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7、街に出る準備

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アシュレイの朝は早い。太陽が出てくると同時に起きて支度をする。服に着替え、顔を洗い少しの欠伸をしながら昨日のパン生地を確認する。

いい感じに発酵していて、まな板に打ち粉を引いてその生地を伸ばして均等に分ける。何度かその生地を畳みながら丸く形を整え生地を休ませる。その間に窯を予熱するため火をかける。
また、ジャムを作るために昨日の混ぜたイチゴを鍋に移して火にかけた。ジャムが焦げないように混ぜながらはっと気が付く。


「あ、瓶の消毒しないと」


アシュレイがそう呟いて周りを見ると、いつの間にか沸騰している水の入った鍋に瓶が吸い込まれていく。
しかも、予熱のできた窯にクープの入り、軽く溶き卵をはけで塗ったパンが投入されていた。


「ありがとう、早起きだね君たち」


アシュレイがそう言うとどういたしましてっと言った感じにかんかんっと器具がぶつかり合う音がする。
ハウスドールって便利だなぁっとアシュレイはそう思いながらジャム作りに専念する。
固まってきたジャムを火からおろし煮沸消毒をした瓶に詰めてそのまま冷ます。
そうすると、パンの焼けたいい匂いが漂ってきてアシュレイは窯の扉を開けてパンを取り出した。美味しそうな焼け目のついた丸パンだ。

アシュレイはそれを取り出して割って中もしっかり焼けているのを確認してから取り出す。割ったパンはアシュレイのお腹に入った。焼き立てのパンは美味しいなあっと思いながら布巾の置いたバケットに入れてテーブルに置く。

さて、朝食の準備のできたアシュレイは朝の紅茶を飲もうとポットに水を注ぎ、ハウスドールにお湯にしてっと頼む。するとポットの中の水はお湯になりそこに茶葉を入れて蒸らす。

ふんふふーんっとその朝の一杯を楽しみに待っているとバタバタと騒々しい足音がした。
ん?っとアシュレイがその足音が近づいてくるのを聞きながら扉の方を見るとばんっと荒々しくそれが開く。そこには昨日の格好のままのレイチェルがぼさぼさの長い髪の毛をそのままにしてきょろきょろと周りを見た後にキッチンを見てとてとてっとアシュレイに近づいた。

アシュレイは腰を折って近づいてくるレイチェルに挨拶をする。


「おはようレイチェル。顔洗った?」
「アーシュ、おはよう」


挨拶を返したレイチェルはふるふると首を振って顔を洗っていないことを告げる。アシュレイは外の井戸で顔を洗ってくるようにっとタオルをレイチェルに渡す。レイチェルはこくんと頷きながらぱたぱたと走っていった。
アシュレイはまさかこんな早くにレイチェルが起きるとは思わず彼が去ってから慌ててレイチェルの朝ご飯を用意する。それをハウスドールが手伝っている(皿やコップが浮いているので)のを見ながら、準備ばっちり!っと思っているとくいっと髪を引っ張られた。


「え、なに、なに?」


アシュレイはくいくいっと引っ張られるがままに導かれると階段を上がり、レイチェルの部屋の前にやってくる。その部屋の扉が開いて、とんとんっと背中を軽く押されつつ中に入る。すると、すぐに箪笥が開いた。しかし、そこには服が一つ一つも入っていない。それどころか何も入っていない。


「え、え?なんで何も入ってねえんだこれ」


まさか昨日着てた服だけってわけじゃないだろうな。まさかっと思い他の場所を探すが、何もない。
アシュレイは、あーっと天を仰いでかっと目を見開く。


「ご飯食べたらレイチェルの服を作って街に必要な物買いに行こう!」


アシュレイがそう言うとハウスドールたちはクルクルと彼の周りをまわっているようで軽く風が吹く。
一先ずはご飯食べてレイチェルのサイズを測るのが先だなっとアシュレイはそう思いつつ、キッチンに戻った。
キッチンに戻るとそこには既にレイチェルがおろおろと何かを探していて、アシュレイが後ろから声をかけると勢いよく振り向いた。


「アーシュ!」


そうして駆け寄ってくるレイチェルを見て、彼の足元に視線を移す。そこには何かの袋をひもで縛っただけの靴とも呼ばないそれを履いていることに気が付いた。昨日の時点で気づくべきだったっと後悔しつつ、レイチェルの椅子を引いた。

レイチェルはその椅子に飛び乗って、目の前のパンとジャム、昨日のスープに釘付けである。
アシュレイも少し蒸らしすぎた紅茶をカップに淹れて、自分の席に置き手を合わせる。


「いただきまーす」
「い、いただきます」


レイチェルも同じように手を合わせて、それからパンにジャムをつけて食べる。するとぱっと顔を明るくさせてんーっと頬を手で押さえる。

アシュレイはそのレイチェルの様子を見ながら牛乳を出す。するとごくごくっとそれも飲み干す。白いひげがレイチェルについており、アシュレイはふふっと少し笑って布巾でその白いひげを拭う。
それからアシュレイももぐもぐと食べ始めて、紅茶を飲みながら朝食を楽しむ。


アシュレイにとって食は重要である。美味しいのは勿論だが一番の大敵は空腹だ。空腹が耐えられないのでそうなればうまい不味いは関係なく、食べられるものだったら何でも口にする。まあ、そのおかげで魔王の正体が分かったのだが。

