上 下
42 / 75
第三章 君が考える最も美しい人の姿がこれなの?

2

しおりを挟む
 これ、ぐらい、は……?


「ほ、本日は! こ、こ、こ、このような粗末な場所に足を運んでいただき、誠に誠にありがとうございます!!!」


 ぺこぺこと一人の眼鏡をかけた男性が床に膝をついてひたすらに平伏している。俺はその前でなんか豪華な一人がけ椅子に座っていた。机の上には沢山お菓子と果物が積まれている。中にはここら辺では手に入らない珍しいものがあった。


 香りの良い紅茶も一緒で、俺は困惑の表情を浮かべながら彼を見ている。


「いや、こっちこそ無理を言って……」
「はー、はー……っ!! あ、ありがたき、ありがたき幸せ……っ!!」
「……」


 俺はフラウを見た。この人こんなんだけど本当に大丈夫?いや君を疑うわけじゃないんだけど……っ!!


 そんな思いが通じたのかフラウは目が合うと微笑んだ。


「腕は確かですよ。何より情報通な奴がいて……」
「兄さ~ん。なんか良い匂いするんだけど、お菓子作ったの~。俺も食べ……」
「!?」


 俺はぎょっとして後ろを振り返った。そこには本棚が動いて明らかに秘密の部屋っぽい場所から人が出てきたからだ。人様の家を調べるのは良くないだろうと何もしていなかったんだけど、もしかして俺やばいお宅に来てる……?


 いやいやフラウの紹介だから大丈夫だ。大丈夫……だよね?


 ちらりとその男の向こう側を見ると階段が続いている。どんな部屋があるのか一旦確認した方が良いかな……?疑うのは良くないけど!予防線を張るのは良いよね!?


 そう思い、俺はこの屋敷を調べるためひっそりと魔法を発動させる。すると、がばっと本棚から出てきた男が同じように膝をついて平伏した。


「も、申し訳ありません!! このような形でこんな……っ!!」


 慌てていたのか大きな鞄に詰めたものがバサバサと落ちていく。本やらメモ帳やら、あれはカメラ?あれって昨日発表されたばっかりじゃなかった?何で持ってるんだあの人……。


 投資家だろうかと一瞬そう思ったが、持ち物がなんだか記者のように思える。


 さっき言ってた情報通っていうのはこの人のことかな……?


 それよりも何でこの人も俺に頭下げるの!?


「あ、あの、大丈夫なんで、頭を上げて貰っても良いですか……?」
「は、はい!!」
「し、し、失礼しまっしゅ!!」
「兄さん緊張しすぎだし何で教えてくれなかったのさ!!」
「う、う、き、緊張で……」
「それでもこういう大事なことは言えよ!!」
「ご、ごめん~」


 後から来た方が弟で、眼鏡の方が兄らしい。似たような顔で一瞬どっちか迷うけど慣れてきたら区別つくようになってきた。


「眼鏡がウィルで、じゃないほうがウィリです」
「あ! 自己紹介は俺からしたかったのに!! 勝手にするなよフラウ!!」
「しょ、紹介に、預かりました、ウィルです! み……っ!!」


 ウィリが不満そうに声を上げたが、それを気にせず丁寧に自己紹介をしてくれていたはずのウィルがすぱんっとウィリに頭を叩かれた。何か言いかけたようだけど、この様子だと聞かない方が良さそうだ。


「初めまして。俺はアルカルド・ラフィールといいます。暫くお世話になります、えーっと、ウィリ先生とウィル先生」


 ぺこっと頭を下げてもう一度あげたら、またしても彼らは平服をしていた。やめてくれ。


 そのあと、ウィリがどうして俺がここにいるのかという事を聞いており、簡単にフラウが説明していた。ここは依頼主の俺がいうものなんじゃと思ったが、主なんだからどっしり構えていてと言われてしまった。説明中はお菓子とお茶を楽しんでいた。美味しい~。


「依頼内容は分かりました。フラウのご依頼通り、その舞踏会までに作法をお教えいたします」
「よろしくお願いします!」
「いけません、アルカルド様。我々に敬語は不要です、でないと兄さんが死にます」
「あ、うんわかった」


