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復讐、山内和人、如月への愛
失った幸福
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如月はそのままベッドに吸い付くように眠った。
薬の効き目というよりは、今日までの疲れがドッと出たといったほうがただしい。
気持ちよくとまではいかないがぐっすりと眠って夢を見ていた。
いつもどおり大学で講義して、研究室で仲間に囲まれている夢。
その中には山波も緑山も雅もあずみも隼人もいる。
つい数ヶ月前に送っていたなんでもない日々の生活だった。
その夢は、山内和人が揺り動かして覚めた。
現実は恐ろしい形で如月を襲った。
「思ったより薬が効きすぎてビックリしましたよ。」
「・・・なんの薬だ・・・」
ベッドに横たえたまま、虚ろに聞いていた。まだ半分は夢の中にいた。
「それはただの痛み止めですよ。
気分もとても良くなって・・・まだ試験中なんですけどね。
ただ、欠点がひとつあって、常習性があるんですよ。
1本打つだけでかなりの。だから、あなたはもう僕から逃げることができない。
ここにしかこの薬はありませんから。」
教授は細い指で点滴の跡を触った。
「ひょっとして・・・あずみも・・・か・・・」
「さすがですね。お察しがいい。
いい犬にはいい餌を与えないとね。そして、あなたも・・・です。
今ならまだ間に合いますよ。1本くらいなら、常習性を緩和できる薬があります。
山波さんを呼びますか?」
如月は横を向いた。
ほんの少しだけ外が見られる細長い窓から外を見た。
今は昼なのだろうか、青空に白い雲が浮かんでいるのが見えた。
「あずみとは隼人は?」
「昨日のうちに出発しましたよ。隼人の運転だから、そんなに早くはないでしょうけれど、そろそろ着くころですかね。」
如月は笑った。山内和人が驚くほど笑った。
「そうか、二人とも行ったか・・・なら約束だ。私を苦しめたらいい。」
「わかりました。山波さんは優秀な方だから、あなたに聞かなくてもきっとここがわかるでしょうし。」
「ひとつ条件がある。もし山波が来たとしても彼に手出しをするのはやめてもらえないか。
私はずっと君とここにいる。だから、山波がここへ来たとしても追い返してくれ。」
「そうですね・・・そうしてもらえると、僕も退屈じゃなくなって嬉しい。」
「そうか、それはよかった。じゃあ、仲良くやっていこう私が死ぬまでか。そんなに長くはないんだろう。」
「ええ。承知してくれたと考えていいんですね。そうだ だったらここで研究をしたらいい。
あなたも寝てばかりではつまらないでしょうから、あなたのためにラボを用意させましょう。
本やパソコン、なんでも望むものを持ってこさせますよ。」
「いや、学問はやめる。欲望や執着が失せた。」
「あなたは自分で自分のことがなにもわかっていない。あなた自身がそれを決めるのではない。
人間が自然に水を要求するように、あなたの脳が自然に学問を要求するんですよ。
天才と呼ばれる人の脳は、凡人と呼ばれる人の脳とは違う。あなたも気がついているはずでしょう、コントロールするのに苦労しているんじゃないですか?
まあいい、本は私のチョイスで用意します。あなたにではなく、あなたの脳に。」
「好きにしろ・・・・」
如月はベッドからよろよろと起き上がり、壁伝いに窓まで歩いた。
ガラスで全面を覆われた、今、如月がいる部屋は頭がおかしくなりそうなほど落ち着かなかった。
如月の向かった先は唯一外の景色が半分ほど見える細長い窓辺だった。
「お散歩でもしますか。すぐ用意させますよ。」
鼻で少し笑い、部屋外に出ると入れ替わりに小さな若者が入って来た。薄い水色の白衣を着たその若者は、ここの看護師のようだった。
「如月さん、お外へいく準備が出来ましたよ。
車椅子に乗りますか?」
「いえ、歩きます。」
何度かふらつき、その場に竦み、その看護師に支えられながら、病院前のちょっとした広場までゆっくりと歩いた。
ベンチに座り陽の光を浴びると、ほんの少しだけ気持ちが和らいだ。
あずみのは無事にかえれたのかとふと考え、内ポケットから手帳を出し写真を見た。
「如月さん・・・お荷物は?」
「いえ、今日はこの手帳、1冊しか持ってきていません。」
「それだけですか?」
「ええ。」
「着替えは・・・」
「ない。泊まるとは思ってなかった。」
「ご家族が後からお持ちになるのですか?」
「家族もないよ。」
いろいろ聞かれることにわずらわしさを感じ、場所を移動しようとしたが、足もとがふらつき、崩れ堕ちそうになり看護士に支えられた。
