2 / 46
出会う
二、
しおりを挟む
それから2日後、意外にもあっさり男を見つけることができた。
その日は茶色にピンクのストライプのスーツにコバルトブルーのシャツ。レモン色の蝶ネクタイが、美しく映えてうらやましい限りだった。
すぐにでも声をかけたかったが、女の人と歩いていたから、物陰に隠れながらチョット後ろをついて行った。
僕はそのスーツに釘付けで、瞬きもせず追い、ようやく、彼が1人になったところですかさず走って横に並んだ。
「こんにちわ。また見つけちゃいました。」
男は驚きを隠せず3、4歩よろめいて、「あ、あ、君か。」と言った。
そんなに驚いたのは、たぶん女の人と今別れたばかりだからだろうと勝手に思い込んだ。
「ここじゃなんだから、アイスクリームでも食べながらゆっくり話そう。」
スーツの男は又、スタスタと先を歩いて路地の奥に入って行った。
今日は一段と足が速く、置いて行かれないように必死で跡を追った。
路地を曲がって、曲がって、曲がった先の結局こないだ来たのと同じ喫茶店。
そこについた時は二人とも息がきれ、椅子になだれ込むように腰かけると、ハアハアと呼吸を整えた。
「今日は・・・なにに・・・する?ココは・・・アイスクリームも・・・うまいんだ・・・」
「ぼ・・・僕・・・プリン・・・」
「おーいいねー、プリンも・・・うまいんだ・・・
すいません~~ここプリンにアイスクリームのったやつ2つ・・・」
男は注文したあと、店主がテーブルに置いたばかりのコップの水を一杯、一気に飲み、中の氷もガブガブ食べた後、大きく息をついた。
「君、なかなかしつこいね。」
「やっぱり~~僕をまこうとしてましたね。」
「うん、してた。」
「やっぱり・・・今日コソはそのスーツの事、教えてもらいますよ。」
「今日のコレもいいだろ~」
その男は今日もスーツを見せびらかすように、テーブルの上に寄りかかってじっくりと見せた。
「かっこいいっす。そのシャツとタイのカラーが絶妙っす。」
「だろう。なかなかわかるね。エイゴくんっつたか。」
「はい。」
「特別に僕の名前を教えよう。俺の名前はマーブル・マービー・ケルン。長いからロビンでいいぞ。」
「あの~~名前にロビンの要素がまるでないんですが、そのニックネームはどうやってつきましたか?」
「俺がそう呼んで欲しいから。みんな、なかなかそう呼んでくれなくてね。一人くらいは呼んでくれると嬉しいなーと思って。」
その人・・・通称”ロビン“は机にプリンが置かれると同時に、スプーンで丸ごとすくいあげ、耳まで避けたかと思うほど大きな口を開けぽこんとほおりこんだ。
「この間の俺の質問に答えてよ。」
ロビンの口から溢れだしそうで溢れないプリンに気を取られ、質問どころではなくなった。
「ねえ、」と数回言われて初めて「なんでしたっけ?」と答えた。
「いくつ?」
「23です。」
「あ、意外にいい感じの歳じゃん。見た目、若く見えるね。まだ高校生かと思ったよ。」
その人"ロビン“は内ポケットから、手帳を取り出した。
「よく言われます。童顔なんですよね。」
「身長は?」
「172ですけど。」
手帳に【A5 23 172 童顔 顔○ 】と書いた。
「A5って文房具みたいじゃないですか。」
「見るなよ。俺は漢字が苦手なんだ。呼び方は同じなんだからいいだろ。172か・・・惜しいなー175ほしかったなーまあいい、妥協するか。」
「なんスカ妥協って。」
「このスーツさ背が高くないとピエロみたいになっちゃうんだよ。前の奴はさ、身長は高かったんだけど、しばらくしたらドンドン太ってきてさ、お祭りの水風船みたいなんだ。シャツのボタンもかえなくなっちゃって・・・派手なスーツは紙一重だからね。」
「前の奴って・・・」
「前、俺と組んでた奴。バディ??」
「バディがいたんですか?」
