お気に入りの悪魔

富井

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小さくてかわいいやつに会う

三、

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「今日の昼飯も魚でいいか?」

ロビンは、さっきの出来事などなかったかのようにケロッとした顔で聞いてきた。

「なんでもいいっす。」

「なんかおまえ元気がないな。肉の方がいいか?」
「いえ、魚でいいです。」

またあの路地にはいってとにかくまっすぐ、ずーっと、ずーっと行って曲がるとある、あの定食屋だ。

「今日はエーゴにメニューを選ばせてやる。なんでもいいぞ。」
「じゃあ・・・・鯖の味噌煮。」
「鯖はだめだ。特に煮たやつは皮がうようよして気持ち悪い。」
「だったら・・・ぶりのお刺身。」
「刺身はマグロ以外、食べられない。」
「それなら・・・赤魚。」
「赤魚ってさー肉のとこがサー玉虫みたいにキラッとなって怖くない?」

「もう俺、なんでもいいです。ロビンが選んでください。」

「じゃあ、エビフライ定食。サラダはポテトサラダがいいな。今日は味噌汁じゃなくてブイヤベースで・・・エーゴもそれでいい?」

「はい、いいです。」
「じゃあ2つ。」

そしてまたメニューの角っ子をきちんと揃えてメニュー立てに戻すと、手帳をだして熱心にメモをとっていた。
毎回思うが、見た目とは違い本当にまじめだ。

「エーゴも書いておけよ。それと・・・泣くな。何度も言うが俺たちは悪魔だ。泣いてはいけない。」

「どうしてですか?あなたも元は人間でしょ。ほんの少しでも悲しいという思いないですか?」

「悲しんでどうする?縄を緩めるのか?そうすることが人間にとっていいことなら悪魔の存在はなくていいだろ。
闇を見ないようにしても、悪魔の存在を完全に消さないのは、人間が自分たちの克己心を維持できないことを知っているからだ。
今日の吉田美代子の死も、昨日の赤ん坊の死も、避けることなんて出来ない。決まっていることなんだ。一日寿命を伸ばしてやるより、死は必ず来るのだから、尊い生き方をするように、人間たちがどう生きるのが一番いいのかを考えてもらえるように。そのために縄をかけるんだ。かける側が泣いていてはいい仕事なんて出来ない。・・・そう言っていた。ある人が・・・だから俺は泣かないんだ。」

ロビンは手帳を悲しそうに眺めていた。少し悪いことを言ってしまった・・・と思った。

エビフライ定食が目の前に来てもぼおっと、遠くを眺め、タルタルソースをいつまでもかきまぜ、何かを思い出している様子だった。
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