「危ない。僕につかまって。ゆっくり行きましょう。」
「ありがとう。」
とてもここちよい風が吹いていた。
かと、思うと急に強く風が走り、手帳の中の写真が風に攫われて行った。
「僕が探してきますから、あそこのべンチに座っていてください。」
如月は、陽の当たるべンチに体重を預け、深くため息をついて空を見上げた。
太陽はだいぶ西に傾いていたが、悔しいほどに美しい青い空が広がっていた。
その青空に手を伸ばし見上げた。
「ごめんなさい。ここは陽が当たってまぶしかったですね。」
「いや、太陽の光は好きなんだ、キラキラ輝いて美しい。手のひらを太陽にむけると太陽を触っている気持ちにならないか?手の輪郭が赤くて燃えているようだ。」
看護士も同じように手をあげた。
「ほんとだ。今まで考えたこともなかった。」
「この指の間からこぼれてくる太陽の光も暖かくて気持ちいいだろ。
地面があって太陽が輝く、当たり前と思っている事は何億年も繰り返されていて、今、私たちがこうして何億年前と同じ太陽の光を浴びていると思うと、とてもしあわせな気持ちになって、生きていることがとても嬉しくなってくるんだ。」
「素敵ですね。僕もなんだか幸せな気持ちになってきます。
暖かい・・・・
あ、これ、写真。家族写真ですか?これが如月さん?」
看護師が写真に指をさして言った。
「ええ、昔の写真です。」
「こちらがお父さん?」
「はい、父と弟です。これが最初で最後の家族写真なんです。」
「コッチの写真は・・・あれ、二人とも笑っていませんね。」
「彼は山波。いまは私の部下でね。まだ出会ったばかりの頃かな。
とても優秀な男でね、いつも助けられてばかりいるよ。
父がどこかから連れてきて、ずっと兄弟のように暮らして来たんだ。」
「この人に連絡を取って迎えに来てもらったらどうですか?こんなところにいてはいけない。ここがどんなところか知っていますか?」
「ありがとう。もういいんだ・・・もう戻ります。君も、私にあまり関わらないほうがいい。」
如月はふらふらと立ち上がり、壁伝いに歩きかけたとき、少しの安堵の時は終わった。
「あまりにもお帰りが遅いのでお迎えにきました。」
看護士が如月の体を支えようとすると、その手を振り払うように二人の医師が脇を抱え車椅子に乗せた。
「君はもういいから。」
山内和人は看護士を押しのけて歩き始めた。
看護士は如月の乗った車椅子の前に回り、如月の手から写真をとった。
「僕、写真立てに入れて、持っていきますから。」
看護士は病棟のどこかへ走って消えた。
山内和人は看護士を目で追いながらも、如月の車椅子の横を歩いた。
「写真・・・ですか・・・」
「ああ。」
「なんだか楽しそうにお話ししていましたね。」
「・・・」
「僕には何も話してくれないのに。あの時もそうだ。
運ばれてきた時は苦しみながら僕の手を強く握り締めていたのに。
具合いがよくなったら知らん顔。」
「何のことだろう。」
「あなたは、僕のことなんて覚えてもいなかったんですよね。
あずみ君のことがあるまでは。」
「ああ、忘れていた。思い出したくもなかった。けれど、名前を見てはっきりと思い出したよ。
私はおまえのことが大嫌いだったということ。」
山内和人は車椅子を押していた医師を押しのけて自分が梶をとった。そして耳元で囁いた。
「僕はあなたが大好きだ。そのイラっとしてやつあたりするところも含めて。
あなたが僕を大嫌いでもまったくかまわない。あなたは僕のそばを離れることはもうできない。これからは、昔みたいに毎日苦しみながら僕の手を握ることになる。
僕しか知らない、いつも冷酷なあなたが震えながら甘えるあの姿。
あなたは毎晩そんな姿を僕に見せてくれるんですね。楽しみだなぁ…」
山内和人は笑っていた。
子供が欲しかったおもちゃをついに手に入れた時のように、嬉しくてたまらない感情が周囲にもあからさまにわかった。
如月は脳も心も遮断していた。
前を行く医師の白衣の裾がふわふわと、ゆるくカーブを描くのを見て、頭の中でそこに無数の線を引き図形を浮かべる。
それを幾度となく繰り返した。
子供のころから、つまらないと自然にそうして頭の中で遊ぶようになっていた。
だから、山内和人がくだらない事を言っても如月には何も気に止めていなかった。
それは病室についてベッドに寝かされ、脈拍計をつけられるまで続いた。
「あ。さっきと部屋が変わったのだろうか?」
「ええ、さっきより広いし窓も南向で陽も差し込んで一日中暖かい。
家具も一流のモノを用意しておきました。あなたがいつか必ずここへ来るとわかっていましたから。
本は僕が選びました。気に入ってもらえると嬉しいな。
足りないものがあればすぐ揃えさせますから。」