「いたけど、2日しか持たなかった。その二日でびっくりするほど太ったんだ。」
「バディを組むとその派手なスーツ着られるのですか。」
「俺と組むならこれだよ。着たいだろう。」
「着たいですけど。」
「けどなんだよ。」
「いったい何やるんですか?」
「それは・・・その前におまえ・・・エイゴは今、なにやってるの?」
「何ってのは、仕事とか?ですか・・・」
「そう、日々の暮らしは?」
「何にもっす。」
「何にも?」
「高校卒業して、会社入ったんすけど、1年くらいで倒産して。
次見つけて働いたんすけど、又、会社潰れちゃって・・・給料もらえなかったから、何とか生活費稼ぐタメにもうバイトでいいやと思って、頑張るんすけど、なんかすぐクビになるんですよ。なんでですかねェ・・・。頑張ったんすけど・・・」
「・・・・・そう・・・・」
「それで何度も何度も、同じようなこと続いて、もいいやどうにでもなれって思ったら。あなた“ロビン”・・・さん・・・に出会って、スーツかっけー~って。」
「スーツかっけー~~って、お金なければ買えないでしょ。」
「そうですけど、わかってますけど、なんつーか、人生の最後くらいはいい服着て・・・つーか・・・」
「死にたい・・・か?」
「それっす!!」
「ふーん。おまえに俺が見えた訳がわかってきたわ。」
「なんすか?」
「まだ教えない。」
「けち。」
ロビンはその言葉に睨み返し舌打した。
「ま、まずは言葉使い直そうか。バディ組むにしても、俺センパイだし。」
「はあ・・・・?」
「上手に喋れるようになったらまた俺を見つけてよ。」
「僕、次ないかもしんないっす。」
「あるよ。キット。おまえは簡単には死なない。プリン、ちゃんと残さず食べて帰れよ。じゃあな。」
ロビンは顔だけを向けてそう言い残し、手を軽く挙げると店を出て行った。
食べますよ・・・このプリンが今日はじめての食事だ。
その日は茶色にピンクのストライプのスーツにコバルトブルーのシャツ。レモン色の蝶ネクタイが、美しく映えてうらやましい限りだった。
すぐにでも声をかけたかったが、女の人と歩いていたから、物陰に隠れながらチョット後ろをついて行った。
僕はそのスーツに釘付けで、瞬きもせず追い、ようやく、彼が1人になったところですかさず走って横に並んだ。
「こんにちわ。また見つけちゃいました。」
男は驚きを隠せず3、4歩よろめいて、「あ、あ、君か。」と言った。
そんなに驚いたのは、たぶん女の人と今別れたばかりだからだろうと勝手に思い込んだ。
「ここじゃなんだから、アイスクリームでも食べながらゆっくり話そう。」
スーツの男は又、スタスタと先を歩いて路地の奥に入って行った。
今日は一段と足が速く、置いて行かれないように必死で跡を追った。
路地を曲がって、曲がって、曲がった先の結局こないだ来たのと同じ喫茶店。
そこについた時は二人とも息がきれ、椅子になだれ込むように腰かけると、ハアハアと呼吸を整えた。
「今日は・・・なにに・・・する?ココは・・・アイスクリームも・・・うまいんだ・・・」
「ぼ・・・僕・・・プリン・・・」
「おーいいねー、プリンも・・・うまいんだ・・・
すいません~~ここプリンにアイスクリームのったやつ2つ・・・」
男は注文したあと、店主がテーブルに置いたばかりのコップの水を一杯、一気に飲み、中の氷もガブガブ食べた後、大きく息をついた。
「君、なかなかしつこいね。」
「やっぱり~~僕をまこうとしてましたね。」
「うん、してた。」
「やっぱり・・・今日コソはそのスーツの事、教えてもらいますよ。」
「今日のコレもいいだろ~」
その男は今日もスーツを見せびらかすように、テーブルの上に寄りかかってじっくりと見せた。
「かっこいいっす。そのシャツとタイのカラーが絶妙っす。」