 今にもウィルが死にそうだ。変わってるな~。こう言うのって敬語じゃないといやなもんじゃないの?そっちの方が良いって言うならそうするけど……。


「じゃあひとまず、明日からでも大丈夫ですか?」
「うん」
「ありがとうございます。教材は明日兄さんが用意して……」
「あ、あの!!」


 ウィリと話をしていたら、ウィルが手を上げた。俺とウィリは彼の方に視線を向ける。


「どうしたの?」
「! ぜ、是非とも来て欲しいところが!!」
「? うんわかった。どこにいけば良い?」


 俺の先生になる人だし、少しでも俺に対する緊張を解いて欲しいと言うこともあってその提案には二つ返事で了承した。するとぱあっと顔を明るくしたウィルはすぐに立ち上がって先ほどウィリが出てきた本棚を操作した。


 するとすーっとその本棚が動いて地下に続く階段が現れる。


「こ、こちらに! こちらにどうぞ!!」
「うん」
「あの、兄さんは変なことしないので大丈夫ですけど、初対面の人間にそう簡単について行くのは……」
「大丈夫。俺にはフラウがいるからね」


 後は自分の力もあるし!!


 俺がそういうとフラウがなんだかとっても誇らしげな表情を浮かべていた。こんなことで喜ぶなんて君はなんて安上がりなんだ……。


 俺はそんな失礼なことを考えながら、ウィルの後についていく。壁に掛けられたランプが反応して道を照らす。暫くその道を歩いて行くと大きな扉が現れた。


 その扉にはとても見覚えがある。


 俺が神子だった時代の大聖堂に続く扉に少しだけ似ている。この周りの壁とは別の素材で出来ているようで真っ白の石に百合の模様がついていた。それは前のものにとても似ていた。


 しかし、大きく違うところがある。


 両扉に各々、ローブを纏った人が象られているのだ。それらの像は向かい合っているが右の像が左の像に向かって大きな丸い器を捧げている。そして左の像の上には太陽のようなシンボルが掘られていた。


 この彫刻を見るに恐らく左の者の方が偉い、のだろう。多分。じっとそれを眺めているとウィルが右の器に触れた。するとごぼごぼと音を立てて器の中から金色の液体があふれ出す。それは床に落ちることなく扉の彫刻の溝広がっていき、最後、右の太陽のシンボルにそれが満たされると扉がひとりでに動いた。


 な、なんだこの技術!?前は重い扉を八人体制で開いてたぞ!?だから特別な行事にしか開かない大聖堂だった。俺も数回しか見たことない。


 その扉は重々しく完全に開くと、まず見えるのは大きな神の像……のはず……。


「……?」


 そこには俺がいた。前世の俺がそこに鎮座していたのだ。俺の見間違い、かな?いや、あんなでかいのみ間違えるわけ無いな、うん。


 これは流石に聴かなければいけないと思い俺はあの像を指さした。


「えーっと、あの像って、フラウが言ってたこの世で美しい人に似てるけど、何かモチーフとかあるの……?」
「あ、は、はい! こ、こちらに残っていた絵が!!」
「おぉ……」


 そういうとウィルは、壁を指さした。そこには額縁に飾っている俺の絵が。なんで残ってるんだ。軽く調べると羊皮紙なので古いものである事は明白。もしかして、この建造物自体も古いものか……?


「軽く整備はしたのですが、やはり劣化が激しく……」
「そうなんだ」


 俺の考えが読めているのかウィルがそう言った。やはりここも古い建造物なのだろう。まさかこんなものが地下にあるなんて思わなかったし、ましてや俺の絵が保管されて、彫刻が彫られているなんて思わない。


「近づいてもいい?」
「ど、どうぞ!」


 奥の彫刻に近づいていくと、想像より大きかった。この空間には壁に飾られた絵とその巨大な像以外には明かりのランプしかない。聖堂と言って良いのだろうか。いやしかし、それっぽいから教会の一部に違いない。俺の像には目をつぶって。


「この彫刻は、元々ここにあったの?」
「ありました」
「へー。繊細で、とても良い出来だね」
「あ、あ、ありがたき幸せ……っ!!」
「え、あ、うん」


 綺麗に保存できてるねって言う意味で言ったわけじゃないけど、まあ勘違いしてくれてるならそれでいいや。


 頭を切り替えよう。


 教会、ならばもしかしたらリィンが答えてくれるかもしれない!!


