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消えた悪魔の思い出
二、
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喫茶店の外に出るとセスカが立っていた。
「やあ、こんなところで会うなんて奇遇だね。」
「追いかけてきたんだ。君たちのことをバルビンバーに聞いて。なあ、そのステッキ、僕にゆずってくれないか。」
セスカは怖いほど真剣な顔でロビンに言った。
「悪いけど、それはできない。コレはあの人から預かった大切なモノなんだ。」
「お願いだ。君の欲しいもの、なんでも言ってくれ。どんなものでもどれだけでも用意する。」
「これを手放してまで欲しいモノなんてひとつもないよ。じゃあな。」
セスカの肩を軽くポンと叩くと、ロビンは僕の腕を掴み、その場から静かに飛び立った。
セスカはずっと僕達を見上げていた。指すような眼差しで、ずっと。
事務局の石の床にステッキの音はとてもキレイに鳴り響くと、振り返らない人はいなかった。
一番驚いたのは、グリーンがカウンターから飛び出してきたコトだった。
カツカツという音を聞いたグリーンは、受付の小窓から、玉のように勢いよく飛び出してきたが、音の元には僕らしかいないのを見ると、軽くため息をつき、なんでもないような顔をして、スカートの裾をパンパンとはたいた。
頬には涙で落ちた化粧の青い一筋の線ができていた。
そのままくるりと回ると、事務局のながーいカウンターの一番端にある扉から出て行った。
扉をでる寸前、もう一度振り返ったグリーンの顔は、とても可愛い少女の顔をしていた。
***********************
日報に書くような報告は、今日の僕にはほとんどなかった。
それでも欲しいモノはカレーの材料、今日どれだけも働いていないから、材料のすべてがもらえると嬉しいけど、もしもジャガイモだけとかだったらどうしようかとも考えた。
グリーンがいなかったから、ピンクのまえにすかさずならんだ。
僕はステッキの事が聞きたかったからグリーンを待ちたかったけど、あっという間に僕達の順番が来てしまった。
「マーブル はじめてね。噂は聞いているわ。成績優秀なんですってね。」
「・・・・・」
「エーゴは昨日、天使に襲われたんですってね。大変だったわね。ボロボロじゃないの・・・病院へは行った?」
「いえ 行ってないっす。病院とかあるんですか?」
「行った方がいいわよ。折れてたら大変・・・」
「あの・・・ハンコ・・ハンコ早く押してよ。」
ロビンは念願のピンクの前に来たというのに、浮かない表情だった。
「ああハンコね・・・気おつけないと・・・ね・・・」
まだピンクは何か話そうとしたけど、なぜかロビンは怒ってその場を後にした。
「どうしたの?」
「なんだか声がへん。思っていたのと違う。壊れたおもちゃみたいな声だ。グリーンの方がよっぽどいいや。
明日はブルーに挑戦してみよっと。」
あんなに楽しみにしていたピンクへの期待も外れて、さぞかしガッカリしているのかと思ったら意外にあっさりと、何の杭もなくというか、さっぱりしたというか、ちょっと嬉しそうにも思う。それはこのステッキのカツカツという気持ちのいい音で、みんなが僕たちに注目しているからかもしれない。
「少しだけ歩こう。」
そう言ってロビンはステッキの音を楽しんだ。夕方の空にカツンカツンと響き渡って、沈んでゆく太陽にサヨナラを行っているように、少しづつ辺りは暗くなっていった。
「たまにはこの音、みんなに聞かせてあげたかったんだ。」
「このステッキの持ち主のこと?」
「そう。エーゴが足を痛そうにしているのを見てこのことを思いついたんだ。ひょっとしてみんなはもう、忘れてしまったのかな・・・って確かめようと思った。案外みんな覚えていて驚いた。」
すれ違うたび、皆が振り返って見つめられるのが少し恥ずかしくなってきた。
結構な長い距離を歩いていた後、ロビンは時計を見て慌てた様子で僕の腕を掴み、「飛ぶぞ。掴まれ」言い終わる前に、急に飛び上がった。