「だろう。なかなかわかるね。エイゴくんっつたか。」
「はい。」
「特別に僕の名前を教えよう。俺の名前はマーブル・マービー・ケルン。長いからロビンでいいぞ。」
「あの~~名前にロビンの要素がまるでないんですが、そのニックネームはどうやってつきましたか?」
「俺がそう呼んで欲しいから。みんな、なかなかそう呼んでくれなくてね。一人くらいは呼んでくれると嬉しいなーと思って。」
その人・・・通称”ロビン“は机にプリンが置かれると同時に、スプーンで丸ごとすくいあげ、耳まで避けたかと思うほど大きな口を開けぽこんとほおりこんだ。
「この間の俺の質問に答えてよ。」
ロビンの口から溢れだしそうで溢れないプリンに気を取られ、質問どころではなくなった。
「ねえ、」と数回言われて初めて「なんでしたっけ?」と答えた。
「いくつ?」
「23です。」
「あ、意外にいい感じの歳じゃん。見た目、若く見えるね。まだ高校生かと思ったよ。」
その人"ロビン“は内ポケットから、手帳を取り出した。
「よく言われます。童顔なんですよね。」
「身長は?」
「172ですけど。」
手帳に【A5 23 172 童顔 顔○ 】と書いた。
「A5って文房具みたいじゃないですか。」
「見るなよ。俺は漢字が苦手なんだ。呼び方は同じなんだからいいだろ。172か・・・惜しいなー175ほしかったなーまあいい、妥協するか。」
「なんスカ妥協って。」
「このスーツさ背が高くないとピエロみたいになっちゃうんだよ。前の奴はさ、身長は高かったんだけど、しばらくしたらドンドン太ってきてさ、お祭りの水風船みたいなんだ。シャツのボタンもかえなくなっちゃって・・・派手なスーツは紙一重だからね。」
「前の奴って・・・」
「前、俺と組んでた奴。バディ??」
「バディがいたんですか?」
「いたけど、2日しか持たなかった。その二日でびっくりするほど太ったんだ。」
「バディを組むとその派手なスーツ着られるのですか。」
「俺と組むならこれだよ。着たいだろう。」
「着たいですけど。」
「けどなんだよ。」
「いったい何やるんですか?」
「それは・・・その前におまえ・・・エイゴは今、なにやってるの?」
「何ってのは、仕事とか?ですか・・・」
「そう、日々の暮らしは?」
「何にもっす。」
「何にも?」
「高校卒業して、会社入ったんすけど、1年くらいで倒産して。
次見つけて働いたんすけど、又、会社潰れちゃって・・・給料もらえなかったから、何とか生活費稼ぐタメにもうバイトでいいやと思って、頑張るんすけど、なんかすぐクビになるんですよ。なんでですかねェ・・・。頑張ったんすけど・・・」
「・・・・・そう・・・・」
「それで何度も何度も、同じようなこと続いて、もいいやどうにでもなれって思ったら。あなた“ロビン”・・・さん・・・に出会って、スーツかっけー~って。」
「スーツかっけー~~って、お金なければ買えないでしょ。」
「そうですけど、わかってますけど、なんつーか、人生の最後くらいはいい服着て・・・つーか・・・」
「死にたい・・・か?」
「それっす!!」
「ふーん。おまえに俺が見えた訳がわかってきたわ。」
「なんすか?」
「まだ教えない。」
「けち。」
ロビンはその言葉に睨み返し舌打した。
「ま、まずは言葉使い直そうか。バディ組むにしても、俺センパイだし。」
「はあ・・・・?」
「上手に喋れるようになったらまた俺を見つけてよ。」
「僕、次ないかもしんないっす。」
「あるよ。キット。おまえは簡単には死なない。プリン、ちゃんと残さず食べて帰れよ。じゃあな。」
ロビンは顔だけを向けてそう言い残し、手を軽く挙げると店を出て行った。
食べますよ・・・このプリンが今日はじめての食事だ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる