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20、勇者死亡、その後の話 2
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さて、アシュレイにとりついた魔王改め、魔神は抱えているレイチェルに思い切りわき腹を蹴られた。
「離して!」
「あうち!」
うっと呻いてレイチェルを離し、レイチェルはぱたぱたと走って壁にへばりついた。
その空間はただただ白い。扉も窓もなくレイチェルは逃げ場がないことを知りつつじりじりと魔神から距離を置いた。
魔神はううんっと身をよじりながらまあまてっと掌をレイチェルに見せる。
「君の願いを叶えてあげよう」
「……」
「君は先ほど勇者を助けてほしいと祈っただろう?それを叶えると言ってるんだよ」
きっとレイチェルが魔神を睨みつける。その表情はお前が殺したくせに、だ。
その表情にちっちっちーっと魔神は指を動かす。
「勇者、最近調子悪くなかった?」
「……」
「それってぇ、神様が勇者に死ねって呪いをかけてたからだよ?」
「……っ!?」
「とはいえ、結果こうなったのは悪かったよ~。せめてもの罪滅ぼしに協力させて?」
ばっとレイチェルは魔神を見た。まさか、と信じられない顔で彼は魔神を見つめる。魔神はにこにこと笑っている。
「もし、勇者が転生するって知ったらさー、多分君勇者に会えないと思うよ?」
「……」
「血眼になって探すだろう、彼を。そうして彼は俺を殺しに来る。勇者でなくなってもきっと彼はここにきて俺を殺しに来る。その時君は?どこにいるつもりなの?」
「ぅ……」
「ただの子供である君がこのまま外に出て、勇者と会える可能性はほぼないに等しいよ。ねえ、分かる?」
魔神の言うことは確かにそうであった。レイチェルは何も持たないただの子供。勇者で、王子で、英雄であったアシュレイとはきっとこの機会を逃せば無くなる。
そして、アシュレイのいないあの家に一人残ることになる。また、誰か知らない人が着て怯える日々を過ごさなくてはいけない。そう考えてレイチェルはぞっとした。あの温もりをあの生活を過ごしたレイチェルにとって以前の生活は恐怖でしかない。
あ、う、っと顔を青くして体を震わせ小さくなるレイチェルに魔神はふっと笑みを浮かべた。
「ここにいれば、確実に君は勇者に会えるよ?」
「……ほ、本当?」
「うん、勿論」
魔神はそう言った。レイチェルは考える。先ほど、レイチェルは完全に邪魔者扱いをされ、除け者にされたのは分かっていた。魔神の言ってる可能性だってレイチェルは理解している。
そして、レイチェルはレイチェルだけはアシュレイが転生することを知っていたのだ。
それは偶然であった。
庭の整備のときに棚のパウンドケーキを取ろうとして隙間に何かが入っているのを見つけたのだ。小さな手を伸ばしてそれをとると手紙である。
「お手紙……?」
きょとんとして首を傾げ、レイチェルはその手紙が既に開封済みであることを知り、興味本位で内容を確認した。
「う……?」
「あら、あの子死んじゃうの?」
まだ内容がよく分からず、分かる文字だけを言葉にするとレイチェルの近くで手紙を覗いていたハウスドールがそう言った。
「しんじゃう……?」
「いなくなるってことよ、でも大丈夫。転生っていってもう一度あの子は生き返るの!」
「いきかえる……?」
「また会えるのよ。でも、神様もひどいわね。勝手にあの子を殺しといて勝手にまた生き返らせるなんて。あの子を何だと思ってるのかしら?」
ねー?っと五人のハウスドールはそう言ってひらひらとレイチェルの周りを飛ぶ。レイチェルはそして漸くその言葉の意味を理解する。
「なんでっ!?」
「えー?それは勇者だからじゃない?」
「勇者は強いから臆病者の神様は警戒してるのよー」
「神様が……」
「そんなに落ち込まないで、また会えるわきっと」
「だって、あの子レイチェルのこと大好きじゃない」
「だいすき……」
えへへっとレイチェルはその言葉に照れて笑う。
レイチェルは素直であった。素直に疑うことなくその手紙を信じた。ハウスドールお墨付きの言葉であったからというのもあるかもしれない。
そうであろうと、レイチェルはアシュレイが転生するのを知っていた。―――信じている。
レイチェルはすぐにでもその提案に飛びつきたかったが、彼の真意を探るために恐る恐る質問をする。
「な、なんでそんなこと言うの」
「俺には勇者が必要だから」
「……アーシュが?」
「そう」
にこにことアシュレイの顔の魔神がそう言った。レイチェルは考えた。レイチェルだって死にかけたアシュレイを助けていたあの四人の人たちがレイチェルを邪険にしたいわけではなく、ただ緊急事態であったからそのような対応をしたと分かっている。ただ、あの人たちがレイチェルとアシュレイを天秤にかけてしまうとどう考えてもかかわりのあるアシュレイを優先するだろう。子供のレイチェルが何を言おうと、きっと危ないからと遠ざけてしまうことは予想がついた。
そして、何がレイチェルにとって最善かを出した。
「ほ、本当に協力してくれるの……?」
「もちろーん!ついでに誰が勇者か教えてあげる」
「そ、そんなの分かるの!」