如月は山内の言葉にはニコリともせず窓の外を見て言った。
「さっきの彼は、ここに私がいることがわかるかなぁ・・・」
まったく関心のない如月を威嚇するかのように、机の上のフルーツに添えてあったナイフを、りんごに思い切り突き立てた。
りんごが潰れるほど強く突き立てたにもかかわらず、如月は少しだけ顔を向けただけで、ため息混じりに向きを変え、また窓の外を見た。
二本目の点滴が始まったのはそれから間も無くの事だった。
その日の夜は激しい頭痛と吐き気に襲われた。
トイレに立ち上がる事もできないほどのひどいめまいもした。
一人ベッドで苦しんでいるとあの看護士が部屋へそっと入って来て、苦しむ如月の背中をさすった。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう。少し治ったよ。」
「写真立て、街に行って買ってきました。あと下着とパジャマも。街で買って来ましたけど、都会で暮らしているあなたにはあまりよくないかもしれません。田舎ですから。」
「ありがとう。わざわざ行ってくれたのか?迷惑かけたね。」
「おやすみでも、何もやる事ないんで。・・・体拭きます。さっぱりしますよ。」
「名前。聞いていなかった。」
「僕は汐田聖樹です。」
「汐田君か。お礼をしたいけれど、僕はもう・・・」
「大丈夫ですよ。気にしないでください。」
それからも何度も発作的に嘔吐を繰り返して、汐田は帰るタイミングを無くし、如月のそばで付き添った。
「君、なぜここにいる。」
不意に山内和人が部屋へ入って来た。
「写真を持ってきたんです。あと下着を・・・着替えを持っていないようだったので。」
「ここの階は関係者しか上がれないことわかっていますよね。」
「すいません。」
「早く帰りなさい。」
それでも如月の細い指は汐田の指を掴んで離さなかった。
苦しみながらもこの手が誰の手か理解して握っていた。
山内がその手を無理矢理引きはなして握ると、如月の手はするりと落ちて、苦しみながら体の向きを変えて吐いた。
「大丈夫ですか。」
汐田はすぐに駆け寄り、背中をさすり処置した。
その姿にイラついた山内は汐田の襟を掴んで殴った。
何度も何度も殴り続け、頬や目の周りがみるみる赤く腫れ上がってきた。
襟を両手でつかみ首を絞めた後、強く床に体を投げつけたが、すぐ起き上がり、また如月の処置をはじめた。
そんな汐田を山内は容赦なく蹴り付け、髪を掴んでまた体を床に投げつけた。
如月は汐田の哀れな姿を見ていることができず、痛みで震える体を起こし、山内を止めようとしたが、ベッドから落ちただけで何もできなかった。
「大丈夫ですか。どこか痛いところは?」
ニコリと笑った汐田の口は、唇が裂け、歯が折れて血だらけになっていた。
それなのに執拗に汐田を蹴り付けた。
如月は自分の体を盾にしようと汐田を抱きしめた。
「やめろ。どうしてこんなひどいことができるんだ。
そうやって君は、隼人も暴力で支配していたのか。」
「如月さん。あなた、人を殴ったことありますか?やめられないんですよ。
人を殴った瞬間のあの感覚、隼人のあの顔。
興奮で身ぶるいする、全身に火花が走るような 何も例えようのない快感が走るんだ。
だから何度も、何度も・・・繰り返し手を振り下ろすと、隼人の顔が腫れて皮膚が裂けて、それでも、自分で自分を止められない。
それどころかますます欲情するんだ。
肩の震えが、手の震えが、もっともっとって僕の理性に追いすがるように渇望するんだ。」
「これからも君は、そんな自分を止めることができないのだろう。」
「ええ。僕が生まれ持った特別な欲望だと思っていますよ。
隼人がいなくなっても、隼人に変わる誰かを見つけ繰り返えされる。
性欲も食欲も僕には必要ない、これが僕の最高の欲望なんだ。」
如月はさらに力を入れて汐田を抱いた。
「如月さん、そう哀れむことはない。一度でも、暴力を受けた者もまた、哀れな自分に酔いしれて欲情するんだ。何度逃げてもまた戻ってくる。
する側も、される側も言い知れぬ喜びを感じているんだよ。
今あなたが抱きしめている彼も、最後はあなたより僕を選ぶ。
隼人もそうだったでしょ。逃れられない鎖で引き寄せられるんですよ。これが運命なんだ。」
「汐田君を救うことは、私にはできないのか。」
「あなたが僕の手を握ってくれるならば、あの日のように・・・・
だったら彼は暴力を受けることもなく、自由にあなたに会うことも許しましょう。」
山内和人差し出した手を、ためらいながらも握ろうと手を伸ばしたが、汐田がその手を掴んだ。
「やめてください。如月さん。僕、平気ですから。」
目を潤ませ悲しそうな笑顔を作って見せた。
