上 下
74 / 75
最終章 断罪された神子様は、前世養父だった冷徹公子に溺愛される。

3

しおりを挟む
『あっはっはっはっは!!』
「笑ってんじゃねえよ!!」


 俺は良き友人であり、困った神様とようやく話が出来た。あまり時間がとれなかったと言うのもあるが、そもそも猊下が前世と違い教会に行きたがらないのだ。俺の為に教会を作ってくれたというのにも関わらず、だ。

 まあ、俺が命を落とした原因であり、俺の使命?の話も相まって神様に対する嫌悪感があるのは分かる。正直逆の立場だったら俺だって神様を恨む。

 つまり、こんな特別なときぐらいしか長時間話が出来ない。だから、今ぐらいしか彼に文句を言えないのだ。


「魔術を使う度に光るなら言えよ!! そういうの大事じゃない!?」
『見える人の方が少ないってあの子も言ってたでしょ? 単に君は運良く、いや悪く?君自身の信者が多いから仕方ない事だよ。珍しいよね。君の周りにはそれが見える子だらけだ』
「待って。え? 他にもいるの?」
『君に絶大な好意を持っている子達は全員見えるよ。ああ、最近は君の家族も見えるようになったかな?』
「嘘だろ!? 嘘って言ってよ!!」


 そんな恥ずかしい事になってるの!?いやだー!!俺が魔術使う度に光るなんて滅茶苦茶いやだー!!


『良いんだよ、良いんだよ。だから君の周りには、君を大事に思ってくれる子達が集まるんだもの。良い目印じゃないか!!』
「目印言うな!! 発光しないようにしてよ!!」
『おめでたい日だけど無理かな?』


 俺は最悪だと頭を抱えようとしてピタリと手を止める。だめだ。今ぐしゃぐしゃにしたらまたコイヨンに長い時間かけてセットし直しされる。それだけは避けないと。


「……ねえリィン」
『なぁに?』
「本当に俺、このままで良いの?」


 今、俺はすでに原作の話を逸脱している。それに不安を覚えないと言ったら嘘だ。

 このまま、悪役のはずの俺がこのままで良いのだろうかと。

 こんな時に、いやこんな時だからこそ弱気になってしまう。俺ははあっとため息をついてリィンの言葉を待ちながらドレッサーについている鏡を見た。そして飛び上がった。


「お、おに……カロ!?」


 いつの間に入ってきたのか扉の近くに猊下がいた。ついうっかりお兄ちゃんと言いそうになって、慌てて名前で彼を呼ぶ。最近はお兄ちゃんじゃなくて名前で呼ぶようにしているのだ。

 なんか、そっちの方が恋人っぽいじゃん……?

 そういう俺の考えもあり、自分から始めたのだが未だにお兄ちゃんが抜けず思わず読んでしまいそうになる事もある。

 兎に角、いつの間にか入ってきた猊下に驚きながらこう言うときってお互いに顔を合わせない方が良いんじゃないかと思ったが、猊下だから良いかと思うことにした。


「ルド」
「ど、どうしたの?」


 猊下が近づいてきた。今日はいつもとは違う雰囲気にドキドキしてしまう。というか、滅茶苦茶白似合う~!!前世の服も白だったけど、一番今の服が猊下に似合う!!

 猊下の晴れ姿に惚れ惚れしていると、猊下はそっと俺の手を握ってくる。


「愛してる。たとえ、全世界の人間がお前を憎もうとも、全ての者がお前を殺しに来ようとも、必ずお前を守って幸せにする。だからどうか、私と結婚して欲しい」
「……はい」


 不思議だ。さっきまで原作がどうのとか悪役が~とか考えていたのに、猊下にそう言われたらどうでも良くなった。

 ふわりと笑みを浮かべると、指に違和感を覚えた。


「……ん?」
「よく似合ってる」
「え、ちょっと、これここでして良いの……?」
「私の分をルドがあっちでつけてくれれば良い」
「そういうもの……?」
「ああ。そういうものだ」


 そっと俺は左手薬指にはまった指輪を見た。銀色で上品なダイヤがついているものだ。
 俺の人生でこんなものを貰えるとは夢にも思わない。


「俺も、カロを幸せにする」
「そうか」


 猊下はそう微笑んでエスコートをするように俺の手を取った。そろそろ行かなければいけないらしい。


「もしかして、カロが式場まで連れてってくれるの?」
「何なら入場もする」
「え? 俺の場合、父親じゃないの?」
「だから、私がするんじゃないか」


 猊下はそうはっきりと言う。

 そんな猊下に俺は笑って確かにそうだと納得した。だって猊下は前世では俺の養父だったのだ。今は違うけど、立場はそうだと思って良いだろう。一緒に入場するとは思わなかったが。

 そう考えながら俺たちは、会場まで向かう。すると、扉の前にいる男が気付いてゆっくりと大きなその扉を開いた。


「新郎新婦の入場です!!」


 結婚式場はとても華やかで、誰もが俺たちを見て拍手をしてくれる。この世界で、貴族が教会で結婚式を挙げるのは珍しい。普通は、自分の屋敷とか、俺たちの爵位を考えると皇宮内でも良いはず。多分。

 しかし俺は、絶対に教会が良かった。

 俺の、前世で過ごした場所でもあり、俺の友人がいるその場所で結婚式を挙げたかったのだ。

 二人でゆっくりとバージンロードを歩き、目的の場所までたどり着く。

 そこには、コイヨンがいた。後で聞いたが熾烈な戦いがあったらしい。たかがそんなことでと思ったが、彼らにとっては一大事らしい。

 そんなコイヨンの前まで立つと彼はゆっくりと口を開いた。


「新婦アルカルド様、貴方様は新郎カロシェーン様を愛することを誓いますか?」
「誓います」
「新郎カロシェーン様、貴方は新婦アルカルド様を一生かけて尽くし、来世でもその身を捧げますか?」


 コイヨン?俺と全く別のこと言ってないか君?

 予行練習と全く違う。俺はちらりと横目で猊下を見た。すると猊下はそっと俺の手を取った。


「この命が尽きても、この子だけを愛し続けると誓う」


 そうして、結婚指輪を嵌めているその指にキスを落とす。

 恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちで泣きそうになる。


「俺も、猊下を、カロを死んでも愛し続けます」


 お互い、また来世があってもきっと愛せずにはいられないだろう。

 俺が彼を幸せにするように彼も俺を幸せにしてくれるから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

【完結】王子様の婚約者になった僕の話

うらひと
BL
ひょんな事から第3王子のエドワードの婚約者になってしまったアンドル。 容姿端麗でマナーも頭も良いと評判エドワード王子なのに、僕に対しては嘘をついたり、ちょっとおかしい。その内エドワード王子を好きな同級生から意地悪をされたり、一切話す事や会う事も無くなったりするけれど….どうやら王子は僕の事が好きみたい。 婚約者の主人公を好きすぎる、容姿端麗な王子のハートフル変態物語です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 哀しい目に遭った皆と一緒にしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!

モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。 生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』 ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。 顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…? 自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。 ※エロは後半です ※ムーンライトノベルにも掲載しています

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

処理中です...