そして、いつもより少し早く飛んだ。
「やあ、こんなところで会うなんて奇遇だね。」
「追いかけてきたんだ。君たちのことをバルビンバーに聞いて。なあ、そのステッキ、僕にゆずってくれないか。」
セスカは怖いほど真剣な顔でロビンに言った。
「悪いけど、それはできない。コレはあの人から預かった大切なモノなんだ。」
「お願いだ。君の欲しいもの、なんでも言ってくれ。どんなものでもどれだけでも用意する。」
「これを手放してまで欲しいモノなんてひとつもないよ。じゃあな。」
セスカの肩を軽くポンと叩くと、ロビンは僕の腕を掴み、その場から静かに飛び立った。
セスカはずっと僕達を見上げていた。指すような眼差しで、ずっと。
事務局の石の床にステッキの音はとてもキレイに鳴り響くと、振り返らない人はいなかった。
一番驚いたのは、グリーンがカウンターから飛び出してきたコトだった。
カツカツという音を聞いたグリーンは、受付の小窓から、玉のように勢いよく飛び出してきたが、音の元には僕らしかいないのを見ると、軽くため息をつき、なんでもないような顔をして、スカートの裾をパンパンとはたいた。
頬には涙で落ちた化粧の青い一筋の線ができていた。
そのままくるりと回ると、事務局のながーいカウンターの一番端にある扉から出て行った。
扉をでる寸前、もう一度振り返ったグリーンの顔は、とても可愛い少女の顔をしていた。
***********************
日報に書くような報告は、今日の僕にはほとんどなかった。
それでも欲しいモノはカレーの材料、今日どれだけも働いていないから、材料のすべてがもらえると嬉しいけど、もしもジャガイモだけとかだったらどうしようかとも考えた。
グリーンがいなかったから、ピンクのまえにすかさずならんだ。
僕はステッキの事が聞きたかったからグリーンを待ちたかったけど、あっという間に僕達の順番が来てしまった。
「マーブル はじめてね。噂は聞いているわ。成績優秀なんですってね。」
「・・・・・」
「エーゴは昨日、天使に襲われたんですってね。大変だったわね。ボロボロじゃないの・・・病院へは行った?」
「いえ 行ってないっす。病院とかあるんですか?」
「行った方がいいわよ。折れてたら大変・・・」
「あの・・・ハンコ・・ハンコ早く押してよ。」
ロビンは念願のピンクの前に来たというのに、浮かない表情だった。
「ああハンコね・・・気おつけないと・・・ね・・・」
まだピンクは何か話そうとしたけど、なぜかロビンは怒ってその場を後にした。
「どうしたの?」
「なんだか声がへん。思っていたのと違う。壊れたおもちゃみたいな声だ。グリーンの方がよっぽどいいや。
明日はブルーに挑戦してみよっと。」
あんなに楽しみにしていたピンクへの期待も外れて、さぞかしガッカリしているのかと思ったら意外にあっさりと、何の杭もなくというか、さっぱりしたというか、ちょっと嬉しそうにも思う。それはこのステッキのカツカツという気持ちのいい音で、みんなが僕たちに注目しているからかもしれない。
「少しだけ歩こう。」
そう言ってロビンはステッキの音を楽しんだ。夕方の空にカツンカツンと響き渡って、沈んでゆく太陽にサヨナラを行っているように、少しづつ辺りは暗くなっていった。
「たまにはこの音、みんなに聞かせてあげたかったんだ。」
「このステッキの持ち主のこと?」
「そう。エーゴが足を痛そうにしているのを見てこのことを思いついたんだ。ひょっとしてみんなはもう、忘れてしまったのかな・・・って確かめようと思った。案外みんな覚えていて驚いた。」
すれ違うたび、皆が振り返って見つめられるのが少し恥ずかしくなってきた。
結構な長い距離を歩いていた後、ロビンは時計を見て慌てた様子で僕の腕を掴み、「飛ぶぞ。掴まれ」言い終わる前に、急に飛び上がった。
そして、いつもより少し早く飛んだ。
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