山内はすかさず、汐田の襟を掴み引き寄せて表情一つ変えずに殴りだした。
「お願いだ。なんでもする。だから、彼に暴力を振るうのはやめてくれないか。」
山内は汐田を掴んだ手をはなした。
汐田の体はガクンと膝から崩れ落ちて、ベッドの脇に倒れた。
「如月さん、ベッドに上がりましょう。僕の肩に捕まってください。」
如月は床に放置された汐田のことが気になってしかたがなかった。
口を開いたまま、肩が細かく動いているのを見るとまだ息はある。
だが、腫れ上がった顔や痣だらけになった痛々しい腕が、どれほどの暴力に耐えていたか言葉にしなくても理解できる。
「如月さんごはん、まだでしたね。すぐ用意させますね。」
「私より、彼の手当てをしてあげないと、とても辛そうだ。」
「大丈夫ですよ。ああして寝かせておけば、しばらくしたら普通に起き上がって、帰って行きます。
それとも、目ざわりならば廊下に出しましょう。」
「イヤ。ここでいい。ここにいさせてあげてくれ。」
「じゃあ、ごはんは僕が食べさせてあげましょう。」
山内は食事が乗ったワゴンを押してすぐに戻った。
さっきまで非情な暴力を振るっていた男とは思えないほど、明るく弾む声で寄り添い、スープをひと匙すくって如月の口に運んだ。
如月はあまりの恐怖で思わずむせてしまった。
「すまない。点滴の後は調子がよくないんだ。」
山内は眉間にしわを寄せスプーンをトレーの上に投げた。
数秒、如月に冷たい視線をおくった後、とても綺麗な微笑みを浮かべて、
「では、明日検査をさせましょう。今日はもう寝ますか?」
如月の肩をゆっくり押してベッドに体を沈めて、手を握り髪を撫でた。
「眠るまでこうしていますから、安心して眠ってください。
気分が悪くなっても僕がいますからね。」
なるべく脳を遮断するように努力した。
あの白衣の裾が、ひらひらと波打つ様を思い出し、それに線を書く。
得意なはずだった。だが、まったくできなかった。
頭の中で引く線は真っ黒になるほど引いても何も見えてこない。
見えてくるのは、汐田が暴力を受けている姿、そして暴力を受けている姿が隼人になったり・・・
今、足元に転がる汐田の姿が隼人にと、如月が頭の中で引いた線と線の間に浮かび、それを新たに引いた線に消されていった。
恐ろしさのあまり目を開けると、そこには山内和人がいた。
「どうかしましたか。気分でも悪いのですか?」
「ああ、大丈夫だから・・・」
山内は握る手の力を強め、自分のほうへ引き寄せた。
如月の髪を掻き分け、額の汗をゆっくりと舐めた。
「僕がついていますから・・・」
そう耳に囁き歯を見せて微笑んだ。
如月は涙を流した。
言葉にできない恐怖を味わうと人はただ、涙を流すのだと初めて知った。
そしてこの恐怖をあずみや隼人も、同じように味わっていたのかと思うと、さらに悲しみが襲った。
山内は1時間ほどで如月の手を放し出て行った。
たぶん、ただじっとして変化のない如月に飽きたのだろう。
それを確認すると、ゆっくりと起き上がり、汐田のそばへ行った。
「君、大丈夫か。」
返事はしなかったが、静かに頷いた。如月は汐田を自分のベッドに運ぼうと思ったが、力が入らなくて向きを変える事くらいしかできなかった。
「戻ってきたら怒られますよ。」
「もう戻ってこないから、私のベッドで寝なさい。床で寝ていては風邪をひくから。」
汐田はベッドによじ登り眠った。
如月は汐田の腫れ上がった顔を濡れたタオルで冷やした。
シャツの裾をめくって背中を見ると、今日できた痣の下に黒くなった古い痣が数え切れないほどあった。
「いつからこんな目にあっているんだ・・・」
「僕が悪いんです。のろいしバカだから。」
「なぜ逃げない?」
「看護士の学校に行く費用出してもらって・・・返さなきゃ。」
汐田は一生懸命笑おうとしていた。
表情を変えようと必死だったが、自分の顔なのになぜか思ったようにいかなかった。
その顔を見て如月は涙が出てきた。
「そうか・・・」
「如月さん、山内先生はいい人ですよ。
怒るとちょっと怖いけど、優しいところもいっぱいあるんです。」
「もう喋るな。寝なさい。」
「なぜ泣いているのですか?」
「あんなに酷く暴力を振るわれても、なぜ山内をかばうのか、私にはわからない。
君が暴力を受けている姿を見て、彼の弟や私の弟もあんな目にあっていたのかと思うと胸が締め付けられる。
君もここにいてはいけない。何度も繰り返されているのだろう。」
「僕はどこへも行くところなんてありません。それにその言葉、僕が如月さんに言った言葉ですよ。」
汐田は泣きながら笑った。泣いたのは、はじめてかけられたやさしい言葉が嬉しくて。
