだよ。」
「そう。俺は熟しきったほうが好きだな。
芳醇な香りのする、指先で触っただけで果肉が砕け落ちるほど熟した果実のほうがジューシーで甘い。」
「確かに甘いが、熟しきっていない青い果実のほうが歯ごたえがあっていい。あの独特な青臭い香りと苦みがたまらないよ。」
「けど、熟した果実は上を向いて立っているだけであっちから落っこちてくるぜ。」
「それでは面白くないだろ。木に登って、揺すって、自分の手でもぎ取ってこそのあの味だ。」
「アニューはさすがだな。さすがのバイタリティ溢れた言葉じゃ。
だが、わしは果物は苦手じゃ。食べると、喉のあたりがカヒカヒする。
わしはやっぱり血の滴れ落ちるような肉が好きじゃ。あ、でも、最近、熟成肉のうまさも知ってしまって・・・やっぱり肉は最高だ。レアがいいな。デミグラスソースはワインたっぷりで。少し酸味が聞いたソースのほうがわしは好きじゃ。」
三人は煙草をスッと吸うと、同時に煙を吐いた。その煙が雲のようにゆっくりと店内に広がったころ、ドアが10センチほど開いた。
「おはようございます。」
「あ、コウちゃん!」
長生が来た。当然だが、荷物を持って来た。それ以外の用事は長生にはない。
だが、アニューにはある。
「一晩中、待ってたのに・・・どうして来なかったんだ。」
「いや・・・僕も寝てないんすよ・・・配り終わらなくて・・・・」
「そうだったんだ。大変だったね。」
「新人なんで、頑張らないとっす!」
「そうなんだ。偉いね。」
ミッチェは“ぷっ”と吹き出し、アニューに背を向け、必死で笑いを堪えた。
今日の長生は、荷物のおもっきし端っこを指先だけで支えて荷物を差し出した。
その様子を見て、さらにミッチェはまた噴き出した。
アニューは手ではなく、腕を“がしっ”と握った。
「ありがと。疲れただろ。コーヒー飲んでいきなよ。あったかいの。パンも焼きたてがあるぞ。食っていきなよ。」
「さっきコンビニで缶コーヒーと菓子パン買ったんで、朝飯はそれで済ませます。」
「そんなこと言うなよ。うちのコーヒーはすっごく旨いんだ。干し蛇イチゴとコーヒー豆をブレンドしたここでしか飲めない特別なコーヒーなんだ。」
「ほんと!すっごくおいしそうだけど、今度にします。だって、僕、新人だし、早く仕事に戻らないと・・・だからサインを・・・」
「サインはわしがしよう。わしはナポレオンと一緒にエジプトに行ってな、その時ミイラを見つけて・・・なんていう名前のミイラだったか忘れてしまったが・・・」
フィッシュは伝票にサラサラとサインをすると、荷物が長生の手から落っこちそうになり、
咄嗟にミッチェが「あ!」と出した大声に反応して、アニューが長生の腕から手を離し、荷物をナイスキャッチしたところで、ささっと伝票を受け取って長生は店から脱出した。
フィッシュはポケットから徐に鏡を取り出し自分の前に置くと、それを見ながらぱくりと食いつき、あんぐりと口を開くと、「そうじゃ・・・これこれ・・・」とヘラヘラ笑いながら食べた。
ミッチェはそんなフィッシュの様を眺めていたら少し吐き気がして、
「俺は昨日の野菜サンドでいいよ。これはフィッシュに進呈するよ。」
と蒸篭をフィッシュのテーブルに置いた。
「野菜サンドは干からびてカピカピになってるぞ。」
「でもそれでいいよ。あと、コーヒーのお代わりを頼むよ。生クリームはなしにしてくれ。」
そう言ってカップをアニューの前に出した。
「そういえば、昨日、彼は結局来なかったね。」
不用意なミッチェの言葉で、コーヒーには、大量の生クリームが投入された。
アニューは決して入れ間違えたわけではなく、ワザと入れた。
「チッ」
ミッチェの舌打ちでさらに生クリームが増量された。
「心配するな。今日も必ず来る。」
アニューは細い指先で煙草ケースから1本煙草を取り出し、窓の外を見ながら静かに微笑み、咥えた煙草に火をつけた。
「又何か買ったの?」
