お気に入りの悪魔

富井

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仕事

二、

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「ここが事務局だ。ここで日報を書いて出す。それで今日の仕事は終わりだ。」



事務局は以外にもごく普通のありふれた・・・いわゆる区役所のような、銀行のような。以外にちゃんとしたところで驚いた。

ただ、行き交う人、受け付ける人、どっちもとっても個性的だった。



「気安く声をかけてくるやつには来をつけろよ。悪魔はさみしがり屋だから、うっかり話を聞いたりすると、めんどくさいぞ。」



中央の用紙が束ねてあるところで1枚の紙をとり、ペンを持たせた。



「ここに記入するんだ。自分の名前。今日行った所の人の名前と年齢。あとはこの一番下の欄。ここにほしいものを書くんだ。

今日、行ったところのは俺の手帳を見ていいぞ。」



そう言って見せてはくれたが、字が汚すぎて何が書いてあるのかさっぱりわからなかった。平仮名、かたかな。数字でまるで暗号のようだった。

「すいません・・・ここなんて書いてありますか?」

「これは・・・かねだ・・・だな。」

一つ一つ教えてもらいながら、ロビンの書いたものを横目で見ながらなんとか書き上げた。



「いいか、出しに行くぞ。受付はどこでもいいんだ。空いているところで・・・げっ、グリーンだ・・・」



ミス・グリーンと大きく書かれた看板がある窓口で、おばさんが手招きしていた。ネイビーの髪に真っ白の顔。真っ赤な口紅に真っ青なアイシャドウが何故か背筋を凍らせる。

「いいか、絶対に怒らせるなよ。」

僕はロビンに少し背中を押されて、グリーンの前に行った。ロビンは僕の背中に隠れていた。

「マーブル・マービー・ケルン。」

「は・・・はい。」

「このこが見習い君?」

「そうです。エーゴです。」

ロビンは大きな声で名前を呼ばれて、僕の隣に出てきた。そして二人の書いた紙を一緒にして提出した。その紙をしみじみみて、頬杖をついて言った。

「エーゴ。変な名前。・・・可愛い顔ねぇ。いくつ?」

「に。二十三っす・・・」

「どう?楽しかった。」

「たいへんっ、した。」

「やっていけそう?」

「なんとか・・・」



その人は眉間にしわを寄せて

「まあいいわ、いっぱい書いたわねー。頑張ったの?」

「た・・・多分。」

「多分って。あんたのことよ。」

「頑張りました!」

「そう。マーブル・マービー・ケルンはこんな可愛い顔をしているけど、ついこないだまで連れていたバディを二日で魔女の谷に突き落としたのよ。使えないとか言って・・・。あなたも気を付けなさい。」

「は、はい・・・」

僕の持っていった方の紙に思いっきりの力でハンコを押した。



「マーブル・マービー・ケルン。私を避けてたんじゃないわよね。」

「違います。お忙しそうだったんで・・・」

「そう。今日は残念だったわね・・・。」

「仕方ないですよ。そんな時もありますよ。まだ少なくなったほうだと思いますよ。」

「そうね。最近は人間の世界でも医学が発達したから病気で死ぬ人は減ったわね。」

「一番厄介なのは自殺です。」

「そうね・・・あれはいやね。こっちは悪くもないのに始末書、書かされて。事務もね、後の処理が大変なのよ。でもマーブル・マービー・ケルンは丁寧だから、そういうのもなくて助かるわ。もっと頑張って1番になってね。応援しているわ。」

「ありがとうございます。」



くるりとまわって、少し早足でその場をでた。

「絶対、振り返るなよ。グリーンは、出口に行くまで見ているからな。」

気になってちょっとだけ振り返った。

グリーンは受付のカウンターから身を乗り出し僕たちを見ていた。振り返った僕と目が合って、さらに身を乗り出して手を振った。



「あの人、ロビンのファンみたいっすね。」

「違う。あの人も自分の相手をしてくれたら誰でもいいんだ。みんなさみしいやつばかりなんだここは。早く帰ろう、苦手なんだ。」



「あ、マーブル・マービー・ケルン。」

向かいからバルビンバーともうひとり、名前も知らないはじめて会う悪魔が来た。

「今帰りかい?」

「いや、まだだ、これから寄るところがある。じゃあな。」

僕は腕を掴まれてその場を走って逃げた。アパートのあるビルまで送ってもらったが、ロビンは出かけて来ると言ってそこで別れた。多分晩ご飯を買いに行ったんだろう。もうくたくただった。やはり、昨日ロビンが言っていた通り、心も体もクタクタで、ソファーで寝てしまった。冷蔵庫の掃除どころではなかった。


どのくらい眠っただろう、今日は玄関のあのざわめきは聞こえなかった。その代わり、ハーモニカの音が微かに聞こえたような気がした・・・夢の中でかもしれない。
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