笑うと唇の傷が開いて痛かったけど、心配をかけまいと明るく振る舞った。その姿が如月には深く突き刺さって如月も泣いていた。
薬の効き目というよりは、今日までの疲れがドッと出たといったほうがただしい。
気持ちよくとまではいかないがぐっすりと眠って夢を見ていた。
いつもどおり大学で講義して、研究室で仲間に囲まれている夢。
その中には山波も緑山も雅もあずみも隼人もいる。
つい数ヶ月前に送っていたなんでもない日々の生活だった。
その夢は、山内和人が揺り動かして覚めた。
現実は恐ろしい形で如月を襲った。
「思ったより薬が効きすぎてビックリしましたよ。」
「・・・なんの薬だ・・・」
ベッドに横たえたまま、虚ろに聞いていた。まだ半分は夢の中にいた。
「それはただの痛み止めですよ。
気分もとても良くなって・・・まだ試験中なんですけどね。
ただ、欠点がひとつあって、常習性があるんですよ。
1本打つだけでかなりの。だから、あなたはもう僕から逃げることができない。
ここにしかこの薬はありませんから。」
教授は細い指で点滴の跡を触った。
「ひょっとして・・・あずみも・・・か・・・」
「さすがですね。お察しがいい。
いい犬にはいい餌を与えないとね。そして、あなたも・・・です。
今ならまだ間に合いますよ。1本くらいなら、常習性を緩和できる薬があります。
山波さんを呼びますか?」
如月は横を向いた。
ほんの少しだけ外が見られる細長い窓から外を見た。
今は昼なのだろうか、青空に白い雲が浮かんでいるのが見えた。
「あずみとは隼人は?」
「昨日のうちに出発しましたよ。隼人の運転だから、そんなに早くはないでしょうけれど、そろそろ着くころですかね。」
如月は笑った。山内和人が驚くほど笑った。
「そうか、二人とも行ったか・・・なら約束だ。私を苦しめたらいい。」
「わかりました。山波さんは優秀な方だから、あなたに聞かなくてもきっとここがわかるでしょうし。」
「ひとつ条件がある。もし山波が来たとしても彼に手出しをするのはやめてもらえないか。
私はずっと君とここにいる。だから、山波がここへ来たとしても追い返してくれ。」
「そうですね・・・そうしてもらえると、僕も退屈じゃなくなって嬉しい。」
「そうか、それはよかった。じゃあ、仲良くやっていこう私が死ぬまでか。そんなに長くはないんだろう。」
「ええ。承知してくれたと考えていいんですね。そうだ だったらここで研究をしたらいい。
あなたも寝てばかりではつまらないでしょうから、あなたのためにラボを用意させましょう。
本やパソコン、なんでも望むものを持ってこさせますよ。」
「いや、学問はやめる。欲望や執着が失せた。」
「あなたは自分で自分のことがなにもわかっていない。あなた自身がそれを決めるのではない。
人間が自然に水を要求するように、あなたの脳が自然に学問を要求するんですよ。
天才と呼ばれる人の脳は、凡人と呼ばれる人の脳とは違う。あなたも気がついているはずでしょう、コントロールするのに苦労しているんじゃないですか?
まあいい、本は私のチョイスで用意します。あなたにではなく、あなたの脳に。」
「好きにしろ・・・・」
如月はベッドからよろよろと起き上がり、壁伝いに窓まで歩いた。
ガラスで全面を覆われた、今、如月がいる部屋は頭がおかしくなりそうなほど落ち着かなかった。
如月の向かった先は唯一外の景色が半分ほど見える細長い窓辺だった。
「お散歩でもしますか。すぐ用意させますよ。」
鼻で少し笑い、部屋外に出ると入れ替わりに小さな若者が入って来た。薄い水色の白衣を着たその若者は、ここの看護師のようだった。
「如月さん、お外へいく準備が出来ましたよ。
車椅子に乗りますか?」
「いえ、歩きます。」
何度かふらつき、その場に竦み、その看護師に支えられながら、病院前のちょっとした広場までゆっくりと歩いた。
ベンチに座り陽の光を浴びると、ほんの少しだけ気持ちが和らいだ。
あずみのは無事にかえれたのかとふと考え、内ポケットから手帳を出し写真を見た。
「如月さん・・・お荷物は?」
「いえ、今日はこの手帳、1冊しか持ってきていません。」
「それだけですか?」
「ええ。」
「着替えは・・・」
「ない。泊まるとは思ってなかった。」
「ご家族が後からお持ちになるのですか?」
「家族もないよ。」
いろいろ聞かれることにわずらわしさを感じ、場所を移動しようとしたが、足もとがふらつき、崩れ堕ちそうになり看護士に支えられた。
「危ない。僕につかまって。ゆっくり行きましょう。」
「ありがとう。」
とてもここちよい風が吹いていた。
かと、思うと急に強く風が走り、手帳の中の写真が風に攫われて行った。
「僕が探してきますから、あそこのべンチに座っていてください。」
