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忠誠、山南の愛し方
失いたくないもの
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如月は月曜の五時過ぎに、山内が迎えによこした車に乗って出発していた。
山内の指示した場所に行けばあずみに合わせてやると言われたからだった。
隼人からの連絡も途絶え、その指示に従うよりもほかになすすべがなかった。
隼人とは金曜の朝という約束だったが、いつまで待っても迎えには来なかった。
何度も電話もかけてはみたが繋がらず、どうせ隼人もあずみのわがままに振り回されて手を焼いているのだろう、ほおっておいても飽きたら帰ってくるに違いないそう思っていた。
その日はそのまま家で仕事をし、もうあずみのことを忘れかけていた翌日の昼過ぎ、あずみの部屋を掃除した鈴木が、落ちていた薬袋を如月のところへ届けに来た。
その薬袋に書かれた癖のある文字を見て忌まわしい過去を思い出した。
「あいつは・・・山内和人・・・」
もう、自分の中では終わったと思っていた嫌な過去がよみがえって来た。
山内和人と初めての出会いは、如月が福井の出向になったとき、肺炎にかかり入院した時だった。
退院後もなぜか、山内は如月の研究室にちょくちょく訪ねてくるようになっていた。
山内は如月に好意を寄せていたのだが如月は山内のことを特に友人とも恩人とも思わず、誘いも一切受けず、食事をしたことももちろんなかった。
訪ねて来られても、相手にもせず待ちぼうけなどざらだった。
だがどんなに無視をしても、執拗に如月をつけ回し、メールや電話、手紙、贈り物、上げればきりのないほどの嫌がらせをし、福井にいる間の半分ほどはそれとの戦いだった。
危険を察知した山波が山内から如月を引き離し、大学へ連れ戻して、てやっと収束した。
あのまま放置していたら、事態は恐ろしい結末を迎えていただろう。
だが、今まさにその第二幕が始まろうとしていた。
隼人を使ってあずみを連れ出したことは容易に察しがついた。
隼人との連絡が途絶えた今、この薬袋に書かれた住所に出向くしか方法がないと考え行く決心をした。その住所は病院ではなく民家だった。
そんなに古もないが、住民はなく、鍵も開いたままだった。
オフィスに使っていたようでスチールのデスクや棚が数台置き去りにされていた。
いろいろなところを探っては見たが、コレといって手掛かりになるようなものは何もなかったが、いつ撮ったものか覚えのない、如月と山内和人が並んで映っている写真が置かれていた。
その写真の如月はまったく笑っていなかった。
その写真を手に取ると、山内の笑みを浮かべた薄気味悪い顔をはっきりと思い出し、写真立を思い切り投げつけた。
そのあとは、自分の苛立ちをうまくコントロールできず机や椅子をあたりかまわず投げつけ、ガラスが割れた。
それを見た近隣住民が警察に電話して留置されることになってしまった。
たぶん、あいつのことだ、こんな自分の姿すらきっとどこかで見ているに違いないとは感じていた。
案の上、屋敷に帰り、山波が帰ったと途端に家の電話が鳴った。
山波を引き留めないで良かった。そして翌日、約束の5時に迎えの車は来た。
山波が来なくてよかった。山波がいたら、このことをつい話してしまっただろう。
そしたら、絶対に一緒に行くと言い出すに違いないし、自分も拒否することができなかっただろう。本当に今日来なくてよかった。
そう思いながら、あずみと二人で写った写真手帳に挿み内ポケットに入れ、ほかには何も持たずに車に乗り込んだ。
あのとき、ちゃんと話し合っていれば、なぜあの時追いかけなかったのだろう・・・あずみの声をもう一度聞きたい・・・あずみは生きているのだろうか。
車の窓に映る景色を眺めながら、そんなことをずっと考えていた。
山内の指示した場所に行けばあずみに合わせてやると言われたからだった。
隼人からの連絡も途絶え、その指示に従うよりもほかになすすべがなかった。
隼人とは金曜の朝という約束だったが、いつまで待っても迎えには来なかった。
何度も電話もかけてはみたが繋がらず、どうせ隼人もあずみのわがままに振り回されて手を焼いているのだろう、ほおっておいても飽きたら帰ってくるに違いないそう思っていた。
その日はそのまま家で仕事をし、もうあずみのことを忘れかけていた翌日の昼過ぎ、あずみの部屋を掃除した鈴木が、落ちていた薬袋を如月のところへ届けに来た。
その薬袋に書かれた癖のある文字を見て忌まわしい過去を思い出した。
「あいつは・・・山内和人・・・」
もう、自分の中では終わったと思っていた嫌な過去がよみがえって来た。
山内和人と初めての出会いは、如月が福井の出向になったとき、肺炎にかかり入院した時だった。
退院後もなぜか、山内は如月の研究室にちょくちょく訪ねてくるようになっていた。
山内は如月に好意を寄せていたのだが如月は山内のことを特に友人とも恩人とも思わず、誘いも一切受けず、食事をしたことももちろんなかった。
訪ねて来られても、相手にもせず待ちぼうけなどざらだった。
だがどんなに無視をしても、執拗に如月をつけ回し、メールや電話、手紙、贈り物、上げればきりのないほどの嫌がらせをし、福井にいる間の半分ほどはそれとの戦いだった。
危険を察知した山波が山内から如月を引き離し、大学へ連れ戻して、てやっと収束した。
あのまま放置していたら、事態は恐ろしい結末を迎えていただろう。
だが、今まさにその第二幕が始まろうとしていた。
隼人を使ってあずみを連れ出したことは容易に察しがついた。
隼人との連絡が途絶えた今、この薬袋に書かれた住所に出向くしか方法がないと考え行く決心をした。その住所は病院ではなく民家だった。
そんなに古もないが、住民はなく、鍵も開いたままだった。
オフィスに使っていたようでスチールのデスクや棚が数台置き去りにされていた。
いろいろなところを探っては見たが、コレといって手掛かりになるようなものは何もなかったが、いつ撮ったものか覚えのない、如月と山内和人が並んで映っている写真が置かれていた。
その写真の如月はまったく笑っていなかった。
その写真を手に取ると、山内の笑みを浮かべた薄気味悪い顔をはっきりと思い出し、写真立を思い切り投げつけた。
そのあとは、自分の苛立ちをうまくコントロールできず机や椅子をあたりかまわず投げつけ、ガラスが割れた。
それを見た近隣住民が警察に電話して留置されることになってしまった。
たぶん、あいつのことだ、こんな自分の姿すらきっとどこかで見ているに違いないとは感じていた。
案の上、屋敷に帰り、山波が帰ったと途端に家の電話が鳴った。
山波を引き留めないで良かった。そして翌日、約束の5時に迎えの車は来た。
山波が来なくてよかった。山波がいたら、このことをつい話してしまっただろう。
そしたら、絶対に一緒に行くと言い出すに違いないし、自分も拒否することができなかっただろう。本当に今日来なくてよかった。
そう思いながら、あずみと二人で写った写真手帳に挿み内ポケットに入れ、ほかには何も持たずに車に乗り込んだ。
あのとき、ちゃんと話し合っていれば、なぜあの時追いかけなかったのだろう・・・あずみの声をもう一度聞きたい・・・あずみは生きているのだろうか。
車の窓に映る景色を眺めながら、そんなことをずっと考えていた。
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