入れ替わりの少年と王子様

紫鶴

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昔昔あるところに、それはそれは我儘で身勝手な王子様がおりました。

彼は兎に角やることなすこと文句をつけては、嫌なことから逃げ、出来ない者を笑ってからかっていました。その事に大人達はほとほと呆れ、同年代の子供からは影で嫌われていました。
しかし、王妃、そして王にはたいそう可愛がられ手育っている為彼を正そうとする者は『殆ど』いませんでした。


「殿下、お勉強のお時間ですよ」
「うるさい、俺はやりたくない!!」
「そうですか。では何がしたいのですか?」
「……何もしたくない!!」
「そうですか、では寝ますか?」
「……さ、散歩する!!」
「ではお供いたします」


しかし、 彼付きのお世話がかりである1人の少年はそんな困った王子様に声をかけていました。声をかけられた王子様はむすっとした顔をしながらも少年の言葉を無視することは絶対にありません。しかし、彼に対しても嫌味や蔑みを含んだ言葉を息を吸うように王子様は吐いていました。

そんなある日、王子様の12歳の誕生日の当日パーティーが盛大に行われました。

主役である王子様には来賓した貴族たちがこぞって挨拶しに行きます。その中には縁談の話も混じっており我儘であろうと身分は王族の彼に自分の娘を是非っと王様に言っていました。


「父上。もう行っていい?」
「ああ、勿論。いい子にしてるんだよ?」
「ん」


こくんと頷いた王子様はさっさと大人たちの会話から離れて1人ふらふらと綺麗に並べられた食事の方に向かう。
目立つ肉の塊を食べようと切り分けようのナイフを探していると、既に少年がその肉を切り分けまた、他にも王子様が目をつけていた食べ物を皿に乗せていました。


「殿下、どうぞ」
「ふん」


王子様はお礼も言わずに皿を受け取りもぐもぐとフォークでそれらを食べていきました。途中、少年から飲み物をもらいゴクゴクとそれを飲み干してまた食べ物を……。それを繰り返すと王子様はふわふわと幸せな気分になりました。体がふわふわとして思考がぼんやりとします。しかし、王子様は気にすることなくお腹がいっぱいになったから部屋に戻ると王様に告げ、そのまま会場を後にしました。

真っ直ぐに自室に戻りベッドに仰向けになって寝転がった王子様はぽやぽやとした思考のままうたた寝気分で静かに目をつぶりました。


「殿下。お召し物を着替えた方がよろしいと思いますが」
「うう~ん……面倒だからいい」
「ですが、殿下……」


少年がそう進言したその時王子様は切羽詰った表情で体を起こして少年の体を押し倒しました。

なんということでしょう!

王子様の足が二本宙に浮き、赤い液体が飛び散ったではありませんか!!


「あれ、間違っちゃった?」


天井から音もなく全身黒装束の男は降りてきました。ベッドの上から降り、月の光で僅かに反射する透明な糸を手で遊びながらその男は少年と王子様に近づいていきます。


「間違っちゃったけど最初にそっち殺そう!」


そう言った男に少年は真っ青な顔をしながら訴えました。


「や、やめて!僕を殺しにきたんでしょうっ!?殺すなら僕を殺してっ!!」
「えー?そんな事言える立場なの?で、ん、か?」
「……っ!」


少年は固まって言葉をなくして体を震わせました。男はその姿を大変愉快そうに笑い声を上げます。


「あははははっ!わっかりやすーい!折角彼が隠れ蓑になってくれたのにこーんな近くにいるなんて不用心だよね~?」
「ええ、全く。俺としては早々に遠い田舎に隠居して欲しいよ……」
「……うん?あれ?あれれー?」


男は首を傾げてそう言いました。それもそのはず、綺麗に切断されたはずの王子様の足はくっついておりその肩にはライフル銃があったのです。また、1番驚くことは少年と王子様の顔が入れ替わったようにして変わったことでしょうか。

少年の顔の王子様は肩を竦めながら落ち着いた様子でこう言葉を紡ぎました。


「お陰でメンテしたばっかの足が傷ついちゃった。ごめんね」


くるっと瞬時に銃口を男に向け王子様はその引き金を引きました。大きな音は立たず、ひゅっと風を切るような音がして、後方に身を引いて避けた男のフードを撃ち抜きました。男のフードが落ち、現れたフード下の顔は包帯で巻かれて分かりません。