「まあね、俺は魔神だから!」
こうして、利害の一致で二人は共同戦線を張ることとなる。
主にそれはアシュレイが手に入るまで。
「離して!」
「あうち!」
うっと呻いてレイチェルを離し、レイチェルはぱたぱたと走って壁にへばりついた。
その空間はただただ白い。扉も窓もなくレイチェルは逃げ場がないことを知りつつじりじりと魔神から距離を置いた。
魔神はううんっと身をよじりながらまあまてっと掌をレイチェルに見せる。
「君の願いを叶えてあげよう」
「……」
「君は先ほど勇者を助けてほしいと祈っただろう?それを叶えると言ってるんだよ」
きっとレイチェルが魔神を睨みつける。その表情はお前が殺したくせに、だ。
その表情にちっちっちーっと魔神は指を動かす。
「勇者、最近調子悪くなかった?」
「……」
「それってぇ、神様が勇者に死ねって呪いをかけてたからだよ?」
「……っ!?」
「とはいえ、結果こうなったのは悪かったよ~。せめてもの罪滅ぼしに協力させて?」
ばっとレイチェルは魔神を見た。まさか、と信じられない顔で彼は魔神を見つめる。魔神はにこにこと笑っている。
「もし、勇者が転生するって知ったらさー、多分君勇者に会えないと思うよ?」
「……」
「血眼になって探すだろう、彼を。そうして彼は俺を殺しに来る。勇者でなくなってもきっと彼はここにきて俺を殺しに来る。その時君は?どこにいるつもりなの?」
「ぅ……」
「ただの子供である君がこのまま外に出て、勇者と会える可能性はほぼないに等しいよ。ねえ、分かる?」
魔神の言うことは確かにそうであった。レイチェルは何も持たないただの子供。勇者で、王子で、英雄であったアシュレイとはきっとこの機会を逃せば無くなる。
そして、アシュレイのいないあの家に一人残ることになる。また、誰か知らない人が着て怯える日々を過ごさなくてはいけない。そう考えてレイチェルはぞっとした。あの温もりをあの生活を過ごしたレイチェルにとって以前の生活は恐怖でしかない。
あ、う、っと顔を青くして体を震わせ小さくなるレイチェルに魔神はふっと笑みを浮かべた。
「ここにいれば、確実に君は勇者に会えるよ?」
「……ほ、本当?」
「うん、勿論」
魔神はそう言った。レイチェルは考える。先ほど、レイチェルは完全に邪魔者扱いをされ、除け者にされたのは分かっていた。魔神の言ってる可能性だってレイチェルは理解している。
そして、レイチェルはレイチェルだけはアシュレイが転生することを知っていたのだ。
それは偶然であった。
庭の整備のときに棚のパウンドケーキを取ろうとして隙間に何かが入っているのを見つけたのだ。小さな手を伸ばしてそれをとると手紙である。
「お手紙……?」
きょとんとして首を傾げ、レイチェルはその手紙が既に開封済みであることを知り、興味本位で内容を確認した。
「う……?」
「あら、あの子死んじゃうの?」
まだ内容がよく分からず、分かる文字だけを言葉にするとレイチェルの近くで手紙を覗いていたハウスドールがそう言った。
「しんじゃう……?」
「いなくなるってことよ、でも大丈夫。転生っていってもう一度あの子は生き返るの!」
「いきかえる……?」
「また会えるのよ。でも、神様もひどいわね。勝手にあの子を殺しといて勝手にまた生き返らせるなんて。あの子を何だと思ってるのかしら?」
ねー?っと五人のハウスドールはそう言ってひらひらとレイチェルの周りを飛ぶ。レイチェルはそして漸くその言葉の意味を理解する。
「なんでっ!?」
「えー?それは勇者だからじゃない?」
「勇者は強いから臆病者の神様は警戒してるのよー」
「神様が……」
「そんなに落ち込まないで、また会えるわきっと」
「だって、あの子レイチェルのこと大好きじゃない」
「だいすき……」
えへへっとレイチェルはその言葉に照れて笑う。
レイチェルは素直であった。素直に疑うことなくその手紙を信じた。ハウスドールお墨付きの言葉であったからというのもあるかもしれない。
そうであろうと、レイチェルはアシュレイが転生するのを知っていた。―――信じている。
レイチェルはすぐにでもその提案に飛びつきたかったが、彼の真意を探るために恐る恐る質問をする。
「な、なんでそんなこと言うの」
「俺には勇者が必要だから」
「……アーシュが?」
「そう」
にこにことアシュレイの顔の魔神がそう言った。レイチェルは考えた。レイチェルだって死にかけたアシュレイを助けていたあの四人の人たちがレイチェルを邪険にしたいわけではなく、ただ緊急事態であったからそのような対応をしたと分かっている。ただ、あの人たちがレイチェルとアシュレイを天秤にかけてしまうとどう考えてもかかわりのあるアシュレイを優先するだろう。子供のレイチェルが何を言おうと、きっと危ないからと遠ざけてしまうことは予想がついた。
そして、何がレイチェルにとって最善かを出した。
「ほ、本当に協力してくれるの……?」
「もちろーん!ついでに誰が勇者か教えてあげる」
「そ、そんなの分かるの!」
「まあね、俺は魔神だから!」
こうして、利害の一致で二人は共同戦線を張ることとなる。
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