「お祈りしていい?」
「ど、ど、どうぞ! い、いくらでも!! あ、な、何か、必要なものは……っ!?」
「大丈夫。じゃあちょっと……」


 お祈りをするふりをして、リィンとの交信を試みようとタイルに膝をつく。すると「ひっ!」とウィルが短い悲鳴を上げた。


「お、お膝が!! お、俺の上着を……っ!!」
「俺も!!」
「俺のもどうぞ!!」
「え、あ、ありがとう……?」


 三人がそういって冷たくて硬いタイルに各々上着を敷いた。俺はお礼を言いながらその上に膝をついた。別に気にしないんだけど……。


「し、失敗しました。絨毯を用意するべきでした……っ!!」
「良い絨毯探してくる」
「ひとまず俺の家にあるやつ持ってくるよ」


 聞こえないふりをした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

【R18】奴隷に堕ちた騎士

蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。 ※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。 誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。 ※無事に完結しました!

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)
BL
旧題:悪役令息の役目も終わったので第二の人生、歩ませていただきます 〜一年だけの契約結婚のはずがなぜか公爵様に溺愛されています〜 【元・悪役令息の溺愛セカンドライフ物語】 *真面目で紳士的だが少し天然気味のスパダリ系公爵✕元・悪役令息 「ダリル・コッド、君との婚約はこの場をもって破棄する!」 婚約者のアルフレッドの言葉に、ダリルは俯き、震える拳を握りしめた。 (……や、やっと、これで悪役令息の役目から開放される!) 悪役令息、ダリル・コッドは知っている。 この世界が、妹の書いたBL小説の世界だと……――。 ダリルには前世の記憶があり、自分がBL小説『薔薇色の君』に登場する悪役令息だということも理解している。 最初は悪役令息の言動に抵抗があり、穏便に婚約破棄の流れに持っていけないか奮闘していたダリルだが、物語と違った行動をする度に過去に飛ばされやり直しを強いられてしまう。 そのやり直しで弟を巻き込んでしまい彼を死なせてしまったダリルは、心を鬼にして悪役令息の役目をやり通すことを決めた。 そしてついに、婚約者のアルフレッドから婚約破棄を言い渡された……――。 (もうこれからは小説の展開なんか気にしないで自由に生きれるんだ……!) 学園追放&勘当され、晴れて自由の身となったダリルは、高額な給金につられ、呪われていると噂されるハウエル公爵家の使用人として働き始める。 そこで、顔の痣のせいで心を閉ざすハウエル家令息のカイルに気に入られ、さらには父親――ハウエル公爵家現当主であるカーティスと再婚してほしいとせがまれ、一年だけの契約結婚をすることになったのだが……―― 元・悪役令息が第二の人生で公爵様に溺愛されるお話です。

【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

七夜かなた
BL
前世はブラック企業に過労死するまで働かされていた一宮沙織は、読んでいたTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の悪役令息ギャレット=モヒナートに転生してしまった。 よりによってヒロインでもなく、ヒロインを虐め、彼女に惚れているギャレットの義兄ジュストに殺されてしまう悪役令息に転生するなんて。 お金持ちの息子に生まれ変わったのはいいけど、モブでもいいから長生きしたい 最後にはギャレットを殺した罪に問われ、牢獄で死んでしまう。 小説の中では当て馬で不憫だったジュスト。 当て馬はどうしようもなくても、不憫さは何とか出来ないか。 小説を読んでいて、ハッピーエンドの主人公たちの影で不幸になった彼のことが気になっていた。 それならヒロインを虐めず、義兄を褒め称え、悪意がないことを証明すればいいのでは? そして義兄を慕う義弟を演じるうちに、彼の自分に向ける視線が何だか熱っぽくなってきた。 ゆるっとした世界観です。 身体的接触はありますが、濡れ場は濃厚にはならない筈… タイトルもしかしたら途中で変更するかも イラストは紺田様に有償で依頼しました。

転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~

槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。 最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者 R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。

処理中です...