ちっと王子様は舌打ちをしてもう一度引き金を引きましたが、男はそのまま窓の方に走りそれを破るようにして外に飛び出していきました。


「待てやゴラァっ!!」


それに続いて王子様も外に出ようとしましたがそれを少年が抱きついて止めました。


「アラン、行っちゃやだ!!」
「で、ですが殿下……」
「い、や!!」
「わかりま……」


かくん、と王子様は急にその場に座り込みました。悲鳴をあげるように少年は慌てて抱き、王子様のズボンを捲ります。


「1回とるね!?」
「じ、自分で取れます殿下」
「だめ!!」


王子様のズボンの下から覗いたのは銀色の鉄の脚でした。軽く凹みがあり深い切り傷があります。それを少年は慎重に外していき、外した脚は適当に放り投げ、それから脚のない王子様をベッドの上に優しく座らせました。


「アラン。大丈夫……?」
「平気ですよ殿下。それより大事な義足をダメにしてすみません……」
「義足はお金があれば新しいの作れるから大丈夫!!」
「おう、さすが王族の言うことは違うぜ……」


苦笑を漏らしながら王子様はそう言いました。少年はタンスから服を持ってきた後に、王子様の服に手をかけます。それを慌てて王子様は抑えました。


「殿下!じ、自分でやりますから!!」
「だめ!今脚がないでしょ!!」
「あ、脚がなくても腕が……」


きっと少年に睨まれた王子様はぐっと言葉を飲み込んですすっと視線を外しました。


「アランは僕のお嫁さんなんだからね?お婿さんの言うことは聞かないとだめ!」
「わ、分かってますよ殿下」
「分かってない!お嫁さんを世話するのはお婿さんだって父様言ってたもん!だから、アランはお世話されないとだめなんだから!!」
「はーい」


そう言って王子様は抵抗することなく少年にお世話されるのです。




昔昔あるところに、脚のない少年がおりました。いえ、元々彼は脚を持っていました。しかし、彼は国の第3王子を守るため傷を負い足が使えものにならなくなってしまったのです。
彼は、かなり優秀な護衛でした。誰もが扱えない魔力を玉に打つライフル銃を自身の手足のように自由に扱い、また、最大の強みは幻術を使うことでした。音、物など、空間自体を歪ませる力を持つ彼は脅威であり、強い味方でした。

脚が使い物にならない彼は護衛から外されるはずでした。

それを止めたのは第3王子です。彼は、人形を作るのが得意でそれの延長線で無くなった足の代わりにその代わりのパーツを作り上げたのです。

しかしそれは少年が隠すように言っていた能力でした。

自立型の人形を作れるというのは、戦争の道具になりかねないと判断した為でした。ところが、杞憂でした。
王様と王妃様はそれよりも少年の方を脅威と判断したのです。
そして少年にこう言いました。


「これから第3王子には数々の脅威が迫ってくる。護衛だけではきっと対応出来ないことがあるだろう。だから王子の代わりに生活してほしい」


少年は二つ返事で了承しました。ついでに、誰も近寄らないような性格を演じて良いかと進言し了承を得たので1人でそのまま第3王子として過ごすつもりでした。
しかし、彼の思惑は外れました。


「やだやだ!アランは僕のお嫁さんだもん!アランと僕は一緒じゃないと嫌!!」


そう、王子様は言ったのです。ついでに、他の誰かがアランの成長に合わせて義足を作るのが気に食わない、とも。困ったのは少年です。狙われているのは王子様なのに彼はいやいやっと駄々をこねてぎゅうううっと少年から離れません。少年は困った顔で王様を見ました。王様はうむ、と顎を抑えてではこうしようっと提案しました。

少年を王子様に、王子様を少年に化けさせればいい。つまり、そういう風に幻術を使えということが少年にもわかりました。ぱっと顔を明るくして王子様がやったーっ!と手放しに喜びます。少年はなんでそんな危ないことをさせるのか疑問でした。しかし、王様の決定は覆すことが出来ません。少年は深々と頭を下げて承りましたっと答えました。


かくして、少年は王子様に王子様は少年にという入れ替わりの生活が始まったのでした。
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