詳しく言うと魔王が可哀そうになってくるのだが、ざっくりというと決戦前に満腹だといけないからと食事の量を減らされて緊張感より空腹感が勝ったアシュレイは、さっさと終わらせたい為に入れ物を瞬殺。ようやく食事にありつけると思ったら、目の端で芋虫のようなものが出てきたので思わずそれを掴んだ。そして食べれるかも?っと思った矢先に魔術師の二人がまだ魔王は生きてますっ!っと叫んだのに驚き握りつぶした。それで呆気なく魔王死亡。

どうしてだかその気配が消えたことに魔術師二人は混乱、魔王にとどめを刺したと気づいていないアシュレイはというと握りつぶした手からさらさらと灰が零れ落ちて、あれよあれよという間に床に落ちた。その瞬間アシュレイは叫んだのである。

「俺の食糧がぁああああっ!!!」

魔王、死亡後の勇者の一言がそれである。哀れ魔王。

またまたその後、魔王を本当の意味で死亡させたと気づいていなかったのはアシュレイは、帰ってきて家族に最後何かよく分かんない虫潰した、っと報告し全員にそれが魔王だ!っと突っ込みを入れられたという。

さて、とはいえ、アシュレイだって美味しいものが食べたい。(もちろんゲテモノも好きだがそれはジャンルが別だ)なので食に関しては妥協しない。お金の大半は食べ物に使うアシュレイだが、今回はレイチェルの為に使う。


「レイチェル、ご飯食べ終わったら町に行かない?」
「まち……?」
「ああ、お外」
「おそと!」


ぴょん!っとレイチェルは跳ねた。


「お外行っていいの?」
「うん、俺と一緒にね」
「アーシュとお外!」


わーいっとレイチェルが手を上げて喜んだ。二日目だけどかなりなついてくれているようでアシュレイもほっとしながら、朝ご飯を食べ終わる。それからアシュレイは食器を下げて洗う。レイチェルももぐもぐとご飯を食べた後はアシュレイと同じように食器を持ってくる。


「ありがとう、レイチェル」
「食器洗う!」
「いやいや、レイチェルには違うお仕事が待ってるから」
「ちがうおしごと……?」


アシュレイがそう言うとレイチェルは首を傾げた。アシュレイはストレージからメジャーを取り出す。


「外に行くのにその服じゃだめだからレイチェルのお洋服を作ります。ハウスドールにサイズ測って貰って?」
「お洋服……?」


メジャーを受け取ったレイチェルはきょとんとしつつもそのメジャーが宙に浮き束が広がっていくので、アシュレイは任せることにして後片付けをする。

それから裁縫道具と布、型紙用の用紙を出し、ペンも用意。するとペンが動いてさささーっと用紙に型が書かれそれに合わせて出した布が裁断される。その後ぱぱぱっと糸が通り、あっという間にレイチェルの服が出来上がった。


「ありがとう、俺も着替えてくるからハウスドールが何ほしいかレイチェル聞いといて」
「うん!アーシュ、ドールさんありがとう!」


にこにこと嬉しそうに笑ってレイチェルはぎゅっと服を抱きしめる。

それを見た後、アシュレイは二階に上がり外行きの服(カットソーとズボン)に着替え、金袋を懐に仕舞う。
それからレイチェルの長い髪を結うためのリボンと櫛を取り出して一階に降りた。そこではふふふーっと嬉しそうに先ほど作った服を着たレイチェルが話をしている。


「お菓子?甘いのがいいの?うん、わかった!アーシュに言っとくね!」


ハウスドールは甘いものがご所望らしい。そう聞き入れたアシュレイはお待たせっとレイチェルに声をかけた。


「アーシュ!ドールさん、甘いお菓子だって!」
「おっけー、美味しいの選んでくる」


そう言って、アシュレイは腰を折ってレイチェルを見た。レイチェルはきょとんとして首を傾げる。


「なあに?」
「レイチェルの履いてる靴じゃ街中歩くのはちょっときついんだ。だから靴買うまで抱っこしてていいかな?」
「だっこ……」


固まったレイチェルに流石にダメかっと思ったアシュレイは最初にアシュレイだけでレイチェルの靴を買ってから一緒に出掛けようという考えにシフトチェンジする。


「嫌なら、俺だけで今すぐ買って……」
「アーシュは、いやじゃないの?」
「え?俺?別にそんなことないよ?」
「ほんとう?」
「うん」


アシュレイがそう頷くとてててっとレイチェルが彼に駆け寄りそれからぎゅっと抱き着いてくる。それから下からアシュレイを見上げた。


「抱っこぉ」
「嫌じゃないならいいんだ。二人で行こうか」


アシュレイはひょいっとレイチェルを抱えて足を覆っている袋の紐をほどく。少し擦れていて赤くなっていた。ハウスドールがすかさず靴下を残りの布で作ったのでアシュレイはお礼を言って器用にレイチェルにそれを履かせる。靴がないよりはましだろう。


「んじゃ、いってきます」
「い……?」
「お外出るときの挨拶」
「行ってきます?」


レイチェルもアシュレイに倣ってそう言いふりふりとハウスドールに手を振った。アシュレイはきちんと戸締りをしつつ、荒れている庭を通って明日は庭の整備をしようっと心に決めた。

そして、二人の初めての町デビューが始まる。
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