如月は、陽の当たるべンチに体重を預け、深くため息をついて空を見上げた。
太陽はだいぶ西に傾いていたが、悔しいほどに美しい青い空が広がっていた。
その青空に手を伸ばし見上げた。
「ごめんなさい。ここは陽が当たってまぶしかったですね。」
「いや、太陽の光は好きなんだ、キラキラ輝いて美しい。手のひらを太陽にむけると太陽を触っている気持ちにならないか?手の輪郭が赤くて燃えているようだ。」
看護士も同じように手をあげた。
「ほんとだ。今まで考えたこともなかった。」
「この指の間からこぼれてくる太陽の光も暖かくて気持ちいいだろ。
地面があって太陽が輝く、当たり前と思っている事は何億年も繰り返されていて、今、私たちがこうして何億年前と同じ太陽の光を浴びていると思うと、とてもしあわせな気持ちになって、生きていることがとても嬉しくなってくるんだ。」
「素敵ですね。僕もなんだか幸せな気持ちになってきます。
暖かい・・・・
あ、これ、写真。家族写真ですか?これが如月さん?」
看護師が写真に指をさして言った。
「ええ、昔の写真です。」
「こちらがお父さん?」
「はい、父と弟です。これが最初で最後の家族写真なんです。」
「コッチの写真は・・・あれ、二人とも笑っていませんね。」
「彼は山波。いまは私の部下でね。まだ出会ったばかりの頃かな。
とても優秀な男でね、いつも助けられてばかりいるよ。
父がどこかから連れてきて、ずっと兄弟のように暮らして来たんだ。」
「この人に連絡を取って迎えに来てもらったらどうですか?こんなところにいてはいけない。ここがどんなところか知っていますか?」
「ありがとう。もういいんだ・・・もう戻ります。君も、私にあまり関わらないほうがいい。」
如月はふらふらと立ち上がり、壁伝いに歩きかけたとき、少しの安堵の時は終わった。
「あまりにもお帰りが遅いのでお迎えにきました。」
看護士が如月の体を支えようとすると、その手を振り払うように二人の医師が脇を抱え車椅子に乗せた。
「君はもういいから。」
山内和人は看護士を押しのけて歩き始めた。
看護士は如月の乗った車椅子の前に回り、如月の手から写真をとった。
「僕、写真立てに入れて、持っていきますから。」
看護士は病棟のどこかへ走って消えた。
山内和人は看護士を目で追いながらも、如月の車椅子の横を歩いた。
「写真・・・ですか・・・」
「ああ。」
「なんだか楽しそうにお話ししていましたね。」
「・・・」
「僕には何も話してくれないのに。あの時もそうだ。
運ばれてきた時は苦しみながら僕の手を強く握り締めていたのに。
具合いがよくなったら知らん顔。」
「何のことだろう。」
「あなたは、僕のことなんて覚えてもいなかったんですよね。
あずみ君のことがあるまでは。」
「ああ、忘れていた。思い出したくもなかった。けれど、名前を見てはっきりと思い出したよ。
私はおまえのことが大嫌いだったということ。」
山内和人は車椅子を押していた医師を押しのけて自分が梶をとった。そして耳元で囁いた。
「僕はあなたが大好きだ。そのイラっとしてやつあたりするところも含めて。
あなたが僕を大嫌いでもまったくかまわない。あなたは僕のそばを離れることはもうできない。これからは、昔みたいに毎日苦しみながら僕の手を握ることになる。
僕しか知らない、いつも冷酷なあなたが震えながら甘えるあの姿。
あなたは毎晩そんな姿を僕に見せてくれるんですね。楽しみだなぁ…」
山内和人は笑っていた。
子供が欲しかったおもちゃをついに手に入れた時のように、嬉しくてたまらない感情が周囲にもあからさまにわかった。
如月は脳も心も遮断していた。
前を行く医師の白衣の裾がふわふわと、ゆるくカーブを描くのを見て、頭の中でそこに無数の線を引き図形を浮かべる。
それを幾度となく繰り返した。
子供のころから、つまらないと自然にそうして頭の中で遊ぶようになっていた。
だから、山内和人がくだらない事を言っても如月には何も気に止めていなかった。
それは病室についてベッドに寝かされ、脈拍計をつけられるまで続いた。
「あ。さっきと部屋が変わったのだろうか?」
「ええ、さっきより広いし窓も南向で陽も差し込んで一日中暖かい。
家具も一流のモノを用意しておきました。あなたがいつか必ずここへ来るとわかっていましたから。
本は僕が選びました。気に入ってもらえると嬉しいな。
足りないものがあればすぐ揃えさせますから。」
如月は山内の言葉にはニコリともせず窓の外を見て言った。
「さっきの彼は、ここに私がいることがわかるかなぁ・・・」
まったく関心のない如月を威嚇するかのように、机の上のフルーツに添えてあったナイフを、りんごに思い切り突き立てた。