ミッチェもアニューのたばこケースに手を伸ばしたが、アニューはそっと煙草ケースを引き出しに仕舞った。
ミッチェはもう一度「チッ」と舌打ちをした。
アニューは煙草をゆっくり吸ってミッチェに向かって煙を吐き
「俺に会いたいから来るんだよ。」
と言った。
「ミッチェは俺が負けたところを見たいの?」
「そんな風には思ってないよ。アニューは男前だもの、必ず落ちるよ。」
アニューは引出しから煙草ケースをミッチェの前にすっと出した。
ミッチェはそこから素早く1本取り出し、煙草ケースをフィッシュに投げた。
フィッシュもそれを受け取り、1本取り出して加えると内ポケットからマッチを取り出し火をつけた。
「アニューの勝負は早いから好きじゃ。今回も1週間ってところかの・・・」
「5日・・・いや、3日で終わらせたいな。」
「アニューは強引だからな。」
「おいしいものは早めに食べる主義なんだ。バナナだって、ちょっと青いくらいが好きなんだよ。」
「そう。俺は熟しきったほうが好きだな。
芳醇な香りのする、指先で触っただけで果肉が砕け落ちるほど熟した果実のほうがジューシーで甘い。」
「確かに甘いが、熟しきっていない青い果実のほうが歯ごたえがあっていい。あの独特な青臭い香りと苦みがたまらないよ。」
「けど、熟した果実は上を向いて立っているだけであっちから落っこちてくるぜ。」
「それでは面白くないだろ。木に登って、揺すって、自分の手でもぎ取ってこそのあの味だ。」
「アニューはさすがだな。さすがのバイタリティ溢れた言葉じゃ。
だが、わしは果物は苦手じゃ。食べると、喉のあたりがカヒカヒする。
わしはやっぱり血の滴れ落ちるような肉が好きじゃ。あ、でも、最近、熟成肉のうまさも知ってしまって・・・やっぱり肉は最高だ。レアがいいな。デミグラスソースはワインたっぷりで。少し酸味が聞いたソースのほうがわしは好きじゃ。」
三人は煙草をスッと吸うと、同時に煙を吐いた。その煙が雲のようにゆっくりと店内に広がったころ、ドアが10センチほど開いた。
「おはようございます。」
「あ、コウちゃん!」
長生が来た。当然だが、荷物を持って来た。それ以外の用事は長生にはない。
だが、アニューにはある。
「一晩中、待ってたのに・・・どうして来なかったんだ。」
「いや・・・僕も寝てないんすよ・・・配り終わらなくて・・・・」
「そうだったんだ。大変だったね。」
「新人なんで、頑張らないとっす!」
「そうなんだ。偉いね。」
ミッチェは“ぷっ”と吹き出し、アニューに背を向け、必死で笑いを堪えた。
今日の長生は、荷物のおもっきし端っこを指先だけで支えて荷物を差し出した。
その様子を見て、さらにミッチェはまた噴き出した。
アニューは手ではなく、腕を“がしっ”と握った。
「ありがと。疲れただろ。コーヒー飲んでいきなよ。あったかいの。パンも焼きたてがあるぞ。食っていきなよ。」
「さっきコンビニで缶コーヒーと菓子パン買ったんで、朝飯はそれで済ませます。」
「そんなこと言うなよ。うちのコーヒーはすっごく旨いんだ。干し蛇イチゴとコーヒー豆をブレンドしたここでしか飲めない特別なコーヒーなんだ。」
「ほんと!すっごくおいしそうだけど、今度にします。だって、僕、新人だし、早く仕事に戻らないと・・・だからサインを・・・」
「サインはわしがしよう。わしはナポレオンと一緒にエジプトに行ってな、その時ミイラを見つけて・・・なんていう名前のミイラだったか忘れてしまったが・・・」
フィッシュは伝票にサラサラとサインをすると、荷物が長生の手から落っこちそうになり、
咄嗟にミッチェが「あ!」と出した大声に反応して、アニューが長生の腕から手を離し、荷物をナイスキャッチしたところで、ささっと伝票を受け取って長生は店から脱出した。
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