りんごが潰れるほど強く突き立てたにもかかわらず、如月は少しだけ顔を向けただけで、ため息混じりに向きを変え、また窓の外を見た。
二本目の点滴が始まったのはそれから間も無くの事だった。
その日の夜は激しい頭痛と吐き気に襲われた。
トイレに立ち上がる事もできないほどのひどいめまいもした。
一人ベッドで苦しんでいるとあの看護士が部屋へそっと入って来て、苦しむ如月の背中をさすった。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう。少し治ったよ。」
「写真立て、街に行って買ってきました。あと下着とパジャマも。街で買って来ましたけど、都会で暮らしているあなたにはあまりよくないかもしれません。田舎ですから。」
「ありがとう。わざわざ行ってくれたのか?迷惑かけたね。」
「おやすみでも、何もやる事ないんで。・・・体拭きます。さっぱりしますよ。」
「名前。聞いていなかった。」
「僕は汐田聖樹です。」
「汐田君か。お礼をしたいけれど、僕はもう・・・」
「大丈夫ですよ。気にしないでください。」
それからも何度も発作的に嘔吐を繰り返して、汐田は帰るタイミングを無くし、如月のそばで付き添った。
「君、なぜここにいる。」
不意に山内和人が部屋へ入って来た。
「写真を持ってきたんです。あと下着を・・・着替えを持っていないようだったので。」
「ここの階は関係者しか上がれないことわかっていますよね。」
「すいません。」
「早く帰りなさい。」
それでも如月の細い指は汐田の指を掴んで離さなかった。
苦しみながらもこの手が誰の手か理解して握っていた。
山内がその手を無理矢理引きはなして握ると、如月の手はするりと落ちて、苦しみながら体の向きを変えて吐いた。
「大丈夫ですか。」
汐田はすぐに駆け寄り、背中をさすり処置した。
その姿にイラついた山内は汐田の襟を掴んで殴った。
何度も何度も殴り続け、頬や目の周りがみるみる赤く腫れ上がってきた。
襟を両手でつかみ首を絞めた後、強く床に体を投げつけたが、すぐ起き上がり、また如月の処置をはじめた。
そんな汐田を山内は容赦なく蹴り付け、髪を掴んでまた体を床に投げつけた。
如月は汐田の哀れな姿を見ていることができず、痛みで震える体を起こし、山内を止めようとしたが、ベッドから落ちただけで何もできなかった。
「大丈夫ですか。どこか痛いところは?」
ニコリと笑った汐田の口は、唇が裂け、歯が折れて血だらけになっていた。
それなのに執拗に汐田を蹴り付けた。
如月は自分の体を盾にしようと汐田を抱きしめた。
「やめろ。どうしてこんなひどいことができるんだ。
そうやって君は、隼人も暴力で支配していたのか。」
「如月さん。あなた、人を殴ったことありますか?やめられないんですよ。
人を殴った瞬間のあの感覚、隼人のあの顔。
興奮で身ぶるいする、全身に火花が走るような 何も例えようのない快感が走るんだ。
だから何度も、何度も・・・繰り返し手を振り下ろすと、隼人の顔が腫れて皮膚が裂けて、それでも、自分で自分を止められない。
それどころかますます欲情するんだ。
肩の震えが、手の震えが、もっともっとって僕の理性に追いすがるように渇望するんだ。」
「これからも君は、そんな自分を止めることができないのだろう。」
「ええ。僕が生まれ持った特別な欲望だと思っていますよ。
隼人がいなくなっても、隼人に変わる誰かを見つけ繰り返えされる。
性欲も食欲も僕には必要ない、これが僕の最高の欲望なんだ。」
如月はさらに力を入れて汐田を抱いた。
「如月さん、そう哀れむことはない。一度でも、暴力を受けた者もまた、哀れな自分に酔いしれて欲情するんだ。何度逃げてもまた戻ってくる。
する側も、される側も言い知れぬ喜びを感じているんだよ。
今あなたが抱きしめている彼も、最後はあなたより僕を選ぶ。
隼人もそうだったでしょ。逃れられない鎖で引き寄せられるんですよ。これが運命なんだ。」
「汐田君を救うことは、私にはできないのか。」
「あなたが僕の手を握ってくれるならば、あの日のように・・・・
だったら彼は暴力を受けることもなく、自由にあなたに会うことも許しましょう。」
山内和人差し出した手を、ためらいながらも握ろうと手を伸ばしたが、汐田がその手を掴んだ。
「やめてください。如月さん。僕、平気ですから。」
目を潤ませ悲しそうな笑顔を作って見せた。
山内はすかさず、汐田の襟を掴み引き寄せて表情一つ変えずに殴りだした。
「お願いだ。なんでもする。だから、彼に暴力を振るうのはやめてくれないか。」
山内は汐田を掴んだ手をはなした。
汐田の体はガクンと膝から崩れ落ちて、ベッドの脇に倒れた。
「如月さん、ベッドに上がりましょう。僕の肩に捕まってください。」
如月は床に放置された汐田のことが気になってしかたがなかった。
口を開いたまま、肩が細かく動いているのを見るとまだ息はある。
だが、腫れ上がった顔や痣だらけになった痛々しい腕が、どれほどの暴力に耐えていたか言葉にしなくても理解できる。
「如月さんごはん、まだでしたね。すぐ用意させますね。」
「私より、彼の手当てをしてあげないと、とても辛そうだ。」
「大丈夫ですよ。ああして寝かせておけば、しばらくしたら普通に起き上がって、帰って行きます。
それとも、目ざわりならば廊下に出しましょう。」
「イヤ。ここでいい。ここにいさせてあげてくれ。」
「じゃあ、ごはんは僕が食べさせてあげましょう。」
山内は食事が乗ったワゴンを押してすぐに戻った。
さっきまで非情な暴力を振るっていた男とは思えないほど、明るく弾む声で寄り添い、スープをひと匙すくって如月の口に運んだ。
如月はあまりの恐怖で思わずむせてしまった。
「すまない。点滴の後は調子がよくないんだ。」
山内は眉間にしわを寄せスプーンをトレーの上に投げた。
数秒、如月に冷たい視線をおくった後、とても綺麗な微笑みを浮かべて、
「では、明日検査をさせましょう。今日はもう寝ますか?」
如月の肩をゆっくり押してベッドに体を沈めて、手を握り髪を撫でた。
「眠るまでこうしていますから、安心して眠ってください。
気分が悪くなっても僕がいますからね。」
なるべく脳を遮断するように努力した。
あの白衣の裾が、ひらひらと波打つ様を思い出し、それに線を書く。
得意なはずだった。だが、まったくできなかった。
頭の中で引く線は真っ黒になるほど引いても何も見えてこない。
見えてくるのは、汐田が暴力を受けている姿、そして暴力を受けている姿が隼人になったり・・・
今、足元に転がる汐田の姿が隼人にと、如月が頭の中で引いた線と線の間に浮かび、それを新たに引いた線に消されていった。
恐ろしさのあまり目を開けると、そこには山内和人がいた。
「どうかしましたか。気分でも悪いのですか?」
「ああ、大丈夫だから・・・」
山内は握る手の力を強め、自分のほうへ引き寄せた。
如月の髪を掻き分け、額の汗をゆっくりと舐めた。
「僕がついていますから・・・」
そう耳に囁き歯を見せて微笑んだ。
如月は涙を流した。
言葉にできない恐怖を味わうと人はただ、涙を流すのだと初めて知った。
そしてこの恐怖をあずみや隼人も、同じように味わっていたのかと思うと、さらに悲しみが襲った。
山内は1時間ほどで如月の手を放し出て行った。
たぶん、ただじっとして変化のない如月に飽きたのだろう。
それを確認すると、ゆっくりと起き上がり、汐田のそばへ行った。
「君、大丈夫か。」
返事はしなかったが、静かに頷いた。如月は汐田を自分のベッドに運ぼうと思ったが、力が入らなくて向きを変える事くらいしかできなかった。
「戻ってきたら怒られますよ。」
「もう戻ってこないから、私のベッドで寝なさい。床で寝ていては風邪をひくから。」
汐田はベッドによじ登り眠った。
如月は汐田の腫れ上がった顔を濡れたタオルで冷やした。
シャツの裾をめくって背中を見ると、今日できた痣の下に黒くなった古い痣が数え切れないほどあった。
「いつからこんな目にあっているんだ・・・」
「僕が悪いんです。のろいしバカだから。」
「なぜ逃げない?」
「看護士の学校に行く費用出してもらって・・・返さなきゃ。」
汐田は一生懸命笑おうとしていた。
表情を変えようと必死だったが、自分の顔なのになぜか思ったようにいかなかった。
その顔を見て如月は涙が出てきた。
「そうか・・・」
「如月さん、山内先生はいい人ですよ。
怒るとちょっと怖いけど、優しいところもいっぱいあるんです。」
「もう喋るな。寝なさい。」
「なぜ泣いているのですか?」
「あんなに酷く暴力を振るわれても、なぜ山内をかばうのか、私にはわからない。
君が暴力を受けている姿を見て、彼の弟や私の弟もあんな目にあっていたのかと思うと胸が締め付けられる。
君もここにいてはいけない。何度も繰り返されているのだろう。」
「僕はどこへも行くところなんてありません。それにその言葉、僕が如月さんに言った言葉ですよ。」
汐田は泣きながら笑った。泣いたのは、はじめてかけられたやさしい言葉が嬉しくて。
笑うと唇の傷が開いて痛かったけど、心配をかけまいと明るく振る舞った。その姿が如月には深く突き刺さって如月も泣いていた。
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